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魔法の言葉


「い、いきなり、何を、言い出すんですか・・・!?そ、それに、その呼び名は・・・」

「やっと思い出したんや、君のことを、あなたの優しさを、ヴェルの全てを・・・。なのに初めて会った、なんて酷い事を言ってごめんなさい・・・。今まであなたを傷つけてばかりで、ごめんなさい・・・。」

「わ、わかりました、から、まずはどいて、いただけると・・・」

「いややっ!」


ガヴェルドの申し出を拒絶し、胸に顔を埋める。


どうしていいのかわからず、横目でヨスミに助けを求めるが、

「諦めろ」

とでも言わんばかりに目を伏せて静かに首を横に振った。


そして身動きが取れないへにゃへにゃになった黒獅子は迷いに迷って、グレースのことを抱きしめる選択肢を選んだ。


優しく包み込むように彼女の体に腕を回し、恐る恐る抱きしめる。

こんなにも彼女の体は小さいのかと驚き、そして腕から感じる彼女の震えに申し訳なさを感じた。


「・・・グレース嬢、俺は大丈夫です。君にどう思われようと、僕は耐えられますから・・・」

「だめやっ・・・!そんなん、絶対に嘘や・・・!大好きな人にそんな誤解されたままなんて、うちやったら耐えられへんもん・・・!」

「・・・っ。」


グレースの言葉に一瞬息が詰まり、”大丈夫だよ”と安心させようとして声を掛けようとするが喉に引っ掛かっているようでうまく言葉に出来ない。


「・・・せやから、うちと結婚しよ!」

「っ!? だ、だから、どうして、その話に、なるんですか・・・!?」

「じゃなきゃ、ヴェルが本当の意味でいなくなってしまう・・・!そんなん絶対に許さへん・・・!うちの我がままだってのも、身勝手なのも、そして今までうちがやらかした事へのしっぺ返しだということも、全部、ぜーんぶわかってる・・・!でも、その上であんたを、ヴェルをっ、失いとうないんや・・・!」

「・・・グレース嬢。」


口調がいつも通りに戻っている。

それを君はわかっているのかな・・・?


さっきまで敬語で話しかけてきた君が、かつて出会った頃のような、仲の良かった時期の、いつもの君に戻っていることを、君は気づいているんだろうか。


「・・・今がチャンス、ですよ?今を逃せば、俺は君を諦められなく、なります。」

「諦めんでええ・・・!」

「君に全力で、子供の様に、甘えますよ?」

「どんとこいや・・・っ!」

「男らしさも、あまり持ち合わせていません。」

「ギャップ萌え上等やで・・・!」

「俺の立場上、戦争によく駆り出され、家で待つ君に、不安な思いを、させてしまいます。」

「ならうちも一緒に行くわ・・・っ!」

「それはダメです!」

「絶対に行く!なんなら、うちのこの毛並みをヴェルと同じように真っ黒に染まるまで傍で一緒に戦い続けたるわっ!そしたらペアルックで素敵やんっ!」

「それはもっとダメですっ!!」


まるで漫才でもしているかのような押し問答に、どんどん押され気味になっているガヴェルド。


「許可なんて取るつもりあらへん!勝手についていくし、勝手にヴェルの隣で戦うわ!そしてうちもヴェルと一緒に戦いの中で死んだるっ!」

「何馬鹿な事を言ってるんですか!」

「なら、うちと結婚してうちの事を守ってや、ヴェル!」

「わ、わかったから・・・だから死ぬなんてこと言わないでください・・・っ!」

「言ったな?言質取ったぁっ!」


勝ち誇ったかのように拳を振り上げ、ガッツポーズを取る。

その姿は先ほどまで落ち込み、沈んでいたグレースの面影はどこにもなかった。


完全に押し負けたガヴェルドは、完全に諦めた表情を浮かべてはいたが、微かに嬉しそうな表情が見え隠れしていた。


「本当に、君の強引な性格は昔から変わらないですね・・・。」

「そういうあんたはいつまでうちに敬語で話してくるんや。前みたいに砕けた口調で話してほしいんやけど・・・。」

「・・・わかったよ、グレース嬢。」

「嬢もいらんわ!」


ガヴェルドはもうすでに完全に尻に敷かれていた。


そして、グレースの目を真っすぐに見つめながら、

「・・・グレース。」

と、彼女の名前を口にする。


「・・・はい、ヴェル。」


グレースは返事を返し、そしてもう一度、ガヴェルドの意志をしっかり確認して顔を近づけ、自分の唇をガヴェルドの大きな口に重ねた。


ガヴェルドも彼女の唇を受け入れ、お互いの好きという感情を確かめ合う様に抱きしめ合った。






・・・そんなラブコメな展開を目の前で見ていたわけだが。

言うて、この島に上陸してすぐにこんな展開を迎えているんだぞ?


あそこでちらりと姿だけ見て別れ、互いの気持ちのすれ違いとか、紆余曲折あって初めて、今目の前に繰り広げられる展開を迎えるのが鉄則なんじゃないのか?


出会ってもうこんなに早く、互いのすれ違いを正して、あんな関係性になれるなんてことあるのか。


「なんともまあ、関係が修復できてよかったじゃないか。」

「・・・ええ。これでわたくしも一安心ですわ。」


・・・レイラ、これ絶対に焚きつけたな。

グレースの狙いを僕からガヴェルドに向けさせて、好意を向ける対象を無理やり変えたって所か。


別にそんなことしなくても、僕がグレースになびくなんてことは絶対にありえないわけだけど・・・。


ああ、嫉妬しているレイラの姿も可愛いのなんの・・・。

こうして腕に自分の腕を絡めてくるところとか、安堵しているレイラの様子とか、本当に愛しい・・・。


「本当にレイラは可愛いなあ・・・。」

「・・・へっ?ななななな、なにをいきなり仰っておりますの・・・!?」

「言葉通りだよ、レイラ。君は本当に愛しいよ・・・。」

「へぅっ・・・!?わ、わたくしだって・・あ、あなたの事が・・・とても、す、好き・・・っ!」


顔を真っ赤にしながら自分の思いを告げるレイラの表情に、堪らず抱きしめた。


「なにこの甘ったるい空間の2乗・・・。どんだけ砂糖を吐かせれば気が済むのよ・・・。」

「フィリオラ様、こちら淹れたてのブラックコーヒーで御座います。」


とフィリオラにどこからともなくコーヒーの入ったカップを差し出し、フィリオラはそれを静かに受け取るとぐいっと喉に流し込んだ。


「さすがハルネね、すごく助かったわ・・・。でも、おかわりいただける?」

「かしこまりました。」


どこからかコーヒーポッドを取り出し、フィリオラの手に持っていたカップの中にコーヒーを入れていく。


それをまた一気に喉に流し込み、一息ついた。

そしてフィリオラは2組に対して、声を上げる。


「イチャコラしてるそこの2組!そろそろ我に返って、今後の事について話し合いなさい!」


フィリオラのその言葉を受けて我に返ったのか、グレースとガヴェルドは互いを意識したのか、顔を赤くしながら離れた。


が、ヨスミとレイラはお構いなく、イチャイチャを続行していた。


「それで、これからどうするつもり?グレース、あんたの件はこれで解決って事でいいのかしら?」

「いいや、まだや。」

「・・・さっき言ってた、大規模な戦いの件について、だろ?」

「そうや・・・。」


まあ、こうなるよな。


問題が解決に導かれ、終わりを迎えた時、何が始まると思う?

それはね、新たな問題の始まりだよ!


「・・・一応、僕らの手助けはこれで終了だと思うが。これ以上、君たちに手助けして何のメリットがあるんだ?」

「そ、それは・・・。」

「グレース、これは俺らタイレンペラー獣帝国の問題だ。よその国の、ましてや人間らの手を借りるなんてことは出来ない。」

「・・・でも。」


どこか納得のいかないグレースはヨスミたちにに助けを乞うかのような視線を向ける。

だが、どこかできっぱりと一線を引かねば、どこまでもズルズルと頼みごとを聞き続けてしまう関係となってしまうことは明白だった。


「船の上でも言ったが、僕らの目的は竜王国に行くことだ。悪いけど、グレース、君の頼み事はここまでだ。」

「竜王国に・・・・?それはなぜ・・・」


とここで、ガヴェルドはエレオノーラの存在に気付いた。


「・・・確かに竜王国の外に竜人がいるのはマズイ状況ですね。」

「そういうこと。だからなるべく彼女を故郷に送り届けなければならないんだ。」

「そういうことだったんですね。・・・ただ、非常に申し上げにくいことがあるんですが。」


何か歯切れの悪そうな感じで、ガヴェルドはどこか困ったような表情を浮かべつつ言葉を続ける。


「竜王国に行くということは、ヴェリアドラ火山・・つまり、あの山の麓にあるトンネルを通るってことですよね?」

「・・・まさか。」


そこまで聞いて、ヨスミはすぐに悟った。

そしてヨスミの感じた嫌な予感は見事に的中する。


「・・・今、そこは封鎖中で、誰も通すこともできないどころか、近寄ることもできないと思います。」

「その山で大規模な戦いが起きるってことか。」

「はい・・・。」


参ったなー・・・。

となるとその山を迂回する必要が出てきたが・・・


「ちなみに迂回しようなんて考えないでください。断崖絶壁のために迂回する道がありません。それに加えて、酷い魔力溜まりが発生し、周囲の魔物たちは凶暴化していますから、たとえ熟練の冒険者でも危険かと・・・。」

「うーん・・・。」


僕の転移と千里眼の組み合わせで行けばなんとかなるかもしれないが・・・。

横にいたレイラの方をチラリとみると、満面の笑顔をヨスミに向けていた。


この笑顔の裏に隠されている心意は、たとえ言葉を聞かずともはっきりと伝わる。


「・・・はあ。わかった。ちなみにその大規模な戦いってどれぐらいかかりそうなんだ?」

「わかりません・・・。」

「わからない?」

「はい・・・、何せ相手が相手ですので、生きて帰る事さえできるかどうかも怪しいので・・・。」


あの【血濡れた狂牙】と恐れられたガヴェルドが冷や汗をかいている。

それは恐怖によるものなのか、それとも自らの死を見据えているからなのか・・・。


もしかしたら、その両方なのかもしれない。

そんな相手にこれから国を挙げて戦いを挑みに行こうとしている。


本当にめんどくさいことに巻き込まれてしまいそうだな・・・。

これはもう無理やりにでも皆を転移で山越えする必要がありそうだ。


「ちなみに、その存在は魔物なのか?」

「いえ・・・、魔物ではありません。禍の者の名は【炎を喰らう者(エヴラドニグス)】。かつて赤大陸”シャヘイニルン”より追放されたとされる禍竜と伝承に記され・・・」

「よしガヴェルド王子殿下、今すぐに話を聞こうじゃないか。さあ、今すぐ禍竜についての詳しい情報を聞かせてくれ!さあ、さあ!」


ガヴェルドが言い切る前に、ヨスミは協力を申し出た。

ヨスミの突然変わった態度に唖然するガヴェルドにヨスミはぐいぐいと詰め寄り、その明らかな変わり様に呆気に取られ、またガヴェルドに向けるその真剣な眼差しになぜか恐怖を感じた―――――。



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