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いざ、獣帝国”タイレンペラー”へ


「あの人に、わたくしの素肌を見られてしまいましたわぁ・・・。」


準備を終えたであろうヨスミが、ほんの一瞬だけこの部屋に転移で戻ってきた。

だが、間が悪かったことに目立たない鮮やかな青い刺繍が入った黒衣の着物へと着替えようとした。


「だ、大丈夫ですよレイラお嬢様・・・!見られたと仰いますが、着物でほとんど隠れておりましたので、実際に見られたのは腕や足の先ほどかと!」

「うう・・・そう、そうよね・・・。でも、わたくしはあの人の良き妻になる身・・・、いつまでもこんな気持ちでいてはいけないわ・・・。」

「レイラお嬢様・・・。」


とその時、ドアの向こう側、1階付近で宿屋の主人らの悲鳴が上がる。

ミラとハクアはディアネスが眠るカゴを守るように入口を見て警戒し、レイラたちは急いで衣服を着替え、整える。


着替え終えたレイラを見て、ハルネは武器を抜いてドアの方を警戒する。


一瞬の静寂の後、ノック音が響き渡る。


「・・・その、僕だ。ヨスミだ。さっきは着替えている最中に戻ってすまなかった。こっちは僕が何とかするから安心して着替えててくれ。」


ヨスミの申し訳なさそうにする声が聞こえて安堵し、ハルネは武器を収めた後ドアに近づいてゆっくりと開く。

背を向けたままそこに立ち尽くすヨスミを見て困ったような笑みを浮かべる。


「有難うございます、ヨスミ様。私はまあ別に構いませんが、次からは淑女の部屋に入る際はこうしてドアから入るようにお願いしますね、ふふ。それとこちらはもう準備は終わりましたので、中に入っても構いません。」

「ハルネか。本当に申し訳ない・・・。」


そう言いながら振り返り、ヨスミは部屋の中に入ってきた。

扉を閉めようとした時、廊下の角に頭の無い獣人の死体が目に入る。


それを見て全てを察したハルネは静かに目を伏せ、扉をゆっくりと閉めた。


「レイラ、その、すまない。」

「べ、別に構いませんわ・・・。だって、わたくしたちはその、素肌を見せ合える・・・そういった仲ですのよ?」

「それでも、君はその心の準備がまだ出来ていないようだから。君の気持ちを大事にしたいんだ。あんな形でさえも君の素肌を目にするべきではないと思う・・・。君の心の傷を、体の傷を僕に見せても大丈夫であると思える日が来た時は遠慮なく言ってくれ。僕の瞳に映る君の姿はいつだって綺麗で美しいんだ。君の全てを受け入れ、支えていく準備なんてとっくの昔に出来ているんだから。」

「・・・あ、あなた・・・。」


2人はゆっくりと抱きしめ合う。

互いの体温を、愛しさを確かめ合う様に。


そんな光景が広がる中、ハルネは目を閉じたまま振り返って良かったと心から安心した。


(よかったですね、レイラお嬢様・・・。ヨスミ様のような寛大なる器を持つ方と出会うことができて・・・。まあ、あんなの見せられたら私の男性に求めるハードルが高くなってしまうのが欠点ですが・・・。)

『オジナー、大丈夫?』

「ぴぃー!」


とここでディアネスを守っている2人が心配そうにヨスミに問いかけてきた。


「ん?僕なら大丈夫だけど・・・」

『本当に?でも、右目から嫌な感じが強くなってるの・・・。』

「ぴぃー・・・」

「フィー様にもう少し魔力を注いでもらった方がよろしいのかしら?」

「気絶していたようだったけど、その間この右目はずっと視ていたみたいだし、きっと僕にとって良くない物を見たからそれを伝えようとして煽っているんだろ。」


と、ノック音が響いた後、フィリオラとエレオノーラが部屋に入ってきた。

右目の不穏な気配を感じたフィリオラがヨスミに近づいた後、右目の眼帯に手を当てる。


「本当に厄介ねそれ。」

「フィー様、他に方法はないんですの・・・?」

「無理ね。この右目に宿ってる憎悪らはヨスミの体じゃなくて魂に結びついているの。無理に引き剥がそうとしたらヨスミの魂が壊れて完全に消滅してしまうわ。」

「まあ、これは僕が忘れてはいけない存在だからね。ただ、レイラにはこんな悍ましい瞳を持った男は気持ち悪いだろうし、なんなら・・・」

「あなた!それ以上言ったらわたくしはあなたを許しませんわよ?!」


とレイラは真剣に怒った表情をヨスミへと向ける。


「たかが気持ち悪い瞳を右目に宿した程度で、わたくしがあなたをそんな言葉にもしたくない感情を抱くはずがありませんわ!いえ、ありえません!そこらの令嬢と一緒にしてもらっては困りますわ。先ほどのあなたの言葉を借りるなら、どんなあなたでもそれを全て受け入れ、支える準備が出会ったあの日からずっとありますのよ?わたくしを舐めないでくださいまし!」

「レイラ・・・。」


とヨスミとレイラの2人の間にまた甘い空間が広がり始める。


「あー、はいはい。御馳走様。ったく、あの2人は隙あらばすぐにイチャつこうとするんだから。」

「私はあの2人がとても羨ましいのです・・・。私にもいつかヨスミ様のような、全てを受け入れてくれる殿方に出会えるのでしょうか・・・。」

「まー、ヨスミはとてもレアなケースだと思うけど、きっといるわよ。」


フィリオラはエレオノーラを励ます様に肩に手を置き、エレオノーラはうっとりとした目で2人の事を見つめていた。


全員が集まった頃、外の様子が騒がしい事に気付く。

ヨスミは無数の転移窓を展開させ、外の様子を探っている。


それを心配そうに見つめるレイラの頭を優しく撫でながら、状況を整理する。


「ここに衛兵も混じってあの連中が押し寄せてきているみたいだな。きっと宿屋の主人が連絡したんだろう。一直線にこの部屋に向かってきている。さあ、行くぞ。」


そして、その場にいた仲間たち全てが部屋から消えた。






あの宿部屋から一隻の大きな船へ一瞬にして転移してきたヨスミたちは、急いで船を出すべくそれぞれが作業を始めた。


移動してきた船は帆を必要としない船で、船に備え付けられている巨大な魔石に魔力を吹き込むことで自由に動くことのできる代物。


故に、エンジン部分となっている魔石にはミラとフィリオラが向かい、ハルネは舵を取るために操縦室へと向かった。


エレオノーラは下ろされた錨を、竜人特有の怪力をもって巻き上げるために甲板へと出て行った。

ハクアはディアネスと共に船長室らしき部屋へと向かっていった。


残されたレイラとヨスミは船後方のデッキに出ていた。


「この町の状況について、タイレンペラー帝王に一報入れた方がいいですわね。でも証拠という証拠はないから、動いてくれるかどうか・・・」

「それなら問題ない。」


と、ヨスミが片手を軽く上げた後、そこに複数の書類がどこからともなく転移してきた。

それをレイラへと躊躇なく渡した。


「この書類が証拠になると思うぞ。」


受け取ったレイラはその書類に軽く目を通すと、その驚愕な内容に目がかッと見開いた。

表情は酷く怒りに満ちており、掴んでいた書類を力強く握ると書類はぐしゃっと潰される。


そしてレイラの瞳から大粒の涙が流れ出ていた。


「レイラ・・・」

「・・・これは、わたくしのお父様に・・送った方がいいですわ・・・今すぐに・・・!!」


震える声で、怒りに満ちた声で、ぼそりとそう呟く。

だが、その裏に微かに感じる喜びの感情。


「なら僕に任せてくれ。」

「・・・え?」


とレイラから書類を取り返し、その時チラッと見えた文字の1つにどこか見覚えのある名前があった。

~・・・シャイネ・フォン・ヴァレンタインの今後の管理について・・・~

ヨスミはその書類の重要性を理解し、すぐさまどこかに転移させたようで彼の手から消失した。


「あ、あなた・・・?」

「大丈夫。今頃、それを見るべき人物の机の上にあるはずだよ。」

「まさか・・・!でも、ここからお父様の机へ転移で送ることができるんですの・・・!?」

「これぐらいの芸当ならできるよ・・・ぐっ。」


とここでヨスミの体がふらつく。

急いでその体を支えるが、ここでレイラは察した。


「・・・あなた、その目を使ったんですの?」

「ああ。全文は読めてないし、ほんの一部の文章、というより人名がチラリと目に入っただけだけど、それでも全力を持ってあの書類を確実に、そして迅速に送り届けるには十分だとわかるよ。君の、そしていずれ僕のお御母様になる方についての生存に関するかもしれない報告書だから、ね・・・。ここで全力を出さないでいつ出せばいいんだって話さ。」

「・・・あり、ありがとう・・・ですわ・・!う、うぅ・・・ま、まさか・・・こんな、こんなところで・・・」


ヨスミの胸を借りて、声を押し殺しながら泣きじゃくるレイラ。

本当なら声を上げて泣きたいんだろうが、他の誰かにここにいることがバレてしまう可能性があるため、必死に我慢しているんだろう。


「大丈夫・・・。あの書類はお義父様の元に届いたよ。後は・・・、あっ。」


とその時、突如として全身が凍り付くような怒りに満ちた闇属性の強い魔力波動を感じた。

レイラもそれを感じたようで、カーインデルトのある方角を見た。


「この感じ、きっとお義父様にちゃんと届いたんだな。」

「ええ・・・。この波長は見間違えるはずございませんわ・・・。あなた、本当にありがとう・・・。わたくしたちを長年苦しめてきた鎖が、今ので完全に解き放たれましたわ・・・。だから、ヨスミ様には何度も言わせてください。我がヴァレンタイン家総出の宿願が叶った事・・・。」

「こら、レイラ。まだお礼を言うのは早い。まずは生きていることが分かったであろうシャイネ公爵夫人を無事助け出してからだ。」

「・・・はいっ」


と準備を終えたであろうフィリオラが2人の元へやってきた。


「錨も無事上がったわ。いつでも出発可能よ。」

「さすが竜人の怪力だな。たった一人で巻き上げるとは・・・。」

「うふふ、そうですわね。」

「それじゃあ出発しよう。ここに長居は無用だ。時期にここは闇に飲まれるだろうから。」


そうしてヨスミはレイラとフィリオラを連れて操縦室へと入っていった。

中は先ほどの恐ろしい波動を受けて騒いでいるエレオノーラたちと落ち着かせようとするハルネの姿があった。


そして、魔導戦艦”バハムンド”と刻まれた一隻の大きな船はゆっくりと港を離れ、目的地へ向けて出港した。



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