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彼女の葛藤


あれからジェシカは落ち着いた様子で立ち上がり、レイラたちに向き直る。


「もう大丈夫そう?」

「・・・はい、申し訳ありません。」

「いいのよ。誰だって身内が無くなる悲しみはとても代えがたいものよ。」

「・・・。」


その時、ジェシカは支えてくれるフィリオラの言葉に返答を返さなかった。

いや、返せなかったのだろうか。


彼女の生い立ちはどうにも複雑すぎて、彼女自身もわからなくなっているんだろう。


「私について色々と聞きたい事もあるでしょうが、今は囚われている方々の救出することを優先しましょう。その後ならたっぷりとお話できますから。」

「・・・ええ。向かうべき場所についてはわたくしたちも傍で聞いていましたわ。でもまさか、わたくしたちが一番最初に訪れた場所、その地下にあなたの探し物があっただなんて・・・。」

「仕方ありません。その時はあなた方もこの町の異常さについては薄々感じてはいたでしょうが、深いところまでは察することは難しいでしょうから・・・。ひとまず・・・」


とジェシカが一度、宮殿内へと案内をしようとした時、宮殿の周囲に張られていた結界に大きな打撃音のような轟音が響き渡る。


レイラたちは音のする方へと向くと、そこには何百匹という数の群れを成したサハギンたちが宮殿内へと向けて体当たりをしている様子が見えた。


「ど、どうして・・・」

「・・・恐らく、わたくしの存在を感知されたせいですわ。」


やはりあの時、レイラの姿は視認され、精神の束を切り落とす前にロモラ全体にその情報が知れ渡ってしまっていたようだ。


そのままレイラの消えた後を追われ、この宮殿の存在が奴らに認知されたということになる。


「ごめんなさいですわ・・・。わたくしがもっと慎重に行動していれば・・・」

「いいえ、レイラ様の責任では御座いません。どのみちあなた方の存在は近いうちにバレてしまっていたでしょう。それが多少早くなっただけのことです。」

「でもどうすんの?あの結界もあの数相手だと長くはもちそーにはなさそうだけど・・・!?」

「ここは放棄します。なので私についてきてください!」


ジェシカは急いでレイラ達を連れて宮殿内へと連れて行く。

中はすでにボロボロではあったが、きちんと手入れされていれば恐らくこの宮殿はとても立派なモノだったのだろうとすぐにわかった。


とある大広間へと到着したレイラたち。

そこはレスウィードの姿を模ったような銅像が巨大な広場の中央に建てられており、その周りはいかにもといったゴリゴリの装飾が施されている。


この部屋だけは他の場所とは違い、きちんと手入れがされているようだ。


ジェシカはその銅像の裏へと周り、そこには台座が置かれていた。

その中心には穴が開いており、その穴にジェシカの手に握られていた杖を差し込んだ。


奥まで差し込まれると同時に、杖についていた青い魔石が光り出す。

それを確認して杖をゆっくりと回すと、カチリという何かの仕掛けが作動したような音が響き渡った。


それと同時に銅像の一部に魔法陣が浮かび上がり、銅像の一部がまるでカラクリが如く、複雑な動きで穴が開いていく。


そして開いた穴から姿を現したのは魔文字が掘られた古い扉だった。


「急いで扉の向こうへ。この扉はレスウィードの町に繋がっています。」

「え?でもそれじゃあロモラたちに見つかるんじゃ・・・」

「大丈夫です。繋がっている先は強い結界によって守られています。ロモラたちには決して近づけないようになっていますので、安全かと。」


とここで先ほどよりも巨大な轟音が鳴り響き、宮殿内が大きく揺れる。

所々から砂煙が天井から零れ落ち、至る所にヒビが壁や天井に伸びていた。


「私が先に行くわ。もし何かあったとしてもあなた達よりかはマシでしょ?」

「・・・気を付けて、フィーちゃん。」


そういうと、フィリオラは扉を開けるとその入口は光に包まれており、先が見えない。

フィリオラは意を決して扉をくぐり、光の中へと飛び込んでいった。


それから5秒もしないうちに、光の向こうからフィリオラの手が伸びてきて手招きをしている。


「大丈夫そうですわね。」

「レイラ様、ミミアン様。御2人は早く!」

「ジェシカっちはどうすんの!?このまま残るとか言わないよね?」

「きっと、この宮殿には戻ってこれないと思いますので、お別れを・・・。」

「・・・そう、分かったわ。わたくしたちはあなたを待っているのですわ・・・!」

「え?でも・・・あっ!レイラ、ちょっと!引っ張らな――――――」


ミミアンの叫び声が光に飲まれ、途切れる。


1人残されたジェシカはレスウィードの銅像を見上げ、その後にそっと頭を銅像へと優しく付ける。


「レスウィード様・・・、いえ、お父様。きっとあなたにとって私の存在は忌み嫌うのでしょう。でももし許されるのなら、私はお父様の御姿を拝見しとうございました・・・。銅像で見るお父様ではなく、本物のお父様を、この目で拝見し、この手でお父様に触れたかったです・・・。」


轟音が響き渡る中、騒音にかき消されるジェシカの言葉。

ふと気が付けば、騒音に混じってギャーギャーといった醜い鳴き声が聞こえてきたことに気が付く。


サハギンたちはすぐそこまで来ているようだ。


「今まで御傍に居てくれて、ありがとうございました。どうか、安らかに・・・」


ジェシカは最後に銅像へ祈りを捧げ、杖を台座から抜く。

すると魔法陣が徐々に消えていき、銅像にもヒビが入り始めた。


急いで扉の向こう側へと潜り抜けると同時に銅像は崩壊し、扉は瓦礫に埋もれた。


扉を潜り抜けると、そこには心配そうにジェシカの到着を待っていたレイラ達が降り、彼女の存在に気が付いたミミアンはジェシカへと抱き着く。


「やっときたぁー!本当に心配したんだからぁー!」

「えと、その・・・えへへ・・・。」

「もー、そこは笑うところー?」

「こうして誰かに心配されたのは初めてでして・・・。とても心が温まるものなのですね。」

「・・・もぉー!そんな悲しい事言う子にはお仕置きなんだからねー!」


そういうとミミアンはローブ越しにジェシカの頭にかぶりつく。

突然の事にアワアワと慌てだし、それを見たレイラは微笑ましそうに2人のなれ合いを眺めていた。


「・・・ママ、止めなくていいの?」

「大丈夫なのですわ。ジェシカにはああいった誰かとの触れ合いが必要ですわ。ジェシカの事はミミアンに任せてわたくしたちは周囲を警戒しますわよ。」

「りょーかい。」


窓から恐る恐る周囲を見渡してみる。

相も変わらず、何物かの気配は感じられない。


がジェシカのお爺様を捕まえた廃墟のある方から何かしら騒ぎが起きている。

どうやら住民ら全てが海側のあの廃墟の方へと集まっているようだ。


「奴ら、わたくしを見かけた場所へと集まっているようですわね。」

「行くなら今ってことね。」


そういうと、フィリオラはレイラの方へと静かに向き直る。


「ママ、今から私はあの騒ぎに乗じて、派手に暴れ周って注意を引き付けるわ。だからその間にママたちは・・・」

「ダメですわ!もしフィーちゃんに何かあったら・・・」

「この町の住民たちは全員ロモラに寄生されているってことがわかった今、やることは一つしかないわ!」

「・・・まさか、あなた。馬車でいってたことを本当に実行するつもりですの!?」


レイラの怯えたような表情で問いかけてきた質問に笑顔で返し、窓から飛び出すと翼を顕現させてそのまま空高く飛び上がる。


直後、響き渡る轟音と立ち込める煙。


「・・・ほ、本当にやりやがったのですわ!?」

「あれ、リオラっちは?」

「フィリオラ様の御姿が見当たらないのですが・・・」

「・・・あー、フィーちゃんはこの町を焼け野原にするために出て行ったのですわ。」

「マジ?」

「え・・・?!」


ミミアンは興奮したように目を輝かせ、それに比べてジェシカはどこか絶望した表情を浮かべていた。


それもそうだろう。

ジェシカにとって、レイラが言った事は生まれ故郷であるこの町を消し去るためにフィリオラは出て行ったと言っているようなものなのだ。


だが、どうやら彼女の中で天秤にかけているようだ。

そして彼女が出した答えは・・・


「・・・行きましょうか。」


諦めだった。






フィリオラの暴れっぷりは相当なようで、町の住民たちはもはや姿を隠そうとはせず、その醜い姿を晒しだしながらフィリオラを撃退しようと交戦しているようだった。


おかげで、町長の館へと移動しているレイラたちの姿に気付く者は誰一人としていなかった。


順調に移動し、あっという間に目的地である館にたどり着いたレイラたち。

ミミアンがその黒曜爪を持って、門を簡単に切り裂く。


「あ、そこ通るとき気を付けて! うち、色々と溜まってて・・・それでつい空間ごと切り裂いちゃったの!てへぺr・・・ぐっふぅ!?」


とここでレイラの鞘による打撃がミミアンの溝へとヒットし、そのまま館の扉をぶち壊しながら吹き飛ばされていった。


「・・・そういうことだから、そこは通らない方がいいですわね。」

「え?どういうこと・・・」


とジェシカへ説明するために引き裂かれた門へと近くに転がっていた門だった鉄の破片を投げ込む。

何もないはずの場所で、突然その鉄の破片は真っ二つに綺麗に引き裂かれ、1つだったものは2つとなって地面へ落ちた。


「・・・こういうことですわ。今、あそこは目に見えぬトラップが存在すると思ってくださいまし。」

「わかりました・・・。」


ジェシカもあそこを通ることの危険性を理解したのか、青ざめた表情で頷く。

レイラはジェシカを抱き抱えると、一気に跳躍し、簡単にその高い塀を飛び越えて屋敷の敷地内へと侵入した。


「ありがとうございます。」

「気にしないでくださいまし。それじゃあ行きますわよ。」


レイラはジェシカと共に、屋敷の中へと入っていった―――――。



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