可愛いねぇ、綺麗だねぇ、触り心地すべすべで最高だねぇ・・・
訂正)都市”カーインデルト” → 首都”カーインデルト”
ヨスミたち一行はヴェルウッドの森を後にし、街道をゆっくり歩いていく。
周囲の景色を楽しみながら、初めての冒険をその足で大地を一歩一歩踏みしめながら楽しんでいた。
途中、一角牛と呼ばれる家畜が率いる小さな荷馬車が通り、道中の護衛を兼ねて乗せてもらえるように交渉し、無事荷馬車に乗せてもらい、そこに同乗していた商人のマーケスティンと談笑を交わしていた。
「それは災難でしたね、マーケスティンさん。」
「いやはや、まさか商品の素材を採取中に魔物たちに襲われるとはね~。本当に参りましたよ~」
どうやら回復ポーションの素材採取のために来ていたようだった。
商人自ら素材採取?って思ったが、マーケスティンさんは商人と錬金術師の2つの職業を併用しているようで、自ら各地に飛んで素材を採取し、新たな製品開発に勤しんでいた。
「自分で~とはいっても護衛は雇わなかったの?」
「逃げ足だけは早いと自負しているつもりだったんですけどね~。まさか、砲丸兎に足を吹き飛ばされるとはね~。いやはや全く、あっしも落ちぶれたもんですね~。」
膝から無くなった右足を見せながら、苦虫を嚙み潰したように笑っていた。
「この足じゃあ、1人での活動は無理ですね~。今度からはきちんと護衛を連れて行くことになるから、資金消費がかさみますね~。」
「命が惜しくないなら次からはケチらないことね。」
「全くその通りですね~、あはは」
『いのちだいじーなの!』
ヨスミの膝上で、ハクアは果実を美味しそうに頬張っていた。
その様子を見てヨスミは静かに微笑み、優しく頭を撫でる。
ふと遠くを見て、荷馬車の外の景色をぼーっと眺め、これから様々なドラゴンたちとの出会いに思いを馳せる。
『オジナー?どうしたのー?』
「・・・いや、なんでもないよ。ハクア。んー、可愛いねぇ、綺麗だねぇ、触り心地すべすべで最高だねぇ・・・。」
『えへへ~くすぐったいの~!』きゃっきゃっ
「そういえば、僕たちはどこに向かっているんだ?」
「今私たちが向かってるのは、この街道の先に”ステウランの村”があってね。まずはそこに立ち寄ってから、諸々物資を揃えてからその先にある首都”カーインデルト”行きの馬車に行く予定よ。」
ステウランの村、そして都市カーインデルトか。
ヴェルウッドの森にある村は確かヴェルドの村だったっけ。
そういえば、あの冒険者たちはどうしてるかな。
もう村を発って冒険者ギルドとかに行ってるのかな?
「そういや、ステウランの村で近いうちに収穫祭が始まるって話ですね~。良かったら参加していったらどうですかね~?」
「そういえばもうそんな時期だったわね。せっかくだしヨスミ、参加してみる?」
「そうだな・・・、参加してみようか。」
『楽しそーなの!』
収穫祭か。名前の通り、農作物の無事の収穫を祝うために農村で行われる祭祀行事・・・だったっけ?
詳しい話を聞く限りじゃあ、祭りの早朝早くから村人総出で農作物を収穫し、夕方から深夜、日を跨ぐまでどんちゃん騒ぎの祭りが開催されるって話だ。
聞く限りだと楽しそうだな。
ついでに村について色々と知ることが出来れば、世界の一端を知ることができるだろうし。
「ギュモォオオオオオ!?」
「おっと!?」
突然荷馬車が止まり、一角牛の興奮した鳴き声が聞こえてきた。
一体何事かと前方を見ると、道の先に狼たちの群れが見えた。
「旦那ぁ!で、出て来やしたぜぇ!?た、頼んますぅ!」
「あれは、ただの平原狼ね。」
「ただの平原狼って、普通の狼となんら変わりないってことかな?」
「ん?大体そうね。」
「そう、なら僕に任せて。」
そういうと、こちらに向かってくる平原狼たちの方を向くと、全ての平原狼たちが一瞬にして走りながら体制を崩し、転がるように倒れた。
突然の光景に、一体何が起きたのか荷馬車の操者とマーケスティンが目をかっと見開いていた。
「え、えっと旦那・・・これは一体何が・・・」
「なぜ急に目の前で倒れて・・・。」
「とりあえず目に見える平原狼たちは殲滅してあるからもう大丈夫なはずだよ。」
「ほんとヨスミのスキルはどんな原理で発動してるのよ・・・。」
「なんと・・・!?ちょっと失礼しますね~」
そういうと、マーケスティンは荷馬車を降り支え杖を持って平原狼たちの亡骸を調べ始めた。
懐からナイフを取り出し、慣れた手つきで解体を始め、
「・・・ヨスミさん、この平原狼たちの死骸なんですが、なんか様子がおかしいですね~。」
「どうしたの?」
「これらの死骸全てから、心臓と脳の二つが亡くなっているんですね~・・・。こんな死骸は初めてですね~。」
「ヨスミ・・・、あなたまた・・・。」
「だってこれが一番早いし・・・。」
「はあ・・・。」
あれから襲ってきた平原狼たちの解体全てを終え、平原狼の毛皮と平原狼の生肉を入手した。
解体するために少しの間、荷馬車を止めた駄賃として、荷馬車の操者にも素材の一部を融通した。
それからステウランの村に向けて再出発した頃には陽は高く昇っていた。
どうやらお昼時になっていたようだった。通りで、お腹が減っていると思った。
ちょっとした小腹の足しにと、バックから干し肉を取り出して口に入れる。
口の中に広がる強めの塩気と乾燥した肉の味を堪能していると、ふと遠くの方で何やら争うような騒ぎが聞こえてきた。
「前方で何かあったみたいだけど・・・、あれか。」
「馬車を囲む複数人の・・・暗殺者なのかしら?」
ってことはあの馬車は高貴な人が乗ってる、いわゆる貴族って奴か。
人間相手に恩を売っても、いいことなんてないし・・・。
だからといってこのまま見殺しにするのも後味悪いしなー・・・。
「ヨスミ、どうするの?」
『どうするのー?』
「うーん・・・、はあ。とりあえず、助けておこう。マーケスティンさん、操者さん、少しだけ待っててもらってもいいですか?」
「このままじゃあこの道通れそうにねえですし、わしは構いませんぜー。」
「あっしも大丈夫ですね~。あのまま通ろうとしたら確実に巻き込まれるわけですしね~。」
「それじゃあ」
「ちょっとヨスミ、脳と心臓はやめてね。」
「・・・あれが一番早いんだけどなぁ~」
そう愚痴を零し、静かにため息をつく。
荷馬車が止まり、そこから外へ”移動”すると、襲撃にあっている馬車の付近に”移動”した。
「くそ、お嬢様を守れー!」
「我ら銀聖騎士団としての使命を果たせ!」
黄色い装飾品が入った銀色の全身鎧を着込む騎士たちが大勢の黒い服を着た襲撃者たちと対峙していた。
だが、襲撃者たちの武器に何かしら毒でも仕込まれているのか、一撃貰った騎士が徐々に動きが鈍くなっている様子が気になった。
そのせいで、次々に騎士たちが倒れ、馬車からか弱い悲鳴が聞こえてくる。
「この場にいる奴ら全員殺せ。一人残らず!」
「ちいっ・・・、絶対にお嬢様を守るんだ!」
「いやあああ!」
と馬車から引きずり出されたのか、美しいドレスを着こなす少女とその従者であろうメイドが襲撃者に捕まって外に出されていた。
「お嬢様!」
「さあ、死ぬがいい!」
「誰か・・・助けてぇ・・・!!」
とその手に握っていたはずの武器・・・”腕”を振り下ろした・・・はずだった。
「・・・は?」
「・・・え?」
だが、何も起こらなかった。
ふと自らの身体に起きた異変に気付く。
「一体、どういうことだ・・・。なぜ、俺の腕が、”無い”んだ・・・!?」
そう、襲撃者が少女に振り下ろしたはずの腕その物が無くなっていたのだ。
~ 今回現れたモンスター ~
魔物:砲丸兎
脅威度:Dランク
生態:外皮が鉄の様に硬くなった兎。また飛び上がった際の速度は常人の目には映らぬほどの高速で突っ込んでくるため、まるで大砲を放ったかのような威力のため、真面な装備をしていなければいとも簡単に肉塊になってしまうため、突進時には要注意だ!
~ 今回現れたモンスター ~
魔物:平原狼
脅威度:Dランク
生態:平原に生息する狼。特にこれと言って変わった特徴はなく、ごく普通の狼と変わりない。
基本的に群れで行動し、動物や時に街道を走る人間たちを襲ってたりする。