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逃げてきた理由


「・・・。」


とある一室に置かれたベッド、その上に怯える様に座る猫獣人の少女の姿があった。


勝手に決められた結婚が嫌であの国を逃げ出し、ほなら海賊に追われてもうだめか思た矢先にこの船の人たちに助けられたけど、魔王の瞳持ちに助けられてもうた・・・。


あの瞳が怖くて怖くてしゃあないのや・・・。

うちは、これからどうしたらええんやろか・・・?


色々と思考を巡らしていた中、お腹が鳴る音が耳に入り、それと同時に空腹感を感じるようになった。


「・・・はは。こんな状況でもお腹が減るんでんなぁ。うちの性格の図太さには呆れてまいますわ・・・。なんかあった時は外にメイドがおるって話やったね。」


恐る恐るベッドから降り、扉に近づく。

扉の向こう側には確かに誰かの気配と人の臭いが嗅ぎ取れる。


まあ、いわゆる監視なんやろな・・・。


彼女は自分の空腹をどうにかするため、扉を静かに開いた・・・―――――。






あれからどれほど時間が経ったのだろう。

気が付けば、わたくしはみんなと一緒に気持ちよく寝てしまって・・・


と、体を起こしてベッドを確認するとそこには誰も居なかった。

もうすでに起きたのかな?とベッドから降り、部屋を出るとそこには先ほど地下の一室で休ませていた白猫獣人の少女が何故かハクアと共に正座をさせられ、フィリオラに説教を受けていた。


「・・・この状況は一体なんなんですの?」

「レイラお嬢様、おはようございます。実は・・・」


レイラの姿に気付いたハルネが駆け寄り、今のこの状況を詳しく説明してくれた。


なんでも、お腹を空かせた彼女・・・、名はグレースと言うそうで、ハルネにお腹が空いたので何か食べものを頼んできたらしく、それを受けて簡易的な食事を用意したハルネはさっそくグレースに食事を渡した。


それからは食事をしていたのか暫く大人しかったが、今度は助けてくれた方にお礼がしたいと仰られ、ヨスミ様は現在休んでいるのでまた後程にと伝えたが、ヨスミとはなるべく会いたくないとのことで、竜母であるフィリオラ様にお礼を伝えることにした。


フィリオラ様にお礼をしようと操縦席にやってくると、丁度その時船長室からディアネスを抱いたヨスミがハクアと共に出てきたことで見事鉢合わせし、ヨスミと目が合うとまたもや怯えた様子を見せたため、ハクアがそれに怒ってしまいグレースに詰め寄り、それによって何かが切れたグレースが吹っ切れてハクアと口論し始め、ヒートアップして互いに戦闘態勢に入りかけた所で今この現状に至る。


「あの人は?」

「ヨスミ様ならディアネスを連れて甲板に出ております。」

「そう・・・、あれはフィー様にお任せしますわ。」


そういって操縦室を出ていく。

少し歩いた先で、ディアネスを抱いたヨスミの後姿が見えた。


「あなたー!」

「ああ、君も起きたのか。」

「あぅー!」

「ディアもおはよう。わたくしもさっき起きたんだけど傍に誰も居なかったから怖くなって・・・」

「ごめんよ。ディアがお腹を空かせていたみたいでね。食事の用意をしようと部屋を出たんだ。まあそうしたらあんな状況になっちゃったわけだけどね、はははっ」


どこか申し訳なさそうに笑うヨスミに胸がぎゅっと締め付けられる思いになる。


ヨスミ様は何も悪くない。

それなのに、どうしてこんなにも傷つけられないといけないんですの?


人を助けたのに、あんなひどい事をされたら誰だって人間嫌いになってしまいますわ・・・。


・・・そっか、こういうことが積み重なって人間嫌いに拍車がかかったのですわね。

そして妹様の悲劇・・・。


「・・・うお、レイラ?突然抱き着いてきてどうした?」

「・・・うー。」

「なんだかこの国に来て突然甘えん坊になったな。よしよし、大丈夫だぞ~。」

「あぅ~、あぅ~!」


本当に辛いのはあなたなのに、どうしてそこまで誰かを気遣えるんですの・・・?


抱き着いたレイラの頭を、ヨスミとディアネスは優しく撫でる。

そこへハルネが2人の元へやってきた。


「レイラお嬢様、ヨスミ様、ディアネス様。そろそろ操縦室にお戻りください。そろそろ出発しようとフィリオラ様とのご通達で御座います。」

「そうだね。昨日今日と色々あったけど十分休めただろうし、そろそろ獣帝国に行こうか。さあ、レイラ。」


とヨスミは空いた手を差し出す。

レイラは嬉しそうにその手を取り、手を繋いだ状態で操縦室へ向かった。


部屋に入ると、部屋の隅で蹲るグレースの姿が視界に映ったのと同時に、

『うわぁあーん!オジナぁー!!』

ハクアが涙目になりながらヨスミに飛び込んでいた。


咄嗟にレイラと繋いでいた手を放し、抱いていたディアネスを転移でレイラの胸元へ送る。


レイラはそれを分かっていたかのようにディアネスを受け取り、

「どうしたハクぐっふうううっー!?」

と、ヨスミはそのままハクアミサイルを受けて操縦室の外へ共に吹き飛んでいった。


突然の衝撃音に驚いたのか、毛を逆立ちさせながら飛び上がって四足歩行となり、威嚇していた。

その他のメンバーはすでに見慣れた光景のようで、一切動じずに作業を進めていった。


「フィー様、ミラちゃんはエンジン室に。ハルネは操縦を御願いしますわ。エレオノーラはハクアーと一緒にディアネスを御願い!わたくしは航路の開拓をしますわ!」


ヨスミに変わり、レイラが各々に的確な指示を飛ばし、レイラ自身も大きなテーブルの前に付くと、手前に設置された魔石に手をかざし、自らの魔力を注ぐと光り出す。


テーブルの上にこの船を中心とした周囲の地形が映し出される。


「天候、海の荒れ具合、周囲の地形、そしてそこに映る赤い点・・・。きっと魔物、この船に敵対している存在ということですわね。それらの情報を元に、安全なルートを見つけますわ・・・っ!」


レイラが公爵家で培ってきたありとあらゆる教養、その全てをフル稼働させ、最適解を導いていく。


「・・・だめ、ですわ。どう設定しても魔物たちの群れに遭遇してしまいますわ・・・。一体どうすれば・・・」

「このルートやったら安全に行ける。うちの知る秘密の海路や・・・。」


そういってグレースが岩肌が密集する海路を指さす。


「・・・見えているかと思うけど、そこは剥き出しの岩肌が密集していますわ。こんな所、座礁する可能性も、岩肌に船底をやられる危険性もありますわよ?」

「今、この船にうちがおることでその行き止まりは安全な海路になるんや。・・・信じるか信じへんかはあんたの自由や。」

「この瞳で見た感じ、彼女は嘘はついていないみたいだ。」


と悩みかねている時、扉の向こうからハクアを抱えながら入ってきたヨスミ。

レイラはヨスミの言葉を信じ、すぐさま海路を設定する。


グレースは未だに怯えた眼差しをヨスミに向けており、レイラはそんな彼女の態度にむっとしたがすぐに気を取り直し、一声かける。


「魔導戦艦バハムンド、発進してくださいまし!」


その言葉を受け、ハルネは速度を調整するレバーを押し込むとバハムンドはゆっくりと進み始めた。

レイラが設定した海路通りに順調に進んでいき、そして問題の岩肌ルート前までやってきた。


と、ここでグレースは胸から下げていたネックレスを取り出すとそれをぎゅっと握り、魔力を込め始める。


するとネックレスに付いていた魔石が光り始め、それに呼応するかのように外の岩肌が変形していき、そこには一隻の船が通れるほどの立派な道が現れた。


「・・・なるほどですの。海に搬送ルートを保有する商会の一部にはこういった秘密の安全ルートを持つと聞いたことがありますわ。こんな大規模なルートを持っているとなれば、あなたのそれはかなりの規模の商会の証ってことですわね。」

「・・・ノーコメントや。」


グレースはその問いに答える気はなさそうだった。

レイラはわかっていたかのようにそれ以上深く聞こうとはせず、テーブルに映し出された情報を見る。


「それでどうだい?」

「あなた・・・。ええ、このまま順調にいけば後1時間ほどで獣帝国の本土が見えるはずですわ。」

「そうか。それじゃあ獣帝国に着くまでに、彼女のことについて色々と聞いておいてくれ。僕は外に出ているから。」

「・・・はい。」


とても悲しそうな表情を浮かべるレイラの頭を優しく撫でた後、

「僕の事は気にしなくていいよ。それじゃ。」

と言い残して操縦室を出て行った。


ヨスミの配慮を胸に刻み、グレースの元へと向かう。

彼女は顔を合わせず、そっぽを向いていた。


「そろそろ話していただきますわ。わたくしの大事な人にあんな態度を取るあなたには色々と思う所は御座いますが、今はあの人の思いを無下にするわけにはいきませんからそういった私情はこの際忘れることにしますわ。まずは自己紹介から始めましょう。わたくしはレイラ。レイラ・フォン・ヴァレンタイン。ヴァレンタイン公爵家令嬢で、ヴァレンタイン公国の公女ですわ。」

「レイラ・フォン・ヴァレンタイン・・・公女やて・・・?」


とここでグレースは初めてレイラと目が合う。

その表情は冷静さを見せていたが、その瞳の奥からは静かな怒りが感じ取れた。


「な、なんで隣国の公女がこんなところにおるんや・・・!?」

「わたくしたちの目的の前に、あなたの事を聞かせて。どうして海賊たちに追われていたんですの?そもそも、どうして獣帝国から逃げていたのかしら?」


とここでレイラの考えに一瞬、グレースが獣帝国で犯罪を犯し、捕まらないために逃げているのでは?といった思考が過るが、それをグレースは感じ取ったのか、

「・・・それはちゃうで。」

と否定する。


そして観念したのか、レイラときちんと向き直り、瞳を真っすぐに見つめる。


「・・・うちはグレース、グレース=カトリシア。獣帝国で取引している商会【銀髭の猫】の会長の娘がうちや。」

「【銀髭の猫】っていえば、あの獣帝国の王族御用達とも言われるほどの大紹介じゃない。」


とフィリオラが驚いたように情報を付け足す。


「・・・そんな大きな商会で、しかも会長の娘となれば不自由なんて一切ないと思いますが。」

「はは、そんなん外見だけや。実際、蓋を開けてみればドロッドロに腐りきった果実の詰め合わせみたいなところやで?うちのおとんは獣帝国での影響力と発言力を得るために王族と勝手に婚姻を結んだんや。うちはそれが嫌やからこうして逃げてきたんやけど、まさか必死に逃げた所にこうして戻ることになるとは思えへんかったけどなぁ・・・。」


そう言いながら、床にすとんと座り込んでしまう。


転移窓でヨスミは状況を見ていたが、グレースのどこか諦めた表情、その表情をヨスミは知っていた。

全てに絶望し、諦め、死を願うほどの闇。


きっと婚姻を結ばれた相手がとんでもないほどの屑野郎なのだろう。

本来なら、何とも思わないヨスミではあったが、ふとそこにかつて優里を失った時の自分の姿と重なる。


気が付けばグレースの目の前に転移で移動し、ゆっくりと目線を落として目を合わせる。


突然目の前に現れたヨスミに、

「ヒッ・・・!?」

と怯えた悲鳴が小さく上がる。


だがそんな彼女にお構いなしに話を続ける。


「君にはこの秘密の航路を教えてくれた恩がある。だからグレース、選ぶといい。この航路を抜け、獣帝国に付いた時、君を遠くへ逃がす手段を僕は持っている。君はそのまま僕の力を使って隣国まで逃げるか、このまま僕たちと来るかだ。」


それはグレースにとって、この先の運命を決める大きな分岐路(ターニングポイント)だった―――――。



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