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絶体絶命


なんだ・・・、なんなんだこの人間は・・・・!!

私の精鋭が、こんなあっさり・・・いや、簡単に殺されてしまうなんて・・・!?


我が精鋭の戦闘能力は私の力も相まって実力はほぼ【百獣の王牙(レオンファング)】に近いのだぞ・・・!?

そんな精鋭15人を・・・こんなにも簡単に・・・


簡単に、倒してしまうほどの実力を持つ存在がいるなんて・・・。


「・・・くくく」

「何がおかしいんだ?」

「・・・いや、私の精鋭をいとも簡単に倒してしまうことに驚いていることだよ。」

「そんなにも強かったのか?」

「ああ、強かった。元々は【虎の牙(タイガーファング)】なのだが、私の力によって限界以上の実力を引き出すことができる故に、【百獣の王牙(レオンファング)】並みの実力を持っていたんだがな・・・。」

「それは人間の所で言う冒険者ランクみたいなものか?」

「ん?そんなこともわからないのか。本当に人間たちはどこまでも我らの事を見下して・・・っ!ん”ん”ん。大体それであっている。一番下が【鼠の牙(ラッドファング)】、そこから8段階の階級が存在し、その一番最上位に君臨するのが【百獣の王牙(レオンファング)】だ。もちろん、私は【百獣の王牙(レオンファング)】であるがね?」


なるほど。

人間界とは違う仕組みになっているのか。


冒険者ランクはS~G級に組み分けられ、獣人たちはそれを獣の牙に見立てて分けている。

一番下が【鼠の牙(ラッドファング)】とすればG級、そして先ほど言っていた最上位の【百獣の王牙(レオンファング)】はS級・・・、ということか。


人間界ではS級冒険者は3人だけと言っていた。

A級を超える実力を持つが故に、3人しか存在しない。


その一人であるグスタフ・フォン・ヴァレンタイン公爵。

お義父様の実力は確かにA級を遥かに凌ぐ強さを持っていた。


僕の力さえも通用するかどうかわからないほど、その実力は確かなものだ。

そんな実力を持つとされる存在が、今目の前に下種な笑みを浮かべて立っている。


「百獣・・・ライオンか。確かに白いライオンの獣人であるお前にはぴったりなランクだな。」

「ほう、人間のくせして我がライオンの崇高さを理解しているとは・・・。うむ、気に入った。」

「お前に気に入られても僕はちっとも嬉しくはないんだがな。それで、なぜ僕の仲間を襲った?」

「僕の・・・ああ、そうか。貴様がこのパーティーのリーダーだったか!そうだよな、我が精鋭15人をいとも簡単にそのような芸術へと作り出す実力を持つお前であれば、あんな雑魚どもの下にいるはずもないもんなあ?」

「・・・。」


・・・少し、気に障る言い方だな。


「となれば、あのクソ蜥蜴を殺したのもお前なのだろう?お前は我が奴隷として使役するに値する価値を見出した。これからはお前は私のために動く栄誉を受け取るがいい!」


・・・本当に、気に障る言い方をしてくるな。


「そんなもん、お断りだよ。」

「ん?お前に選択肢などない。お前は私の物になる。喜べ、私の奴隷となれるのだぞ?私のような百獣を統べし高貴で勇猛なる獣の血がこの身に流れる高貴なる身分に使われるのだ。これ以上の栄誉が人間たちにはもったいないくらいだ!」

「それはお前の思想であり、考えだろう。それを僕に押し付けてくるな。」

「言っただろう?貴様には選択肢などない、とな?」

「・・・・・っ?」


そういうと、ゲセドラの瞳がふいに揺らいだような気がした。

直後、体が動かなくなる。


これは、麻痺?

いや、そもそも体自体に力が入らない・・・。


まるで、自分の体ではないように、何もかもが違和感しか感じない。


「くくく・・・!失敗したなあ・・・!私の精鋭を簡単に殺してしまう実力を持つのであれば、私の前に出てくるべきではなかった!くくく・・・!くははははははははっ!」


完全に動かなくなったヨスミを見て本性を露わにしたゲセドラ。

今まで堪えていた笑いを一気に吐き出し、軽快な足取りでボーっと立ち尽くすヨスミの元へやってきた。


「やった!やったぞ!愚弟から話を聞いた時、準備していた計画を前倒しにして来てみれば、クソ蜥蜴が倒されていてどうしたものかと思っていたが、まさかこんな拾い物ができるとはな!後は竜母と竜人の雌と赤ん坊、それに白い幼竜の素材は高く売れるな。・・・ああ、そうだった。あの人間の女2人も回収しないと。あのメイドは健康体のようだったが、もう一人は確か皇国の1人が欲しがっていた女に似ていたな・・・。雌のくせにあんな傷だらけで醜い身体のどこが良いんだか。まあ、顔はなかなか美しかったし、もったいない。傷痕が無ければ私がたっぷり可愛がって・・・ん?」


今、確かに何かが動いたようで・・・。

いや、そんなことはありえない。


私の力は【王の威厳】。

この力の影響を受けたものは強制的に私の支配下に置かれ、私を崇拝するようになる。


私の命令は何でも聞くようになり、死ねと言えばすぐさま死ねるほどの高い忠誠心を抱くようになる。

この力が効いている以上、こいつは私の制御下にあるはずだ。


「気のせいか。」


ただし、制約としてこの力の影響を受ける人数に制限があり、今の段階では30人までしか効果が及ばない。


我が父である帝王、そしてその側近たちや大臣たち。

そして【虎の牙(タイガーファング)】の実力を持った獣人たちで固めていた。


残った枠には、いざというときに私に対して敵対するレジスタンス、そして禍竜にと思って開けていたがまさかこのように役に立つとはな。


全ての枠を生めていればもしかしたら結果は変わっていたかもしれなかったが、やはり私は頭がいい!


「だがまた枠が一気に空いたし、また別の【虎の牙:タイガーファング】級の獣人を支配下に行く必要があるのが手間だがな・・・。」


とゲセドラは悪態を付きながら、この場に居ないヨスミの仲間たちを探しに行こうと歩き出した。

だが、その後をついてこようとしないヨスミに気が付き、彼の元へと戻る。


「おい、人間。なぜ動かない?私に付き従え。」

「・・・・。」


ヨスミはただじっとゲセドラの事を見ている。

確かにその瞳には3本の線が入っており、まるで引っ掻き傷のような模様は【王の威厳】の影響を受けている証である。


「・・・間違いない。私の影響を受けている。なのになぜ動かない?なぜ私の言葉に従わない?」

「・・・不思議か?」


その時、右目がギロリとゲセドラの方を向いた。


「ひっ!?」


その場に尻餅をつく。

具合を確かめるかのようにゆっくりと体を動かす。


「私に恐怖を抱き、無様に地に付く姿を見せるのはこれで二度目だな。」

「な・・・なぜだ、なぜ私の力の影響を受けてなお、そんな風に自由に動けているんだ?!」

「別に不思議な事じゃない。確かにヨスミはお前の影響を受けているよ。」

「な、なにを言っているんだ貴様は・・・?」


その時、右目の瞳が2つに増え、更に4つに増え、8つに増えた。

だがまだその数は増えていき、その小さな右目の中には無数の瞳がひしめき合う様に蠢いていた。


「だが私たちを操るには、随分とその力の限界容量は小さかったようだ。」

「どういう、ことだ・・・!?」

「なぜ1つの人間の中に、1人しか存在しないと決めつける?その考えが今この状況を生み出した原因だとなぜ気付かない?」

「こいつは・・・、なにを・・・、言っている・・・?そんなの、当たり前・・・じゃないか・・・」

「だからお前は人間以下のただの臭い獣にすぎないんだ。」


本当に、こいつは何を言っているんだ・・・?

1つの器に入れる上限は1つだと決まっているじゃないか・・・。


そんな器に2つの存在が入ればどちらかが追い出されるか、はち切れるか、破裂するか・・・。

結局待つのは死ぬという運命・・・。


なのに、こいつはそんな当たり前のことをどうして”さも間違いだ”と言わんばかりに言ってくるのだ?


「ヨスミに死なれてしまっては私たちを覚えていてくれる存在は消えてしまう。つまり、私たちも死んでしまうからな。だがこれは好都合でもある。私は彼らと話し合った結果、お前を殺せばヨスミに掛けられた洗脳が解かれ、また主導権が戻ってしまうのでお前は生かすことにした。背後に展開した転移窓から町の状況を見ても、お前の言う洗脳された奴らの行動に不審な点がない事から、距離が開くことに寄ってその効能が効かなくなるなんてことはないだろう。」

「何を、言っている・・・?転移、窓・・・?その背後に広がっている、景色は繋がっているのか・・・?」

「ああ。一応言っておくが、今ここでの会話は全て筒抜けだよ。まあお前が洗脳した奴ら以外の者たちには全部伝わっているから、どうか彼等には殺されないようにしてくれよ?」

「う、うそだ・・・、そんな、馬鹿な・・・!!」

「・・・いっそ、私の力でどこか遠い場所にでも転移させて誰にも殺されないように・・・」

「あなた!」


とここで背後からレイラの声が掛かる。

ゆっくりと後ろを振り向くヨスミ。


「レイラ・・・!」


ヨスミはレイラの元へ駆けつけようとしたが、黒妖刀を抜くと剣先をヨスミへと向ける。


「・・・なぜ武器を私に向けるんだい?」

「理由はお分かりかと。さっさとヨスミ様に体を返してくださいまし。」

「私はヨスミだよ?」

「いいえ、あなたはヨスミ様なんかではありませんわ。ヨスミ様にとり憑いた悪霊の1人でしょう?」

「・・・なぜそう思う?」

「わたくしが、ヨスミ様とそうでないものを見間違うはずなんて決してありませんわ!」


レイラは強い意志を持ってヨスミ?へと叫ぶ。


「くく・・・、これぞ愛の力というものか?だがな、そんな尊いモノをこのクズが受ける価値なんてないんだよ!我々は決して許さない・・・。あんた1人が幸せになるんなら別に構わない。だが、こいつも一緒に幸せになるとなれば話は別だ!我々はこいつが幸せになるのであれば、我々は全力で邪魔をする。なんならあんたをこの手で殺してこいつに生き地獄を・・・ぐっ、なに・・・」

「・・・っ、あなた!」


とヨスミ?の様子がおかしくなったかのようにフラフラとし始める。

まさか、ゲセドラ様の力を受けてなおそれに抗っているって言うの・・・?


「に、げろ・・・レイ、ラ・・・」

「あ、あなた・・・!」


わたくしの身に危険が及ぼうとした時にはこれほどまでに抗ってくれるなんて・・・。

あのスキルの影響に抗うだけでもどれほど苦しい事か・・・。


「大丈夫ですわ、あなた。もう、大丈夫ですの。」


そう言いながらヨスミ?の元へと歩み寄り、視線はヨスミの瞳から一切逸らさず、ゆっくりと手を広げて近づいていく。


「だ、だめ・・・だ・・・。ぼ、僕の、力が・・・君を・・・。それ、に・・・ゲセ、ドラが・・・」

「人間の雌!今すぐにこの化け物を殺せ!!」

「レイ、ラ・・・!」


きっとゲセドラはレイラに対しても【王の威厳】を使ったのだろう。

だが、レイラもまたヨスミと同じようにスキルの影響を全く介さず、ヨスミを優しく抱きしめる。


「な、なぜおまえにも私の力が効かないんだ・・・!?ま、まさか、お前も・・・!?」

「いいえ、ゲセドラ王子殿下。あなたはもうその力は使えませんわ。」

「何を・・・?!」


とふと自分のスキルの上限枠が満タンになっていることに気が付いた。

だが、精鋭全員が死んだため、20枠ほど空いたはずだ・・・!


「まさか、その人間に全部・・・。しかも、それを受けてもなお、まだ足りぬというのか・・・?」

「そうですわ。そして・・・」


突如、ゲセドラの体に一閃の軌跡が走り、血飛沫が宙を舞う。

なぜ?誰に?いつ?どこで斬られたのか理解できぬまま、ゲセドラは体に走る激痛によって意識を手放した―――――。



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