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残酷な真実と改めて決心した目的


「・・・レイラお嬢様、いかがなさいましたか?」

「・・・・・・。」ボーッ


ヨスミ様に呼び出されてからずっとこの調子・・・。

きっとあの日渡されたであろう左手の薬指にはめられた指輪を一日中ずっと眺めてはただひたすら惚けたため息が口から零していた。


竜眼宝珠から発せられる魔力がまるで心臓のように脈打ち、本物の竜の瞳とも感じられる竜の瞳を模した縦長の澄んだ魔力結晶。


指輪にはめられている竜眼宝珠は、私が今までに見てきた中で最高峰の加工技術で仕上がり・・・。

一体この国のどこにあれほどの技術を持った職人がいたのか私ですら知り得ない情報・・・。


そんな竜眼宝珠がはめられた指輪の価値は計り知れず、値段なんて付けられるはずもない・・・。


まあ普通の人間ならレイラお嬢様のようにその指輪の魅力に取りつかれてしまうのも仕方がないことかもしれませんが、違う意味で己ここにあらずなお嬢様は寝起きの時も、朝食を取っている時も、お茶会をしている時も、お風呂をしている時も、そしてベッドに横になっている時もずっとあの状態・・・。


こんな日が3日も続けば、違う意味で心配にもなります・・・。


「レイラお嬢様・・・、ご飯が冷めてしまいます。」

「・・・うん。」

「はあ・・・。ほら、ディアネス様。一緒にご飯を食べましょうね。」

「あぃー!」


ハルネはとりあえず、ディアネスに刻んだお肉と野菜を一口様にまとめ、それをディアネスの口に運ぶ。


本来の赤ん坊であればまだ哺乳瓶か、離乳食辺りを食べさせるのが一般的なのだが、ディアネスはすでに普通の子供と同じ食事を取らないと栄養が足りなくなってきてしまうほどに成長なさっていた。


もしかして、このままだとあっという間に一人で歩けるようになったり、言葉を話す様になるのではないかと思うほどに、ディアネスの成長ぶりは著しいものだった。


「・・・そうですわぁっ!!」

「ひっ!?」


何の前触れもなく、突然声を上げて立ち上がるレイラに吃驚し、ディアネス用にまとめていた食事を取り零してしまう。


「れ、レイラお嬢様?いきなりどうなされたのですか?」

「わたくしも、あの人のために何か婚約用のアクセサリーを渡さなければ・・・!で、でもこんな素敵な指輪を超えるアクセサリーなんて、一体どこを探せばいいというの・・・。」


と最初は息まいていたレイラだたが、徐々にその難易度の高さに気付かされ、萎れていく。

テーブルにうっ伏すように項垂れる。


「・・・いつの間に、こんなものを用意してきたのかしら。わたくしのためにきっと色んな苦労をしてこの指輪を手に入れたって考えるだけでわたくしは・・・わたくしは・・・!はぁぁあ・・・・えへ・・えへへへへへ・・・」


明らかに人に見せられない、というよりも淑女のしてはいけない歪んだ笑みを浮かべ、小さな声で口から笑いがこぼれる。


そんな情緒不安定なレイラの様子が気になるようで、ディアネスが首を傾げて手を伸ばした。


「あーぅ?」

「いけません、ディアネス様。お母様のあんな表情を見てしまってはあなた様の成長の毒になってしまいます。ですから私と一緒にお部屋の外に出ましょうねー。」

「あいー!」


とハルネに抱き上げられ、そのまま部屋を出て行った。

残されたレイラは指輪を見ながら、あの日の光景を何度も思い返してはその度に淑女としてあってはならない表情と声が一日中ずっと食堂から聞こえていた・・・。






「それで、あれから体の調子はどうだい?」

「はい、皆さまのおかげで大丈夫なのです。」


ベッドに起き上がったまま、応対するエレオノーラ。

そして角や手足の鱗が綺麗になっているのも原因なのか、体の回復速度も上がっているようであれから随分と顔色もよく感じられる。


竜人は本来、他の亜人種と比べて飛び抜けた能力を持ち、まさに生物の頂点に君臨するドラゴンの血を受け継いだ亜人の末裔とでもいわんばかりの強さを持っている。


それは老若男女問わず全ての竜人種がその強さを持ち、大抵の相手には圧倒できるとされている。


そんな彼女も漏れなくそんな実力を秘めているはずなのだが、どうやら魔滅草という黒大陸(ノアルヘイズ)にのみ生えているという、周囲の魔素を破壊してしまうとされている草を奴隷前に煎じて飲まされたそうで、実力の1割にも満たないほど弱体化されており、また奴隷になっている間ずっと受けてきた暴力で体の内部が酷く損傷し、弱っていた。


今はフィリオラの治癒魔法と、ヨスミが取ってきた魔癒草を煎じた薬を飲ませている。

まあ、ヨスミの千里眼で根本的な原因となっている魔滅草の成分だけを見抜き、それを転移で取り除いているのも回復する要因の一つとなっている。


こういった使い方もできることがわかり、使い幅を増やせたことに喜ぶヨスミだった。


「それで、これからあなたはどうするの?」

「・・・帰りたいのです。私の、元居た国に・・・オルドラオーンに。」

「なら早く体を治さなきゃね。その調子なら後1週間もあれば完治すると思うから、帰るならそれからになるわ。」

「後、1週間・・・なのですね。わかったのです・・・。」

「なら、僕たちの旅についてくるかい?」

「・・・え?」


と、そこで唐突にヨスミはエレオノーラに提案する。


「僕の旅はね、世界中のドラゴンに出会い、友人になり、そして彼らが安全に暮らせるような居場所を作る事なんだ。でも、まさかすでに竜王国なんて、まさにドラゴンのためのような国があるとは思わなかったけどね。」

「・・・きっと、がっかりすると思うのです。ヨスミ様が思うような、そんな場所なんかじゃありません・・・。」

「まあ、あながちエレオノーラが言っていることも間違ってないわ。かつて魔王と行動を共にしたドラゴンたち。そんな彼らを人間たちが良く思わない事もわかるわよね?だから竜の血を引く竜人種は自らの国に籠り、他の国との交流を絶っている。彼らは自分たちを傷つける他の種族を心から毛嫌いしているのよ。同じ苦しみを持つ竜人だけを仲間と信頼し、家族と慕っているわ。」

「・・・なるほどね。」


通りで、ハクアを見る人間たちの目が異様だと感じるわけだ。


召喚者(テイマー)が使役する魔物たちも、ドラゴンを使役する人はほとんどいない。その強さは誰もが認めるけど、魔王に付き従う悪しき存在と昔からそう決めつけられ、たとえドラゴンを召喚できたとしても、契約を破棄し、別の召喚獣と結ぶほどにね。最悪、自身を満足させるために嬲って殺してから再度召喚獣を呼び出す人たちもいるわ。」

「・・・それを僕に聞かせてもよかったのか?」

「本当は聞かせるつもりなんてなかったわ。でも、今のこの世界の現状を、ドラゴンに対する価値観を知ってもらいたかったのもあるのよ。まあ、一部のドラゴンたちは人間たちに受け入れられているけどね。」

「・・・フィリオラの様に、か。」


その言葉にフィリオラは悲しそうに頷く。

きっと、フィリオラが竜母と言われる所以は、人間たちに理不尽な扱いを受けさせないように率先してドラゴンたちを助けてきたが故についた別称なのだろう。


「でも、レイラたちは随分とドラゴンに対して偏見をもっていないように見えただけど・・・。」

「それは、わたくしたちにとって”実力が全て”ですの。」


そう言いながら、レイラが部屋の中に入ってきた。


「レイラ・・・」

「だから、もっとも強きドラゴン種、竜人種という方々はわたくしたちにとって憧れであり、尊敬すべき存在で、魔王に付き従っていた忌むべき存在などではありませんわ。まあ、実際に竜人の方と会うのはこれが初めてだったから驚いた部分はありますけど、決して嫌悪感とかそういった負の感情を向けたことは一度たりとも御座いませんですのよ?」

「はい・・・、レイラ様にはとても良くしてもらって、本当に感謝なのです・・・。」

「そっか・・・。」


ああ、また一つレイラを好きになってしまった理由が増えてしまった。


「・・・レイラ、愛してるよ。」

「ひう!?ななな、なんですかいきなり・・・!!そんな、そんなの・・・わたくしだってぇ・・・」

「ちょっとヨスミ、いきなり惚気ないでくれる?」

「あわわわ・・・」


ついつい口に出してしまった言葉にレイラは赤面した顔を両手で覆いながらその場に座り込み、フィリオラは呆れかえり、エレオノーラはレイラと同じように顔を赤くしながら顔を覆うも、指の隙間からその光景をしっかりと目に焼き付ける。


「これが・・・、大人の、恋愛・・・というものですね・・・!」

「ダメよ、エレオノーラ。こんな2人の恋愛観を参考にしたら後で後悔するわ。」

「何を失礼な。言える時にしっかりと言葉にして伝えないと、いざというときに後悔することになるだろう?あの時、きちんと言えばよかった・・・、と。」

「場所とタイミングを弁えなさいって言ってるのよ!きちんと言葉にして伝えても、それが相手に響かなければ意味がないじゃないの!」

「愛してるって・・・わたくしだって・・・」

「・・・うふふ。」


ヨスミとフィリオラの持つ恋愛の価値観について討論し合い、その横で地面にへたりながらブツブツとヨスミに言われた言葉を何度も復唱し、そんな光景を見てエレオノーラの口からは無意識に笑みがこぼれていた。



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