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その町に伝わる、忘れられた伝承


・・・懐かしい夢を見た。

慕っている4人のお姉様たちに囲まれ、そこにはパパも居て、どこか遠く、誰も知らない様な孤島で幸せに暮らしているというものだ。


これはすぐに夢だと分かった。

でも、覚めてほしくない夢でもあった。


「あら、どうしたの?」


とそこへ一番上の白くてすごく綺麗なお姉様が心配そうに話しかけてきた。

私は思わず抱き着いてしまった。


白いお姉様は驚きながらもヨシヨシと頭を撫でてくれた。


「もう、甘えん坊さんね。」

「姉上、少しばかり甘やかしすぎではないかの?」

「あら、黒。別にいいじゃない。それに別にこの子だけ甘やかしているつもりはないわ。黒や赤、青ちゃんの事もいっぱい甘やかしてきたつもりだけれど?」

「それはそうじゃが・・・」


とここで白は何かを察したかのように、うふふっと笑い、黒の頭をそっと撫でる。


「もう、あなたもこうしてもらいたいなら遠慮なく言いなさい。別に恥ずかしい事ではないでしょう?」

「あ、あう・・・。」


あのクールで威厳あふれる黒のお姉様がここまで崩れてしまう姿が見られるなんて・・・。


「ちょっと、姉上!ずるいですぞ!我の頭もぜひ撫でてくれませぬか!」

「あ、私も―!」

「もう、本当に甘えん坊さんなんだから・・・。ねえ、お父様。私の代わりに2人を撫でて挙げてくれませんか?」

「・・・僕でいいのかい?」


とここで空を眺めていたパパの視線が赤と青の方を向いた。

するとあんなにも甘えてほしそうな表情を浮かべていた2人はいつも以上にキラキラした目をさせ、尻尾をブンブンと振り回す。


「馬鹿な・・・!?ち、父上殿が、我の頭を、な、撫でて・・・いただける、だと・・・!?」

「・・・私、今日が命日でいいかも。」

「そんな大げさな・・・。別に愛しい我が子を撫でることぐらい、僕にだって出来るさ。さあ、おいで。」


手招きをされ、赤と青は恐る恐るといった感じで震える足を一歩、また一歩前に出してパパに近づいていく。


そしてそっと頭を差し出すと、慣れた手つきで2人の頭を優しく撫で始めた。

その時の2人の表情の崩れっぷりは見ていられないほどだった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ・・・・・・」

「うへへへへぇえぇぇ・・・・」


とここで白のお姉様の表情がどこか寂し気に見えた。

パパはそれに気が付いたのか、尊死を迎えている2人をゆっくりと床に寝かせ、静かに立ち上がると白たちの元へと来ると、白と黒の頭も優しく撫でる。


「みんな、大きくなったね・・・。」

「ここまで大きくなれたのはお父様のおかげですよ。」

「そうじゃ!父さまがいなければ、わっちらもこうしてここまで大きくはなれんかったぞ。」

「そうかな?僕はただこうしてお前たちを抱きしめ、頭を撫でながらこうしてゆったりと時間を過ごすことしかしていないよ。」

「それが私たちにとってどれほど至福で、何物にも代え難い宝であると理解なされていますか?」

「そうじゃよ?ほら、わっちらの他にももう一人おるじゃろ?さ、父さま。この子にもこの幸せな時間を分けておくれ。」


本当に幸せそうな表情を浮かべる2人は十分満足したのか、目線を私の方へと向けた。

そしてゆっくりとその温かな手を私の頭へと伸ばしてくる。


ああ、パパ・・・私、あなたに――――――――――。






「ぶふっ・・・!?」


突然現実に戻されるかのように強く咳き込む。

喉の奥から内に溜まっている海水を全て吐き出す様に何度も何度も咳き込んだ。


全てを吐き出した後に残ったのは、海水のしょっぱさだけだった。


急いで周囲を見渡し、今どこにいるか確認する。

ここはどうやら廃墟の一室にいるようだ。


ハッ!とレイラとミミアンの事を思い出し、目線を下に落とす。

そこには翼に包まれたままの2人のぐったりとした姿を確認できた。


どうやら海水に飲まれたのは自分だけのようで、この2人には翼で包んでいたこともあってこれといった被害はでていないようだった。


「御目覚めになられましたか?」


突然、背後から声を掛けられた。

急いで振り返るとそこには全身をローブで包んだ、いかにも怪しい何かが立っていた。


ローブを深くかぶっており、また顔を何かで覆っているようで表情も見えない。


「・・・誰?」

「あ、すいません!」


と、ローブの人物は慌てた様子でフィリオラたちに謝罪をすると部屋を出て行った。

突然の行動に唖然としていると、ローブの人物は何かを持って部屋に戻ってきた。


その手には濡れた体を拭くための布が見える。


「これで濡れた体を拭いてください。」

「・・・ありがとう。」


フィリオラは静かにその布を受け取り、濡れた髪や顔、体全体を拭いていく。

翼に包んだままの彼女たちは濡れていないようで、3枚あった布は全てフィリオラが使い切ることにした。


その後、ローブの人物は温かな風を吹かす風魔法を使い、濡れて肌に張り付く服までも綺麗に乾かしてくれた。


「まずは謝罪を。あなた方にあのような真似をしてしまい、ごめんなさい・・・。」

「・・・いや、逆に助かったわ。あそこに居たらまた呪いに掛けられていた可能性が高いもの。あんな風に私たちを移動させても誰にも気づかれなかったのはそういった意味で隠ぺい効果でもあったのでしょう?」

「さすがです!その通りでして、一度呪いに掛けられてしまった方はあの町から永遠と出られなくなってしまいますから。」

「・・・奴らはなぜそんなことをするの?」

「彼らの繁殖のためですよ。」


一番聞きたくなかった答えが返ってきて、フィリオラは深くため息を吐く。


「話の続きはまた後程。まずは皆さま、どうかゆっくりお休みになられてください。」

「ちょっと待って。」


と部屋を出て行こうとするローブの人物を呼び止める。


「はい?いかがなさいましたか?」

「部屋を出ていく前に1つだけ教えて。あなたの名前は?」

「そうでした!挨拶もなしに大変な失礼を・・・。こほんっ。私はジェシカ。このアトラティスカの管理を任されている巫女で御座います。」

「アトラティスカ・・・?」

「はい。ここは、レスウィードの町から少し離れた位置、海の底に沈んだ神殿の名前です!」






あれからフィリオラは2人を起こし、事情を説明する。

ひとまず身に迫る危険はないと分かり、2人は安堵した。


3人はひとまず、廃墟となっている部屋から出て階段を降りる。

どうやらここは2階建ての建物のようだ。


階段を降りるとすぐに玄関らしい広間が広がっていた。


玄関を抜け、外に出ると目の前には大きな神殿が3人の前に姿を現した。

ただ一つ言えることは、立派・・・ではなく、所々崩れた廃墟にも近いほどボロボロだった。


そして、その神殿を中心に、周囲に張られた結界が海水の侵入を防ぎ、この広い空間を生み出していた。


四方八方で魚たちが泳ぐ姿が見え、夜空の代わりに魚たちの鱗が反射して神秘的な星空が広がっており、その光景に3人は圧倒される。


が、その結界を良く思わない存在もいるようで、別の方向で結界に体当たりをかましている魚のような歪な存在も見つけた。


「彼らは、魔魚人(サハギン)。この辺りの海を支配している魔物です。」

「サハギンって・・・、以前獣帝国と大きな戦いでかなりの数を討伐したって・・・」

「でも根絶したわけではありません。こうして生き延びたサハギンたちは身を潜め、あなた達に復讐するチャンスを待ち続けているのです。」


そういうと、ジェシカはいつの間にか手に持っていた神秘的な装飾が施された螺旋状の杖をかざすと結界が光り出し、サハギンは苦しそうにしながらその場を離れていった。


「これでしばらくは奴らも来ないでしょう。」

「この辺りを支配しているって言ってたけど、この辺りの海も青皇龍が治める海域”シアビネウス”の一部よね?そこまで好き勝手にしているのなら青皇龍が黙っているとは思えないんだけど・・・」

「・・・そうですね。彼女が深い眠りにつく前、この海域に彼女の腹心の1体を遣わしてくださいました。」


そしてジェシカの語る話は、レスウィードの町で聞いた話とかなり違っていた。


「このリグラシア大陸に広がる広大な海を青皇龍様が治めるには無理がありました。故に、彼女の腹心とも言うべき存在たちを各海域へ派遣しました。もちろん、海域にも。彼の名はレスウィード。この町の名前となった存在です。」


そう話すローブの人物の口調はとても優しげだった。


「そして彼はとても慈愛に満ちた方でした。食べ物に困っていた方々に海の幸を分け与えてくださいました。いつしか獣人たちはレスウィード様を守り神として称える様になりました。この神殿がまさにその証拠です。ここで私たちのような巫女はレスウィード様のお世話を勝手に行うようになりました。」

「勝手にって・・・そのレスウィードって竜は何か言わなかったの?」

「もちろん抗議してきましたよ?最初こそレスウィード様は嫌がっておられましたが、彼等の熱心なる訴えに負け、彼等のしたいようにさせるようになりました。」

「なんて強引な・・・。」


と若干呆れるフィリオラだったが、彼の性格からして押し負けてしまったのだろうと容易に想像がつく。


「そしてある日、1人の獣人がレスウィード様の優しさに惚れ、いつしか愛するようになりました。レスウィード様も彼女のことを自然と受け入れるようになり、2人は恋仲になりました。」

「こ、恋仲・・・!?」

「元々ドラゴンに対してそういった意識は低いって思っていたけど、まさか恋仲になる獣人もいるとは思いませんでしたわ・・・」


ドラゴンは忌み嫌われていると言われてきたが故、その言葉はフィリオラを覗き、レイラとミミアンにとってとても衝撃的なものだった。


「ええ。私たちにとって、それはとても祝福すべきことでした・・・。なのに、ある一部の獣人が、彼女がレスウィード様の寵愛を独り占めする気だと町の方々を煽動するようになり、それは誤解であると弁解しましたが町の方々は耳を貸しませんでした。」

「・・・まさか殺されてしまったの?」

「いいえ。まだ殺されていた方がよかったかもしれません・・・。」

「どういうこと?」


そしてしばらくの沈黙が続く。

その後に語られた内容はあまりにも酷いものだった。


「煽動を行っていたのは獣人に寄生した魚の魔物である【ロモラ】。そしてロモラはサハギンに使役されている魔物であり、彼等とは主従関係にあります。つまり、サハギンが事の全ての元凶とも言えましょう。彼等はロモラを獣人に寄生させ、彼等を使って住民たちとレスウィードの中を裂こうとしていました。サハギンの目的は繁殖し、数を増やすこと。そして供物を捧げ、【オールドワン】と呼ばれる彼らの王を復活させることでした。故に、レスウィードという存在は目の上のたん瘤以上の存在だったのでしょう。」

「・・・ちょっとやめてよ。うそでしょ・・・?まさか、奴らは・・・」


ここでミミアンは何かに気が付く。

それを察してか、ローブの人物は静かに頷き、ミミアンは青ざめる。


「彼等はレスウィード様の恋仲となっていた獣人を拉致し、サハギンの子を孕ませたのです。」


その時、ローブの人物の口調は震えており、怒りの感情が伝わってきた―――――。



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