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禁忌の言葉


禍竜という言葉を聞いた時、全てが遅かった。

いや、ヨスミが早かったのだ。


レイラやフィリオラが止める間もなく、もはや条件反射とも言うべきヨスミの反応は誰にも止めることなどできないのだろう。


興奮に満ちたその期待の眼差しを向けられ、ガヴェルドはあまりの豹変ぶりに固まってしまった。


「よ、ヨスミ・・・?そんなに興奮して、一体何がどないしたんや・・・」

「あー・・・、もう無理ね。ああなったら何が何でも【炎を喰らう者(エヴラドニグス)】に会いに行こうとするわ。」

「は~・・・、まさか相手が竜種だなんて思わなかったわ。」

「い、一体何がどうなって・・・」

「ヨスミ様があんなにも興奮していたのです・・・」


レイラとフィリオラの2人がかりでガヴェルドからヨスミを引き離し、フィリオラは尾を顕現させるとヨスミの体と頭を締め上げるとそのまま意識を落とさせた。


意識を落としたにも関わらず、ヨスミの表情はどこか愉悦な笑みを浮かべていることに、若干引き気味なグレースとガヴェルドの2人だった。


「・・・それで、説明してもらえるんやろな。さっきまであんなに否定的やったんに、どうしていきなり態度が180℃変わったんや?」


最初こそ、話すかどうか迷っていたレイラ達ではあったが、フィリオラと顔を合わせた時、首を横に振っていたのを見るにもうなるようになれといった感じなのだろう。


「・・・あー、ヨスミが気絶している今だから言うけど、彼は【狂信者】ではないことをわかっていただけるかしら。」

「違うのか?禍竜という言葉を聞いてから、彼の態度は一変した。つまり、禍竜という存在に少なからず魅入られている可能性がある。最悪の場合、【竜神教】と繋がりのある【狂信者】の可能性が・・・」

「だから違うって言ってるでしょ!?」


フィリオラがグレースとガヴェルドに対して威嚇するかのように鋭く睨む。

レイラもヨスミを庇う様に前に出る。


「あんたらもわかっておるやろ、【竜神教】の恐ろしさを・・・。奴らが引き起こした大惨劇を。」

「あなた達みたいに、人間種は長命じゃないから、わたくしは文献でしか聞いたことがありませんわ。でも、そんなわたくしでも彼らが起こした凄惨な戦いについて、どれほど酷い有様だったのかこの身が震えるほど恐ろしさを感じましたわ。でも、だからこそ、ヨスミ様はそんな【狂信者】たちとは違いますわ!」

『そーなのー!オジナーはそんな怖い人たちじゃないのー!』

「ぴぃーっ!」


ハクアとミラがグレースやガヴェルドに講義するかのように立ちはだかる。


「・・・わかった、信じるわ。でも、【竜神教】じゃないとしたら、一体なんなんや?」

「ここに竜母様と竜人の方がいらっしゃるのであまり強くは言えませんが・・・、ドラゴンは魔王の友であり、魔王と四皇龍らによって生み出された存在です。故に、ドラゴンは全人類種にとって害悪であり、わかり合えぬ敵なのです。その事を、ヨスミ殿はわかっていらっしゃるのですか?」


ガヴェルドはレイラたちにそう説く。

もちろん、レイラやハルネはその言葉を否定しなかった。


「そんなドラゴンを、神として崇め、四皇龍を崇拝し、そしてあろうことか、四皇龍が敬愛する魔王を、復活させようと企んだのが、【竜神教】の者たちです。ドラゴンへの、執念は、尋常ではない。そして、ヨスミ殿は、禍竜に対して、明らかに、【竜神教】の者たちのような、執念を見せました。彼が、【竜神教】の者で、ないのなら、一体なんなんですか・・・」


ガヴェルドの話す内容は、どれも間違ってはいない。

レイラ自身も、心のどこかでは拭いきれない不安の1つでもあった。


だが、もしヨスミが【竜神教】の者であったとしても構わないとさえ感じていた。


魔王の瞳を示す赤き瞳を持ち、竜をこよなく愛するヨスミ。

誰がどう見たって【竜神教】の信者にしか見えないヨスミではあるが、そんな彼の傍には常に竜母であるフィリオラが傍に居続けた。


竜母は【竜神教】と敵対関係にある。

かつて、【竜神教】との間に起きた凄惨な戦いに参加し、人間側に勝利をもたらした古龍であり、人類たちの英雄でもある。


そして、カラミアート大陸に住まうドラゴンたちを見張り、四皇龍が治めし大陸から侵略してこようとするドラゴンたちに対して牽制し続けている。


そんな彼女がヨスミの傍に居続けているのだ。

だからわたくしは、ヨスミは【竜神教】の信者ではないと。


「・・・竜母の立場から言わせてもらうけど、ヨスミは違うわ。あんな【竜神教(馬鹿ども)】と一緒にしないで。」


フィリオラから初めて感じる怒りの感情。

そのことが、レイラが誰にも言えないでいた不安要素を消し去るには十分だった。


「もしわたくしの旦那様を侮辱するようであれば、わたくしだって黙っていません。」

「あら、レイラちゃん。その様子からしてあなたも少しばかりヨスミの事を疑ってたみたいだけど?」

「関係ありませんわ。例えそうだったとしても、わたくしはヨスミ様を愛し続ける自信しかありませんわっ!」


完璧にそう言い切るレイラのドヤ顔に、フィリオラは堪らず吹き出してしまった。


「あっははははっ!」

「な、なんですのいきなり笑うだなんて!」

「いやー、ごめんなさい。レイラちゃんってば本当にヨスミのことを愛しているんだなーって、つい嬉しくなっちゃって。」


そういって、フィリオラはレイラの事を後ろから優しく抱きしめる。

突然抱きしめられたレイラはいきなりの事で酷く動揺していたが、フィリオラから感じる嬉しさとレイラ自身に対して向けられた優しさが、鼓動となって直に伝わってくる。


フィリオラは、ここまでヨスミの事を想っているのに、これを恋だと感じないことに疑問が浮かぶ。


「これからも、ヨスミの事を傍で支えてあげてね。こればっかりは私には出来なさそうだから。」

「・・・いや、フィー様にも出来そうな気がしますわよ?だって、あの人が好きなドラゴンですし・・・それこそわたくしが出来ない役割があると思いますわ。」

「・・・考えてみればそうね。」


何故かそこで納得するフィリオラに、2人は同時に笑いあった。

ひとしきり笑い終えた後、グレースたちの方に向き直る。


「ふう。それじゃあグレース。あんたたちとはここで別れた方がよさそうね。」

「そうですわ。【炎を喰らう者(エヴラドニグス)】に関してはわたくしたちに任せてくださいまし。竜王国に行くためにはどうあがいてもぶつからなきゃいけない存在みたいですし、遅かれ早かれどうにかしなきゃいけない相手だっただけですわ。」

「そういうこと。これに、これは竜母としての仕事の1つよ。だからあんたたちは私たちに任せて、首都に戻ってなさい。」


そういって、ヴェリアドラ火山の方へ向けてレイラたちは歩き出した。


「ちょ、ちょい待ち――――。」


とグレースが追いかけようとしたが、ハルネが2人の前に立ちはだかる。


「は、ハルネはん・・・」

「そういうことですので、これ以上私たちへの干渉は無用です。グレース様、ガヴェルド王子殿下、御2人はこのまま首都へお戻りいただき、婚姻パーティーの準備を進めててくださいませ。せっかく、御2人の誤解も解けたのです。これからはお二人の時間をどうか大切に。」


これはハルネの明らかなる拒絶だった。

これ以上我らに踏み込めば、敵としてみなす。


そんな意図さえ感じる。

そのため、グレースはこれ以上何も言えず、踏み込むこともできなかった。


船の一件で多少なりと信頼関係を結べたと感じていたが、そんな関係性はあっけなく崩れ落ちてしまった。


きっと、自分はまた間違えてしまったのだ。

彼等から大切なことを教えられ、見えなかった世界を見る方法を教えてもらった恩がある。


なのに、うちはそれを仇で返すような形で返してしまった。

結局、自分が見たい世界しか見ようとしない臆病者なのだ・・・。


「グレース・・・。」


しょんぼりと肩を落とすグレースを心配そうに声を掛けるがヴェルド王子。


「うちは、間違えてしもうた。一番間違えてはいけない物を、間違えてしまったんや・・・。」

「・・・俺もつい、感情的になって、言ってしまった。君だけの、せいじゃない。」

「うう・・・、せっかく、友人が、出来たと思ったんになあ・・・。どうして、うちは信じてあげられなかったんや・・・。なんで、あんなひどい事を・・・。」


泣き出すグレースの肩を抱き寄せ、どんどん小さくなっていく彼らの後姿をただ見送っていた。

ただ、そうすることしかできなかった。


「・・・また彼らと、再開することがあれば、謝ろう。俺も、謝りたいから、一緒に・・・。」

「・・・うん。」


ヨスミ達の姿が完全に見えなくなっても、グレースたちはヴェリアドラ火山の方を見続けていた。






「・・・ねえ、フィー様?」

「なに?」


レイラはどこか怯えたような表情でひっそりフィリオラに囁く。


「本当にヨスミ様にはグレースたちとの会話は聞こえていないんですわよね・・・?」

「・・・ヨスミ本人は聞こえていないと思うわ。だから大丈夫だと思うけど・・・」

「な、なんですのその言い方・・・」


そう。

先ほどのグレースたちとの会話は明らかにヨスミの耳に入れてはいけない内容ばかりだった。


故に、彼らが何かを言葉にする前にヨスミを気絶させたのだが・・・


「・・・ヨスミの右目、彼等には聞こえているみたいだから、何かの拍子にヨスミに伝わったら・・・」

「・・・本気でえぐり取った方がいいと思いますの。」

「レイラちゃんもそう思う・・・?」


2人が密かに繰り広げる小言の会議を、後方で達観していたハルネとエレオノーラ。


「ねえ、ハルネ様・・・」

「エレオノーラ様、私はただのメイドです。ハルネと呼び捨てで構いませんよ。」

「その、ハルネ・・・さん。ヨスミ様は大丈夫・・・・なのです?」

「・・・こればかりは私でもわかりかねます。」

『絶対に秘密なーの・・・!』

「ぴぃー・・・!」


こうして、その場にいた全員に共通した秘密が出来た。

決して明かされてはいけない危険な秘密が・・・―――――。



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