ゲセドラ=タイレンペラー
昨日は更新が出来ず、大変申し訳ございませんでした・・・。
症状が治らず、悪化してしまったようでパソコン前にも座ることも厳しくなり、お知らせすることもできず・・・大変無念でした・・・。
今日からまた更新していきますので、どうぞ宜しくお願いします!
「あなた・・その・・・。」
レイラが心配そうに背後から声を掛けてくる。
彼女が放った一閃が、エヴラドニグスを死なせた一撃となってしまったためなのか。
事前にそういった覚悟もしていると伝えてはいたが、それでも心配なのだろう。
「言っただろう?僕なら平気だ。でも禍炎竜の事を想って胸を痛めてくれてありがとうな。」
「・・・ごめんですの。」
「謝らなくていいよ。この子は、生きるために戦い、そして自分より強い存在に倒されただけだからさ。」
実際はそういうことになる。
最初、エヴラドニグスはどうしてここに来たのか色々と考えてみた。
だが最後に見せた感情で全てがわかった。
この子もただ生きたかっただけなんだ。
赤大陸”シャヘイニルン”で生き残るために強くなり、だが多勢に無勢、たった一体のエヴラドニグスに出来ることはほとんどなかった。
大勢の天敵に追われ、シャヘイニルンから逃げる様にここの土地に来たが今度は獣人たちに襲われ、死にたくなくて必死に足掻いた。
結果、天敵たちとの戦いの傷も残っていたのだろう、獣人たちとの戦いも熾烈を極めたはずだ。
それから獣人たちから逃れる様にこの山に身を隠し、身を潜めて傷を癒すことに専念していた。
その後、全快したエヴラドニグスが何をしようとしていたのかはわからないが、結果として全快に近い状態まで回復したエヴラドニグスと対峙した僕たちと戦い、結果、僕たちが勝った。
別に僕の目的のためにはこの子を倒す必要はなかったと思う。
無理をすれば、この山を越えることはできたはずだ。
でも僕はこの子と会ってみたかった。
故に起きた事象であって、レイラがこの子の死を悼む必要なんてないんだ。
いう成れば、僕がこの子に会おうとしなければ、きっと結果は変わっていたかもしれない。
エヴラドニグスはこの島から逃げ、別の島へ逃げ延びてひっそりと暮らしていたかもしれないし、獣人たちの首都に攻め入って彼らを滅ぼしていたかもしれない。
逆に獣人たちの手に寄って倒されていたかもしれないな。
まあどのみち、この子の未来を決めたのは僕の一存であることに変わりはない。
故に、僕は謝ってしまった。
僕の行動が起こした事象で、この子に死をもたらしてしまった事に。
どんな生物だって、その根本にあるのは”生存本能”なんだ。
生きたいが故に起こす事象は誰にも咎められることはない。
だからこそ、エヴラドニグスを殺した事ではなく、彼の死に謝ってしまったことに僕は悔いてしまった。
彼の生を、僕は踏み躙ってしまった形となってしまったのだから・・・。
「・・・これはこれは。すでに禍竜を倒した後だったか。」
背後から見知らぬ声が聞こえてきた。
その場にいた全員が声のした方を振り向く。
そこにはエヴラドニグスを討伐するために来たのだろう、重装備の獣人たちが徒党を組んでやってきた。
その片隅にはハルネたちの姿があったが、その目に映る光景にわずかに右目が疼いた。
「まさか人間共に倒されるとは、先代帝王から禍竜についての恐ろしい話を聞いていたが、大したことはなかったようだな。」
「これはタイレンペラー第一王子のゲセドラ=タイレンペラー殿下じゃない。ちょっとあんたに聞きたいんだけど、どうして私の仲間に【隷属の首輪】なんて付けているのかしら?」
「ディアっ!それにハルネ!」
「・・・ハクアっ、それにエレオノーラ!」
そう、ゲセドラが従えていた兵士たちの手により、ぐっだりとした様子を見せ、粗っぽく縛り上げられているハルネたち。
エレオノーラとハクア、そしてディアネスの首には何かが装着されていた。
「これはこれはヴァレンタイン公国の番人ともあらせられる竜母様じゃないですか。話には聞いていましたが、本当に我が国に来ていらっしゃったとは。」
「そんなことなんてどうでもいいの。どうして私の大事な仲間にそんなクソみたいな首輪なんて付けているのか理由が聞きたい。場合によっちゃ、容赦なんてしないわよ?」
レイラは無表情を浮かべてはいたが、その瞳には明らかに怒りと殺意が込められていた。
矢面に立って怒りを露わにしているフィリオラに至っては完全なる臨戦態勢に入っている。
「レイラ、お嬢、様・・・申し訳、ありま、せん・・・」
「奇襲・・・なのですぅ・・・。」
『痛いのぉ・・・』
「あぅぅ・・・」
ハルネたちの悲痛な声が耳から、ボロボロな彼女らの痛みが目から、漂う微かな流血の臭いが鼻から感じられる。
「いやはや、これは致し方ない事なのですよ。せっかく戦争で使えそうな魔物が近々復活すると聞いていたから色々と準備をしたのに、それをあなた達が殺してしまった。これは我が国にとって大きな損失です。わかりますか?禍の竜を戦争奴隷として使役することが出来れば、他国を牽制することも出来る他、そのまま奴を放って甚大な被害を与えることも出来た便利な道具が手に入らなかったこの気持ちが。だからその損失を補う必要があるわけだ・・・。」
「本当にそれが理由でいいのね?なら私が介入できる理由としては十分ね。」
「ゲセドラ様、あなたが今隷属の首輪をつけた方々は我が国にとって大事な家族ですの。ヴァレンタイン家としてあなたに・・・なっ・・・?!」
「ぐっ・・・なに、これ・・・?!」
突然、レイラとフィリオラの様子が変わり、苦しそうにその場に膝をついて倒れてしまった。
そんな彼女らの様子を見て、高笑いを上げる。
「ククク・・・アーッハッハッハハハハ!おー、怖い怖い。まさか竜母様に対して何の対策もせずにあんな事を言い放ったと思っていたのですか?そんなの、ただの自殺志願者と同じじゃないですか!馬鹿なんですか?愚かなんですか?本当なら禍竜対策にと思っていたんですがねえ、まさか竜母様にまで効くとは思いませんでしたよ・・・!」
そう言いながらゆっくりとフィリオラまで近づき、その顎を掴んで顔を覗き込む。
「いやあ、なんとお美しい。例えあの愚かで軟弱な人間と同じ姿になっていても、その身から溢れる強さ、威厳さ、そして純粋なる魔力・・・ああ、堪りません。ずっと疑問だったんですよ。かつて【竜神教】と引き起こした大戦争で、人間たちに勝利をもたらした英雄であるあなたがどうして人間たちの傍に居続けているのか。そんな強大な力を持ちながら、どうして人間たちに味方するのか。」
「ぐぅ・・・!だ、まり、なさい・・・!」
竜神、教・・・?
「その力は人間たちにはふさわしくない・・・!それこそ、堕落しきったあの皇国ダーウィンヘルトなんかのために使うのは間違いであると!その力は我ら獣帝国タイレンペラーのために振るわれてこそ意味があると、なぜわからない?なぜ気付かない?あの忌むべきドラゴンなんて存在を操れる竜母様なら四皇龍を従え、なんならその力をもって世界を支配することさえできることも出来るあなたならわかるはずだ! 人間どもは腐りきっている、堕ちに堕ちたどうしようもない存在だと。故に、強者である我ら獣人が堕落しきった人間たちを粛清し、魔王に変わってこの世界に真なる平和をもたらす必要があると!」
「そんな、違う・・・!」
「何が違うというのです?魔王という存在は元は堕落した人間たちを正すために送られた【神の使徒】だった。だが、神が考えていたよりも人間たちはどうしようもない存在だった。それゆえ、人間たちを救うために送られた【神の使徒】は人間たちに散々利用された挙句に裏切られ、魔王と転じてしまったではないですか!もう人間なんて種族はこの世界には不要なのです。我々亜人種たちが受けてきた迫害の歴史ももうここまでだ。」
そう話すゲセドラはとても生き生きとしていた。
仲間たちは成すすべなく地に伏せ、何をされたのか理解できぬままゲセドラの良い様にされ、ただただ彼の演説を聞き続けていた。
「竜母様にもぜひ、我が国のためにその力を振るってもらいたい。拒否するのであれば仕方がありませんが、この首輪をつけてもらって我らの国のために尽くしていただきましょう。私の愛人として傍に置きますので、我が国での待遇も補償しますよ・・・・。」
「なら、なん、で・・・」
「・・・ああ、あの竜人と赤ん坊のことですか。なあに、あの竜人は元々は私の物だったんですよ?苦労して何とか頼んでいた奴隷商が壊滅し、まんまと逃げられてしまいましたけどね。だから結局は元鞘に収まるだけです。この赤ん坊については、皇国ダーウィンヘルトに居るスパイからの情報で、なんでもこの赤ん坊の血肉は特別な力を持つそうで、上層部の連中が欲しがっていると聞きましてね?人間共が使うなんてもったいない。そういうのは我々が使ってこそ意義があるというモノです。そうは思いませんか?どうせこ奴らはドラゴンです。世界を滅ぼそうとした魔王の手先だった忌むべき存在。故に、どう扱おうが心なんて痛まないでしょう?クフフフ・・・!」
「やめ、て・・その子、は・・・わたく、しの・・・大事な・・・子なの・・・!」
レイラが必死に手を伸ばすが、そんな彼女の必死の抵抗をあざ笑うように伸ばした手を勢いよく踏みつける。
「がぁああ・・・っっ!」
「何が、大事な、子ですか!人間が竜人の子を成せるわけがない。つまり、あの子はお前にとって血のつながっていないただの他人だ!そんな竜人の子供に愛情なんて抱いて、なんと悍ましい事か!人間は人間の子供を愛してればいいんです!まあ、あなたとあのメイドはそこそこ顔も整っているわけですし、お前たちのような人間を可愛がってくれる奴に売って私側に付いてもらうための道具として役に立ってもらいましょうかね~。」
「そんな、ことを、して・・・ただで、済むと・・・思って、いるの・・!?」
フィリオラの必死の抵抗に、ゲセドラはフィリオラの横腹に強烈な蹴りを入れる。
身動きできず、何もできないフィリオラは防ぐこともできず、そのまま蹴り飛ばされた。
「ここに居るのは私と、私側の者だけだ。そして我が国に伝わる禍竜の伝説は誰もが知っている。奴が生み出す魔力溜まりの恐ろしさを何度も味わってきたわけだからな!故に、ここに居る者たちは禍竜との戦いに敗れ、魔力溜まりに飲まれて死んだことにすればいい!私がそう世間に伝えれば誰もがそう信じ、個々に居るお前たちという存在は人々によって死んだことにされるわけだ!竜母様には隷属の首輪で私の言いなりになってもらうから別に問題はないのだよ・・・!」
勝ち誇ったかのように笑う彼ではあったが、ふとここで違和感に気付いた。
「・・・そういえば、確かここにもう一人、人間の男がいたはずですが・・・。」
周囲を見渡してみたが、そんな存在はどこにもいなかった。
そして視線を落とすとそこに寝転がっていたはずの人間の女と竜母の姿も消えていた。
「・・・なに?なぜ、いない?どこに消えた!」
と兵士たちの方を向くが、確かに捕えていたはずのメイドと竜人とその赤ん坊、そして白銀の幼竜の姿も消えていた。
「なっ!? お前たち、何をしている! 奴隷共が消えているぞ!逃がしたのか!」
「・・・・・」
怒鳴り散らす様にゲセドラが叫ぶ。
だが、兵士たちからの反応は一切なかった。
「なぜ返事をしない?私の言葉を無視するというのか!」
と腰に差していたレイピアを抜くと、兵士の1人、その頭に向けて強烈な突きを繰り出す。
それは見事に兜を貫き、兵士は即死した・・・ように見えた。
「・・・なぜ、手ごたえがない?」
すると兜の下、首者の隙間からまるで噴水の様に血が溢れ出した。
それに連なるように、周りにいた兵士たちの兜から血が溢れ出し、次々と倒れていく。
「な、なんだ・・・!?一体何が起きている・・・!?お、おい!一体どうし・・・ヒィッ!?」
と倒れた際に外れた兜の下にはあるはずの首が鳴く、兜の中にも溢れ出た血が溢れ出ているだけだった。
「な、なぜ・・・頭が、ないんだ・・?ま、まさか・・・!?」
脳裏に過る不安、ゲセドラは急いで兵士たちの兜を取っていく。
そしてその予感は的中した。
「・・・ば、かな・・・!私の、親衛隊が、頭だけが消えて・・・全員、死んでいる・・・!?」
「ようやく黙ったか。」
そして聞こえてきた男の声。
振り向くとそこにはゲセドラの親衛隊だった兵士たちの悲痛な表情を浮かべた頭だけが、地面から突き出ている岩棘に突き刺さって並べられていた。
その中心に岩で作られた王座のような椅子に座する一人の男。
男は確かにあの時急に姿が消えた男だった。
確かにあの時に見た彼の右目には眼帯が付けられていた。
だが今目の前にいる彼には何もついていなかった。
そしてゲセドラは初めて彼の右目・・・その中に蠢く無数の瞳たちと目が合った。
ふと男の背後にはなぜか広がっていた首都”タイレンペラー”の町並みがデカデカと映っている事に気が付く。
そこで初めてゲセドラは全身を駆け巡る絶望を鳴り響かせる警報に気付いた―――――。