僕は、この世界に住む全てのドラゴンに会いにいく。
オジナーやら四皇龍やら原初の魔王やらなんやら気になることは多々あるが、まずは・・・。
「この世界について、色々と教えてくれるかな?」
「私も全てを知ってるわけじゃないから詳しくは語れないけど、それでもいい?」
静かに頷き、コホンと軽く咳払いした後にどこからか黒板を取り出した。
・・・黒板?え、どこから?
「まず、この世界の名前は”リグラシア”。6つの大陸で構成されてて、魔王が統治している大陸”インセリア”、そして魔王に仕えし四皇龍たちがそれぞれ統治する、白皇龍が統治する大陸”ヴァイターナル”、黒皇龍が統治する大陸”ノアルヘイズ”、赤皇龍が統治する大陸”シャヘイニルン”、青皇龍が統治する大陸”シアビネウス”、そして人間が統治する大陸”カラミアート”。」
まず人間が統治しているここカラミアートといっても、人間の他にも様々な亜人種たちも住み着いているため、人間と亜人の混合による統治と言った方がいいかもしれない。ここでは春夏秋冬全ての季節が巡っており、他の大陸とは違って生命がとても過ごしやすい環境であること。
次に青皇龍が統治するシアビネウスは、大陸とはあるけれど実際は海域を統治している。
大陸らしい大陸はほとんどなくその全てが海底に沈んでおり、このリグラシアに存在する全ての海域がシアビネウスが統治していると言っても過言ではないとされている。
赤皇龍が統治しているシャヘイニルンは主に活火山ばかりの山脈大陸で、また他の大陸よりも太陽に近いために平均気温が60℃以上の高温が続いている。常にどこかの山から噴火しており、また太陽に熱された魔力が沸騰しているかのように不安定になっており、魔法を使うと術者の魔力が燃え上がり、炎上してしまうために魔法を扱えないとされている。
黑皇龍が統治するノアルヘイズは夜が支配している大陸で、今までに一度も夜が明けたことがないという。シャヘイニルンのような魔力の炎上化による弊害とは違い、魔力の伝導率がないために魔法事態が発動することができない。また、光そのものが夜に吸収されてしまい、常に暗闇が広がっているという。
白皇龍が統治しているヴァイターナルは、終わらぬ冬が支配する銀世界。万年雪が降り続け、何もかもが凍てついているのが特徴で、その地に足を踏み入れると数秒も持たないうちにあっという間に凍り付いてしまうため、木々や草木など一切生えておらず、またその大陸に生息している生物は白皇龍のみとされている。
そしてヴァイターナルの奥にあるとされている魔王が統治しているインセリアは、大陸というよりは宙に浮かぶ巨城のみを差している。
巨城の下界には奈落が広がっており、落ちたら死は免れないとされている。また闇属性の魔力以外はほとんど存在しないため、闇魔法以外の属性魔法は発動することができないと言われている。
「とまあ、それぞれの大陸にはそういった特徴があるの。一番厳しいのがヴァイターナルだと言われているわ。」
「ちなみにそれぞれの四皇龍はまだご存命なのかな?」
「ええ、魔王が復活するその日まで深い深い眠りに入っているわ。一番最後まで起きていたのが白ちゃんで、眠るその時まで私と交流があったの。最後に会った時にハクアちゃんと会ったことがあって、それ以降ハクアちゃんとは会わなかったから、ハクアちゃんと会ったのはその時以来ね。」
『お久しぶりなのー!』
(なるほど。まだ生きているなら会いに行くことができるのか・・・。これは行くしかないな!)
「ねえ、ヨスミ。あなたなんか変な事考えてない?」
「いや?ただ会いに行こうと思っていただけだが?(いや?ただ会いに行こうと思っていただけだが?)」
「・・・ドラゴンの事に関しては一切の裏表がない所があなたの良い所だったわね。」
何度目かわからないため息をついた後、ハクアの頭を優しく撫でて、黒板の説明に戻る。
「魔王やら四皇龍やらの話があるなら、昔話の伝承とか勇者とかそういった話はあるのか?」
「そうねー・・・。魔王と勇者の物語なら一つ。」
昔、人類は叡智を極め、神の域にまで達するほどまでに文明が栄えていた。
人々はとうとう神と同じ域に達しようとより文明を栄えようとするがうまくいかず、その繁栄は酷く残虐性なモノへと堕ちていった。
その残虐性に見かねた神は、1人の使徒を遣わし、その叡智を清浄なモノへ導こうとした。
だが人々は堕落しきっており、使徒はその邪悪さに飲み込まれ、魔王となってしまった。
魔王となった使徒は繁栄ではなく、破滅のためにその力を持って4体の龍を生み出し、世界を破壊の限りを尽くした。
自らの過ちに気付いた人々は魔王を倒すべく、使徒がもたらした叡智を利用し、勇者と呼ばれる存在を生み出し、残された人類全てと協力して魔王を討ち取ることに成功した。
「こうして世界は平和になりました。その後、四皇龍は魔王の亡骸を持って飛び去り、インセリアと呼ばれる地に魔王を埋葬し、そして四皇龍はいつしか魔王が復活すると信じて、墓を守るように大陸に散っていき、それぞれが居ついた大陸が今のこの世界の情勢ってことみたい。」
「伝承だからか、不可解な部分はあるけど・・・、まあ大体は理解したよ。」
『うーん?ママに聞いてたのとちょっと違うのー!』
腕の中に抱かれていたハクアが何か気になることを口に零した。
「違う?一体どの辺りが違うんだい?」
『えとねー!えとねー・・・うーん・・・、忘れちゃった!』
まあ、そうだろうなあ。
そういった重要な部分は序盤では明かされないのが定番だしな。
それにしても・・・、ハクアがこんなかわいくて綺麗な幼竜なら、その母となる白皇龍って呼ばれてるドラゴンならもっと美しいんだろうなあ・・・。
会いたいないなあ・・・行くしかないよなあ・・・。
ゲームでは見たことのない独自のドラゴンたちがいて、未知なドラゴンたちがいて、そして高位で高貴なドラゴンがいる。
「・・・決めた。」
「え?何を決めたの?」
そう呟く夜澄の瞳は一際強く輝いていた。
そういう時に限って、夜澄がいう事は何かしら真面ではない事をフィリオラは知っていた。
「僕は、この世界に住む全てのドラゴンに会いにいく。」
「あー・・・。全てってことは」
「もちろん、四皇龍もだ!!」
「はぁー・・・。」
『ママに会いに行くのー!一緒に行くのー!』
さっきの話を聞いていたのか?とあきれ顔のフィリオラはそっちのけで、夜澄はとても生き生きしていた。
「・・・なら、私もついていくわ。放っておいたらドラゴンたちに何をしでかすか分からないし。それに四皇龍たちの所に行くなら私が居て損はないと思うわよ。」
「それは助かるよ!まだ僕はこの世界について何も知らない事が多いからね。」
「知らないことが多いって・・・。そういえば私、あなたについて何も知らない事ばかりなんだけど。」
そういえばそうだった。
名前だけの自己紹介で、詳しいことは話してもない。
あんなにお世話になったフィリオラに、ここまで素性を・・・隠しているわけじゃないけど。
これじゃあフェアじゃないしな。それにドラゴンに対してはなるべく真摯でありたい。
「そうだったね。改めて、僕の名前はヨスミ。歳は多分20歳ぐらいで人間だと思う。曖昧な部分で答える理由は、僕はフィリオラが発見してくれた日以降の記憶がないからなんだ。唯一覚えているのが自分の名前だけってことだ。」
転移者であることは伏せ、なるべく矛盾が生じないように説明をした。