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思わぬ客


少女はどこか懐かしい夢を見ていた。


今は亡き母と共に、暖かな日差しが差す庭、その中央に設置されたガゼボ。

その中には机と椅子が備え付けられており、そこで私と母、そして弟と共に優雅なお茶の時間を楽しんでいた。


今でも忘れられない、母に向けられる愛しさが込められた視線を、楽しそうにはしゃぐ弟の笑い声を。

そんな2人に囲まれながら、私は手に取ったティーカップを口に運び、口いっぱいに広がる紅茶の甘さに幸せを感じる、そんな夢を私は見ていた・・・。





「・・・ぅ、ん。」


薬で喉が潰されているのか、彼女の口から掠れた声がこぼれる。


その声に気付いた一人の人間。

彼は最初、眼帯を付けていて、私にとても優しい笑みを向けてくれた。


なんでだろう・・・。

どうして私はこの人間にそんな視線を向けられると安堵した気持ちになるんだろう・・・?


恋とはまた違う私の胸に湧き出るこの想い・・・。

まるで、母様に抱きしめられた時に感じたものに似てる・・・。


「ぁ、れ・・・、わ、たし・・・ぃつ・・、寝て・・・。それに・・・ここ、は・・・?」


横になりながら、顔だけを動かして周囲を見渡す。

どうやらどこかの一室で、自分はとてもフカフカなベッドに寝かされていたらしい。


眼帯を付けた彼は彼女の腰と肩に手を置き、優しく上半身を起こしてくれた。


そして傍に置いてあった容器からコップの中へ何かを注ぎ、それを持ってやってきた。

差し出されたコップにはどこか薬草のような、でもすっきりとした匂いのする飲み物が入っていた。


「ああ、おはよう。さあ、これを飲んで。」

「ぇ、でも・・・」

「今の君には必要なモノだから。安心するといい。」


そう言われ、でもなぜか彼の言葉には信頼でき、自分たちを害する存在ではないとはっきり感じ取れる。


あんなにも人間たちには口にするのも憚れる酷い仕打ちを受けてきたというのに、どうしてこの男からは慈愛のような、暖かな気持ちになるんだろう・・・。


彼女はそのコップを受け取り、迷わずに口にする。


間違いなくこれは薬だ。

だが薬特有の苦みはなく、どこかスッキリとした味わいで不快感は一切ない。


それどころか飲んだ矢先に喉の痛みと体中の痛みが引いていき、さっきまで苦しかった痛みもなくなっていく。


「ぉ、いしい・・・です。」

「そっか、それはよかった。もう少し落ち着いたら体についた傷とかも治していこうね。」

「・・・はい。」


彼は飲み終えたコップを受け取って近くの台座に置いた後、再度彼女の頭と腰に手を添えて優しく横にするとそのまま部屋を出て行った。


1人残された彼女は未だに回らない頭で必死に考える。


どうしてあの優しい人は私を助けてくれたのだろうか。

何の目的があってあの窮地から救ってくれたのだろうか・・・。


今の私に差し出せる対価など持ち合わせていない。

持っているとしたら、このやせ細った鱗のある体だけ・・・。


でも人間の男たちは私の事は襲われなかった・・・。

前に一度、男たちに襲われて全裸にされたときはすごく怖かったけど、鱗の生えた体を見て私を襲わずにただただ暴力だけを振るうだけだった。


おかげで私は今でもそういった行為をすることなく過ごしてきた。

ただその代わりに暴力は酷かったけど・・・。


あの人は、私に何を求めてるんだろう・・・?


他の人間と同じように暴力を振るうのだろうか?

それともまさかこの体を求めているんだろうか・・・?


そう考えるもすぐに否定する。


あの人からそんな感じはしなかった。

他の人間の男たちのような、悍ましい瞳を向けるようなことはしなかった。


あの左目から感じられたのは慈愛と哀れみ、そして怒りの3つ。

どうして私にそんな瞳を向けてくれるのか、やはり何度考えても答えは出ない。


するとそこに、小さな赤ん坊を抱えた白桃色の長髪をした綺麗な女性が部屋に入ってきた。

近くに置いてあるベビーベッドへと赤ん坊を入れて頭を優しく撫でた後、私が寝ているベッドの方へとやってきた。


「それで、あんたが・・・あれ?エレオノーラ?」

「フィ、リオラ・・・様?」

「え、ちょっと待って・・・、どうしてエレオノーラがここに・・・。」

「フィリオラ様、こそ・・・なぜ人間種の町にいらっしゃるのです・・・?」

「それは、ヨスミと一緒に旅をしているからよ・・・。って、私の事はどうでもいいの!なんで竜王国の姫君がヨスミに拾われてるのよ・・・?!ってか、どうしたのよ・・・その輝きに満ちたその姿は・・・!」

「・・・ぇ?―――――」






いやぁー・・・、めっちゃ綺麗だったなぁー・・・。

もうこれでもかってぐらい輝いていたなぁー・・・、あの子の竜角!


最初出会った時は灰色で、ごく普通の竜角だったのに、あの子を介抱していた時に、角を磨いてみたらものすっごく透き通った結晶のような艶、そして青白く煌くそれはまさに竜の王冠とも言える丸みを帯びた形状・・・。


長年手入れしていなかったのか、形も若干アンバランスで少し歪なところもあったから僕が勝手にこれでもかと手入れしてあげたけど・・・。


いやぁー、やっぱりね。

僕は一目見た時、ビビッと感じたんだ。


あの竜角は磨けば光ると・・・!


それに手や足に浮き出ている鱗もボロボロだったから一枚一枚丁寧に磨いておいた。

我ながら良い仕事をしたと満足、満足!


それに、こうしてドラゴンの手入れをするのはとても懐かしい・・・。

あの子たちもああして僕が手入れすることを楽しみにしてくれていたし、喜んでくれていたからついつい熱がこもってしまった結果、太陽の光を反射するほどの美しさを身に付けてしまったんだよね。


「ディアネスももう少し成長したら綺麗にお手入れして、どんな存在よりも美しい我が子に生まれ変わらせてあげよう・・・!」

「あなた?どうしたんですの、そんなに嬉しそうにはしゃいで・・・。」


と廊下の向こうからレイラとハルネが歩いて来ていた。


「ああ、レイラ。いやなに、久々に僕の欲求の1つが満たされてね。それに少し昔の事の思い出が蘇ってきたんだ。」

「なんか言葉の一部に引っ掛かりを覚えますけど、それはよかったですわね。久々にあなたのそんな穏やかな表情が見れたような気がしますわ。」

「あー・・・、そっか。最近僕も色々と考えてたりしてたから、それが表情に出てたかも。」


最近はどうにも嫌な事が立て続けに起こるから、ストレスでも溜まってたかな?

まあ、そのストレスもあの奴隷狩りの奴らのおかげで多少収められたからまだいいけど・・・、それなら。


ヨスミは何か納得したかのように頷いた後、レイラへと歩み寄っていく。


いきなり近づいてくるヨスミに、

「あ、あなた・・・?どうしたんですの?」

と戸惑いを隠せずにいると、突然そのままヨスミに優しく抱きしめられた。


「ひう!?」

「・・・ああ、やっぱり落ち着く。」

「ああ、あなた・・・さま?!と、突然どうしたん、ですの・・・!?」

「僕が頑張れるために、こうして直接レイラ成分を補充してるんだよ・・・。」

「わたくし、成分の補充って・・・!そ、それに傍にはハルネが・・・」


とその言葉の後、ドゴォン・・という何かが破壊された音が周囲に轟く。


「ハルネなら、壁に頭を突っ込んで埋まってるよ?」

「は、ハルネぇー!?なにしてるんですのぉー!」

「ほごごご・・・ほご・・・ほおほごごご。」


壁に頭を埋めているため、ハルネが一体何を話しているのか一切聞き取れない。

それを機にヨスミは先ほど入りもより一層レイラを強く抱きしめ始める。


苦しくはない、むしろ心地よい締め付け具合に安堵と恥ずかしさが混ざり合い、顔を真っ赤にさせつつもレイラもヨスミの背中に手を回し、同じように抱きしめた。


「こうして君と抱きしめ合う時間もなかなか取れなかったね。そのせいでどうやら僕の心はどんどん不安定になっていったようだ。」

「・・・な、なら、その・・・て、定期的にこうして・・・抱きしめ合う、のも、いいのでは・・ないのかしら・・・?」

「・・・すごくいい。ぜひそうしよう!朝と寝る前に必ず、それ以外でもしたくなった時にはお互いに遠慮しないで思いっきり抱きしめるってことで、どうかな?」

「わ、わたくしは・・・それで、・・・構いません・・・ですわぁ・・・」


どんどん声が小さくなっていくレイラの姿に愛らしさを感じ、それを証明するようにレイラを抱きしめる力が少しだけ増した。


最初は恥ずかしがっていたレイラの表情だったが、すでに嬉しそうな笑顔に無意識に変わっており、お互いの心臓音を聞き、互いの温もりを感じ合っていた。


「もう、ユトシスったらずるいと思う!」

「ふふ、これで模擬試合では私の4連勝で・・・―――――――はっ!?」


とそこへ訓練を終えたユトシス皇太子がユリアと共に姿を現したが、ユトシス皇太子は一瞬にしてその場の状況を把握、直後ユリアの目を両手で隠し、そのまま方向を180℃変えてきた道を戻っていった。


「ちょ、ちょっと・・・!?いきなりなんなの!?」

「いやー、ちょっと魔力制御に関しては、私を遥かに凌ぐ姉弟子のユリアが上手ですので、私の魔力制御について少し見てもらおうかなと思いまして。」

「・・・わかった!わかったから!私の目を塞ぐ手をどけてぇ!」


ゆっくりと遠ざかっていく2人の足音を聞きながら、ヨスミはユトシスに初めて感謝する。

2人が来たことはどうやらレイラは気が付かなかったようで安堵した。


きっとこの状況を誰かに見られてしまえば、レイラはその可愛らしい顔をさらに真っ赤にして恥ずかしいと逃げてしまうだろうから―――。



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