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彼女が最初に覚えた言葉


ベオルグは地面へ切り落とされていた足と鎌顎を喰らうとそれが自らの力となったのか、欠損部位だったところから鎌が生えてきて元通りとなった。


レイラたちはそんな光景を見て唖然としていたが、更に驚いたのは先ほどまで30m以上もあった巨体が少しずつ小さくなっていき、やがてそれはレイラの腰に携えていた黒妖刀の鞘に張り付くとまるで一種の装飾品のような姿へと変わった。


「あら、あなた。そんなことも出来るの?」

『あのままの巨体だと母殿たちにご迷惑を掛けることになります故、こちらの方が誰かに怪しまれずにすみましょうぞ。』

「そうね、確かにさっきの姿だったらあなたを自由に連れ歩けなかったわね。良い子ね。」


そういってレイラは鞘の一部になったベオルグを優しく撫でる。

だがやはり撫でた指がいつの間にか切れており、ゆっくりと血が垂れて黒妖刀の刀身が収まっている鞘の中へと流れて行った。


「ちょっとレイラ・・・あなた!」

「・・・待って。」


その時、レイラはふと何かを感じ取ったのか、刀身を抜いてみる。

抜いた時の軽さ、そして赤い光を帯びた刀身。


レイラはもう一度刀身を鞘に納め、自らの親指をベオルグの頭部に触れてわざと切れ傷を作り、その傷口から垂れ出した血を鞘の中へと流し込む。


その状態のまま、意識を集中する。

意識を集中させ、脱力し、耳から伝わる音がほんの少し遅くなった瞬間、王眼を瞳に宿すと同時に剣を一気に抜き放つ。


だが目に見えたのは、すでに半分ほど鞘から抜かれた刀身をゆっくりとしまうレイラの姿だけだった。

ゆっくりと刀身を鞘へと戻し、カチリと刀の鍔と鞘がぶつかり合った瞬間、レイラの目の前に広がるは扇状に大きく広がる斬撃の赤い軌跡。


その軌跡に触れた木々は突如として無数に切り刻まれ、円形状にくり抜かれた後、支えを失った木々が地面へと落下していく。


「できたのですわぁー!!」

「なっ・・・?!」

「なんと・・・?!」

「レイラお嬢様、これは・・・」


レイラは飛び跳ねながら喜び、ミミアンたちは呆気に取られていた。


「れ、レイラ・・・今のって?」

「血を鞘に流し込んだ時、剣が鼓動したように感じたのですわ。だから一度抜いて確かめようとしたら、刀を抜いた時の感触が以前よりもすごく軽くて、気が付けば抜いていたからもしやと思って王眼と<神速>を組み合わせて抜いてみたらこうなったのですわっ」

「ですわっ、じゃないって!どうするのこれぇ!?」


一瞬にして大きな広場と化した森林の一角を指さしてレイラへと猛抗議する。


ベオルグとラナフォートたちが戦っていた時にも、その戦闘痕として多少なりと木々が倒れていた理地面が抉れていたりしてはいたが、これはそれ以上の被害が広がっていた。


そもそもこれは戦闘痕ではなくレイラが自らやらかしたことのため、言い訳のしようがない。


とここでハルネがゆっくりと前に出ると、腰から8頭の巨大な鎖蛇(オロチ)が姿を現した。

倒れた木に2頭の鎖蛇が絡みついて持ち上げると残された切り株へ持っていき、抉れている切り口部分を1頭の鎖蛇オロチを使って綺麗に切り落とし、地上に残された切り株にも同様の処置を施した後、その二つを綺麗に合わせる様に置く。


そして3頭の鎖蛇がどこからか太い蔓を持ってくるとそれをさっき合わせたばかりの木へ巻き付けて固定する。


直後、8頭の鎖蛇が木と切り株を固定させ、ハルネは木々に治癒魔法を掛ける。

すると切り株の方から無数の小さな幹が伸びて上に固定されている木々に突き刺さると切断された箇所がガサガサと乱雑に合わさった。


「うっそ・・・木が治った・・・?!え、どうやったの?!」

「これは私の武器に使用された大事な方の力の一端です。元々は森をこよなく愛していた御方でしたから。まあこういった使い方があると分かったのも、私が【覚醒技】を会得してからですけどね。」


そう話すハルネの表情はどこか儚げに感じる。

かつてお風呂場で語ってくれたハルネの過去、彼女が何度も命を狙われ続け、そして我が子であるとハルネを許し、最後には愛を見せた森塞蛇。


森塞蛇は森を愛し、森を癒す存在。

故にハルネが見せたこの技はいわば親譲りなのだろう。


ハルネが扱う魔力には、森塞蛇としての魔素も混ざっている。


「・・・なら、ここをお願いできる?後でお礼もいっぱい用意するから!」

「お任せください。レイラお嬢様の不始末は専属メイドである私の大事な御役目ですから。」

「ハルネ、その言い方はなんかいやですわ!」


なんて談笑を交わし、その場をハルネに任せてレイラたちはその場を後にした。






「あら、戻ったのね。」

「おかえりなのです。」

「あぅ~!」


屋敷の外でお茶会を開催していたフィリオラとエレオノーラ、フィリオラに抱かれたディアネスの喜ぶ姿があった。


レイラたちはフィリオラたちの方へ向かい、それに合わせてメイドたちはどこからか椅子を調達して机に付ける。


メイドたちに軽くお礼を述べた後、メイドたちのエスコートで椅子に座らされると目の前にカップが置かれ、紅茶が注がれる。


レイラはカップを手に取り、軽くその香りを堪能した後、ゆっくりと紅茶の液体に口をつけた。


「・・・良い御手前ですわ。」

「ね。獣帝国でしか取れない茶葉なだけあって、独特でおいしいのよね。」

「すごく心が落ち着くのです・・・。」


エレオノーラも満足そうな笑みを浮かべていた。

フィリオラは哺乳瓶を手に取るとディアネスの口へ持っていくと、ディアネスは哺乳瓶を手に取って中に入った生温いミルクをチュパチュパと美味しそうに吸っていた。


それを見てレイラはどこか落胆した様子を見せる。


「うう・・・わたくしのおっぱいから母乳が出ないばっかりに・・・」

「子を産んでいない体からいきなり母乳が出たら、逆にそれはそれで怖いっつーの・・・。」

「まあ、こういうときは私に頼りなさいな。」

「一度は・・・一度は我が子にわたくしのおっぱいを吸わせてあげたいのですわぁ・・・!!」

「ちょっとレイラ!あんた、さっきからおっぱいおっぱいって、貴族令嬢として、何よりもあんたが口うるさくいう立派な淑女としていうべき言葉とは思えないんだけど?!」

「だってぇ・・・だってぇ・・・」

「ここまで狼狽えているレイラ様を見るのは初めてなのです・・・」

「私はこれで3度目なんだけどねぇ・・・、まあ普段はあんなにも立派な淑女として振舞っている分、ここまで威厳が崩れ落ちた姿を見せるのは、それほど私たちに気を許している証拠でもあるわ。まあ、何度見ても驚くことには変わりないけどね・・・。」


とそんなレイラの哀れな姿を見たディアネスは飲んでいた哺乳瓶から口を離し、レイラの方へと必死に手を伸ばす。


フィリオラはディアネスの意を汲んで地面にディアネスを下ろす。

すると地面をハイハイしながらレイラの元までたどり着くと、レイラのドレスを掴みながら必死に立ち上がる。


そんなディアネスの姿に気付いたのか、レイラは足元で必死に立ち上がろうとしているディアネスを抱き上げるとその小さな手はレイラの頭にぽんと置かれ、優しく撫で始めた。


「あぅ~。あ~、うー、まあ!」

「・・・・え?」

「あら・・・」

「・・・っ!」

「おお・・・・?」


ディアネスは必死に口をもごもごとさせる。

そして、


「ママ!」


とはっきりレイラへと口に出して言葉を告げた。


「・・・わたくし、を、ママと・・・呼んで、くださるの・・・?」

「あい! マあ!ママぁ!ぇんい、あいて!」



言葉を覚えたてなばかりのディアネスは続けざまに、レイラを励ます様に回らない舌をうまく動かして涙を流す母を励ます。


その言葉は、

「ママ、元気出して!」

とでも言わんばかりに。


それを聞いたレイラの目からは大粒の涙が溢れんばかりに流れ始め、ディアネスをゆっくりと抱きしめる。

ディアネスはそのままレイラの後頭部をトントンと叩きながら頭を撫でた。


「ディア・・・ああ、なんて可愛い子なのかしら・・・。」

「ママ!ママ!あいちゅき!」

「ああ・・・、ママもディアの事が大好きですわ・・・。心の底から・・・あなたをぉぉお・・・」

「ちょっとやばいって!明らかにレディがしてはいけない顔をしてるって!」

「全くもう・・・。」


とフィリオラは巨大な両翼を顕現させ、周囲を大きく遮るように包み込む。


「本当にママったら・・・。」

「我が子が一番最初に覚えた言葉が”ママ”と”大好き”に耐えられる母なんてこの世にはいないのですよ、うふふ・・・」

「・・・それもそうね。」


そんな微笑ましい光景を優し気な目で見つめるフィリオラたちだった―――――。



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