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港町”ムルンコール”


「ほー、ここが獣人たちの町ムルンコールなのか。」


ヨスミ達一行はエラウト樹海を抜け、その先に見えていた港町へとやってきていた。

宿屋で部屋を取った後、食事と今後の計画について話し合うために酒場に来ていた。


旅の経路としては以下の通り。

まずはこの町の船に乗り、その後獣帝国”タイレンペラー”の本国に寄った後、そこから別の船に乗り換えてドワーフの国である機械国”ドヴェルムンド”に向かい、そこで飛空艇に乗って向かうというもの。


直接船で向かえばいいんじゃないかと告げてみたが、竜王国の周辺の海域は荒れており、真面に船で近づくことは出来ず、また強い嵐が国全体を包み込むように吹き荒れているため、ドワーフの持つ技術力を頼る必要がある。


「竜王国に行くのにここまで手間を掛けなければいけないわけか。」

「以前はそんなことなかったのよ。まあ、他からの迫害を受けてその陸地に逃げ込み、竜人たちの境遇を嘆いた一匹の古龍が自らの結界を大陸全土に張ったの。」

「なるほど。吹き荒れる嵐、荒れた海域はその影響って訳か。なら猶更、エレオノーラが奴隷として捕まったことが引っかかる。」


真面に近づくことができない状況であり、そのような大きな結界を張れる古龍が存在するのであれば、竜人種を拉致するために訪れた不届きな輩の侵入にはすぐに気づくだろう。


ましてや、エレオノーラについて以前フィリオラが零した”竜王国の姫君”という肩書。

エレオノーラは竜王国にとって高貴なる存在であるならば、猶更彼女を拉致するなんて不可能に近い。


それに拉致されたことが分かれば、同種を大事に思う竜人たちは黙ってはいないだろうし・・・。

となると、可能性としては・・・


「・・・竜人たちの中に裏切者のような存在がいるってことか。」

「やっぱりあなたもそう思うかしら?竜王国の姫巫女であるエレオノーラが拉致されたとなったら、只事では済みませんもの。内部の犯行とみてよろしいかと思いますわ。」


レイラも僕の想っていた疑問に同調する。

やはり、竜人たちも一筋縄ではいかないということだ。


「・・・まて、姫巫女?巫女だと?」

「え?あ、そうなのです。私は竜王国では姫巫女の立場にありましたのですよ?」


となると、普通に考えてただの王族とは訳が違うぞ・・・。

下手すれば、王族よりも上の立場である可能性が高い。


「・・・えと、エレオノーラ様?自国では何か自分がこうなる原因とかには見覚えとかはないのか?」

「うーん・・・、わからないのです。私は母様と弟のゼリドの3人で静かに過ごしていただけでしたから。」

「そう、か。3人で・・・。」


こういった際の展開からすれば、竜人たちからの目を逃れてひっそり暮らし、見つかったためにエレオノーラたちと逃げていたが、捕まりそうになり、エレオノーラと弟の2人だけは島の外に逃がして・・・なんてことが多いが。


それか、本当に抜け道を見つけ、誰にも気づかれずにエレオノーラを拉致されたとか。

色々考えられるが、どう考えてもいい方向ではない事だけは確かだ。


「・・・このままエレオノーラを竜王国に帰していいのかどうかわからなくなった。」

「竜王国の動向でも探れれば少しは動きやすくなるんですけれど・・・。」

「まー、あの国は鎖国的だからね。それに忌み嫌う種族の国の動向を気にするもの好きなんて・・・ああ、ここにいるわね。」

「・・・確かにここにいらっしゃいますね。」

「そうですわね・・・。」

「なんだか照れるな・・・!」


一斉に見られ、ヨスミは頬を赤く染める。


「とりあえず、竜王国に向かいながらなんとか国内の情勢を知り、一体あの国で何が起きているのか探る必要があるわね。」

「このままエレオノーラを戻して、あっさり殺されてしまうような事態は避けたいからな。何なら、エレオノーラだけが拉致された可能性を消し去った方がいい。エレオノーラ、君の母君と弟君も同じように奴隷にされている可能性が高いから、それぞれの特徴を教えてくれ。」

「そんな・・・母様とゼリドも・・・わかりましたのです。」


それぞれヨスミ達は話し合いを続け、気が付けば店じまいの時間まで続いていた。

話し合いの続きはまた後日ということになり、仲間たちはそれぞれ割り当てられた部屋へと入っていった。


部屋割としては、ヨスミとディアネス、レイラとハルネ、フィリオラとエレオノーラ、の3部屋となった。

ハクアとミラはヨスミの部屋で止まることになった。


もし何かあった際に部屋で1人にいれば危険であるために、二人一組で部屋に泊まることを提案した。

そしてその提案が見事、こんなにも早く役に立つとは思わなかった。


「・・・ん。」


ヨスミはゆっくりと起き上がる。


「・・・ぴぃ?」

『むにゃー・・・』


ハクアは未だに夢の中だったが、ミラだけは起きたヨスミの気配を感じ、すぐにヨスミの肩に飛び乗る。


「ああ、起こしてしまったか。」

「ぴいぴい。ぴいっ?」


大丈夫だよ、何かあったの?なんて言いたげに鳴きながら、首を傾げる。

本当にミラは賢い子だ。


「部屋の外に誰かいる。ミラはハクアを起こしてディアネスと一緒にレイラたちの方に転移で送るから準備してくれ。」

「ぴぃっ!」


ミラは指示された通り、その小さくて可愛らしいくちばしでハクアの頭をちょんちょんとつつき、起こすとヨスミが深く警戒している様子に異変を感じ取り、ディアネスの眠るベッド代わりのゆりかごを守るようにミラと共に傍に寄ったのを確認して、ヨスミはレイラたちのいる部屋にディアネスを転移させる。


足音がヨスミ達やレイラたちの部屋を通り過ぎたことから、狙いは一番奥に部屋を取ったフィリオラとエレオノーラだ。


数は4人ほどか。


さすが獣人、足音も気配も殆ど感じ取れない。

僕一人だけだったら気付けなかっただろうな・・・。


そしてゆっくりと部屋を出る。

首だけを傾けて、暗殺者のような身なりの獣人たちの姿を視認する。


突然部屋から出てきたヨスミに動揺し、彼らと目が合った。


この歳になって中二病たちの憧れである展開を迎えることになろうとは。

もしここで中二病としてのセリフを紡ぐのなら、きっとこうだろう・・・。


ヨスミは突然、苦しそうに右目を抑える。


「ああ、右目が酷く疼く・・・。まるで、血肉を求める醜い獣のようだ・・・。」


そう言いながら、右目を覆っていた眼帯を取り外し、無数の瞳が悍ましく蠢く様を彼らに見せつける。

全ての暗殺者たちは突然痙攣し始め、腰を抜かしたかのようにその場に座りだした。


その恐怖に何とか耐えながら刃を向けようとしたが、その瞳が一斉に向けられ、耐え切れなくなったのか白目を剥いて気絶する。


悲鳴を上げる事さえ忘れさせるほどの深い恐怖と絶望が彼らを支配し、意識のある者たちから香ばしい匂いと共に股辺りから液体のようなものが流れ出ているのが見えた。


「おいおい、人の目を見て失禁するとか失礼じゃないかなぁ?」

「な、ななん、なんなん・・だよ、おめえは・・・!?」

「お前たちこそ、そんな物騒なモノを持って僕の仲間に何の用だ?事と次第によっては君たちには今後の人生において、太陽を拝めなくなる約束を交わしてもらうしかなくなるわけだが。」

「は、話しますぅ・・・!はな、話します、から・・・命、命だけ、は・・・た、助けて、くださ、い・・・!!」

「ごめんなさ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。やだぁ・・・ぱぱぁ・・・ままぁ・・・死にたくないよぉ・・・あんなひどい死に方を、したく、したくないよぉ・・・ああああ・・・」


女性の獣人たちはすでに戦意喪失したようで、片方は完全に錯乱している。

もう片方は何とか冷静を保ててはいるが、いつ崩壊してもおかしくない状況だ。


男に至っては1人は泡を吹きながら失神、もう一人は顎をガタガタ震えさせ、焦点の合わない震える目でヨスミを精いっぱい睨みつけていた。


とここでレイラたちがいる部屋の扉が開き、外の様子を窺いに来た。

だがそこに広がる惨状を見てため息をついた後、ヨスミの腰にそっと優しく抱き着いてきた。


「あなた、ここまでで十分ですわ。その右目をどうか抑えてくださいまし。」

「・・・そうは言うが、あの身なりと床に転がっている武器からして、殺しに来たのは向こうだ。ここで気を許したらまさに獣の如く牙を向いて襲い掛かる可能性が・・・」

「しません・・・っ!ぜ、ぜっ、絶対、に、あな、あなた様に、いえ、ああ、あなた様のなか、仲間にも、絶対に危害、は加えません・・・!!で、です、ですから、も、もう、ゆる、許して、く、くだ・・・」

「それを君たちが言える立場だと思うか?」ギロリッ

「ひぃっ・・・!?あぁ・・・」


とここでついに冷静に話せていた女性の獣人は白目を剥いて意識が消し飛んだ。

それに釣られて錯乱していたもう片方の獣人もその威圧に当てられ、彼女の上に覆いかぶさるように倒れる。


「ぁ・・・、あが・・・あぁぁ・・・あ、。あぁ・・・。」


もうすでに言葉にならない声が駄々洩れている彼は、意識こそ残ってはいるが精神はすでに限界を迎え、崩壊していた。


「ちょっとヨスミ。これはやりすぎ。それに私がこいつらに傷つけられるとでも思ったの?」


堪らず部屋から出てきたフィリオラは、目の前の廊下に広がっている惨状を見ながらヨスミに文句を言う。

その後、レイラの手伝いもあって右目の眼帯を再度付けなおし、フィリオラに魔力を流してもらって再度封印しなおした。


「傷つける、つけられない以前に、これでも仲間を心配していたんだけどな。」

「あ・・・、うん。ごめん。でもやっぱりこれはやりすぎよ。」

「こういった輩はここまでしないと分からないことが多かったから、つい。」

「もう、何が”つい”ですの。ハルネ、店の主人を呼びにってもらってもいいかしら?」

「かしこまりました。」


そういってハルネは部屋を出て、1階に降りて行った。


「わたくしはディアネスたちとここにいるから、後の事はお願いするわね。」

「ならエレオノーラも一緒にいてくれ。こいつらは僕とフィリオラで対処する。」

「・・・お手柔らかにね。」

「まあ、善処するよ。」


その後、宿屋の主人を連れたハルネが戻ってきて現状を話し、衛兵を呼んでもらった後、レイラたちがいる部屋の前に武器を携えて警護することになった。


その後、やってきた衛兵たちに事情を話し、彼らを連行することになり、また詳しい事情を話すためにヨスミとフィリオラは衛兵たちと共に詰所へと向かっていった。


挿絵(By みてみん)

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