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向けられる疑念


洞窟の調査を終え、カーインデルトの冒険者ギルドへ帰路についていたヨスミとハクア。

とても楽しそうに談笑と挟みながら、街道らしきところまで出ると遠くの方で戦闘音が微かに聞こえてきた。


どうせ冒険者たちが戦っているんだろうと気にも留めずにはいたヨスミだったが、突如目の前を何かが高速で通り過ぎて行った。


何事かと飛んでいった先の方を見ると、体中がぐちゃぐちゃに折れ曲がっている冒険者だったモノがそこに転がっていた。


「相手が悪かったかな?まあ、身の程を知るのも勉強の一環ってことだね。」


ここが異世界物の小説内で、主人公の立場であれば迷わず助けに行く場面。

実際にハクアも困ったような顔をしてヨスミの顔を覗き込む。


『オジナー、助けにいかないの?』

「そうだね。今ざっと転移窓で様子を見てみたけど、戦っている冒険者たちの中には見知った顔はいなかったし、助ける義理もないからね。それに、もし助けに入ったとして後から横取りだーなんて言いがかりを付けられたら面倒だし。」

『オジナー、すごい冷めてるのー。』

「当たり前だろう?冒険者なんだ。己の力量さえ計れない奴が無謀な相手に完膚なきまでに叩きのめされるのは世の理なんだよ。もしそこで生き延びれたとしたら、その失敗を糧に更なる成長が見込めると思うし。まあ、生き残れたらだけど。」


この男はとことんなまでに人間を毛嫌いしていた。

身内にはあんなにも命を懸けるほど全力で助けにいくというのに、赤の他人ともなればざっくりと見捨てるほどの冷酷さを見せる。


『・・・本当に助けないの?』


だがどうやら我らがハクアたんは不満らしい。

以前、人間に酷い目に合わされた癖に、それでも人間たちを助けようとする。


ハクアはチラチラと、激しい戦闘音のする方を心配そうに見ていた。


「・・・はあ。わかったよ、ハクアたん。」

『・・・っ!オジナー好きー!』


一体このお姫様はどうしてそこまで人間に惹かれているのかねぇ・・・。


と微笑ましく思いながら転移窓を再度展開し、状況を再確認する。

戦っている相手は薄い緑色の肌に大きな肥満体型をした大男のような存在。


手には巨大な棍棒が握りしめられており、先ほど吹き飛ばされた冒険者はあの棍棒に全力で殴られたと見える。


冒険者たちの方は弓を扱うレンジャー、神官、そして格闘家の3人だった。

トロールの足元には変形し、ひしゃげた木製の大楯が転がっていることもあり、あの冒険者は前衛で盾役だったのだろう。


幾つか傷を付けられるたびに、ゆっくりではあるが傷が塞がっているところを見ると自己再生能力が高いと見える。


魔物の名称はわからないため、勝手にトロールと命名。

次に千里眼越しにトロールを見て弱点を看破し、一般的な生物と同様頭と心臓を潰されたら死ぬという事がわかったところで、転移を使って腕の骨、そして足の骨の一部を地面深くへ転移させる。


直後、トロールは棍棒を振ろうとしたが、骨がなくなってしまった腕では真面に奮うこともできず、手からすっぽ抜けて自分の頭上に落ちる。


鈍い音と共に大きくよろけるも、足の骨の一部が消えているためにその巨体を支えることができずにそのまま転倒。


冒険者たちはいきなり何が起きたのか理解できずにいたが、すぐさま状況が好転したのだと理解すると一気に頭に攻撃を畳みかけに行った。


「ここまでやればもう大丈夫だろう。」

『オジナー、ありがとなのー・・・。』

「ハクアたんに悲しい顔をさせたくはなかったからね。大丈夫だよ。」


と自分のせいでヨスミに手間を増やしてしまった事を理解しているのか、申し訳なさそうにヨスミの頬に頭を擦る。


よしよしと頭を優しく撫でながら、今度こそ帰ろうとした時、

「おい、あんた!」

と背後から声を掛けられた。


だがヨスミはその声を無視してその場を後にしようとした。


「おいおい、無視すんなよ!」


と背後から一気に近寄られる気配を感じ、掴まれそうになった瞬間に転移して数m先に飛ぶ。

背後から間抜けな声が聞こえた後にドサッと倒れ込むような音が聞こえた。


「だから、無視すんなって言ってんだろうがっ!」


と怒声のような声が聞こえ、深くため息をついた後に仕方なく声の方を振り向いた。

そこには予想通り、転んで倒れてしまったのか、地面に手と膝を付いた男がこっちを睨む姿があった。


「おめえ、良い度胸してんじゃねえかよ。」

「はあ・・・、それで僕になんのようだ?」

「いんや?その肩に乗せてるチビトカゲについて聞きてえだけだよ。」

「あ?」


一瞬、殺気を込めた言葉で返してしまった。

だがそんな様子に気付かない男はゆっくりと立ち上がると、何か企んだような表情を浮かべながらゆっくりと近づいてくる。


「おめえ、さっき目の前を吹き飛ばされていった冒険者の事、見殺しにしただろ?」

「見殺し・・・?それってアイツのことか?」


そういって、先ほど飛ばされてグチャグチャになっている冒険者の方を指さす。


「わかってんじゃねえかよ。あ~あ、まだ生きていたのにてめえが何もしないで見捨てたから、アイツは無残にも死んでしまったんだぜ?」

「だからなんだ?お前は何がいいたい?」

「瀕死の冒険者を平気で見殺しにするクズな野郎だ~なんて噂が立っちまうかもなあ?」

「お前、会話は初めてか?会話のキャッチボールはきちんと返せってママに教わらなかったか?ああ?」

「・・・おめえ、ほんとイラつかせるなあ。」


男はいらだった様子で腰に差してある2つの短剣に手を掛ける。


「頭が胡桃の前にも分かりやすく教えてやる。お前は、一体、僕に、何を、求めている?それの返事を返すだけの簡単な会話だろう?それすらも出来ないのか?」

「・・・ッッッ!!」

「あれ、ベドウさん・・・どうしてそこにいるんですか?」


とここに先ほどトロールと戦っていた冒険者たちがやってくる。


「あんた・・・っ!!」


と格闘家の冒険者がベドウと呼んだ男へと掴みかかるように詰め寄った。


「あんたが一目散に逃げたせいでペーターさんがやられちゃったじゃない・・・!!」

「ああ?んなもん知らねえよ!トロールの攻撃を真面に防げないあいつが悪ぃじゃねえかよ!盾役がやられたら次に狙われるのは俺たち前衛なんだぜ?逃げて当たり前だろうが!」

「そのためにも、的確にトロールの攻撃力を削ぐために我々が上手く立ち回る必要があるのですよ!それなのに、ペーターさんがやられそうになったからってすぐに逃げ出すなんて・・・。」


まあよくある話だな、これは。

結局、パーティーを組む上で必ず直面するのが互いの信頼度に関する問題だ。


パーティーを組んで戦うということは、仲間に自らの命を預けるという事。

仲間の1人が犯した1つのミスで、自らの死に直結しかねないそれは、よっぽどの事情でもなければ簡単に信用することは難しい。


きっと、あの吹き飛ばされた冒険者・・・ペーターを含めた4人とあの男は今回が初めてのパーティーなのだろう。


どこまで互いに信用できるかのすり合わせをしっかり行っていなかったために起きた結果が今のこの惨状だ。


正直、これ以上関わるとろくなことが起きない。

部外者である僕はさっさと退散するに越したことはないな。


と、その場から離れようとした時、


「あ、アイツがペーターの野郎を見殺しにしなきゃ、奴は助かってたんだ!」

「え・・・?見殺しって、あの人が?」

「一体どういうことです・・・?」


全ての注目を一身に受けるヨスミ。

その瞳は疑念と少しの殺意が込められていた。



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