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なんとやらの前の静けさ


「大分話が脱線したけど。エレオノーラ、さっきの僕の提案はどうかな?僕の旅の道中、きっと君の母国に立ち寄るつもりだから、それまで一緒にどうかなと思って。」


あれからフィリオラとの舌戦を繰り広げ、結果的に引き分けとなった後、エレオノーラに再度問いかける。

2人のやり取りに笑顔で見守っていたが、その間も考えていたようでヨスミの言葉を受けて静かに頷く。


「はい。今の私に選択肢はきっとないと思いますので・・・。暫くの間、宜しくお願いするのです。」

「わかった。出発はエレオノーラの体調が完全に回復した時にするよ。それまでゆっくり休むといい。」

「ありがとうです。・・・ごめんなさい、ヨスミ様。あなたの部屋のベッドを使わせてもらって・・・。」

「気にしなくていいわよ。ヨスミなら夜な夜などっかに出かけてるみたいだから。」

「え?あなた、一体どこに出かけているんですの?」


とヨスミがフィリオラに夜に出かけていることを知られて驚くよりも先に、レイラの驚く声が部屋に響く。


「ルーフェルースと一緒に見回りしているだけだよ。」

「見回りって・・・、一応この城にも巡回している兵士の方々がいらっしゃるのですよ?」

「ああ、知っているよ。見ているからね。でもこういう時の兵士たちは当てにならないことが多い。守るべきものは他人に任せず、自分で守ることが確実だよ。」

「ヨスミ、あなた本当に身内以外の人間は全然信頼していないのね・・・。」

「・・・・そうだね。僕は自分が認めた人間以外を信じることはできないよ。」

「あなた・・・。」


ヨスミはどこか困ったような笑みを浮かべる。


そうしてエレオノーラと話が付いたヨスミは立ち上がり、部屋を出て行く。

レイラはヨスミが出て行った後も、その扉をずっと眺めていた。


あの人はどうしてあんなにも人間のことを嫌っているのだろう・・・。

過去に何があって、人間に対してあそこまで負の感情を向けることになったのか・・・。


「本当に、わたくしはあの人のことをまだまだ知らない事ばかりですわ。」

「仕方ないわ。誰にだって、人に伝えられない秘密、伝えたくない闇を胸の内に秘めているものなんだから。だから私たちは待つしかないのよ・・・。」

「ぅー・・・。」


と、ここで雰囲気が少し下がってきたのを感じ取ったのか、ディアネスは今にも泣きそうな悲しい表情を浮かべていることに気付き、レイラが急いでディアネスを抱き上げてあやす。


「みなさんは、ヨスミ様のそうなった原因とかは知らないのです?」

「そうね~・・・。あの人は自分の事を全然話さないから。そんな相手に無理に聞くものじゃないでしょ?」

「フィー様も知らないのですね。わたくしたちがフィー様と出会った時にはもうすでに二人旅をしていらっしゃいましたし、色々と互いの事を知っている者かと思っておりましたわ・・・。」

「それがそうでもないのよ。ある日突然、ヴェルウッドの森に居てね。しかも疾蛇竜のルーフェルースを冒険者たちから庇っていたのよ。それが私とヨスミの出会いだったわ。それから私とヨスミは色々あって旅に出ることになって、今に至るのよ。」

「ある日、突然?」

「ええ。私の感知に引っ掛からず、突然ヴェルウッドの森に反応が出たの。これでも物覚えは自信があったのよ。それなのに、ヨスミに関しては見覚えもないし、これまでに見たこともない。まるで、ヨスミの持つ転移の力でどこからか突然あの場所に転移でやってきたとでも言わんばかりにね。私のこの旅の目的は、ヨスミの正体を突き止め、世界に害となす存在ならば私の全力を持って排除することよ。」


そう話すフィリオラの表情は真剣そのものだった。

本当に、この世界にとって害をなす存在だとみなされば、フィリオラは何の迷いもなくヨスミを殺そうとするだろう。


そんな気迫さえ感じさせるほどだった。

故に、レイラは決心する。


「・・・決めましたわ。わたくしのこの旅の目標を。」

「どーせ、私がヨスミと敵対関係になった時に、ヨスミを殺させないようにするんでしょ?」

「いいえ、違いますわ。」

「あら、違うの?」


予想外な返答に、フィリオラは少し驚く。

きっと、ヨスミに味方して私と戦うつもりなのだろうと思っていたが・・・。


「あの人が歩む道が外れないために、わたくしがあの人の道しるべになりますわ!」

「・・・へえ。逆に言えば、あなたを失うことになれば、ヨスミは簡単に世界に害をなす悪となるってことだけど?」

「わたくしは絶対にあの人を残して死ぬつもりはありませんわ。あの人に2度も大切な人を失う経験をさせるつもりなんて毛頭ありませんの。それに、約束も交わしましたから。絶対にあの人を1人にしないって。」

「あーい!」

「・・・そう。レイラちゃんとディアちゃんがいれば、ヨスミはきっと大丈夫ね。となると私はヨスミの正体を調べればいいだけになるから助かるわ。」


フィリオラはどこか安堵したようにため息を吐くと、そっと席から立ち上がる。

ドアの方へ向けて歩いていくその足取りは、どこか嬉々として軽く感じられた。


「あの人を闇堕ちさせるような事態にはならないよう祈っているわ。・・・ヨスミをよろしくね。」


そういって部屋を出て行った。

残されたレイラはディアネスをそっと抱きしめ、背中を摩る。


「それじゃあエレオノーラ。わたくしたちも出るわね。何かあったらそのベルを鳴らすのよ?」

「はい。何から何までありがとうです。」


そして一人残されたエレオノーラは窓の外に広がる大空を見る。

白い雲が漂い、鳥たちは優雅に飛び回る。


その後をルーフェルースが追いかけ、その尾に絡まった紐のようなものが絡まったユリアが引き摺られるように飛んでおり、それを助けようとユトシス皇太子が全力で後を追う様に焦った表情を浮かべながら全力で跳躍していた。


「うふふ・・・。本当にここにいると退屈しないですね。本当に、ここの人たちは全然違う・・・。みんな、どうしているのかな・・・?」


今は遠く離れた故郷を思い、目を閉じる。

記憶に残る色褪せた光景、母と弟の3人で幸せに過ごす日々が懐かしい。


どうして私は故郷を出て奴隷として過ごしていたのか。

私に一体何があったのか・・・。


それとも、私だけじゃなくて故郷である竜王国に何かあったのだろうか・・・?

もしそうだとしたら母と弟の身にも何かあったということになる。


何度思い返しても、この境遇を迎えた原因を思い出すことができない。

これほどまでに失われた記憶にもどかしさを感じることはなかった。


ただ、エレオノーラが望むことはたった一つ。

母と弟の3人で、またあの記憶の様に幸せな日々を過ごすこと・・・。






あれからエレオノーラが感知するまで7日ほどかかると思われたが、その半日の4日ほどで完全に完治した。


それまでに僕とアリス、シロルティアはEランクからDランク冒険者となり、その早い昇級に一部の冒険者たちから不正と疑われたが、直接彼らと模擬戦を行い、完膚なきまでに叩きのめしてからは誰も言ってこなくなった。


アリスとシロルティアはまだ手加減を加えて勝利したが、ヨスミは容赦ないほど徹底的に叩きのめし、そのために周りからはドン引きされ、一部の冒険者からは恐怖の対象として恐れられるようになったと聞いた。


本人は其処まで気にしておらず、むしろ変につっかかってくるような奴がいなくなったと逆に喜んでいた。


レイラはアナベラから受け取った刀の使い心地を確かめるためにハルネと模擬戦をし、時に父親のグスタフ公爵とも手合わせして刀の感触を確かめる様に立ち回っていた。


そして僕はディアネスを抱っこしながら、ルーフェルースと共に空の散歩をしていた。

それがどうにもこの子にとっては楽しいようで、目を大きく見開いてキラキラさせていた。


そんな様子がとても可愛くて、こうしてルーフェルースに乗せてもらって空を飛んでいる。

転移で空を飛ぶこともできるが、自由に空を飛ぶ感覚は味わえないためにこうしてルーフェルースに乗せてもらっているのだ。


それにルーフェルースもディアネスと共に遊ぶことが楽しいようで、いつも以上に張り切って飛んでくれている。


「どうだい?空を飛ぶという感覚は、とても気持ちいだろう?まるで自由になったような気分だろう?」

「ぅん!いぉいー!」


ディアネスも空を飛ぶということが楽しいようで、いつも以上にはしゃいでいる様子だった。

そんな姿をみて、ヨスミはどこか胸に来るものがあるようで、ディアネスの頭を優しく撫でる。


「そうかい、そうかい!いつしか君がなんらかの方法で空を飛べるようになった時、この感動をどうか忘れないで欲しい。パパとの約束だぞ?」

「ぅん!」


その時、何故かはわからなかったが、無意識に言葉がこぼれ出る。


「・・・また、アナスタシアの背に乗って飛びたかったな。」


風に紛れてボソッと呟いた言葉は、あっという間にかき消されて広大な青空に溶け込んだ。


「あぅ?」

「あれ、パパ―!何か言ったー?」

「ルーフェルースの背に乗って飛ぶのも悪くないなってね。」

「えへへ!パパに喜んでもらえて嬉しい!よーし、もっといくよー!」


ルーフェルースは更に速度を増し、この青空を飛びまわった。


その翌日、ヨスミは外で荷物を確認しながら待っていた。


そこへ準備を終えたディアネスを抱いたレイラと大きなマジックバックを背負ったハルネ、動きやすい衣装に身を包むエレオノーラとフィリオラがやってきた。


「お待たせしましたわ。でも本当にアリスたちはこないんですの?」

「そのようだよ。黒い森でまだ生まれたばかりのセイクウッドドラゴンを守るために暫くの間傍で守るらしい。まあ、エレオノーラを送り届けたらまたヴァレンタイン公国に戻るからそれまでの別れだよ。」

「そうですのね。それじゃあ・・・」

「ま、まってぇー・・・!!」


と声を荒げながら必死に走ってくるユリアの姿があった。

そしてそのまま勢いよくヨスミに向けて飛び、勢いよく抱きついた。


「ヨスミお兄ちゃん・・・もういくの・・・?」

「ああ。エレオノーラを送ってくるよ。ついでにこの世界のドラゴンを見て回ってくる。」

「・・・早く帰ってくる?」

「状況次第にもよるが、なるべく早く戻るようにするよ。」

「・・・わかりました。どうか、気を付けてくださいね。」

「ああ。ユリアも無理しないで、ユトシス皇太子と仲良くな。」

「はい・・・。いってらっしゃいませ、ヨスミお兄ちゃん・・・!」


ユリアに見送られ、ヨスミ達はエレオノーラを連れて竜王国オルドラオーンに向けて出発した。



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