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たった1人の男が彼女のために捧ぐ誓い

修正)とある小さな建物 → とある大きな建物


あれからヨスミと別れ、わたくしとハルネはヨスミの部屋へと向かっていた。

少し前に、ヨスミが見知らぬ誰かを連れ帰ってきたという情報を受けて、あの人が身内以外にそういった慈悲を与えるような方じゃない。


きっとユリアみたいに何かしら理由があって連れてきたということ。


だからわたくしは確かめなければならない。


「そう・・・、あの人間嫌いのあの人が連れてきた子を、わたくしは確かめなければ、ならないのですわ!」


そう言い放ちながら、ヨスミの扉を開ける。

そしてレイラの目に飛び込んできたのは、キラッキラに輝く角、艶やかな鱗の手足、傷1つない人間部分の潤い肌。


そこには、ベッドに上半身を起こしてディアネスと戯れる竜人の少女が、突然扉を勢いよく開け放ち、こちらを睨むレイラの瞳と瞳が合った。


そして、その場に膝を付き、そして地面に手を突く。


竜人(ドラゴニュート)・・・ッッッ!!!」


そして絶望と呆れが混じったレイラの絶叫が部屋に響き渡った。


「なぜ、なぜこの国にあの竜人がいるんですの・・・っ!確かに我が国は異種族交流が盛んですわ・・・、でも鎖国的で国の外にほとんど出ることがないとされる竜人がどうして・・・!でも、そのせいで完全に見落としておりましたわ・・・っ。そして何よりも、竜人ならばあの人は迷うことなく連れてくることを・・・。わたくしの一生の不覚、ですわぁああ・・・。」


そして突如泣き始めながら、地面を何度も拳を振り下ろす。


「れ、レイラお嬢様・・・!お気を確かに・・・!!」


そんなレイラの様子に見かねたのか、フィリオラが少し笑いながら慰めるように話す。


「安心なさい、レイラちゃん。ヨスミはこの子を女性としては一切見ていないわ。ヨスミにとってドラゴンというだけで、保護し、愛で、そして自らの庇護下にするほどのドラゴン馬鹿なだけよ・・・。」

「・・・確かにそうですの。あの人はどこまでもドラゴンに対しては全力ってことですわ・・・。」

「あ、あの・・・。」

「あーうぃ!」


ディアネスはレイラの存在に気付いたのか、一層目を輝かせながらレイラに向けて手をめいっぱい広げる。


まるで母親に抱っこでもせがんでいるかのように、曇り1つない潤沢な笑顔をレイラへと向ける。

そんなディアネスの姿を見て無意識に笑みがこぼれ、ディアネスの両脇下に手を差し込むとそのまま持ち上げて胸に抱く。


レイラに抱かれるのが心地よいのか、すぐにその重い瞼を閉じて寝息を立て始めた。

そしてディアネスが起きないようにベビーベッドへと寝かしつける。


ここまでやってようやく、レイラは彼女に心のうちに浮かぶ疑問を出来る限りぶつけた。


「わたくしはこのヴァレンタイン公国を治めし、わたくしのお父様が娘、レイラ・フォン・ヴァレンタイン公女ですわ。」

「私は・・・、エレオノーラなのです。あの国を出てから私はただのエレオノーラなのです。」

「驚きましたわ・・・。あの閉鎖的な竜王国からこうしてこの国にやってくる竜人の方がいたなんて・・・。」

「いえ・・・っ!」


思った以上にレイラのその問いに関して大きく、そして強めな口調で返してしまっていた。

それにはエレオノーラ自身もここまで強く言うつもりではなかったようで、言った後に顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「あの、その・・・。私にも、訳がわからないなのです・・・。確かに私は母と弟の3人で過ごしていたはずなのです・・・。」

「多分、この子に何かあって無意識に体の防衛機能が働いて、その記憶に関するものが強く封じられているみたいね。ただ、ヨスミからは”クズ共を喜ばせる道具として扱われているみたいだったから助けた”なんて聞いたし、たぶんエレオノーラは奴隷にされていたんだと思う。」

「竜人族を奴隷に、だなんて・・・。」

「そうね、一歩間違えてしまえば彼らの国との全面戦争になっていた可能性があるわ。だから彼女は奴隷じゃなくてこの国にお忍びに来た子という体で話しを進めていくわよ。」


特に異論はなかった。


実際にフィリオラが話していた内容はどれも間違っていない。

仲間思いの竜人族は、一度仲間が連れ去られたとあればその身が果てるその時まで報復しにやってくるだろう。


「でもそっか。あの人らしいですわ。まさか竜人族の方を連れてくるなんて。よっぽどドラゴンに愛されている運命なのですわね。わたくしだって負けられないのですわ!」

「いや、そこ張り合わなくていいわよ、全く・・・。」


そして、とある小さな女子会が行われ、互いの親睦を深め合っていた・・・―――――。






それからヨスミとはあの熱い抱擁を交わして以降、なかなか会えない日々が続くようになった。

あの時に交わした約束は今の所こなしてはいるが、それ以外での。そう・・・食事の時間でさえきちんと目を合わさずにすぐにどこかへ出かけてしまって・・・。


何かを隠すかのように、極力わたくしとの接触が少なくなった。


でも、わたくしを嫌ってそういうことをしているのではないことははっきりとわかる。

あの人がわたくしを抱きしめるとき、だんだんと抱きしめる強さが増しておりますもの。


そんな日々が流れて行って10日という時間が過ぎた。

ユトシスとユリアはいつものようにグスタフ公爵にみっちりとしごかれ、フィリオラはエレオノーラと共に行動を共にするようになっていた。


アリスとシロルティアはヨスミと共にEランク冒険者へと昇級でき、次のDランク冒険者になるまでもうすぐそこだという。


わたくしはハルネとディアネスの3人でディアネスに様々な事を教えていた。

まだ生まれて1か月ちょいしか経っていないのに、ディアネスの持つ学習能力はすさまじく、次から次に様々な知識を脳へと刻み込んでいた。


「・・・ハルネ」

「はい、いかがなされましたか?」

「わたくしたちの子・・・、もしかして”天才”というやつなのではなくて?」

「・・・そうですね。一般的な物差しで測れば、ディアネスはとても賢いと言えましょう。」


完全に親バカモードに入っているところに突然、扉のノック音が部屋に響く。

誰なのだろうと部屋の中に招き入れると、そこにはヨスミが何やら緊張した笑みを浮かべて部屋に入ってくる。


「あら、あなた。こんな時間にどうしたんですの?」

「その、だな・・・ようやく、僕の用事が終わったんだ。今、時間はあるかな?」

「ええ、だいじょうぶですけど・・・」

「そうか! すまない、ハルネ。ディアネスを頼む。レイラを少しの間借りるよ。」

「はい、いってらっしゃいませ。ディアネス様はどうか私にお任せください。」


そういうと、ヨスミは左手でレイラの手を取り、右手でレイラの目を覆い隠す。

目を隠されてよくわからなかったが、実際に部屋にいた空気がガラリと変わったのがわかり、きっと転移でどこかに連れて来てくれたのだろうと察する。


「着いたよ。」


その一言と共に、視界が広がったそこで目に映ったのものはとある大きな建物。

だが、その建物には聖なるマークと呼ばれる十字の紋様が刻まれており、のちにその建物は人々にこう言われるようになった。


「・・・町はずれの、大聖堂。」


一体、誰が何のために建てられたのかはわからない。

その聖堂はかつての失われた技術を持って建てられているようでいつもは頑なに閉まっており、これまでに様々な者たちがその建物に入ろうと試みたようだが、誰一人入ることは敵わなかった。


「・・・え、今わたくしたちがいるのって大聖堂の中?」

「ああ。さ、先に進もう!君に渡したいものがあるんだっ!」


まるで子供のようにはしゃぐヨスミに、自分の内に広がる様々な疑念は今は不要だと感じ、そっと胸の奥底に仕舞い込む。


色々と考えることはやめて、今はあの人がわたくしのために用意したものについて考えよう!

あの決して誰も入ることができなかったこの大聖堂の中にわたくしたちがいるのだとしたら、何かしらのお宝なのかしら?


それとも宝石とか?

正直、わたくしはそういったものはそこまで興味はありませんけど、あの人がくれるならばなんでも嬉しいですわ・・・っ


などと考えながら進んでいき、天井さえ見えないほどの大きな広場に出て、その中を進んでいく。


そしてとある場所まで来るとヨスミは立ち止まり、レイラの方へ向き直った。

その場に片膝を付き、レイラの左手にそっと触れて引き寄せた後、優しく薬指へ口づけをした。


「ひぅっ!あ、あなた・・・一体どうしたんですの・・・?!」


堪らずレイラはヨスミへと問いかける。


だがヨスミは一言もしゃべらず、ただ視線はずっとレイラの瞳を見つめたままだった。

そしてどこからか小さな箱を取り出し、レイラへと見せる様に差し出す。


「僕の気持ちをはっきりとさせたくてね。今までは口で約束してばっかりだったから・・・。」


その瞬間、レイラの胸が、心臓が一気に跳ね上がるのを感じた。


―――まさか。


「レイラ、こんな僕だけど、それでも僕を選んでくれるのであれば君を一生愛し続けると誓う。どんな時も君と共に居る。辛い時も悲しい時も、嬉しい時も、楽しい時も。どんなことだって君と共にこの人生を一緒に歩んでいきたいんだ。だから・・・僕と、結婚してください。」


その言葉と共に開かれた小さな箱に入っていたのは、レイラのために作られた、この世界でたった一つしか存在しない、美しく輝く青い竜眼宝珠(ドラゴンアイ)がはめ込まれた【指輪】だった―――――。



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