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転がり込んできた福?


夜通し船を走らせ、朝日が地平線より顔を覗かせた頃、周囲に敵対反応はないことが確認できると、誰もがその場に座り込む。


「ハルネ、ここで一旦停止させてくれ。確かこの船を中心に周囲を隠す結界のようなものを張る機能がついているはずだ。」

「・・・これですね。」


ハルネは該当するボタンを押すと後部デッキが開き、そこから円柱状の装置が伸び、棒の先に付いた魔石が光り輝き、透明のヴェールが船を覆い被さる様に魔導戦艦を包み込む。


「多分、これで周囲からはバハムンドの姿は見えなくなると。それじゃあみんな、ゆっくり休んでいてくれ。夜通し動いているから疲れも溜まっているだろう。」

「あなたはどうするんですの?」

「僕はフィリオラの尻尾に包まれて眠ったからね!」

「ちょっとヨスミ、変な言い方をしないでくれるかしら?!」


なんて冗談を言い合いながら、それぞれが居住空間がある下層に続く階段を降りて行った。


この船はかなり大きく、船の下層部に当たるところは乗員たちの生活空間のようで、寝室のような部屋が10部屋ほど存在していた。


その中心部はのんびりとした雰囲気を楽しめるようなふれあい広場のような空間が広がっている。


「あなた。」


階段を降りる手前で、レイラはヨスミを呼び止める。


「無理だけはしないでくださいね。」

「・・・ああ。だからゆっくりおやすみ。」


そういってレイラはハルネと共に階段を下りて行った。

残されたヨスミは甲板に出て、一番前までやってくるとその場に座り、目の前に広がる海の地平線をじーっと見つめる。


少し先には大きな島が見える。


こういった海に居そうなドラゴンと言えばシーサーペントやリヴァイアサンなどが代表的か。


『オジナー』

「ぴぃー」


ハクアとミラがヨスミの傍にやってきた。

ミラはヨスミの頭に乗るとそのまま寛ぎ始め、ハクアはヨスミの傍で小さく丸くなる。


こんな時には無意味に釣り竿を垂らし、釣れるはずもない重石をボーっと眺めながら、静かにドラゴンたちと過ごしたあの頃を思い出す。


今は何もかもが変わってしまって、傍にいてくれる子らも、寄り添う自分自身も、環境も、釣り竿だってこの手には握られていない。


僕の傍にいてくれるこの子らは、今の僕にとってとても掛け替えのないモノになっていく。


『むふ~・・・もっと撫でて~・・・』

「ぴぃっ・・・!」

「わかったわかった。ミラの事も撫でてあげるからそんな悲しそうな声を出さないでおくれ。」


ヨスミの触れる指が気持ちよいのか、ミラは触れられるうちに頭の上でスヤスヤと可愛らしい鳴き声を上げ始めた。

ハクアはその内、その白い腹部まで見せる様になり、力加減を調節しながらゆっくりと撫でていく。


ヨスミにとってはとても至福で、幸福な時間だけが流れ、そしてそれは前世(かつて)の自分の姿と重なる。


「いつの時代も、自分が夢中になれるものに時間を消費するほどの贅沢はないってね。」


その内、ヨスミの意識は深い眠りについており、ハクアも釣られるようにヨスミの傍で眠っていた。

やはりヨスミの様子が気になったレイラが甲板に上がってきて、そんな彼の後姿を見つけると静かにヨスミの傍まで寄ると、彼の右肩に頭を乗せ、同じように眠りについた。


右肩に重みを感じながら浅い眠りから目を覚まし、横で眠るレイラの姿を見て愛おしさが込み上がり、右肩ではなく太腿の方にレイラの頭を乗せ、楽な体勢に寝かせてあげる。


そっと頭を撫でながらヨスミももう一度、自らの宝者たちに囲まれながら久々の深い眠りにつくことができた・・・。






あれから何時間が経ったのだろう。

日差しは真上から少し過ぎており、空腹でお腹が鳴っていた。


未だに夢見心地なレイラに申し訳なさそうにしながら、肩を軽く揺さぶる。


「レイラ、そろそろ起きてくれ。」

「むにゃ・・・ほぇ・・?」

「全く。無防備すぎるぞ。」


とレイラの口元から垂れているよだれを拭うと、状況を察したのかレイラが顔を真っ赤にしながら瞬時に起き上がった。


「あの・・・その・・・確かに肩に凭れ掛かって寝ていたはず・・ですのに・・・」

「あの体勢だと体を痛めてしまうと思ってな。膝枕で寝かした方がより休息できただろう?」

「ええ・・それは、とても・・・すごく、気持ちよかったですわ・・・!」

「それはよかった。それじゃあ、皆の所に戻って食事にしよう。」


ヨスミは未だに寝ているハクアとミラを起こし、ゆっくりと立ち上がるとどこか一点を見つめたまま動かなくなった。


「・・・あなた?」


何かヨスミの様子がおかしいことに気付き、レイラもヨスミが見ている方に顔を向ける。

最初こそ何も見えてはいなかったが、よく目を凝らしてみると、小型の船を従えながら運航してくる大きな船の姿が微かに見える。


「・・・あれは多分海賊か?」

「海賊、ですの・・・!?」

「多分そうだ。あの黒い布に剣が突き刺さった髑髏マーク。完全に海賊にしか見えないな。」

「なら早く皆に伝えないと・・・!」


とレイラが急いで立ち上がり、操縦室の方へ向けて駆け出した。


転移窓で詳しい状況を確認すると、小型の船は6隻、中型の船が2隻、大型の船が1隻と言ったところだろう。


結構大規模な海賊なのだろうか。

小型には6~8人、中型には12~15人、大型は・・・見える範囲だけで30人ぐらいか?


確か今のバハムンドはステルス状態だから見つかることはないが・・・。

それにしてもなぜ海賊なんて・・・。


と、よく目を凝らせば海賊船の前方に小さな船がまるで逃げる様に高速で運航しているのがわかった。


狙いはあの小型の船か。

にしてもなぜこうトラブルってやつは向こうからやってくるのだろうか。


ムルンコールの一件といい、今回といい・・・。


操縦室の方に大きめの転移窓を展開し、中にいるレイラとハルネに状況を伝える。


「海賊船の前方に小型の船が逃げる様に運航している様子が見えた。海賊共の狙いはその船みたいだが、どうする?この魔導戦艦って奴はステルス・・・つまり隠密状態に入っている。彼らに見つかることは決してない。このまま見過ごすことは可能だ。むしろ僕はそうした方がいいと推奨するよ。明らかにあの逃げている小船は面倒事を背負っている。もし助けよう門なら確実にその面倒毎に巻き込まれる。その上で、どうしたい?」


ヨスミの提案を受け、レイラたちは判断できないのか眉を顰める。

その間にも小型の船との距離が迫りつつある。


そんなレイラの表情を見たヨスミは困ったような笑みを浮かべた。


「・・・レイラ、君の気持を聞かせてくれ。その考えに絡みつく雑念など一切無視して構わない。」

「わ、わたくしは・・・出来るのなら助けたいですわ・・・!」

「・・・わかった。ハルネやフィリオラ、エレオノーラはどうだ?」


いつの間にかやってきていたフィリオラとエレオノーラは何の迷いもなく、

「助けましょう」

と告げる。


ハルネは・・・、あの表情からして

「レイラお嬢様に従います。」

的な事でも考えているんだろうな絶対・・・。


「わかった。それじゃああの小型船を助けよう。フィリオラ、ミラと一緒に魔導砲を打つための魔石に魔力を注いでくれ。エレオノーラはレイラと共に操縦室を守ってくれ。ハクアはディアネスの傍にいて挙げてくれ。」


ヨスミの指示を受け、各々が急いで動き、指定された場所へとつく。

一応、転移窓を展開し、詳しい情報を得るために彼等の会話等を盗み聞きしてみる。


「ヒャッハー!!あの船に乗っている奴は銀髭の猫商会の娘だそうだ!攫って身代金を要求~・・・」


うん、テンプレ通りだな。


小型の船に乗っている人らは・・・、獣人か。

女性の獣人・・・ただ1人だけか?


見た感じただの女性に耳と尻尾を生やしたような感じだ。


白い猫耳、銀色の短髪に綺麗な毛並みの尾。

端正な顔立ち、金色の瞳。


その身なりからして、かなり高位の娘にも見える。


「は~・・・、明らかに面倒事になるな・・・。」

『ヨスミ様!こちらは準備を終えました!いつでも発射できます!』


と操縦室にいるハルネがヨスミへと準備を終えた報告を告げる。

それを受け、再度海賊たちの方を見る。


あと2~3分もすればここに到達するだろう。


「照準はあの大きな黒い海賊輝を掲げた船に。」

『・・・定めました!』

「フィリオラ、ミラ。そっちの充電はどうだ?」

『問題ないわよー。ドカンと一発ぶちかましてちょうだいな!』

『ぴぃーっ!』


その報告を受け、ヨスミは決断する。


「・・・撃て。」


魔導戦艦に整備された巨大な砲台に高密度の魔力が溜められていき、やがてそれは強烈な光線となって大きな海賊船へと注がれた。


それと同時に転移を持って、逃げていた小型の船を安全圏まで避難させる。


直後、海賊船を中心に巨大な魔力爆発が発生した―――――。



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