表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/517

高まるそれぞれの思い


・・・はあああああああ、どうしてそうなるんだよ。

なぜ憎悪の視線をアイツじゃなくて僕に向けることになるんだよ・・・。


これだから、これだから人間は嫌いなんだ・・・!!


「あの、すみません。見殺しにしたってどういうことですか?」

「・・・見殺しも何も、君たちには僕がどのように見える?回復ポーションを持ち歩くほどの熟練冒険者に見えるか?それとも回復系のスキルが使える神官に見えるか?」

「・・・いえ。」

「嘘をつくなよ!ペーターは吹き飛ばされた後もまだ息はあったんだ!それにその腰にぶら下げているそれはマジックバックだよな!その中にきっと回復ポーションを入れてて、使うことを渋ったんだろう?」

「・・・はあ。あんな状態で吹き飛ばされた人間が多少なりとも生きていたと普通に思うか?」


どう見てもあの状態は即死だ。

きっと、棍棒で殴りつけられた瞬間にはもう死んでしまったのだろう。


だが、彼らの内に湧き上がる疑念が、その答えを簡単に隠してしまう。


「ですが、同じ冒険者であるならば少しは助けようと動こうとはしてくださらなかったのですか・・・?」

「あんた、本当にペーターさんを見捨てたの・・・・?」


まあ、正直に言えば見捨てようとしたのはペーター方じゃなくて、むしろ君たちの方を見捨てようとしたんだけどね。


まあそんなことを言ったら火に油を注ぐようなものだし・・・。


ヨスミはめんどくさそうに深いため息をつく。

それが癪に障ったのか、格闘家の彼女はヨスミに殴りかかろうと一気に近寄る。


「バレッサ、やめろっ!」


とレンジャーの彼が殴りかかろうとするバレッサと呼ぶ格闘家の彼女を抑える。


「離せ、シジェル!アイツはもしかしたら本当にペーターさんを見捨てたクズかもしれねえんだぞ!」

「冒険者同士でのやり合いは禁足事項だ!あの勢いで殴っていたら、バレッサのギルドクリスタルはレッドになるんだぞ!」

「・・・ちっ!」


と恨めしそうにヨスミを睨みながら大人しくなる。

ヨスミはそんなバレッサを冷たい眼差しで睨み返し、その瞳にどこか恐怖を覚えたのか、バレッサは一瞬体が硬直する。


「んで、これで3回目だ。僕を急に呼び止めてあんな脅しまでかける理由はなんだ?」

「てめえの肩に連れてるチビトカゲとそのマジックバックを寄越せ。そしたらここで起きたことは見なかったことにしてやるからよ・・・。」

「・・・・・・。」

「ベドウさん、それはさすがに・・・」

「考えてもみろよ?ペーターの野郎は死んで、その穴埋めのために別の冒険者をパーティーに誘い込まなきゃならねえ。それに目標だったトロールだって討伐できずに逃げてきたんだろ?なら金が必要になるよなあ?」

「いえ、トロールなら倒しました。」

「・・・へ?」


とここで討伐の証として、トロールの魔核をベドウに見せる。

さすがに予想外だったのか、一瞬目が泳いでいたがすぐに調子を取り戻したようで醜い笑みを浮かべる。


「だとしても金が必要だよなあ?だからそのチビトカゲをバラシて素材を売れば良い金になるし、マジックバックの中身も使えるもんそのまま俺たちで使えばいいしよぉ!てめえもここで起きたことはなかったことになるし、互いに良い結果じゃねえか!」

「・・・。」

「それは・・・、そうかもしれませんが・・・。」

「別にいいんじゃない?あんな奴が持ってたって、ろくな事に使わないだろうし、その肩にいる魔物だって見るからにいい素材に・・・」

「バレッサ!!」


とここでシジェルが叫び、バレッサはとある違和感に気が付いた。

先ほどの冷たい視線とは打って変わり、ヨスミから向けられる視線が殺意に変わっていることに気付いた。


「・・・ああ、やっぱりここで全員殺しておけばいいか?そしたらもう絡んでこなくなるよな?」


それも並々ならぬ強烈な殺意。

その視線から感じる恐怖と絶望に立つ事さえままならなくなり、その場にいた全ての冒険者たちはまるで全身が麻痺してしまったかのように動けなくなっていた。


「ぇ・・ぁ・・・・」

「ひ・・・ぃ・・・っ」

「ぅ・・・ぐ・・・」

「ひぃぃ・・・・?!」

『だめ、オジナー!!』


とハクアは叫びながら急いで翼でヨスミの顔を抱擁するかのように隠し、一生懸命に抱き着いてくる。

突然ヨスミを襲うハクアたんからの抱擁に、先ほどまで抱いていた憎悪と殺意が徐々に下がっていくのを感じた。


あのままハクアが何もしなければ、次の瞬間にはあの冒険者たちは死んでいただろう。


とりあえず、今はなんとか収まった。

だが、それだけだった。


どーしよう・・・、オジナーすっごく怒ってる・・・。

わたしがわがまま言ったからこんなことにオジナーを巻き込んじゃって・・・


「(なんなんだよ・・・!! 冒険者ギルドで見かけた別嬪の女には全く相手にされねえし、昇級試験も不合格になって、ムシャクシャしてんのによぉ・・・)」

『みんな、怒る相手間違えてるのー!オジナーじゃないの!そこの悪い人間なの!オジナーはみんなを助けるために、あのおっきな魔物さんを弱らせたの!』

「・・・え?」

「まさか、急にトロールの動きがおかしくなったのって・・・」

「うそ・・・」

『だからきちんと考えるの!誰が悪いのか、誰が良い人なのか!それで・・・あの・・・っ!』

「もういいよ、ハクアたん。もういい。僕のためにありがとうね。帰ろうか・・・。」

『・・・うん。』


そういうと、ヨスミは涙目になりながら必死に話すハクアを優しく宥め、再度彼らを冷たく睨んだ後、ゆっくりと歩き出した。


去り際に、

「名前と顔は覚えた。」

と言い残し、カーインデルトの帰路についた。


責任転嫁で己に向けられた怒りと憎しみを別の標的に移し、更には金品巻き上げようって魂胆か。

確か、名をベドウと言ったか。


考えるのを放棄して、湧き上がる激情を今すぐにぶつけようとしたあいつ等もあいつ等だが、ベドウだけは決して許さない。


ハクアたんをバラシて素材・・・?

よくも僕の前でそんな発言ができたものだ・・・。


機会があれば、殺そう。絶対に殺そう。

僕にとっても、冒険者ギルドにとっても、アイツの存在は許しておけない・・・。


―――――絶対に。






この依頼は、ここから少し離れた場所に目撃されたトロールの討伐だった。

高い再生能力を持った魔物で、またその一撃の強さはオーガに近いとされている。


これでもあたしらはBランク冒険者だ。

それに以前にも狩った事のある魔物だったこともあり、油断してしまっていた・・・。


最初の一撃でペーターさんの盾が大きく歪んでしまい、それを見たベドウさんはあたしらを置いて逃げ出した。

そんなベドウに気を取られたペーターさんが次の攻撃を真面に受けてしまって吹き飛ばされた。


でも、突然トロールが体勢を崩して倒れたから攻撃のチャンスとして頭と首を潰して勝つことができた。


急いでペーターさんの治療を受けに行ったら、逃げたはずのベドウさんが知らない誰かと絡んでいるのが見えた。


そして話を聞けば、ペーターさんを見殺しにしたと言い張っていた。


あの攻撃は普通に考えれば即死・・・。

でも、あの時のあたしたちに何かを考える余裕なんてなかった・・・。


そして、結果的にああなった。

残されたあたしたちはベドウの件について、冒険者ギルドに戻り次第報告することに。

遺体の回収もままならない状態となってるペーターさんの亡骸を油を染み込ませた布で包み、ギルドクリスタルを回収した後に火をつけて燃やした。


喋るドラゴンは、とても高い知性を兼ね備えていると聞いたことがある。

彼は召喚士なのだろうか。


でもあの人が向けてきたあの瞳はとても恐ろしかった・・・。

もう二度と関わり合いになりたくないと願ってしまうほどまでに・・・。


あれから陽は完全に沈み、あたしらが冒険者ギルドに到着できたのは夜を迎えてからだった。


冒険者ギルド内は何やら慌ただしい。

なんでも、【迷宮】化した洞窟がみつかったとのこと。


今度はそっちに挑戦してみるのもいいかもしれないわね、と仲間たちとあの件以降久々に談笑しあった。


そしてベドウの件と、亡くなってしまったペーターさん、その亡骸の位置を伝えてあたしらの任務は終わりを告げた。


とりあえず酒場で何か食べようと話になり、2階から降りた先でとある人物の後姿が目に入った。


この公国を治めるグスタフ・フォン・ヴァレンタイン公爵殿下の実の娘であり、先日Aランクに上がったばかりのレイラ・フォン・ヴァレンタイン公女様がそこにいた!


あたしの憧れであり、目標・・・!


出来ればお近づきになりたいところ・・・・!


と思っていた時、レイラ公女様と共にいる存在に目が行く。

あれはあの時、肩に小さなドラゴンを乗せた男だった。


なぜあんな奴がレイラ公女様の傍に・・・!


そう強く男を睨むと、その視線に気づいたのか、その男と目が合ってしまった。

赤く不気味に光る魔王の瞳、その瞳の奥に感じる底知れない絶望に全身が飲まれ、その場に座り込んでしまった。


あんな危険な男が傍にいたら危ない・・・!

何とかしないと・・・!!


そう思っている時、バレッサの肩を誰かが叩く。

振り向くと、怖い顔をしたレンジャーのシジェルと神官のパドリックがいた。


「これ以上、彼に関わるのは止めろ。本当に死ぬぞ。」

「で、でもレイラ公女様が・・・」

「俺たちが何かできると思ってるのか?あれを受けて、まだお前はアイツに関わろうとするのなら、俺は抜ける。」

「え・・・」

「私も同じ意見です。彼らには関わらない方がいいでしょうね。我らの身の安全のためにも・・・」

「・・・・わかっ、た。わかったわよ・・・。」


でも見ていなさい・・・。

いつか実力を付けたら必ず、レイラ公女様からあの男を引き剥がしてやるんだから・・・!!


そう心に誓うバレッサだったが、彼女は気づかなかった。

自らの首に掛けられた目に見えない糸の存在に・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ