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親友の心遣い


あれからまた数日が経過し、事態の深刻さは更に増していた。

ヴァレンタイン公国だけは独自の政策によって大きな被害に繋がることはなかったものの、それでも無活動中の冒険者に支給するお金は無限にあるわけではないため、いずれは底を尽いて国営もままならなくなってしまう。


かといって、税を上げてしまえば今度は民の生活が困窮することになり、税を上げるきっかけになってしまった冒険者たちへ矛先が向いてしまい、冒険者と民の間に大きな亀裂が生まれてしまう。


それだけは何とか防がねばならなかった。


今試験運用で導入しているのが師範システムだ。

貴族階級の騎士に従者として従事するという所に着眼点を得て組み込まれたソレは、今なおドラゴンたちのランクに関する再選定のために高ランク冒険者たちによるドラゴン調査に付随する形となる。


身の世話をするというよりかは調査のお手伝いをするという形に近いだろう。

低ランク冒険者は絶対に戦闘に参加してはならないという点だけを守ることで、自由に立ち回ることができる。


が、基本は高ランク冒険者によるドラゴンとの戦闘のデータを調書したり、また高ランク冒険者が大きな被害を受けて撤退せざるを得ない状況に陥った場合、支給されている煙玉や煙幕弾などを使ってドラゴンの注意を引き、高ランク冒険者を救出することがメインである。


こうすることで低ランク冒険者は高ランク冒険者として活動する際にはどんなアイテムが必要か、野宿する際の場所決めや魔物の解体といった冒険者として必要な知識やノウハウを磨くことができる。


また身近でドラゴンだけじゃなく、魔物たちとの戦いを身近で見ることで魔物に対する有効的な立ち回りや攻撃手段、弱点部位などの観察もできる。


低ランク冒険者にとって、喉から手が出るほど手に入れなければならない重要な知識を学ぶことができるため、低ランク冒険者は積極的に高ランク冒険者たちに師範を御願いしているそうだ。


こうすることで低ランク冒険者の死亡率はぐっと減り、また高ランク冒険者の方でも自分では見つけられなかったような情報が入手することが結構あるそうで、意外とこの仕組みに関しては好評の評価を受けている。


が、人間はどこまでも欲深い存在であることを忘れてはいけない。

その師範システムを利用し、自分の身の回りを全て丸投げし、いざとなった際には低ランク冒険者を囮にして逃げ出すような高ランク冒険者の存在も見受けられるようになっている。


その度にギルドマスターから厳重注意を受けたり、最悪ギルドから追放処分を受けたりしているそうだが、【姿隠し(ステルス)】と命名された、他人の冒険者ギルド結晶を奪い取り、それを自分の物の様に使用する存在に関する報告を受けており、たとえ追放処分を下したところで【姿隠し】になられてしまえば、意味がない。


それを何とかするには、ギルドクリスタルの本来の所有者がギルド会館にてギルドクリスタルの利用停止に関する申請を行わなければならず、【姿隠し】はギルドクリスタルの所有者ごと連れ去ってしまうため、本来の持ち主はどこかに監禁されているため、利用停止することができないという。


【姿隠し】と【冒険者狩り】は一蓮托生のような存在で、国自体もかなりお手上げ状態とのことだ。


「・・・近いうちに、奴らの拠点を叩く。そのために次の返信はかなり遅れてしまうだろう・・・。パパはいつまでも娘のお前を愛している・・・。」


グスタフ公爵からの便箋を読み終えたレイスは手紙をテーブルに置く。

レイラたちはここ半月ほどフォートリア公爵家が保有する別邸に拠点を置き、活動を開始していた。


というのも先日に起きたゲセドラ王子のクーデターにより各交易拠点に私兵を置いて交通に関する規制を課している。


何の目的なのかはわからないが、どうにもヨスミとレイラの事を探している様だった。


またゲセドラの暴挙を止めるべく、第2王子であるガヴェルドの進軍によって両者が激突するまであとわずかだという情報が出ていることもあり、ほとぼりが冷めるまで身を潜めようという計画となった。


すぐ目前にはガヴェルドの軍が構えている中、ゲセドラはガヴェルドよりもフォートリア公爵家をどうにか潰そうと色々と画策しているという。


「もしもの時はお父様に援軍を出してもらうことも・・・できそうですわね。お父様なら二つ返事で送ってきそうですわ。」

「レイラのパパってすごい親バカだから、何でも頼み事聞いちゃいそうだもんね~、はむ・・・もぐもぐ。」


レイラのすぐ横で茶菓子をぼりぼりと食べるミミアン。

彼女の租借恩だけが、静まり返った部屋に響き渡る。


「それで、こんな夜更けになんの用ですの?」

「別に~。ただ様子を見に来ただけ。」


そう言いながらも、チラチラとレイラの方に目を向けていた。


「最近はうちらの周辺に関する情報の収集と、タイレンペラーの内情を探ってくれてるっしょ?だからそのお礼を言いに来たってわけ。」

「別にお礼を言われるようなことはしていないわ。ゲセドラ王子はどうやらわたくしたちを探しているみたいだし、今後の旅を進めていく中で必要な情報を集めていった結果、フォートリア公爵家にとって利益となる情報が手に入ってるってだけですわ。」

「もう、素直じゃないんだから。」


そういうとミミアンは椅子に座っているレイラの背後からそっと優しく抱きしめる。

突然の事に吃驚はしたがそのままミミアンの好きなようにさせ、自分は便箋の返事を書きしたためていた。


「こんなことしかできなくてごめん。」

「・・・何を言いますの?」

「だって、ここ最近のレイラは見ていてすごく辛そうだから。親友としてレイラを助けてあげたいのに、今の私にできるのはこれしかないし・・・」

「はあ・・・、ミミアン。あなたはおばかわんこちゃんですわ。」

「お、おばか・・・わんこ?」


そういうと、筆を立て掛けに置いてゆっくりと椅子から立ち上がる。


そのままミミアンの方へと向き直り、まっすぐその瞳を見る。

そして優しく微笑みながらミミアンを真正面から抱きしめた。


「知ってるかしら?親しい誰かと抱擁をするだけで、自分の中に溜まった悪い気が体の外へと出ていくそうですわ。それにわたくしがくじけずにこうして前を向いていられるのはあなたがこうして毎晩のようにわたくしの元を訪ねて来て優しく抱きしめてくれるからですわ。その温かさを感じる度に、今にもくじけそうなわたくしの精神は何とか持ち直しておりますの。だから、ありがとうですわ、ミミアン。」

「れ、レイラぁ・・・」


逆にミミアンの方が泣きだし、勢い任せにレイラの体を抱きしめる。

モフモフした体のおかげか、そこまで苦しくは感じなかった。


「全くもう・・・、慰めに来たのはあなたでしょうに。」

「だってぇ・・・だってぇ・・・最近のレイラ、すごく優しいんだもぉん・・・」

「はいはい・・・。」


そこまで冷たくしていたっけと思い返すレイラだったが、その内容のほとんどが彼女がこうなってしまった原因に当てはまりそうだったので、次からは少し優しくしてあげようと思ったレイラだった。






翌日の早朝、何やら外が騒がしい。


慌てふためくメイドたち、しきりに何かを叫ぶ執事。

そんな騒々しい朝を迎え、レイラは自らの重い瞼を開け、ゆっくりと体を起こす。


傍では死んだように眠ったままのヨスミの寝顔。

その唇に自らの唇を重ね、軽いキスを交わした後、前髪に触れて優しくかき分ける。


「おはようですわ、あなた。」


帰ってこない返事に期待をしつつ、ベッドから降りると傍に置いておいたベビーベッドに顔を覗かせる。


そこには未だに眠りについたままのディアネスの姿があったが、レイラの気配に気づいたのか、ディアネスも小さな可愛い呻き声を上げた後に瞼を開けた。


すぐそこで顔を覗かせるレイラと瞳が交差し、未だ意識が夢と現実を混同している状態の中でゆっくりと両手を伸ばす。


レイラは両脇を掴んでディアネスを持ち上げ、優しく抱き上げると背中を摩る。


「ディア、おはようですわ。」

「あぅ~・・・」

「あらあら、まだお眠さんですわね。一緒に外の空気を吸いながら太陽でも浴びて目を覚ましましょう。」


そういって、窓まで寄ると締め切ったカーテンを広げると、部屋に陽光が差し、暗かった部屋が一気に明るく照らされた。


また片手で器用に窓を開けると部屋の中に吹きすさぶ風を感じ、体の内に眠っていた眠気事ごと風にのせてどこか遠くへ運んでもらった。


「気持ちいいわね・・・。」

「あぅ~あ・・・。」

「おはようございます、レイラお嬢様。ディアネスお嬢様。それと・・・ミミアンお嬢様」


そう言いながら部屋に入ってきたのはハルネだった。

ハルネは窓辺に立ったままのレイラと抱き上げているディアネスに挨拶を交わした後、天井に突き刺さったままのミミアンにも挨拶を入れる。


が、返事は返ってこなかった。


「ハルネ、今日は騒がしいけど何かあったのかしら?」

「ええ、つい先ほどここフォートリア公爵家が所有する庭園に一匹の魔物が紛れ込んだようでして。」

「・・・魔物?」

「はい。多分、そこからでも見えるかと思います。」


そういって、ハルネはレイラの傍までやってくると少し先にある森の方を指さす。

するとそこには森の中で何かが蠢ているかのように、木々が大きく揺れ動いていた。


「その魔物の正体は判明したの?」

「いえ、発見した使用人は”見たことがない魔物だ”ということでして。」

「見たことがない、ねえ・・・。今ここで動けるのは?」

「私とレイラお嬢様、そしてミミアンお嬢様の3人で御座います。」

「他のみんなはどこに?」

「フォートリア公爵家当主であらせられるジャステス公爵様は今、ガヴェルド王子殿下との会合のためにユティス公爵夫人と共に出向かれております。またミミアンお嬢様に仕えている武装メイド3名は魔物の調査のためにすでにあそこへ向かっております。」


ハルネが今の現状を簡単に報告してくる。

それを受け、レイラはディアネスの頬に軽くキスをした後、ベビーベッドへと戻した。


「わたくしたちも行きますわ。当主様であるジャステス公爵様が留守の間はわたくしたちがしっかりとここを守らねばなりません。ハルネ、準備なさい。」

「そういうと思いまして私の方はすでに準備はし終えております。後はレイラお嬢様だけで御座います。」

「さすがね。」


そういうとハルネはにこやかに笑顔を浮かべた後、腕輪に着いた小さな鈴を鳴らすと腰に差していた鎖斧から鎖蛇が伸び幾つかのドレスを掴んで見える様に表示させた。


「本当に便利ね、それ。自由に使える手が8本に増えた上、それぞれが自由に、思い通りに動かせるのでしょう?」

「おかげさまで、メイドとしての仕事効率は過去最高の働きを叩き出しました。えっへん」

「うふふ。ならばわたくしもあなたの主としてその頑張りに応えないといけませんわね。あなたの階級を最上位級に引き上げるよう推薦状を書いておきますわ。」

「・・・っ! ありがとうございます、レイラお嬢様・・・!」

「これもあなたの頑張りがあってこそですわ。これからもわたくしのために尽くしてくださいな。」

「もちろんです!ではさっそくですが、お着換え致しましょう。」


そう嬉しそうにレイラを着替えさせ、普段であれば3~5分ほどは掛かっていた着替えが僅か30秒で終えた―――――。



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