尊死とはこういうことなのだろう。
あー、えっとここに話せばいいの? こほんっ
やっほー、フィリオラよ。
今私たちはカーインデルトを出発して、エフェストルに寄ったの。
そこでは不足した食料品と物資の補充、それにあれからのこの町の近況を窺いにきたんだけど、まあさすがといったところであんな事件があったのにも関わらず、もうここまで立て直せるなんてね。
特にこれといったこともなく、3日の滞在の後にすぐに出発。
そして1日ほどで国境付近の関所に到着し、無事に獣帝国”タイレンペラー”に入国することができたまではよかったの。
国境を越えて半日も経たずにエラウト樹海にたどり着いたんだけど、ここで突然の襲撃があったのよ。
その襲撃で一番の被害を受けたのはヨスミだけだったわ。
襲ってきた魔物は【リュウスズメ】という、小さな小型の鳥の魔物。
脅威度ランクはFランク・・・というよりもそもそもほとんど人畜無害な魔物なんだけど、この襲撃で私たちは半日も足止めを受けているのよね・・・。
え? 人畜無害のFランク魔物である【リュウスズメ】にどうしてそんなことになっているのかって?
何百という数のリュウスズメが突然飛んできたかと思ったらその全てがヨスミに集まってきて、結局そのスズメリュウという波に埋もれているのよ。
本人もとんでもない愉悦の表情を浮かべながら死んでいるのよね・・・、精神的に。
まあ、リュウスズメはモコモコした体をしているから、その触り心地は極上だからこうなってしまうのも仕方がないんだけどね・・・。
ということで、エラウト樹海の前で今晩過ごすことにしたところで私たちの新しい冒険が・・・始まるんじゃないかしらね?
陽は傾き、夕焼けが辺りを染める。
ハルネはマジックバックに入れていたテーブルと椅子を取り出して並べ、エフェストルで買った食材を幾つか取り出して調理を始めていた。
その横でフィリオラはエレオノーラと共に今晩休むための寝床を用意していた。
レイラはディアネスをあやしつつ、ハルネの手伝いを勧める。
そしてヨスミはそんなみんなの動きを見守っていた。
「あ、レイラお嬢様。これを刻んでおいてくれますか?」
「わかりましたわ。」
ハルネから指示を受け、左手はディアネスを抱いているために動かせないため、空いている右手に風魔法を纏わせ、それを食材に向けると器用にみじん切りにしていく。
そんなレイラの調理を見て、ディアネスは楽しかったのかとても嬉しそうにはしゃいでいた。
「竜母様、こちらは終わったのです。」
「ありがとう。それじゃあこっちを引っ張ってもらえる?」
「わかったのです!」
エレオノーラは指示された通り、布を手に取ると思いっきり引っ張る。
ピンと張った布を維持しながら、鉄の杭を地面に差すとそのまま押し込んで固定させた。
本当ならばハンマーなどの金具を持って杭を叩いて地面に差すのだが、それすら不要なほどの力で直接押し込むだけで成せるんだから、便利だな・・・。
ヨスミを除いて、レイラたちはテキパキと動き、あっという間にそれぞれの準備は終わった。
ヨスミを残して、レイラたちはテーブルにつき、食事を始める。
「・・・ヨスミ様はあのままでいいのです?」
そしてとうとう痺れを切らしたエレオノーラがとうとう、あの白いモコモコに埋もれているヨスミの方を向いて心配そうに問いかけた。
「あの子たちは全然聞けんじゃないし、そもそも誰かを襲えるほどの武器さえも持ち合わせてないから問題ないわよ。・・・まあ、食事も出来ないほどの埋もれっぷりなところを見るに、そういう所は不便ね。」
「どうしてあの人にリュウスズメがあんなにも集っているのかしら・・・?あそこまで他の生物に気を許すような魔物じゃないはずなんだけど・・・。」
「確かに、リュウスズメは一応ドラゴンですから、冒険者たちによく狩られたりしているせいか、特に人間に対してはとても警戒心が強いと聞きます。現に、私とレイラお嬢様が近づこうものなら威嚇してきますからね。」
ヨスミにくっ付いたリュウスズメを取ろうとレイラとハルネが近づこうとした瞬間、全てのリュウスズメが威嚇するかのようにギロリと睨む。
その圧に押され、結局手も出せずにそれぞれの作業に戻ったのだ。
フィリオラやエレオノーラ、ディアネスに対してはそういった態度は取らず、ただ怖がっているかのようにブルブルと震えていた。
「私が触ろうとすると、ものすごく避けるから取れないのよね・・・。」
「私も同じなのです・・・。」
「まあヨスミは幸せそうだし、別にいいんじゃない?」
よく耳を澄ませばチュンチュンッと鳴くリュウスズメたちに紛れて、
「うへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ・・・・」
と、ヨスミの愉悦の声が聞こえていた。
「・・・あー、まあそうですわね。あの人は全てのドラゴンと出会う事でしたし、一応満たされてるみたいだし、今はほっといてもよさそうですわね。」
「・・・そうですね。」
「あーう!」
と数羽ほどのリュウスズメがディアネスの傍にくると、ヨスミと同じように体を寄せて休み始めた。
どうやらディアネスにはフィリオラやエレオノーラとは違う反応を見せているようだった。
そして食事を終え、後片付けを済ませた後、それぞれ休む準備を済ませていた。
その中ではやはり、ヨスミはリュウスズメに埋もれたままだった。
「さて、そろそろ見張りの番を決めようかと思うんだけど・・・、ヨスミに全て任せればいいわね。」
「そうですわね。今のあの人ならリュウスズメたちの目もありますし、適任ではないかと。」
「・・・それでいいのです?」
「ええ、ヨスミ様はあれでいいのです。」
「いいのですか・・・。」
エレオノーラはどこか申し訳なさそうに苦笑する。
結局、見張りはヨスミがずっとすることになり、他のメンバーは全員ぐっすりと休むことができた。
次の日、朝日が立ち込め、周囲を明るく照らされる。
レイラは差し込む光にあてられ、重い瞼がゆっくりと開く。
「もう、朝ですの・・・。あれ?」
と、ここで外から聞こえてくるヨスミの笑う声に気が付き、外に出てみると埋もれていた時とは打って変わり、その光景はまるで一種の絵画のようで、指先や腕、肩に何羽のリュウスズメが留まり、リュウスズメたちも嬉しそうにぴょんぴょんと飛び回っていた。
そんなリュウスズメたちを見るヨスミの瞳も優しく、まるで可愛い我が子を見るかのように慈愛に満ちていた。
その光景にレイラは目を奪われたかのように、暫くの間ずっと目を離せなかった。
「・・・レイラ、お嬢様?」
背後から呼びかけられ、はっと我に返ったレイラはハルネに静かにするようにと口元に人差し指を押し当てる。
ハルネも何か起きたのかとレイラと同じように音をたてぬよう静かに外の様子を探る。
そこには先ほどレイラが見たような見惚れる光景がそこにあった。
「・・・あれ?」
とここでハルネは何か違和感に気付いたようで、目を細める。
レイラもここで初めてヨスミの様子がおかしい事に気付いた。
よく見ると、ヨスミの瞳は震え、顔も生気がないように真っ青だった。
「・・・ヨスミ様、あれ、死んでいるのでは?」
そう呟いた直後、ヨスミはついに後ろの方にゆっくりと倒れる。
「あ、あなたぁー!?」
レイラが叫び、急いでヨスミに駆け寄って上半身を起こすと、
「ぁ・・・あぁ・・・。も、もふ・・・もふ・・・ドラゴン・・・だったぁ・・・・。」
と言い残し、意識を失った。
「いやぁー!目を覚ましてくださいましぃー!」
「いえ、レイラお嬢様。ヨスミ様をこのまま寝かしてあげてください・・・。」
ハルネの冷静なツッコミを受けながら、レイラは真っ白に燃え尽きたヨスミを抱きしめ続けた・・・―――――。
~ 今回現れたモンスター ~
竜種:竜雀
脅威度:Fランク
生態:体長が15cmあるかないかぐらいの小柄な魔物。
茶と白の体毛、丸みを帯びた見た目がとてもかわいらしい。
基本的に40~50羽の群れを成して飛んでいる。
小さな虫や木の実、また他の魔物にはない特徴として魔素事態を食すことができる。
故にリュウスズメが住む地域は魔素が薄く、強力な魔物はほとんど生まれないために存在しない。
そして強い魔物がいないためにその地域の魔物は比較的弱く、リュウスズメが安全に過ごせる地域を作り出している。
自分たちの戦闘力が皆無で、真面に戦う力を持たないためにリュウスズメが編み出した生き残る術とされている。
実は、リュウスズメたちは魔素を直接食べる影響として、自ら保有している魔力量がそこらのドラゴンよりも遥かに凌ぐとされており、ドラゴンの中で一番の魔力量を保有しているとされている【妖精龍】の次に高いと言われている。
そして何よりも、リュウスズメの内に生まれる特異個体が存在し、その特異個体は精霊龍を上回るとされ、その脅威度はリュウスズメのFランクとは違い、Sランク認定のUランク指定されている。