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最悪の出会い


「・・・みんな、揃ったね。」


時間通り、準備を終えた仲間たちが甲板に集まっていた。


「ヨスミ様、こちらはいつでも構いません。」

「ヨスミ、こっちはいつでもいいわよ。」

「私もいつでも大丈夫なのです。」

「うちも問題ないで!」

『いつでもいーよ!』

「ぴぃっ!」


そして最後に、ヨスミの隣に立っていたレイラが優しく指を絡める様に握ってきた。


「あなた。」

「あぅ!」


2人は一言だけそう言ったが、ヨスミにはその言葉に込められた意味はわかっていた。


「よし、行こうか。地上へ・・・。」


ヨスミはその場にいた全員を連れて、地上へ転移する。

転移した先はどうやら森のようで、周囲にはかなり大きな樹木が聳え立っていた。


周囲を見渡し、危険があるかどうか確認する。

その時、グレースがどこか怯えた様子で一定方向を見ていた。


心配になり、グレースに声を掛けるとハッと我に返ったようで気持ちを落ち着けようと深呼吸していた。


「グレース、どうした?」

「なんやあっちの方から嫌な気配を感じてな・・・。もしかしたら向こうに何かあるやも。」


そういって先ほど見ていた方向を指さす。

ヨスミは千里眼を使って状況を確認しようとした時、突然背後から目に布を被され、視界が遮られる。


「あなた、こういう時こそわたくしたちを頼ってくださいまし。」

「だ、だがもし確認しにいった時に怪我なんてしたら・・・」

「わたくしたちはそんな軟ではありませんわ。怪我を負ったら回復すればいいのです。」

「そういうことよ、ヨスミ。なんでもかんでも一人でやろうとしないで。それじゃ、ちょっと様子みてくるわ。」


そういってフィリオラは翼を顕現させ、空へ飛んでいった。

その後、方向転換してグレースが指をさしていた方へ向かっていく。


それから数分もしないうちに戻ってきたフィリオラはヨスミの前で降り立つ。


「さすが【第六感】ね。この先でサイクロプスが昼寝していたわ。」

「一つ目巨人のサイクロプスか。となるとかなり大型の魔物っぽいが、強さ的にはどうなんだ?」


レイラの質問を受け、ハルネがどこからか黒板のようなものを取り出すと可愛らしい絵と共にサイクロプスについて詳しく解説してくれる。


「サイクロプスですと、Cランクの魔物ですね。その巨体とそれに見合うほどの怪力、そしてそこそこの魔力量を持ち、その一つ目から繰り出される光線はなかなかの破壊力を持つとされております。ただ動きは遅いし、その瞳から放たれる光線も連発はできません。そもそもその大きな瞳が弱点ですので、目を潰してしまえば一番の攻撃力を持つ魔力光線は放てず、そのうち自滅します。」

「でもあの瞳以外の部位は堅いから中々攻撃が通り辛いのよね・・・。」

「そうなのですか?以前戦った時は簡単に粉々に吹き飛ばせたのですけど・・・。」

「エレオノーラ、あなたの竜人としての戦闘能力を持ちだしたら大抵ミンチにできるから比べてはだめよ。」


なるほどな。


弱点である瞳以外は攻撃が通りずらい、と。

よく知る幻想体の設定どおりか。


それならサイクロプス程度、そこまで脅威ではなさそうだ。

今から向かおうとしているルート上にいる以上、遠回りする時間も手間もかけたくないし。


「よし、いこうか。」

「え、サイクロプスやで・・・!?ち、ちなみに冒険者ランクはなんや?」

「僕はDランク。レイラとハルネは少し前にAランクに上がったばかりだ。フィリオラは・・・まー、冒険者ではないけど強さは知られてるよな。エレオノーラは冒険者登録はしてないけど、強さ的にはCかBほどだと思う。」

「レイラはんにハルネはんはAランク・・・ってのはわかる。エレオノーラはんも竜人種やからそんなそこそこ実力を持つこともわかるわ。けど、ヨスミはんがDランクなんておかしいやろ!うちの【第六感】は相手の強さもある程度測れるんや。それによるとヨスミはんはAランク・・・いや、それ以上の強さがあるはずやで・・・!」


それを聞いて、レイラはどこか嬉しそうに頬が緩む。

ヨスミはめんどくさそうにため息を吐く。


それを見ていたフィリオラはそっぷを向いたまま笑いを堪えていた。

エレオノーラは何のことかわからないようで、首を傾げて考え事をしていた。


「グレース、あなたの【第六感】は見るものもきちんと見えているのね!」

「なんやその言い方は!まるで、最初から外れスキルみたいな扱いをするやんか!」

「だって、そのスキルでヨスミ様のこと化け物扱いしていたのはどこの誰かしら?」

「ぐぬぬぬ・・・。」


どうやら今回はレイラの勝ちのようだ。

勝ち誇ったような表情を浮かべたレイラは腕に抱いているディアネスを優しく撫でる。


レイラの触れる手がとても気持ちいいようで、自分からレイラの手にすり寄っていた。

そんな2人を見て、ヨスミもディアネスの頬にそっと触れる。


「あぅ~・・・!」

「よしよし。それじゃあ行こうか。サイクロプスが寝ているなら起こさないように静かに移動しよう。」

「そうですわね。ディア~、今からママが良いっていうまでし~っだよ?」

「あぅ!」


ヨスミ達は目的地へ向けて進んでいく。

そしてフィリオラの報告とグレースの【第六感】通り、とある大木の横を通り過ぎた時にその裏でイビキをかきながら眠りについている6mほどの巨人の姿があった。


確かにデカいな・・・。

すぐ近くには棍棒のようなものが転がっているし。


あんなものをサイクロプスの怪力で振るわれたらただじゃすまないって簡単にわかるわ。

今こっちにはディアネスも居るし、なるべく戦闘は回避したいところ。


「眠っててくれてたすかった・・・。みんな、さっさと通り過ぎようか・・・!」

「はいですわ・・・!」


とミナが静かに頷き、その歩みは音をなるべく立てぬよう、またその場から一刻も早く通り過ぎたい一心で、無意識にその足の歩みも早くなっていった。


あともう少しでサイクロプスから安全に通り過ぎれるところまできた時、

「そこのてめぇらあ!」

と大きな声を上げながら反対側の茂みから複数の獣人たちが姿を現す。


ボロボロの斧や鋭く尖った爪を振りかざし、その恰好たるやまさに野盗が如く。

その声量もまさに蛮族の咆哮なりて、導き出されるは巨人の眼ざめ。


そして襲い掛かろうとしてきた獣人たちの野盗も起き上がってきたサイクロプスの存在に気付いたようで視線はヨスミ達からサイクロプスの方を向いたままフリーズしていた。


「なんでそこにサイクロプスがいんだよ!」

「なんでそこに野盗(おまえら)がいるんだよ!」


言っていることは違っているが、それぞれが感じた思いは一緒だった。

それぞれいて欲しい存在と同時にいてほしくない存在。


僕たちにとっては野盗で、野盗にとってはサイクロプスで、サイクロプスにとっては野盗たちと僕たちだ。

ほぼほぼ三竦みの状態ではあったが、もう何もかもがめんどくさくなったヨスミは深いため息を吐き出した。


「・・・あれ?なんで急に俺たちの目の前にサイクロプスが・・・?!」


ヨスミは野盗を一人残らずサイクロプスの前に転移させた。

これで三竦みの関係だった状態から、サイクロプスと野盗をぶつけ、ヨスミ達はその間にその場から離れることにした。


「走れー!」


ヨスミのその一言に全員が全速力で駆け出し、戦闘を走るヨスミの後ろについていく。

背後ではサイクロプスの咆哮と野盗たちの悲鳴が響き、その悲鳴は周囲にこだましていく。


そして大きな衝撃音と何かが爆発する音も聞こえてきたところで、彼等の悲鳴は言い囮となるだろうとヨスミは内心そう感じた。


「ヨスミー!うちの【第六感】の反応が結構大きくなり始めてんねん!あの悲鳴に、周りの魔物たちが反応してるでー!」

「わかったー!今は無視して走り続け、この森を抜けることを第一に考えろー!」

「なら前方で障害となりそうな存在はわたくしがどうにか致しますわ!あなた、ディアを御願い!」


とレイラに頼まれ、腕に抱いていたディアネスをヨスミの腕に転移で移動させて優しく抱くと、レイラは一度、その場に留まり、腰に差していた黒妖刀”シラユリヒメ”を手に取って低く構える。


「・・・< 神 速 >!」


突如、レイラの姿が消えたと同時にその場に突風が巻き起こる。

そして見えてきたのは、一刀で首を切り落とされた魔物の亡骸だった。


ルート上に沿って横たわるこの亡骸はきっとレイラのおかげだろう。


「これが・・・レイラはんの強さか・・・」

「さすが僕の嫁さんだ。」

「ええ、自慢のお嬢様です。」

「全く、レイラちゃん大好きっ子たちめ。」

『すごいのー!それじゃあ私もー!』


とここでハクアが飛行しながら胸の奥で魔力を込め始め、それを空へ向けて放った。


『<マルチフレアブラスト>ー!』


ハクアの体内で圧縮され、吐き出された高密度の魔力の玉はある程度の高度まで達したところで弾け、無数に枝分かれした炎の球体がまるでミサイルの様な挙動をしながらヨスミ達の前方へと飛んでいく。


それから少しの間をおいて次々と大きな爆発音が聞こえ、そして見えてきたのはハクアが放った攻撃によってできたであろう複数のクレーターだった。


その中心には未だに燃え続けている魔物だった何かだった。


未だにレイラは【覚醒技】を持って進行上、邪魔になりそうな魔物を中心に倒しているようで、更にその外からヨスミ達に危害を加えようとする魔物たちは全てハクアの炎によって燃やされている。


レイラとハクアのおかげで、ヨスミ達は大きな被害を受けることもなく無事森を抜けることができた。


森を抜けた先は大きな街道が通っており、先に到着していたレイラは周囲の警戒と共に後からやってきたヨスミ達の姿を見て、急いで駆け寄ってきた。


「あなた!みんなも、無事抜けれたみたいですわね。」

「ああ、レイラのおかげで何事もなく抜けることができたよ。ハクアもありがとう・・・!」

「よかったですわ・・・!ほら、あなた。あそこに山がありますの。」


レイラが指を差した方向に壁に囲まれた大きな山が見えた。

この山を越えることが出来れば、目的の漁村が見えてくるはずだ。


「ああ、あの山を越えた先が目的地の1つだ。よしそれじゃあ行こう・・・」

「どこに行く・・・?」


とどこからか声が聞こえ、直後ヨスミたちに向けて高速で何かが飛んできた。


咄嗟に転移を使って飛んできたそれを別の場所へと転移させて直撃を回避した。

飛んできたそれはどうやら三又の槍だった。


そして飛んできた方を見ると、そこに一人の獣人の影があった。


「あ・・・あなた様、は・・・」


グレースが酷く怯えているようで、その場に座り込んでしまった。

ここまで彼女が怯えていること、またあの人物に対して敬称を付けているとなると、あの獣人の正体は一つ・・・。


「どうして、ここにいるんですか・・・ガヴェルド第2王子殿下・・・!」


グレースから名を受け、彼にかかっていた影が引いていく。


黒い獅子のような身なり、紫色の瞳、その体格はほっそりしていたが、それは無駄なモノを全てそぎ落とし、戦うためだけに鍛え上げられた筋肉はまさに洗礼された肉体美をその身に映していた。


その完璧とも思える体中には無数の傷痕が見えており、それはまさに戦いに身を置き続けた歴戦の戦士であるを物語らせていた。


ガヴェルド王子は槍が突き刺さった場所へ跳躍し、地面に刺さった得物を抜く。


その構えは一切の隙がなく、

「・・・グレース嬢。」

その鋭い眼光に映るはただ1人の雪猫の少女だった。



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