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お、オジナー・・・?


頭領から奪い取った(もらった)鍵を使い、奥に通じる扉を解錠し、扉を静かに開ける。

隙間から悪臭が流れ出し、その環境がいかに酷いものかを物語らせるには十分だった。


「こんなところにドラゴンちゃんが捕まっているなんて・・・今すぐに助けに行かねば!!」

「え、ちょ!?ヨスミ!?」


さっきまで慎重だったとは打って変わり、扉を勢いよく開け放つと全力疾走で駆け出した。

ヨスミの後に続くようにフィリオラも急いで駆け出し、通路の先にある部屋に入るとそこには様々な魔物や幼獣などが檻に入れられており、糞尿等もそのままになっており、長い間まともな管理がされていないことがわかる。


その奥、一際大きな檻が見え、中に灰色の幼竜がぐったりした様子で中に入れられていた。


「これは酷い・・・、今すぐに助けてやるからな。」


灰色の幼竜が入った檻の傍までやってきて触れると、檻だけが瞬時に消え、近くの空になっている檻の上に”移動”した。

突然解放された灰色の幼竜は一体何が起きたのか、重い瞼を何とか開けて薄目で様子を確認する。


目の前に今まで自分を虐めてくる人間ではない、見知らぬ人間が今にも泣きそうな心配した表情でこちらを見ていた。


「・・きゅ、ぅ・・・?」

「酷い傷だな・・・。白い幼竜って話だったのにそんな風には見えないぐらい、酷く汚れるまでにひどい扱いを受けていたんだな。辛かったな、今治してやるからな。」

「ヨスミ、どうするの?」


夜澄は幼竜に優しく触れると、体中に付いた傷痕が次々と消えていく。


「うそ・・・、一瞬にして傷が跡形もなく消えるなんて、私の知ってる最上級の治癒魔法でもここまでいかないわ。」

「よし、後はこの子の汚れた体を洗えば元通りに・・・」クラッ


夜澄の身体が大きくよろめき、慌ててフィリオラが急いで体を支える。


「え、ちょっと・・・夜澄?!大丈夫・・・って、何この傷!?」

「僕の能力の弊害だ・・・、うっ・・・」

「ちょっと!? <ピュアハイヒール>!」


意識が一瞬飛びそうになるが、すかさず治癒魔法を掛けてくれたおかげで完治はしなかったが大事には至らずに済んだ。


「とりあえずこれで少しはマシになったと思うけど・・・。」

「すまない・・・。だがこれで動けるようになったし、この子を助けられるな。」

「ったくもう・・・。本当はそのままどこかで横になって安静にしていた方がいいんだけど。」

「僕はこの子を連れて行くから、フィリオラはあの子らを頼めるか?」

「はあ、わかったわ。」


ヨスミは幼竜を優しく抱き上げるとその場を後にした。

残されたフィリオラは檻に入った魔物や幼獣たちの入った檻の入口を壊していく。


「君たち、入口は壊しておいたからいつでも逃げられるよ。今度は捕まらないようにね。」


そう言い残して、フィリオラもヨスミの後を追って部屋を出て行った。





「おお、ヨスミー!目的のモノは、・・・見つけたようだな。」


奥の部屋から灰色の幼竜を抱き抱えてきたヨスミを見て、一息つくフォード。

メナスは遠くの方で盗賊の死体に祈りを捧げていた。


「おかげさまで。大事になる前に見つけられてよかったよ・・・。」

「そうかそうか・・・、ん?大丈夫か?ふら付いているようだが。」

「フィリオラに回復魔法を掛けてもらったから、暫くは問題ないと思う。」

「なら大丈夫だとは思うが・・・。結構顔色悪いし、こっちはこっちでやっておくからヨスミたちはさっさと戻って休め。」

「ああ、そうさせてもらうよ・・・。」


そういうと、その場から突如として姿を消した。


「・・・は?え?」


魔法の発動も、魔力が集まった気配も何も感じなかったぞ・・・!?

これは多分、テレポートに似た類の魔法だとは思うが・・・、それにしたってこれは異質だぞ・・・?

魔法陣の展開もなく、詠唱もなく、魔力を使った様子もない。


「まったく。ヨスミが殺した盗賊たちがどうにも不可解な死に方してることも関係してるってか?まあ、いいか。おい、メナスー」

「はい、どうしました?」


祈りを捧げ終わったメナスは聖書を仕舞いながらフォードの元にやってきた。

その後に続くようにフィリオラも奥の部屋から出てくる。


「あれ、ヨスミは?」

「ああ、竜母様。ヨスミなら・・・うーん、たぶんテレポート使って帰ったぜ」

「多分って・・・、はあ。わかったわ。」


フィリオラは頭を抱えながら洞窟を後にした。

奥の部屋から魔物や幼獣たちが次々に現れ、盗賊の死骸たちにこれまでの恨みを晴らすかのように攻撃していた。


「あー・・・、とりあえずメナス。討伐の証はもう集め終わったか?」

「ええ、大体集め終わりましたよ。この様子だとそろそろ出た方がいいみたいですね」

「それじゃあいくか。」


フォードとメナスも魔物や幼獣たちのとばっちりが来るまえに、急ぎ足で洞窟を出て行った。





「ヨスミー?どこにいるのー?」


自分の家に戻ってきたが、辺りを見渡してもどこにも姿はなかった。

家の中に入るとどこからか水の音が聞こえ、風呂場の方に向かうとそこから、ヨスミたちの声が聞こえてきた。


「ヨスミー、大丈夫・・・って、そういうことね。」


水浴びで幼竜の身体を洗い、最初に見えていた灰色の身体とは打って変わり、純白な白銀の幼竜が姿を現していた。

幼竜もとても気持ち良さそうに、喉を鳴らしている。


「ああ、フィリオラ。勝手に借りてるよ。」

『気持ちー!』

「それが元の姿・・・、あれ?あなた喋れるの?それにどこかで・・・ねえ、あなた、名前は?」

『ハクアー!』


その名前を聞いてはっとし、何かしら考え込むように眉間を抑え始めた。


「知っている竜なのか?」

「うーん、たぶんね。白銀のように輝く龍鱗、甲殻に私に引けを取らないほどの美しい容姿・・・。多分、この子は白皇龍の娘だと思うわ。前に一度だけ会ったことがあるの。」

「白皇龍・・・?その娘・・・。名前からしてかなり高貴な龍族そうだな・・・。」

「ええ。白皇龍は、かつて原初の魔王に仕えていた四皇龍のうちの一匹とされているわ。」

「・・・この世界にも魔王はいたんだね。」


魔王・・・、転生物によくあるファンタジーモノには定番の悪役の親玉、その王。

確かにドラゴンやゴブリンなんかもいるこのファンタジー世界ならいるかもしれないと思っていたけど、まさか本当にいるとは。


ああ、僕は本当に転生したんだな・・・。


「ってか、その四皇龍の一匹である白皇龍の娘ってことは、その母龍である白皇龍はまだ生きているのか?」

「ええ。今は休眠期で深い眠りについてるから起きてはいないけどね。それにしてもどうしてここにハクアちゃんが・・・。ねえ、どうしてあんなところにいたの?」

『うーんとね!わかんない!』


先ほどまでとは打って変わり、とても元気な様子になったハクアは喜ぶように告げる。

結局、質問の答えになっておらず、次の質問を考えている様子だった。


『ねー、あなたはだーれ?』

「ん?僕は夜澄っていうんだ。」

『ヨスミー・・・? ヨスミー、ヨスミー・・・。うーん。』


さすが白皇龍の娘・・・。こんな幼竜の内から人語を話せるとは。

知能も高いし、たぶん戦闘能力も高いだろうに、どうして盗賊なんかに捕まっていたのやら・・・。


『うーん・・・、はっ!オジナー!ヨスミはオジナー!』

「お、オジナー・・・?フィリオラ、オジナーって何か知ってるか?」

「え?聞いたことないんだけど・・・。ねえ、ハクア、オジナーってなに?」

『オジナーはオジナーだよー!大事な大事ー!とっても大事なオジナー!』


先ほどよりもとても嬉しそうにはしゃぐハクアに、さらに混乱が深まる2人だった。


『オジナー!えっへへー!』



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