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グレースの瞳に映る真実


「・・・人間と、竜人。そして、古龍か。」


ガヴェルドは目線をグレースからヨスミたちへと移す。

その瞳には強い怒りと憎しみが込められていた。


「そうか・・・、お前たちか。お前たちが・・・、グレース嬢を連れ去り、国外に売り飛ばそうとした、クズ共か・・・っ!」

「え、何を言って・・・」


とここでグレースが驚きの表情を見せる。

確か彼女は逃げ出したと話していたが、ガヴェルドの耳には彼女が拉致されていることになっている。


そしてすぐにグレースは何かを理解したようだ。


「・・・うちのおとんや。ガヴェルド王子の婚姻を嫌がって逃げ出した娘なんて噂にでもなれば、王族としての威信に大きな傷をつけることになる・・・。おとんはそれを嫌がってガヴェルド王子に嘘をついたんや・・・っ」

「まー、商人ってのは信用が大事って言うし・・・。」


彼からにじみ出る高密度な魔力は、彼が只モノではないということを物語っており、怒りの感情を抑えきれないことが魔力の乱れで見て取れる。


気が付けば、レイラとハルネの表情もどこか焦りを感じているのか、額に冷や汗をかいていた。

フィリオラと以外にもエレオノーラの2人はまっすぐにガヴェルド王子を見据えていた。


ただ彼を怖がって後ろに隠れているハクアに、ヨスミの首の後ろに必死に隠れようとしているミラの姿に可愛さを感じる。


「が、ガヴェルド王子・・・!うちの、私の話を聞いて・・・」

「待っていろ、グレース嬢・・・。今すぐに、君を救い出す・・・っ!」

「・・・っ!」


と、ガヴェルド王子は手に持っていた三又の槍をヨスミへ向けて全力で投げつける。

その槍は音速を超えるほどの速さで、音も、衝撃波も全てをガヴェルド王子の元に置き去りにしてヨスミたちへ飛んでいく。


瞬きすら許さない速度で放たれた槍はヨスミに直撃する直前、レイラの<神速>より放たれた黒妖刀”シラユリヒメ”の一撃に止められる。


あの速度に追いつくレイラの一撃だったが、

「お、もぃ・・・!?」

と槍を止められず、逆に後から追いついてきた衝撃波を受けて大きく吹き飛ばされたが、気が付けば転移で移動してきたヨスミに受け止められていた。


槍は別の方向へと転移で軌道を逸らされたようでどこかへ飛んでいったように見えたが、突如として軌道を180℃変えて再度ヨスミへと飛んでいく。


「させません・・・っ!」


とハルネの鎖斧に付いている鎖を槍の進行先に伸ばしして槍を絡めると、それを全力で引っ張る。


「ぐぅっ・・・!?なんて、力・・・ですか・・・っ!」

「て、手伝うのです・・・!」


が、投擲された槍の力に負けそうになるがエレオノーラが鎖を掴み、2人で共に引っ張ることで槍を止めることに成功した。


だがその槍は突然、霧のようにその形を霧散させ、次の瞬間にはガヴェルド王子の手元に戻っていた。


「我が、一撃を止める、とは。」


確かにあの一撃は強烈だな。

投げれば必中なんていう神話に出てきた槍の1つであるゲイボルグ(チート武器)なんて代物ではなさそうだけど、ある程度誘導は効くみたいだし、外しても軌道をまげて追尾してくるなんて。


「だが、その様子だと、次は行けそうだ。」


まあ、一撃必殺じゃないよな。

通常攻撃のように連発できる攻撃だよなー・・・。


多分、転移で別の場所に移動しても軌道を変えてくるし、止めてもすぐに2発目が放たれる。

あの槍を壊そうとしても、霧となって霧散してガヴェルドの手元に戻る仕様なら、武器破壊も困難。


「・・・なら、普通に殺すか?」

「それはいけませんわ。相手は一国の王子・・・、そんな身分の相手を殺してしまったら戦争の口実を与えることになりかねません。」


とボソッと口から出た言葉に、レイラは冷静に答える。

これはヨスミの考えを読んでいるのではないかと思うほど、ヨスミへの理解度が高まっている証拠でもあった。


そのことにヨスミは少しばかり気持ちが浮ついた。


「とはいっても、アイツには恐怖とかそういった類の精神攻撃は効きそうにないし・・・。」

「ガヴェルド王子殿下はわたくしたちを誘拐犯と勘違いされているだけですわ。それをなんとか誤解であると理解してくれれば・・・。」


となれば、アイツの記憶に僕のグレースと出会うまでの記憶を直接転移で送り込もうか・・・?


あ、いや、ダメだ。

グレースを助けることに否定的だった記憶を見せつけたらそれこそ本気で殺しにくるわ。


俺だってそうするもん。

レイラを見捨てようとする連中から、そんな記憶を送られてきたら間違いなく皆殺しにする自信あるもん。


と、考え事をしていた時、ガヴェルドがすでに槍を投げる体勢を取っていることに気付く。


「あ、まずい・・・。」


そう思った時、グレースがガヴェルド王子の前へ両手を広げて現れた。

咄嗟に現れたグレースに驚き、手に握っていた槍を投げる直前まで動作を進めていたが、瞬時に槍を霧状に変化させることでグレースは投擲された槍に貫かれることはなく、投げられた時に起きる風圧と衝撃波がグレースを襲う。


距離があったとはいえ、その衝撃は強かったようで当てられた風圧に体が持ちあがり、そのまま大きく吹き飛ばされる。


が、すぐに空中でガヴェルドに抱き抱えられるように受け止められ、グレースに衝撃が伝わらないよう優しく地面へと着地した。


その手は震えており、ガヴェルドの表情は怒りや憎しみといった感情が消え去っており、強い焦りと心配そうな表情を浮かべていた。


「が、ガヴェルド、王子・・」

「どうしてあんな無茶を、したんですか・・・っ!」


ガヴェルドはグレースの言葉を遮る様に、突然叫ぶように声を荒げる。


「突然、俺の前に出てくる、なんて・・・!もし、槍を霧に変化させるのが遅れたら、槍に貫かれていたかも、しれなかったんですよ・・・っ!?」


次いで出てきたのはグレースを心配し、思い、怒るガヴェルドの説教だった。


そんな彼の態度に驚きを隠せないでいたグレースは、心配されるとは微塵も思っていなかったようで唖然とした顔を浮かべながら、

「ご、ごめんなさい・・・。」

と咄嗟に謝ってしまった。


「俺に、グレース嬢を、この手で殺めさせた、なんてこと・・・させないでください・・・。」

「・・・ガヴェルド王子殿下。」


なぜ、彼から【第六感】の警戒がならないのだろう。

初めて彼を見た時、彼からは確かに全身を突き刺すほどの強い【第六感】の警戒が全身に感じた。


あの時感じた、死をも連想させるほどの恐ろしい殺意が怖くて、彼との婚姻が決まったと聞かされた時、どれほど絶望し、自らの父を恨み、そして逃げ出したか・・・。


でも今の彼からはそんなものは一切感じられない・・・。

むしろ向けられるはうちを全力で守ろうとする温かな思い。


そういえば、初めてヨスミを見た時に感じた【第六感】の警戒。

でも今のヨスミからはそんなものは感じられず、今、目の前で心配そうに、泣きそうな表情で内を見つめてくるガヴェルド王子と同じ思いを感じる。


確か最初うちのことを見捨てようと、見殺しにしようとしていたって言ってたっけ?

だからあの時は自分に対して敵対の意を向けていた。


でも、あの時うちがぼそっと言ったあの言葉を聞いてから、その【第六感】の警戒はぴたりと止まった。


つまり、これは周囲にある危険なものを知らせるスキルじゃなく、自分に向けられた危険を知らせるスキルってこと?

もしそうなら、うちはガヴェルド王子のことを恐ろしい血に飢えた怪物だと、勘違い・・・してたっちゅーことか?


ならどうしてあの時、ガヴェルド王子から【第六感】の警戒を感じて・・・。


「・・・が、ガヴェルド王子殿下、1つ聞きたいんやけど。」

「な、なんですか・・・?」

「10年前の、戦争を終えて凱旋パレードをしていた時、どうしてあんなにも殺気だって・・・」


それを聞いて、ガヴェルド王子はどこか思い出す様に目を瞑り、そして何かを思い出したかのようにグレースへ話し始める。


「あの時の戦いは、とても悲惨なもので、それが長く続いたんです。あの時、戦争を終えて帰っていた時も、その時の状況に酷く魘され続け、精神が参っていたかと・・・。」

「10年前の戦争と言えば、青海域(シアビネウス)から侵略してきた【サハギン】っていう魚型の魔物たちとの戦争があったわね。」


と、今まで達観していたフィリオラがすごく言いずらそうにしていたガヴェルド王子に変わって説明をしてくれる。


「【サハギン】は近くの村々から村人たちを拉致しては卵の苗床にするような魔物で、きっとそんな村人たちの成れの果てを、その惨い光景を見てきたんでしょうね・・・。」

「・・・。」


グレースを抱き抱えていているガヴェルドの手は震えていた。

その表情はどこか苦しそうに、今にも泣きそうな暗い影を差していた。


「そんな・・・。」


結局はうちの勘違いだったということだ。

そんな悲惨な戦いの中に身を置き続け、精神が摩耗しきり、そして生還したとしてもその時の惨状を思い出しては苦しみ続けていたのだろう。


そんな彼が凱旋パレードに笑顔でいることなんて不可能だ。


きっと、ガヴェルド王子だけじゃない・・・。

彼と共に戦い続けた兵士たちも生気を保つだけで精いっぱいだったのだろう・・・。


ああ、今更うちのスキルの事を、そしてガヴェルド王子の苦悩を知ることになるなんて・・・。


「本当に、うちの瞳には見ないといけなかった真実は何一つ映っておらんかったんやな・・・。」


気が付けば、グレースはガヴェルド王子の首裏に腕を回し、彼を優しく抱きしめていた。



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