ドラゴンたちの氾濫 *後書きに【百足竜】の追記あり *9月18日
場も落ち着いてきたころ、ふとフィリオラはレイラの腰に携えていた黒妖刀の鞘についている百足の装飾が目に入る。
「ママ、その鞘についているのって魔物・・というかドラゴンよね?どうしたの?」
「ああ、この子ね。新たに仲間になってくれた百足竜のベオルグよ。」
「仲間?どういうこと?」
レイラはこれまでの経緯を話し、フィリオラは最後まで聞き終えた後に鞘の前でしゃがむとベオルグをじっと見つめる。。
フィリオラの視線に気が付き、鞘に張り付いていたベオルグはその小さな頭をそっと持ち上げ、フィリオラの顔を見つめる。
『・・・おお?もしやあなた様は竜母様ではないか!お目に描かれて光栄の至極。』
「あら、ありがと。それよりも話を聞いたけど、ヨスミに会いに来たってどういうこと?」
『そうか・・・、父殿の名はヨスミというのか。話を聞いたのならその通りだ。ある日突然、この20殻・・・いや、今は19殻だったか。我が身体全体にビシッと感じる何かを受けてな。その時、ヨスミ殿が我らの父殿であることと、大いなる危機に見舞われていると感じ取ってな。父殿を救うべく、こうして馳せ参じたわけなのだ。まあ、道中で獣人たちが目に入って、父殿の危機に獣人たちが関わっていると感じ取ったのでな、1人でも多くの獣人たちを屠ってから父殿の元へ・・・ごっふ?!』
とそこでフィリオラのデコピンが炸裂し、鞘から吹き飛ばされ、地面の上で悶絶するかのように丸くなっていた。
フィリオラは深くため息を吐いた後、ゆっくりと立ち上がると畳んでいた両翼を広げ、上空へと一気に飛び上がった。
ある程度上空まで飛び上がった後、突如として制止し、しばらくじっとしていた。
何をしているのかと皆が見上げ、その様子を見守っていた。
数十分の時間を要し、その後ゆっくりとレイラたちのいる地上へ降り立った。
その表情はどこか焦っている様にも感じる。
「フィーちゃん、突然どうしたの?」
「・・・非常にまずいことになってるかもしれないわ。」
「まずいことって?今にも下種猫率いる軍がここに攻め込もうとしている以上にまずい状況はあるの?」
「ドラゴンが獣人たちに対して敵意を抱いたわ。」
「どういうこと?」
「・・・まさか」
とここでレイラはルーフェルースを呼び寄せる。
「ルル!」
「ママー?どうしたのー?」
「あなた、嫌な感じが消えたから急いであの人を助けようと来たって言ってたけど、その道中にあったムルンコール港町はどうしたの?」
「ぶっ壊してきたよー!」
と喜々として語った。
その後、ルーフェルースは続けざまにこう言い放つ。
「あ、でも私だけじゃなくてリュウスズメたちも一緒になっていっぱい殺したんだよー!」
その言葉を受け、レイラはルーフェルースへ詰め寄る。
「な・・・ど、どうしてそんなことをしたんですの?!」
「え?だって、あの町の獣人たちはパパたちに酷い事をしようとしたんでしょー?それなのにあんな風に楽しそうに生きてるのを見てじっとしてられないよー!」
「ピィッ!」
とルーフェルースと共に居たミラがドヤ顔で鳴く。
それを見たレイラはフィリオラの方を振り向いた。
それを見てフィリオラは頷き、レイラは自然と口から呻き声を零しながら崩れ落ちた。
未だに状況を理解していないミミアンは詳しい説明をフィリオラへと求める。
「ねえちょっと!うちにもわかるように教えてよ!」
「詳しくは言えないが、おそらくこの大陸にいるドラゴン全てに獣人は敵であるという共通認識が生まれた。今まで温厚だったドラゴンも、争いを嫌っているドラゴンも含め、ヨスミの魔力の波動を受け、【ドラゴンマナ】が感化されたドラゴンたちは遠慮なくその牙を向けるでしょうね。まあ、獣人だけじゃなく、人間たちにも同様だろうけど。下手すれば、ベオルグのように自主的に獣人や人間たちを滅ぼそうと行動を起こす個体もいるはず・・・。」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・。なんなのそれ・・・?!うちら獣人は人間とは違って、ドラゴンを敵対視している獣人は多くないわ!それこそ、ドラゴンを守り神のように称えている村だってあるっしょ?!まさか・・・」
「・・・守り神から祟り神へ変わっているでしょうね。」
「そんな・・・」
フィリオラから返ってきた言葉を受け、ミミアンの表情から血の気が一気に引いていった。
その時、レイラが震えているミミアンの肩を掴み、自分の方を向かせる。
彼女が向ける瞳はとても真剣で真摯的だった。
「・・・ミミアン、今すぐその村を教えなさい。全てのドラゴンがあの人の子であるなら、子の蛮行を治めるのは親の役目よ。手遅れかもしれないけど、それでもここでその話を受けてじっとしていられませんわ!今すぐにその村へ行き、我が子の蛮行を止めなければ!そうすることで我が子だけじゃなく、我が子の蛮行によって失われようとしている無実の獣人の方々も救えるはずですわ!」
「レイラぁ・・・!」
「私もいくわ。ドラゴンの暴走を治めるのは元々竜母である私の役目だしね。」
「フィリオラ様ぁ・・・!!」
ミミアンは何とか気持ちを落ち着かせ、2人に村の位置とその村が守り神にしているドラゴンの情報を伝える。
その後、ミミアンは今現状起きているであろう事象について、フォートリア公爵家にも情報を共有するためにジャステス公爵の元を訪れていた。
そこで先ほどの話をジャステス公爵とユティス公爵夫人の2人にも伝え、事の深刻さについて説明をする。
2人はフィリオラからの説明を受け、急いで使用人たちを呼び寄せる。
そこで2人は使用人たちに色々と指示を出し、使用人たちは急いで部屋を後にする。
「話をしてくれてありがとう、竜母殿。」
「お礼を言うのはまだ早いわ。まずは各村や町の損害状況について確認しないと。私たちはママと一緒にホロン村へと向かって、守り神として崇められている【剣翁竜】を諫めにいくわ。」
「・・・そうか、ホロン村か。」
「何?すでに報告でも受けているの?」
「いいえ、違うわぁ~。報告がずっと前からこなくなったのぉ~。だからホロン村にぃ~、視察しにいこうって話し合ってぇ~、準備を進めていたのぉ~。でもぉ~・・・」
「ゲセドラ王子殿下に怪しい動きがあると報告を受け、身動きができなかったんだ。」
「ならそのついでにうちらがホロン村の視察も兼ねて様子を見てくるっしょ!」
「我らは他の町や村に兵士を出して状況を確認してみる。何事もなければよいのだが・・・。ともかく、ホロン村のことは頼むぞ、我が娘よ。」
「任せてパパ!」
そしてミミアンたちは部屋を後にし、屋敷の外へと出る。
そこにはいつの間にか用意させていたであろう馬車が停まっていた。
レイラはすでにミラ、ハルネを連れてルーフェルースに乗ってすでに出立した後だった。
ミミアンは馬車に乗り、フィリオラもその後に続こうとするが、そこへディアネスを連れたエレオノーラが見送りのためにやってきた。
「暫く留守にするわ。ディアネスとヨスミをお願いね。」
「お任せなのです。どうかお気をつけて行ってきてくださいなのです。」
「あう~!」
「大丈夫っしょ!パパっと終わらせてすぐに戻ってくるからね~!」
そうしてミミアンとフィリオラを乗せた馬車は、ホロン村へと向けてゆっくりと走り出した。
「ね~、ママ~?」
ホロン村へ向けて上空を飛んでいたレイラたち。
その時、どこかしょんぼりとした様子でレイラへと話しかける。
まるで怒られた子供のようにその声は若干震えていた。
「ルル、どうしたの?」
「私たちがムルンコール港町を壊した事について怒ってる・・・?」
どうやら先ほど話していたムルンコール港町について、レイラの様子がおかしいと感じたのだろう。
「・・・本当はいけないことですわ。」
「ご、ごめんなさい・・・」
「いいえ、ルルはパパの事を想ってやったのよね。実際、わたくしたちはあの町では酷い目に遭いましたわ。報復したいといえば嘘にもなるかもしれません。でも、だからと言ってそれを行動に移してしまえば、わたくしたちは本当の意味で彼らと同等の存在に成り下がってしまいますわ・・・。だからルル?次からは行動に移す前に今一度、それは本当に意味ある事なのか、義のある行動なのか、冷静に思い返してみると良いですわ。もしそれでも自分で答えが出ないのなら、遠慮なくわたくしやあの人にあなたの気持ちを教えてくださいまし。あなたがわたくしをママと敬ってくれるのなら、あなたは間違いなくわたくしとあの人の子。我が子を信じ、理解するのが我ら親の務め。間違った道に進まぬよう、道を示し、導けるように努力しますわ。」
我が子を諭すような、優しい口調でルーフェルースへ語り掛ける。
度々、その背中を優しく摩る。
「だから今回、あなたがムルンコール港町で行った事はたとえあの人のためとはいえ・・・。いえ、違いますわね。」
「・・・?」
「・・・親としては決して言ってはいけないことですけど、これはわたくしの本心ですわ。ルル、よくやりましたわ!」
「レイラお嬢様?!」
とルーフェルースの背中をワシャワシャと激しく摩る。
「ただ正論だけを言うだけでは、言われた子の抱く正義も偏ってしまいますもの。時に親というのは正義だけじゃなく、いけないことを教えてこそその子の感性を培わせるのですわ!それにあの町の獣人たちにはわたくしだって思う所がありましたわ。あんな醜い瞳をディアに向けていたことが腹が立って仕方がありませんでしたもの・・・!」
「だからといって、その発言はいかがなものかと・・・?!」
「だからルル、わたくしたちのためによくぞやってくれましたわ!よしよし!でも次からそういったことをするときはわたくしたちにきちんと相談してくださいまし?」
「・・・うん!」
「言っておくけどミラ、あなたもですわよ?」
「ぴっ!」
ルーフェルースは先ほどしょんぼりとしていた様子とは打って変わり、母に褒められたことがとても嬉しかったようで比例してその飛行速度は増していく。
その時、遠くの方で見える目的地であるホロン村。
レイラ達の願いとは裏腹に、その村からは黒煙が立ち込めていた・・・―――――。
~ 今回現れたモンスター ~
竜種:百足竜
脅威度:現在ランク不明(旧:C~Aランク)
生態:口に付いた巨大な顎、頭から生えた触覚、背中を覆う甲殻、全身についた足、それら全てが全てを切り裂く鎌のような形状をした百足のような見た目をしたドラゴン。
虫とドラゴンの混合だと言われてはいるが、元々こういったワーム型の虫はドラゴンとして分類されており、その区別は曖昧とされていた。
故に地方によっては虫だと分類するところもあれば、ドラゴンと分類するところもあるため、明確な表記は難しい。
獣帝国タイレンペラーではドラゴンとして分類されているため、そのように情報を追記していく。
百足竜は基本的に好戦的な性格で、目に映る生物を片っ端から切り刻む残虐性を持っている。
また体長は個体によって大きく変わり、5mほどの小さい個体がいれば、50mをもゆうに超える個体が存在する。
それは百足竜の特異体質が原因で、百足竜は10年に一度脱皮を行う。
その際に1核追加され、大きくなっていく。
また体の部位が1核増える度に、胸に突き出た魔核の周囲に小核が現れ、それは時計回りに出現する。
故に、魔核の周囲に出ている小核の数がその個体の持つ体の部位の数と等しい。
そのため長生きしている個体はその分体の長さも増えていき、過去に100mを超える特異個体の存在が確認されている。
その性格と巨体故に危険視されてしまい、国を挙げての大討伐作戦が展開され、1か月という長期間の激闘の末に無事討伐された。
だがその際、人間側に齎された被害は甚大でその戦いによって一国が壊滅状態にまで追い込まれてしまったという。