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世界の見え方の違い


「そんなん決まってんやろ・・・!うちはあの地獄みたいなところから逃げるためにここまで来てんねんやで!?今更あんたらと一緒に戻るはずないやろ!」

「まあ、そうだね。それじゃあ隣国のヴァレンタイン公国に逃げる、でいいのかい?」

「当たり前やろ!もう、あんな場所いとうないんや・・・。うちは誇り高い雪猫族の獣人なんや・・・。物なんかやない・・・!!」


雪猫族・・・。

かつての伝承に聞く、【雪女】に猫の耳と猫の瞳、そして尻尾を生やしたような感じだろう。


雪のように白い肌、銀世界を思わせる銀色の長髪、そして特別と思わせるような黄金色の瞳に、男が惹かれそうな端正な顔立ち。


「ちなみに、婚姻を結んだ相手は王族の誰かと言っていたな。評判としてはどうなんだ?」

「・・・怖い。」

「はっ?」

「怖いってゆーたわ・・・!うちと婚姻を結んだ相手は第2王子のガヴェルド。奴は誰よりも戦うことが好きな戦闘狂なんて恐れられてるほどやで。常に戦いに身を置くほどの徹底ぶりや。それで付いたあだ名が・・・」

「【血濡れた狂牙(ブラッディファング)】・・・。」


グレースが先に言うよりも早く、フィリオラがそう呟く。


休む暇もなく戦い続け、乾くことがないほど常に血に濡れた牙に狂気を見出した戦闘狂・・・。

そんな相手が結婚相手となれば、確かに嫌にもなるだろう。


「・・・人を物の様に雑に扱い、人を人と思わぬ価値観を持つような相手ではないだけマシだとは思うけどな。」

「あんな恐ろしい通り名を持つ相手なんやで?!それこそ、人の命なんてどうとも思っていない狂人やろ・・・!!」

「・・・それは実際に君が彼を直接見てそう感じたのか?」

「そ、それは・・・。」


ふーむ。

怒りと恐怖で冷静な判断が出来ていないだけか、それともグレースの性格からそうなのか。


「・・・グレース、あなたは自分の目で直接確かめず、誰かの噂や憶測だけで物事を判断するのかしら?」


レイラが堪らずグレースにモノを申す。

ヨスミが感じていたことをレイラ自身も同じ考えだったようで、その言葉の節々に棘を感じる。


「貴族令嬢として、そして何より同じ女として、わたくしはあなたを憐れみますわ。」

「・・・っ!そんなん、言われたって仕方がないやないの・・・!」


ギリッとレイラを強く睨むが、その表情には未だに恐怖の色が滲んでいた。


「うちは・・・、怖いもんが嫌いなんや・・・。うちの持つ特殊(エクストラ)スキル【第六感】で、うちに及ぶ危険や、周囲に存在する危険な存在を教えてくれる・・・。それが大きければ大きいほど、うちに伝わる信号の強さも比例して大きくなるんや・・・。ガヴェルド王子を見たことも、会った事さえあらへん。せやけど、一度だけ・・・戦争を終え、凱旋するガヴェルド王子の一団と町中ですれ違った事があったんや・・・。・・・立てへんかった。全身を突き刺すような絶望に支配されて、体がまるで自分の者ではないかのように動かせなくてな・・・。それは凱旋が終わった後も暫くうちは動けへんかった・・・。一発でわかったわ・・・。この危険信号を発する相手が、あのガヴェルド王子だって・・・。そんな相手と、結婚できるはずないやんか・・・!!」


そう語るグレースの表情は、恐怖に支配されているようで強張っていた。

それを聞いてもなお、レイラは一切の迷いもなくグレースの胸ぐらを掴み、下を向くグレースの顔を無理やり上げた。


その時に見たレイスの瞳からは怒りではなく、ただ強い決意と意思、その立ち振る舞いはまさに貴族令嬢そのものだった。


「先ほどもわたくしはあなたに言いましたわ。あなたのその金色の瞳で、ガヴェルド王子を()()()()()()()()()()()()、と。」

「だ、だからそれは・・・」

「あなたは何も見ておりませんわ。結局、己の持つスキルで見せられた偶像にすぎませんわ!」


その後、レイラは掴んでいたグレースの胸ぐらを離し、どこからか扇子を取り出して口元を隠す様に広げる。


床に倒れ込んだグレースを、先ほどとは違って軽蔑に似た眼差しを彼女へ向けた。


「周りに振り回されてばかりで、己の意思さえ持たないあなたは結局どこに逃げたって、そうやって周りに流され、そんな風に床に這いつくばる運命ですわ。」

「・・・っ!言う、やないか・・・!」


わーお・・・。

今のレイラってば、メチャクチャ悪役令嬢っぽいな!


それにすごい凛々しい姿も見れるとは・・・!


「・・・ヨスミ、レイラちゃんがせっかくああしてあなたのために、そして彼女のために悪役に徹してあげてるんだから邪魔しちゃだめよ?」

「あ、お、おう・・・。」


危ない。

ダラしない表情でレイラの晴れ舞台を台無しにするところだった・・・!


そしてとうとう観念したかのように、グレースは声を上げる。


「わかった、わかったわ・・・!そこまで言われたら、うちだって黙っておられんわ!ガヴェルド王子に関する噂でも、彼に対してこの身に感じる【第六感】による危険信号なんて関係あらへん!この目で、うちの瞳でガヴェルド王子という男をみてやろうやないか!」

「なら、グレース。あなたはまずやるべきことがありますわ。それも最重要案件が。」

「なんや、言うてみ!今のうちならなんだって・・・」

「ヨスミ様に謝って。」

「できるぅ・・・へっ?」

「ん・・・?」


と、そこでグレースの動きが止まる。

ヨスミの動きも止まった。


2人はレイラの方を見ると、グレース側から見たら凛とした瞳を向けているレイラの目元しか見えていなかったが、ヨスミ側からだと、ほっぺをぷっくら膨らましたレイラの怒り心頭な表情が目に映る。


あ、明らかにレイラの私怨だこれぇー!!

あんなにほっぺを膨らまして怒ってる姿、初めて見たぞ・・・!?


「ヨスミ様に謝ってくださいまし!」

「え、いや・・・でも・・・」

「でももなんでもありませんわ!グレース、あなたは世間で知られている赤い瞳の見聞だけで、あなたを助けてくれたヨスミ様をあんなにも傷つけたのですわ!」

「いや、だから僕は傷ついていないんだけど・・・」ボソッ

「うっ・・・」

「レイラ、僕は最初から彼女を助けることに関して否定的だったんだ。これでおあいこぉ・・・」

「あなたは黙っててくださいまし!」

「ア、ハイ」


とレイラに怒られ、ヨスミはそのショックで部屋の隅で縮こまる。


グレース自身も、あの危機的状況から助けてくれたヨスミに対してあのような態度は失礼に当たると感じていたこともあり、でも【第六感】による危険信号は鳴りやまぬこともあり、彼女の心境はとても複雑だった。


素直に謝りたい申し訳なさと、でも怖くて近づきたくも、眼さえ合わせたくない恐怖のせめぎ合いで、頭がどうにかなりそうだった。


「赤い瞳が【魔王の瞳】だなんて恐ろしい怪物だと侮蔑するののなら、そのヨスミ様はあなたを助けることはせず、今頃あなたは海の藻屑になっていたか、海賊に捕まって酷い目にあっているかのどちらかだったのですわ!なのに、こうしてこの船で美味しい食事にもありつけて、暖かなベッドで休息も取れて。それもヨスミ様が手を貸して下さらなかったら・・・」

「わ、わかった・・・わかったわ!うちが悪かった・・・!」


そしてとうとう観念したグレースは両手を上げ、降伏の意を示す。

深くため息を吐いた後、意を決したかのようにしょんぼりと部屋の隅で小さくなっているヨスミの元へと向かっていく。


小さく呻きながら静かに涙しているヨスミの前まで行き、

「あ、あの・・・」

と声を掛ける。


うるうると目を潤ませながら顔を上げたヨスミ。


その彼の表情を見た時、確かに自らの体に【第六感】による警報が鳴り響いてはいたが、この目で実際にヨスミという人間を見て”恐怖”は一切感じなかった。


その時、グレースは初めてこの瞳で世界をこの瞳で見えたような感じがした。


「・・・ご、ごめんなさい。うちのこと、助けてくれたはんに、そんなあんたを・・・うちは・・・」


気が付けば、グレース自身も無意識に涙が流れていることに気が付いた。

改めてみたヨスミの赤い瞳は怖くもなんともなく、ただ宝石のルビーのように透き通っていて綺麗だなと感じた。


そっか、これが己の瞳で世界を見る、ということなんや・・・。

周りの言葉に流され続け、うちのこの瞳には見えるもんも見えなくなってて・・・。


うちが見る世界はうちじゃなく、他の人にとって都合の良い世界やったんやな。


「は、はは・・・確かに、その通りや。なんでこない綺麗なルビーのような宝石のような瞳を怖いだなんて拒絶してたんやろな・・・。」

「・・・へ?」

「なっ・・・!?」

「あらま。」


ヨスミは呆け、レイラは焦り、フィリオラは驚いた。

無意識にヨスミの頬に手を伸ばし、顔を近づけていく。


「まるで吸い込まれそうなほど綺麗やな・・・。」

「ちょ、ちょっとグレース・・・!!」


そういって無理やりヨスミとグレースの間に割って入る。


「ヨスミ様に謝れとは言いましたけど、誰が口説いていいだなんておっしゃいましたの!?」

「なんや、もうちょっと見せてもらってもええやないの。減るもんじゃないし!」


ヨスミは何か嫌な予感がしたので、フィリオラの背後に転移で静かに移動する。


「まさかこんなことになるなんてね。あんたの理解者が増えてよかったじゃないの。」

「うーん、素直に喜べないんだよ。まあ、顔を合わす度に怖がられたり、色々と言ってくるようなことはなさそうでひとまず安心ではあるんだけど・・・。」

「ま、大丈夫でしょ。あんたがそんな簡単にグレースに気持ちが移るなんてこと・・・」

「それはさすがにありえない。」


とフィリオラが最後まで言い切る前に、すっぱりと断言する。


それを聞いて、

「ま、そうよね。」

とまるでそう言い切るってわかっていたかのように安堵している様子だった。


「そもそもあなたはガヴェルド王子と婚姻を結んでいるのよね?だったら他の殿方を口説く暇なんてないのではなくて?!」

「あら、獣帝国では一夫多妻制、またその逆もありとされてるんは知ってんねんなぁ?だから何の問題もあらへんわ!」

「問題だらけですわっ!」

「・・・あのー、一応聞きなおすんだけど。グレース、君は結局どっちに・・・」


とヨスミの返答に、グレースは先ほどの絶望に打ちひしがれていた時とは打って変わり、完全に自分という強い意志をその内に見出したようで、


「あんたらに付いていくわ!今まで見えていなかったもんをこれからはしっかりとこの瞳で見ていくさかい、これからはあんたらにお世話になるんで、よろしゅうなっ!ヨスミはん!」


と、ヨスミの瞳を真っすぐ見据え、凛とした笑顔ではっきりと答えた。


「わ、わたくしは反対なのですわぁー・・・!!」


とグレースの横で、先ほどの悪役令嬢そのものの威勢はどこにいったのやらなレイラが悲痛な声を上げた―――――。



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