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ジェシカの正体


赤く染まった半月状の斬撃波がロモラの精神との繋がりを示す光の束へ直撃すると、無数の斬撃が発生し、円形状にえぐり取られるように細かく切り刻まれると繋がっていた部分は見事に分断された。


静かに霧散していく繋がりの束、だがレイラはそれよりも・・・


「な、なんで・・・」


住民はまっすぐレイラの姿を視認していた。

その瞬間、全身から湧き出る冷や汗を感じる。


なんで、うそ・・・この世界でわたくしの存在を感知できるなんて・・・

いや、ただ偶然にも彼の視線の先がわたくしの方へと向けられているだけで実際はわたくしを視認しているわけではありませんわ・・・!


絶対に、そうであってほしい・・・。

だが、一度胸に付いた不安の種火はいくら払っても消えることはなかった。


王眼を閉じ、もう一度瞼を開くと現代の時間軸へと戻っていた。

だが全身から湧き出る冷や汗は止まらず、ただ不安を胸に抱いて戻ってきた。


レイラの様子がおかしい事に気付いたジェシカは震える彼女の背中越しに声を掛ける。


(レイラ様?大丈夫ですか?)

「・・・え?あ、えと・・・」

(もしかして斬ることはできませんでしたか?)


ジェシカは任務の失敗に関しての報告を聞き出す。


「・・・いえ、それは問題ありませんわ。」

(・・・ならどうしてそこまで顔が青ざめているのでしょう?)

「・・・。」

(・・・もしかして、切る直前に姿を見られましたか?)

「・・・っ!」


ジェシカの核心を突くような質問に思わずビクッと体が反応してしまった。


「えと!その・・・わからないのですわ。あの未来軸で本来わたくしの存在を感知できる者は存在しないと思っておりましたの。元々そこにわたくしはいない存在として扱われているはず・・・。」

(ならどうしてそこまで不安げに顔が真っ青なのでしょうか?)

「・・・あの時、確かにあの者と目が合ったような気がしましたの。ありえないはずなのに・・・。」

(そうですか・・・。あっ?!)


とジェシカの声が上がる。

その時、不自然な影がレイラの姿を覆い、急いで顔を上げるとそこに先ほど少し先の未来で精神の束を切り落とした獣人がニタりと不気味なほどまでに口角を上げた表情を浮かべ、レイラの姿をじっと見ていた。


「うそ、なんで・・・!?」


だが突如として、水の鞭が彼を包み込む。

突然の事に獣人はもがき苦しみ、その内力無く脱力しているかのように浮かび上がる。


(大丈夫、このロモラは気絶させました。それにこの者の繋がりは全て絶たれております。なのでレイラ様が見つかったという事実は他のロモラたちには伝わっていないはずです。)

「・・・そ、そっか。よ、よかった・・・。」

(ですが安心はまだ早いです。急いでこの場から離れましょう。)


そこへ別の水鞭が伸びてきて、レイラを薄く包み込むと2本の水鞭は海面の中へと消えていった。

だがこの時、彼女らの姿を見送る存在に気付くことはなかった・・・。






「なるほどね。それは怖いわ・・・。」


レイラの話を聞き終えたフィリオラは震える彼女の体を鎮めようと優しく抱きしめる。

遠くの方ではジェシカとミミアンが協力して連れてきた住民を縛り上げていた。


「それにレスウィードとオールドワンが争っていたという未来についても気になるわ。」

「はい。レスウィード様が目を覚ますまでまだまだ先のはずです。ですがオールドワンが復活していたとなれば・・・恐らく、傷が完全に癒えていない状態で無理やり目を覚ましている可能性が高いです。」

「それだとレスウィードの勝ち目が薄いかもしれないわね・・・。それにオールドワンは一体どうやって復活できたのかも調べないといけないわ。」

「そもそもオールドワンに関しての情報って全然なくない?サハギンキングとかロードとかならわかるけど、オールドワンってなにさ。名前からしてぜんっぜん違うじゃん!」

「・・・確かに。」


そこで彼女たちはオールドワンという存在をほとんど知らない事に気が付く。

だがそこに加わったのは異質な存在。


「我らが偉大なる主様・・・」


いつの間にか目を覚ましたであろうロモラに寄生された獣人は白濁の瞳を震わせ、虚空を眺めながら口を開け、舌がだらしなく垂れている。


明らかに状態がおかしい。


「偉大なる主ってどういうこと?お前たちの魔魚王(サハギンキング)のことではないのか?」

「ふ、ふへへへ・・・ああ、我らが王・・・。だが、王は我らを束ねる存在、我らに安寧をもたらすは王ではない・・・。いや、我らだけではない・・・世界全てに、永久(とこしえ)の安らぎをもたらす大いなる存在・・・それこそが、ふへ、ふへへへ・・・」

「話になりませんわ・・・。」


とここでジェシカが持っていた杖の先を彼に向ける。

すると光を帯び、それに連動するかのように酷く苦しみ始める。


「ぎ、ぎぎぎぎぎっぎぎぎぎががががあがががががががあ・・・!!」

「答えなさい。彼女らをどこへ閉じ込めた。聖母をどこへ隠したのです・・・!!」

「ぎぎぎぎぎぎぎ・・・・ぎ、ぐ、が・・・あ、あはははは・・・!お前、お前お前お前お前お前ぇ・・・!!お前かぁあ・・・・!!」


とジェシカを見る白濁の瞳は何かを理解したのか、先ほどよりも大きく震え出す。


「ここにににいにに・・・・い、いたのかぁ・・・!!は、ははははは・・・!!裏切者がぁ・・・あの忌々しいドラゴンの助けを、乞えると思っているのかぁ・・・!? おお、おま、おまま・・・おお、おま、お前のような、存在がががががぁあ・・・!!」

「いいから答えなさい!このまま答えなければ、お前を殺します!」

「ひ、ひひひひひひひ・・・!!」


どこかジェシカの声からは必死さな感情が伝わってくる。

そして奴が話す単語からして、ジェシカのことを知っているようだ。


それも深く、誰よりも。


「私の存在なんてどうでもいいのです!たとえこの身がレスウィード様に焼き尽くされようとも構いません・・・!私はただ彼女たちを、聖母様を解放することだけを己が生まれた使命とし、今日まで生き延びてきました。これが最後のチャンスです。居場所を、教えなさい・・・!」

「い、いひひひひ・・・ひひ・・・。」


先ほどよりも強い魔力を込める。

レイラはその魔力の波動を受け、何かを感じ取った。


最初こそ余裕を見せていた彼は、その余裕めいた醜い笑みが顔から消え、その白濁した瞳の震えが止まる。


「・・・お願い、します。あなたの娘を、母を、助けたいのです・・・。お爺様・・・。私を、助けて・・・ください・・・。」

「・・・・。」


最終的に、彼に懇願するかのように彼へと問いかける。


ジェシカは柱に縛り付けられた彼の前で縋るように泣き崩れた。

そんなジェシカを彼はまっすぐに見続ける。


他の何も移さず、ただ一点、ジェシカの姿だけをその白濁の瞳に映し続ける。

そして・・・


「・・・こ、この町の中心・・・に、ある大きな、館・・・。その地下深くに・・・。」


震える声で確かに彼はそうジェシカへと伝える。

その瞳は微かに薄い黄色を帯びているように見えた。


「・・・っ!お、お爺様・・・!?」

「・・・き、きひひ・・・きひゃははははあはは・・・!!!」


とここでまた先ほどの様子へと戻ってしまい、また縛りが甘かったのか縛られていた縄を無理やり引きちぎる。


「うっそ!?」

「まずい・・・ジェシカ!」

「っ!?」


3人は奴の予想外な行動に、対応が遅れてしまった。


解き放たれたヤツは一直線にジェシカの方へと向かっていく。

口が大きく裂け、中から無数の薄く細い透明な触手が伸びている。


ジェシカもハッと我に返り、落としてしまった杖に急いで手を伸ばすが明らかに間に合わない。

もう駄目だと、その場にいた誰もが感じた時、奴の動きが止まる。


ゆっくりと顔を上げ、奴の方を向くと口から伸びていた触手を両手で握り、拘束している姿が目に入った。


その瞳は白濁した者から、小麦畑が反射する黄金色のような黄色に戻っていて真っすぐにジェシカの方を優し気に見つめていた。


そして瞬時に彼が何をしようとしているのかジェシカは悟る。


「だ、ダメ・・・お爺様ぁ!!」


ジェシカの必死の制止も聞かず、その触手を思いっきり引っこ抜くかのように引っ張った。

ぶちぶちと言った生々しい音と共に、口の中から何かが引き千切れるかのように引っ張り出される。


その瞬間、彼の目が潰れ、顔中から血を吹き出してその場に倒れた。


「いや・・・!そんな、お爺様・・!!」


ジェシカは急いで彼を揺さぶる。

だがすでに彼は息絶えていた。


お爺様と呼ぶ彼に覆いかぶさるかのように、ジェシカは彼を抱きしめながら泣き続けた。


「・・・もしかしたら、この瞬間を待っていたのかもね。」

「己の手で、ロモラに復讐したかった・・・ということですの?」

「たぶんね。孫娘にそんなことさせるわけにはいかないじゃない。」

「ロモラに寄生されながら、それを実行に移すための自我を残していたとか、精神力やばすぎっしょ・・・。」

「でも、おかげで色々と見えてきたわ。」


フィリオラはそう呟くと、ジェシカの元を訪れ、そっと背中を摩り続けた。


「ねね、レイラ・・・。リオラっちが見えたって何のことかわかる?」

「・・・あの場所にこの獣人が来ることを知っていた。しかも断言できると、ジェシカははっきりと言っていましたわね。おそらく、わたくしがいたあの廃墟がこの方の娘がサハギンたちに襲われた家なのですわ・・・。その後、ロモラに操られていたとはいえ、自らの娘へ行ったことへの絶望感で、無意識にあの場所に通い続けたんですわ。ジェシカは何らかの方法で彼が自らの祖父であると知り、無意識にあの廃墟の前で立ち尽くす彼を見続けてきたんですわ。」


レイラは静かに呟く。

それを聞いたミミアンは悲し気な瞳をジェシカへと向けた。


「・・・そんなことってある?」

「そうでないとジェシカの色々な言動と辻褄が合いませんもの・・・。それにロモラがジェシカの事を”裏切者”と呼び、そして彼女から漂う微かな【ドラゴンマナ】がある事実を決定づけておりますわ。」

「ど、ドラゴンマナ?うそでしょ・・・?」

「あそこまで卓越した水魔法の魔力操作はたとえ海に棲むサハギンといえど無理ですわ。キングならと思っておりましたが、奴の口調からしてそこまで魔力に精通しているわけでもない。彼女が使っていた水の鞭は恐らく超級クラスの魔法ですわ。それこそ特別な魔力でもその身に宿していない限り不可能でしてよ。」


微かにジェシカから漂う【ドラゴンマナ】。

ベオルグたちを服従させるようになってから、感じることが出来るようになったもので、それはレイラにとってとても温かな魔素だった。


ほんの短い間ではあったが彼女が扱う水魔法の暖かさからしてもしかしたらと疑っていた。

だが、彼女の杖から放たれた彼女の魔力を感じ、それは確信した。


「そんな・・・それじゃあジェシカは・・・」

「ええ。ジェシカは、レスウィードと恋仲だった獣人の間に生まれるはずだった子であり、サハギンたちによって穢されてしまった・・・。つまりドラゴンと獣人、そしてサハギンの3つの血を持つ―――――”忌み子”ですわ」



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