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布石


『ねえ、オジナー。ここには何しにきたの?』

「ん?ああ、とある用事ついでに洞窟内の魔物退治にな。」


ヨスミはハクアを連れて、カーインデルトから北に位置する山、その中部辺りにある洞窟へとやってきていた。


依頼内容は洞窟内に巣食う魔物、ゴブリンと思わしき痕跡があり、その調査を御願いするというものだ。

正直、僕にとっては楽な依頼の1つである。


だが僕の目的は別にある。


「それじゃ、まずは依頼から先に済ませようか。」

『どうするのー?』

「こうするんだよ、千里眼っ」


千里眼で洞窟内を見てみる。

【浅層】は分かれ道も少なく、そこまで複雑な構造ではない。


だが【中層】からは枝分かれした道が増え始め、所々に【深層】に繋がる落とし穴のような吹き抜けが幾つか点在していた。


【深層】は【中層】よりも複雑な構造にはなっていたが、その全ての道の先は一つの大きな広場に通じていた。


多分そこにこの洞窟の親玉みたいなのがいるんだろう。

それがどんな魔物であろうとも興味はない。


依頼の難度はFランク。

調査するのは【浅層】のエリアのみ。


【中層】まで調査する場合は必ず冒険者ギルドに連絡を入れ、引率役2人以上を同伴させることが条件となる。


この千里眼で得た情報を元に調査を進めればそれだけでこの依頼は完了となる。


まあ、そうはいっても僕の用事は【深層】にあるため、【浅層】だけで済むとは思っていなかった。

とりあえず、洞窟内の至る所に小さな転移窓を展開し、内部の様子を探る。


「・・・やっぱりゴブリンか。」

『蜘蛛もいるよー?』


さしずめ、洞窟小鬼(ケイブゴブリン)洞窟蜘蛛(ケイブスパイダー)ってところか?


なんともありきたりなネーミングなのだろうな、僕の思考は。

まあ分かりやすければそれでよしにしよう。


それよりも・・・


「・・・共生しているのか?蜘蛛の背に乗って移動しているとか、どんな生態系だ?」

『何かおかしいの?』

「ああ、少し思う所があってな。もう少し探ってみよう。」


ケイブゴブリンとケイブスパイダーの共存に関して転移窓を使い、調査を進めていく。

そしてわかってきたのは、ケイブスパイダーはどうやら陽の光に弱いらしく、【浅層】であってもとても嫌がるのだとか。


そのため、【中層】以降にしか存在せず、獲物も取りずらい。

それを解消してくれているのがゴブリンたちってことになる。


【浅層】にやってきた動物や人間たちを襲い、家畜、または増殖するための苗床にして【中層】まで連れて行き、動物たちはある程度の肉を剝ぎ取り、残った部分を蜘蛛たちに分け与える。


そして骨だけになったそれをゴブリンたちに返し、それを武器や防具に加工して自身に装備。

また苗床になった人間たちが使い物にならなくなった場合も同様の扱いをしているそうだ。


その場合は肉は剥ぎ取らず、そのまま蜘蛛たちへ差し出しているようだ。


餌をくれる代わりに蜘蛛たちも、背中・・・基腹部に乗せて【中層】から【深層】までの吹き抜けになっている部分を移動したり、抜けたり折れたりした毒牙を渡したりしている。


「なるほどね・・・。色々と理にかなっている共存ってことか。だがここまで頭のいいゴブリンたちはかなり厄介になりそうだな・・・。」


ケイブスパイダーの情報は【中層】以降でしか手に入らないから、本当だったら怒られそうだが・・・、まあこの能力ありきで安全らくらくな調査だし、さほど問題はないだろう。


さて、もう一つの目的のモノは・・・、まあさすがに【浅層】にも【中層】にもないよな。


「となると【深層】にあるとは思うけど・・・。」


とりあえず、2つの層に展開した窓はそのままに、【深層】の窓の数を増やして目的の物を探す。

だが、いくら探してもどこにも見当たらない。


「確かにここにあるって聞いたんだけどなー・・・。」

『オジナー、何探してるのー?』

「ああ、竜鉱石って呼ばれる鉱石だよ。澄んだ青色に輝く・・・いわば宝石だな。原石のそれを加工していくとまるで竜の瞳のような痕が宝石内に現れるそうなんだ。だが、加工難度は非常に高いらしくて、少しでも失敗すると竜の瞳は出現しない。何とか加工できたとしてもうっすらと見える程度。完璧な仕上がりであればあるほど、中の竜眼はくっきりと表れるそうだ。」

『へー、そうなんだ!おもしろーい!』

「だろう?!竜の名を冠した宝石なだけに、難度も、その完璧な仕上がりに魅せる美しさも半端じゃないらしいからな。ぜひ、お目にかかりたいと思っていたところだったんだ・・・!」


完璧な仕上げを解くしてくれる職人との出会いはまだないが、必ず見つけ出してその完璧な仕上がりを眺めるのだぁ・・・


『・・・オジナー、大丈夫?』

「え?あ、ああ!大丈夫だ。でもそれにしたって中々見つけられないな・・・。」


うーん、やっぱり千里眼で対象を竜鉱石に固定してから再度洞窟全体を見てみると、確かに反応があった。

だがその場所というのは・・・


「・・・【深層】のあの無駄に広いエリア、つまりボスエリアってところか。」


わざわざそのエリアに繋がる通路はたった一つ。

しかも無駄に装飾の凝った扉まで設置されている始末・・・。


・・・・うん、扉?

ただの洞窟に扉があるのか?


「超奇跡的な確率で自然に作られた石の大扉・・・、はさすがに無理があるよな。となるとこういった光景は一つの結論にしかたどり着かないが、つまりはそういう事なのだろう?」


でももしかしたら、こういった大広場の前に扉が備え付けられた洞窟がこの世界の基準であり、ただの普通の洞窟はこの世界には存在しない可能性だってある。


「なあ、ハクアたん。【迷宮(ダンジョン)】って知ってるか?」

『うん、知ってるのー!』

「なら、ハクアたんの知ってる知識を僕に教えてくれない?」

『いいよー!【ダンジョン】ってのはね!魔物たちがいっぱい集まるとだんだん魔素が濃くなっていくの!そして一番濃い所にいると、一匹の魔物が濃くなった魔素を吸収して進化するんだよ!そして生まれ変わった魔物が外に出ないように大地の妖精たちが魔法で作られた封印の扉を作って閉じ込めるの!そしたら【ダンジョン】の完成なの!』


ふむ、この世界でのダンジョンの発生条件としては、

1,一か所に複数の魔物たちが集まる

2,それが続くと特定の一か所に魔素が溜まっていく

3,それを吸収した魔物が進化する

4、その魔物が外に出ないように大地の妖精とやらの存在が魔法で扉を作って封印を施す

ってことになるのか。


となると自然と考えられるのが、他の魔物たちは何もしないわけではないということ。

きっと、封印されてしまった仲間、もとい自分たちの親玉を助けようとする可能性が高い。


でもどうやって?


きっとその封印の扉は強固に作られているはずだ。

ちょっとやそっとの力じゃ破壊もできないだろう。


何せ、中に閉じ込めている魔物でさえ打ち破れないわけだからな。


「・・・数を増やして魔素を濃くし、どんどん進化させて強力な個体を作り、外と中から同時に破壊して外に出る。増えすぎた個体は洞窟内に留まれず、強力な個体が多いために普通の餌で満足も出来ないし、何より餌の量が足りないため、直接外に出て襲うようになる。そして起こる事象が【魔物の氾濫(スタンピード)】・・・ってことか?」

『さすがオジナー!その通りなの!ママからはそう教わったの!』

「なるほどな・・・、となるとあの洞窟は今ダンジョン化して間もないみたいだからそこまで危険性は薄いとは思うが、放置すれば間違いなく危険だな。これも調査結果として報告せざるを得ない。」


報告としては洞窟内にはケイブゴブリンとケイブスパイダーがいることと、洞窟自体が【ダンジョン】化しているから近いうちに討伐体を組んで【ダンジョン】を攻略する必要があること、ぐらいでいいだろう。


なんともまあ面白い仕組みだこと。

この異世界にはきちんと【ダンジョン】が存在していることに感動を覚えるよ。


僕が読んできた様々な作品の中で存在する【ダンジョン】の扱いは様々で、【ダンジョン】そのものが町として存在するモノもあれば、魔物たちが存在するための苗床のようなモノまである。


となると、ここでの【ダンジョン】の扱いは封印の間、”厄災を生み出す種子”ってところか。

なんとも物騒なことで。


「・・・あ、もしかしてあれが竜鉱石か?」


と転移窓で封印の扉をじっと見ながら、別の転移窓をちらりと見た時、奥の方で一瞬光った石。

よくみると深い青色をした結晶のようなものが生えた鉱脈がそこに見えた。


「多分これで合ってるよな。となるとどうやってこれを回収するべきか。」


普通に転移を使ってここに移動させればいいとは思うが、見えないところで地面奥深くまで繋がっており、それを転移で移動させた場合に発生する空洞が、その洞窟にもたらす影響の事を考えると安易に使うことができない。


実際に千里眼で見た時、多少なりとは言え壁の中、そして地面へと広がっていたため、転移で持ってくることができない。


「となれば、見えている部分だけでも転移で持ってくるか。」


と地面から生えている部分だけを範囲指定し、自分の足元に転移させる。

次の瞬間、足元にゴロリと転がる大きな鉱石の塊を先日魔道具店で購入した小型のマジックバックの中へ収納する。


「これくらいなら多分影響はないだろうし、これで任務は終了だ。さ、帰ろうハクアたん!このままオジナーと色々回って遊ぼうじゃないか!」

『わーい!』


と、洞窟内に展開させていた転移窓を全て閉じ、その場を後にした。


だがその時、その転移窓から一匹の蜘蛛が隙を見て出てきてヨスミの服の中に隠れたことに気付くことはなかった。



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