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レイラのとんでも理論


「落ち着いてママ! ベオルグは死んだわけじゃないわ!」

「で、でも・・・!」

「大丈夫だから!今は傷を癒すために、ママの体内へ避難している状態になってるだけ!」

「・・・へ?」


と自らのお腹を見る。


「魔物を服従(テイム)した者は召喚者(サモナー)と呼ばれる存在になるの。召喚者は魔物を服従させた瞬間、体内に召喚獣を治めるための魔力空間を作り出して、そこへ自ら服従させた魔物を入れられるようになるのよ。召喚獣はそこへ自分の意思で入ることはできるけど、出ることはできないの。召喚獣を出すには召喚者自ら魔力を消費して任意の場所に召喚させることができるようになるわ。」

「そ、それじゃあ・・・」

「ええ。今はママが体内に作り出した魔力空間に避難してるだけだから安心して!」

「・・・そう。わたくしの体内(おなか)に・・・」


とここで、レイラは優し気な目で自らのお腹を摩る。

その様子を見たフィリオラは何か背筋がヒヤリと凍るような、嫌な予感が過る。


「うふふ・・・。決めましたわ。」

「えと・・・、ま、ママ?」

「あの人が、この世の全てのドラゴンに出会うのであれば、わたくしは全てのドラゴンを服従させますわ!」

「・・・はい?!」


と素っ頓狂な声がフィリオラから零れた。


「ずっと不安でしたの。あの人が全てのドラゴンの父なら、その妻となったわたくしはその母・・・。でも、わたくしはその実感が掴めなくて、ただあの人の隣にいるだけ、ただあの人に愛されているだけでこの子たちの母であると、この子らに認められているのかどうか・・・。すごく、不安でしたの。でも、服従させることでわたくしの子であるとその証を刻むことができる上、わたくしの体内に作られたという魔力空間はつまり、わたくしの子宮・・・!そこにこの子らが自分の意志で入るということはわたくしの子になってくれるという意思でもある!そして何よりも・・・!わたくしの中にいる子を外へ召喚するということは、わたくしの中から産み落とすという行為・・・!! つまり、わたくしが生み出したも同然ですわぁ!!」

「ちょっとママぁ!?!?」


フィリオラの表情がどんどん青ざめていく。


「待って、ママ!なんでそういうことになるの!?」

「だってそうでしょう?あの人に認められているだけじゃ意味がないのですわ!その子等との確かな繋がりがあって初めてわたくしはこの子らの母になれるんですの!子は生まれた時、母の繋がりの証として【へその緒】がありますわ。わたくしにとっては、子に刻む【服従の証(エンブレム)】こそがまさに【へその緒】・・・!」

「だ、だからって・・・!」


どんどん言い負かされそうになっているフィリオラ。

だが彼女は気づかない。


レイラが、フィリオラへ向ける視線がとても温かい眼差しになっていることに・・・。


「ねえ、フィーちゃん。」

「・・・え?な、なに・・・?」


そしてフィリオラの頬に優しく触れる。

その瞬間、全てを察した。


「わたくしの、召喚獣(本当の子)になりませんこと?」

「ひっ!?」

「もう、なんでそんな怯えた表情になりますの・・・」

「い、いやいやいやいや・・・!そんなことしなくても、私はお母様のことをきちんと認めてるから!」

「・・・じゃあ、なんでお母様だの、ママだの。わたくしへの呼び方に統一感がないんですの?」

「へ?あ、えと・・・それは・・・」

「・・・まあ、無理にとは言いませんわ。急に言われても困りますわよね。」

「え、と・・・ま、ママ?」


とここでレイラの表情はとても悲しく、儚げな表情を浮かべる。

どこか遠い所を見るような瞳でフィリオラのことを見つめながら、フィリオラへ言葉を続ける。


「もし、気持ちが変わったらいつでも仰ってくださいまし?わたくしは、いつでもあなたを受け入れますわ・・・!」


その瞳には微かに潤んでおり、一筋の涙が頬を伝う。


「さあ、サハギンども。覚悟はできたかしら・・・!わたくしはあなた方を決して許しませんわ・・・!!」


そしてレイラは黒妖刀を静かに抜くと、

「・・・<神速>!」

そう呟くと同時に姿が消え、直後に前方に見えたサハギンの群れが一瞬にして血みどろの死骸が広がった。


「ちょっとレイラ!一人で突っ込むなってーの!!」

「あ、お待ちください!いきなり突っ込むのはいけません!」


レイラの後に続くようにミミアンが両手に隠した黒曜爪を剥き出しにし、両手を広げてサハギンの群れへと突っ込んでいく。


空間ごとその黒曜爪で切り裂きながらバッタバッタとサハギンたちを薙ぎ倒していく。

そんな2人を慌てて追いかける様にジェシカも杖を持って走っていった。


無数の水の鞭が出現し、サハギンごと地面を強打して押し潰していく。


「・・・なぜ、こうなったの・・・!」


そんな3人の後姿を見送り、フィリオラは深く頭を抱えながら愚痴がこぼれた・・・。

そして二人の援護のために両翼を広げ、上空へ羽ばたく。


その後、体内の魔力を圧縮させていく。

口が大きく裂け始め、喉の奥が光り出すと前方に5つの魔法陣が展開し、前に出る度にその大きさは小さくなっていく。


「<白聖焔花(フィリオラブレス)>!!」


そして圧縮された高密度の魔力を解き放ち、それは魔法陣を通過する事に更に精度が上がり、細く収束していく。


最後の魔法陣を通り過ぎた頃には元の3分の1ほどの細さにまで収束され、甲高い音を発生させながら後方にいたサハギンの群れに直撃し、そのまま横へ薙ぎ払う様に首を振る。


直後、着弾したところから強力な魔力爆発を生みだして群れを一掃されていった。

それに呼応するように、レイラとミミアンは乱れた所から集中的にサハギンたちを倒し、数を減らしていく。


・・・だが。


「・・・ぐっ!」

「レイラ!ちっ、離れなさい・・・ってーのっ!!」

「ギャアアア!?」


無数のサハギンたちに抑え込まれていたが、そこへミミアンの双爪による攻撃を受けて、抑えていたサハギンたちの塊が半壊した。


中からレイラの剣撃がいくつも発生し、残っていたサハギンたちの体を切り刻む。

サハギンの死体の中から、体液まみれのレイラが姿を現す。


「レイラ、だいじょ・・・くっさ!」

「・・・。」

「ちょ、レイラ・・・!近づかないで!めっちゃくっさい!」

「・・・。」

「だ、だから近づかないでってば!あんたの臭いがどれほどやばいかわかって・・・ぎゃふん!」

「純情なる乙女に臭い臭いって・・・。少し言い過ぎではありませんこと?」

「くぅん・・・」

「あ、ご無事でしたか。今すぐに洗い流しますね!」


水の鞭が伸びてきて、レイラを包み込むと体中に付着したサハギンの体液を洗い流していく。


清潔になったずぶ濡れのレイラに続けて温風を掛けて濡れた体を乾かした。

レイラは愉悦な表情を浮かべるミミアンを見下ろし、ため息を吐きながら周囲を見渡す。


確かにサハギンたちの数を減らしたはずなのだが、目の前に見えるサハギンの群れの数を見て、本当に数は減っているのかと疑問が浮かんでしまう。


「・・・はあ。さっきよりも数を増やしていませんこと?」

「ふへへ・・・」

「ミミアン、さっさと起きなさい!」

「わうん!?」


と頭を摩りながらゆっくりと立ち上がる。


「いってて・・・。」

「それよりも、この数・・・どうしますの。全然数が減らないどころか、一向に数を増やしておりませんですの?」

「サハギンたちは別名【海のゴキブリ】と呼ばれるほどです。奴らの繁殖力を侮ってはいけません。おそらく、まだまだ出てくるでしょう。」

「うっへぇ・・・。さすがにうちらの体力が持たないってー・・・。」

「フィーちゃんも頑張ってくれているけど、先に魔力切れするのが目に見えているわね・・・。」

「・・・ねえ、ちょっと2人とも。あれ・・・」


とミミアンは一方を指さしながら2人に声を掛ける。

2人はミミアンが指さした方を見ると、そこには海が広がっていた。


「なんなんですの?」

「・・・うそ、まさかあれって・・・?!」


ジェシカは何を見つけたようで、酷く怯えた表情をしていた。

レイラはもう一度、目を凝らしてみてみると、海から何かが顔を出しているのが見える。


その瞬間、()()と目が合った。


「・・・!?」


全身を駆け巡る恐怖、第六感が死の危険を鳴らす警報を鳴り響かせていた。


そして瞬時に悟った。


「・・・オールドワン、ですの?!」


あれが、未来で見たアレであると。


だが、明らかにあの時とは全然違う。

これほどの危険性を感じさせることはなかった。


全身から力が抜け、死という安らぎを懇願するかのような、そんな惨めな姿に成り下がることもなかった。


一体何が違う?

未来のオールドワン(アイツ)と、現在のオールドワン(コイツ)で一体何が違うというんだろうか。


いや、そもそも未来で見たのは本当にオールドワンだったのか?

もしかして、別の何かと見間違えたのか?


だが、今となってはどうでもいい。

アイツをどうすればいい・・・!?


と色々思考を必死に巡らせていた時、甲高い音と共に奴に伸びていく一筋の光線が目に映る。

それはオールドワンに直撃すると大きな魔力爆発が起き、奴は大きく仰け反りながら海の中へと倒れていった。


そして上空からフィリオラがレイラの前に降り立つと、開幕レイラを叱責する。


「しっかりしなさい!お母様、あんな奴に恐れを抱いている暇なんてないわよ!いつまで地面にへたり込んでいるつもり!?私たちのお母様になるんでしょ?なら堂々としてよ!そんな姿のお母様は見るに堪えないわ!」


フィリオラはレイラの右手を自らに触れさせる。

すると、フィリオラの胸元が光り出す。


それに呼応するようにレイラの右手が光り出し、何かが刻まれた。


それは、フィリオラの姿を模した【服従の証(エンブレム)】だった。

ハッと顔を上げ、フィリオラの胸を見るとそこにはヴァレンタイン家の紋章が刻まれていた。


「ふぃ、フィーちゃん・・・?!」

「さあ、お母様!さっさと立ち上がって、アイツを何とかするわよ!」

「・・・そう、ですわね。こんな情けない姿はもう見せませんわ!」


レイラはフィリオラの手を借りて立ち上がり、前を見る。

海の中からゆっくりと立ち上がるオールドワンの姿が見え、2人を奴を鋭く睨む。


「ちょっと2人とも!うちらの事、忘れて2人の世界に入らないでよ!」

「私も精一杯支援します!」

「ミミアン・・・、それにジェシカも・・・。ありがとうですわ、2人とも。さあ、行きますわよ!」


と覚悟を決め、サハギンたちへ、オールドワンへ己の全てを掛けた戦いに挑もうとした時・・・


――ドゴォォオオオオオン!!


突如、サハギンたちの群れを巻き込んで巨大な爆発がいくつも発生した。


「・・・え?」

「一体何が・・・」

「この攻撃・・・まさかっ!」


とミミアンが勢いよく振り向く。


「遅くなったな、我が娘よ!」

「ごめんなさいねぇ~。この人がぁ~、道に迷ったせいでぇ~、来るのが遅れてしまったのぉ~。でもぉ~、タイミングはぁ~、ばっちしぃ~、みたいねぇ~。」

「ぱ、パパ・・・!!それに、ママも・・・!」


そこにはフォートリア家当主のジャステス公爵と、ユティス公爵夫人の2人の姿があった―――――。



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