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過去の空似 *後書きにある【双角竜】について更新 9月18日


「エヴァ・・・そんな、あの剣翁竜様にエヴァというお名前まで付けて崇めていただなんて・・・わたくし、そんな村の神様のようなドラゴンにあのようなことを・・・!」


エヴァと言われ、あろうことかレイラは自分の事とは一切思っておらず、自ら鞘で殴り飛ばした赤いドラゴンのことをエヴァだと勘違いしてしまったようで、自らが起こした行為に酷く後悔の念を感じていた。


「・・・え?あ、いや・・・・」

「で、でもこれは仕方のないことなんですの!今、竜種の魔物たちは獣人の方々に酷い敵意を抱くようになっておりまして、それゆえ老師様を助けるべく・・・」

「だからワシの話・・・」

「だからわたくしは致し方なくエヴァ様をあのようにぶち転がしたのですわ・・・!!」


老師は何かを喋ろうとするが、レイラは弁明することに必死で老師の話を聞こうとしなかった。

そこへハルネが急いでやってきて、遠くの方で倒れている赤いドラゴンと老師へ必死に涙ながらに話しかけるレイラの様子を見て状況を察し、すぐさまレイラを鎖蛇にて口と体を拘束し、そのまま浮かせるとハルネの後ろへと持っていく。


「ん~!!ん~!!」

「この度は私が仕えさせていただいておりますレイラお嬢様に変わりましてあなた様に大変な失礼を働いてしまい申し訳ございません、剣翁竜様。」

「ん~!・・・ん?!」


ここで初めてレイラは自分が必死に弁明していた相手が老師ではなく、剣翁竜であることを理解し、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。


「いや、謝らなくてよい。ワシもそこの娘と同じような事をやらかしたからのう・・・。」

「そうでしたか・・・。ところで、剣翁竜様は・・・」

「その呼び名は言いづらいじゃろう?ワシの名はグディンじゃ。」


剣翁竜、改めグディンは自らをそう名乗る。


「感謝致します、グディ様。話を戻しますが・・・」

「うむ、わかっておる。そこの娘が早口で色々と状況を説明してくれたからのう。それにワシの身にも同じような事が起きておる。」

「・・・なのになぜそこまで冷静におられるのですか?」


ハルネはグディへ疑問をぶつける。

グディンは遠い空を見上げ、にっこりとした笑顔をハルネへと向けて返事を返す。


「他の獣人たちならいざ知らず、あの村に住む者らはワシにとって大切な家族じゃ。それに、父と感じる者から流れてきたこれは無差別に獣人らを攻撃しろなどといったそういった類のモノではない。まあ真にその意味を理解できぬ同胞らにとっては関係ないことなのじゃろうな。あそこに転がっている同胞みたいにのう」


と視線の先を赤いドラゴンへと向ける。


「あれは・・・【双角竜(ツインホーンドラゴン)】?!」

「うむ。まさかアヤツの片翼を鞘で切り落とすとはな。」

「んっ!」


と鎖蛇に拘束された状態でどや顔を決めるレイラだった。


「これでアヤツも大人しくなっておればよいのじゃがな・・・。」

「・・・むしろ怒らせただけではないかと。」

「・・・んんぅ・・・」


ゆっくりと立ち上がり、怒りを露わにする双角竜と呼ばれるドラゴンはその名を冠する巨大な角のような突出した巨大な棘が付いた片翼を前に突き出す。


今にもこちらに向けて突進をしてこようとしている様子を見て、グディンはやれやれと言った感じにハルネたちよりも前に出ると、しっかりと双角竜を見据える。


双角竜は大きく咆哮を上げた後、片翼に着いた巨大な棘を前にして走り出した。

地面を抉り、地響きを鳴らしながら突進してくる様子はまさに圧巻だった。


グディンはどこから取り出したのか、片手で虚空を掴むとその手には1振りの大きな剣のような物が姿を現した。


その切っ先を双角竜へと静かに向け、ゆっくりと持ち上げるとそっと軽く振り下ろす。


振り下ろした剣の軌跡がそのまま剣撃波となって双角竜へ解き放たれる。

突進の速度がピークに達する前にグディンの放つ剣撃波と衝突し、それは徐々に双角竜を押していく。


双角竜はその剣撃波を片角をうまく使って受け流したが代償として大きなヒビが入り、そのまま横に倒れた。


グディンは止めを刺そうともう一度剣を振り上げようとした時、目の前にレイラが両手を広げて立ちふさがる。


「お待ちくださいですわ、グディン様!」

「むっ?じゃが、このまま奴を放っておけばアヤツは他の獣人どもを皆殺しにするじゃろう。」

「わたくしが何とか致しますわ!だからその剣をお納めくださいまし!」

「・・・そうか、そうじゃな。あいわかった、かあ様。」


と手に握っていた剣を離すと突如として霧散し、虚空へと消える。

自分よりもかなり歳が言った老師に母と呼ばれ、複雑な心境になりつつもどこか悪くないと感じるレイラだった。


レイラは急いで双角竜の元へと走る。

そこへルーフェルースが後を追う様に姿を現した。


「ほう、疾蛇竜か。アヤツを従えておるとは・・・」

「従えているわけではありません。」

「なんと。ならば、アヤツ自らかあさまと行動を共にしておると?」

「はい。名をルーフェルースと言います。といっても、一番懐いているのはレイラお嬢様より・・・」

「・・・なるほど、そういうことか。ふぉっふぉっふぉっ」


どこか納得した表情を浮かべる。


「不思議なもんじゃ・・・。ワシの1割にも満たぬ年月を生き、年端も行かぬ人の小娘に母性のようなものを感じるとは。」

「・・・やはりグディン様にもそのような感性を受けておるのですね。」

「うむ。偉大なるわしらのとと様があの娘へ向ける愛の深さ、その温かさよ。故に、ワシらは認めざるをえぬのだ。あの小娘を我らのかあ様であると。」


遠くの方で、ルーフェルースを通じて双角竜へ何かを話しかけており、その後レイラは嬉しそうに双角竜の顔に抱き着いている。


どうやら話し合いは良い方に終わったようだ。

レイラはルーフェルースにその辺りに転がっている片翼を持ってくるように指示を出し、自身は双角竜へ治癒魔法を掛け始めた。


ルーフェルースは片翼を尾に巻き付け、なんとか引き摺りながらも双角竜の元へ持っていくと切り落とされた部分を合わせ、ミラが魔力を具現化させて接合部分へと巻き付ける。


「まさか、あのリュウスズメ・・・いや、違うな。あれは、リュウオウか?」

「・・・リュウオウ?ミラがリュウスズメの特異個体であることは知っておりましたが、その名をリュウホウというのですか?」

「そもそもミラと申したか、アヤツはリュウスズメではない。リュウホウとリュウオウの雛じゃな。見るに雌の個体であるからして、リュウオウじゃ。」

「・・・聞いたことがない名前の魔物です。」

「それもそうじゃろうな。その2対はこの世にそれぞれ1羽しか存在せぬ。そして成長した姿は魔力そのものに変化するが故に、リュウスズメや妖精龍ほどの魔力量の高い者にしかその姿を見ることは敵わぬ。こうして見れるだけでなんと幸運なことか。」

「リュウスズメや妖精龍並みの魔力量持ちでなければ見れぬ存在・・・。」

「この村で神だと崇められておるワシよりも、アヤツの方がよっぽど神龍と呼ぶにふさわしいことか。」


そう話すグディンの瞳はどこか敬愛の念を感じる。

と、そこへ話を付けたであろうレイラが双角竜と共にこちらへやってきた。


「うちの子になりましたわ!」

「それはよかったですね、レイラお嬢様。して、その子はどうなされるのですか?」

「それが、この子もわたくしに服従してしまったみたいで・・・ほら。」


とレイラは双角竜の額を指さす。

そこにはヴァレンタイン公爵家の紋章が浮かび上がっていた。


それを見たグディンは目を見開き、その紋章を優しく指でなぞる。


「グディン様?いかがなされたのですの?」

「・・・かあさま。お主の両親の名を教えてくれぬか?」

「えっと、わたくしのお父様はグスタフ・フォン・ヴァレンタイン。そしてお母様の名前はシャイネ・フォン・ヴァレンタインですわ。」

「グスタフ・・・シャイネ。母の旧姓は知っておるか?」

「お母様のですの?えっと確か・・・」

「シャイネ・ディン・クラディオールで御座います。」


その名を聞いて、グディンの瞳から一筋の涙が流れる。


「えっ?!ど、どうしたんですの、グディン様・・・!?えっと、ほら!これで涙を拭ってくださいまし!」


突然涙を流すグディンに慌てた様子でそっとハンカチを取り出してそれを渡す。

それを受け取り、そのハンカチの隅に刻まれた紋章をじっくりと見つめる。


そして再度レイラの方を見た。


「そうか・・・、かあ様は母君に似ておるのじゃな。」

「え?あ、はいですの。色んな方々からはよく言われますわ!」

「その左目の下についておる小さな印、キリッとした目つきなんかそっくりじゃ。」

「・・・グディン様はわたくしのお母様とお知り合いですの?」

「ああ・・・遠い昔から知っておる。よおく、知っている。」


とその時、レイラの表情が一瞬曇ったことにグディンは気が付く。


「・・・母君は息災か?」

「その・・・」


と何か言いにくい事でもあるかのような、言葉が上手く出てこない様子を見せる。

そこへハルネが変わって入り、グディンに事の経由をかいつまんで話した。


話終えた時、グディンは落ち着いた様子を見せてはいたが、その瞳には怒りがこもっていた。


「そうか・・・。かあ様や、お主はとても深い傷をその心に背負っておられたのじゃな。して、母君の居場所はわかっておるのか?」

「ええ。すでに当主様・・・グスタフ公爵様に連絡を入れており、グスタフ公爵様もすでにシャイネ公爵夫人奪還のために行動に移られております。」

「そうか・・・。これをそのグスタフとかいう者に渡してもらえぬだろうか?そしてもし母君を見つけた際にはこれを受け取ってもらいたい。」


そういうと、何やら奇怪な文字が綴られた布で何重にも覆われたソレをハルネへと渡す。

ハルネはそれを受け取った瞬間、今までにないほどの重量感に思わずその場に崩れそうになるがギリギリのところで踏ん張った。


「ぐ、グディン様・・・、これは・・・」

「なあに、ワシの心残りじゃよ。本当はかあ様にあげようかと思ったんじゃが、かあ様の戦い方からしてこんな重いヤツなんぞ意味がないからの。それに、すでにかあ様の得物はあるようじゃしな。」


そういって、レイラの腰に携えている黒妖刀”シラユリ”を見やる。

ハルネは受け取ったソレを鎖蛇へと持たせ、一息つく。


「承りました。」


とだけ伝え、ちょうどその時にミミアンとフィリオラを乗せた馬車が到着した―――――。



~ 今回現れたモンスター ~


竜種:双角竜(ツインホーンドラゴン)

脅威度:現在:ランク不明(旧:Bランク)

生態:全長は約20~30mほどの巨体を持つ大きなドラゴン。

双角竜と呼ばれるが、実際には頭に角が2本ついているわけではない。

翼の関節部分から大きく突き出た巨大な一角のことを現しており、それを角の様に両翼とも前に突き出して1つの巨大な槍のような状態で突進する様子から双角竜・・・または【一撃重槍(ロンドミニアゴ)】なんて呼ばれたりもしている。

その構造上、翼としての機能はほとんど失ってはいるがその巨大な双角を突き出した状態で繰り出す突進時に翼の先端に着いたフック状の鉤爪を地面に突き立てる事で細やかな旋回を可能にし、たとえ突進を避けられたとしても急なUターンで旋回してどこまでも追撃してくるため、たとえ避けられたと安心したとしても油断するな。

双角竜は基本的に草食で、特に果実が大好物な甘党である。

時には蜂の巣を食すことがあり、度々蜂に追いかけ回されている様子が見られているそうだ。

双角竜に付いた2対の角は主に縄張り争いや雌の奪い合い、または外敵から身を守るために使用されるが、一度生えてきたら二度と生え変わることはないため、万が一にも折れたりヒビが入って使い物にならなくなった個体は大抵近いうちに命を落とすとされている。

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