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交差する思い


「ああ。ちょっと右目がね。気持ち悪いことになっちゃって、フィリオラに頼んで少しばかり隠してもらうことにしたんだよ。」

「気持ち悪いことって・・・」

「あ、あの・・・ハルネちゃん?その人は?」

「ああ、そうでした。」


と、メリンダとギルド職員にヨスミの事を紹介する。


「こちらはヨスミ様、レイラお嬢様の婚約者の立場であらせられます。」

「うっそ、レイラちゃんに恋人が出来てたの?!」


恋人宣言を受け、一番いいリアクションをしてくれるメリンダ。

屈強な見た目に反して、女性のような仕草をし始めるメリンダの姿にヨスミは何かを察したのか、無意識に剥けていた警戒心を解く。


「紹介に与かったヨスミだ。冒険者ランクはまだFランクではあるけどな。」

「そう、あなたが・・・。」


そう言いながらヨスミの頭からつま先までじっくり舐め回すかのようにじっとりとした目で見まわす。

困惑した笑みを浮かべながら、無害アピールとして両手を軽く上げた。


そして勝手に何か納得したかのようで頷いた後、ヨスミの両肩に手を置く。


「あの子をどうか幸せにしてあげてちょうだいね!」

「・・・ああ。もちろんだよ。でも驚いたな・・・」

「あら、何か変な事でも言ったかしら?」

「いや、てっきりFランク程度の実力しかない奴がレイラの恋人だなんて許さない!みたいなことを言われても仕方がないと思っていたからさ。そんな風にすぐに認めてくれた事にね。」

「これでもあたしは人を見る目はあるのよ。あなた、一度愛した人にはとことん尽くすタイプね。それこそ自分のことは二の次にしちゃうほど。ここに来たのだって、いつまでも戻ってこないレイラちゃんに会いたくなったから来たんでしょ?」


自分の事はよく知らないが、大体は当たっている・・・のかな?


「そりゃあ、自分を選んでくれた相手を最大限尊重し、何よりも大切にするのは最低限の礼儀というものだろう?」

「それで最低限なのね・・・。最大限になれば一体どれほど重い愛となっているのかしら。そこまで大事にされているレイラちゃんがちょっぴり羨ましいわね・・・!」


まあ、それだけじゃないんだけどな。

僕はきっと、レイラのあの瞳に魅せられているんだろう。


あの日、あの瞳をまっすぐ見つめたその時から僕の心はレイラの一つ一つに突き動かされてばかりだ。


「ああ。レイラと一緒に居る日々はとても楽しくて仕方がないよ。それで、皆はここでレイラが出てくるまで待っているってことでいいのかな?」

「はい。レイラお嬢様はあの古代遺跡の地下深くにある特別な空間で、Aランク昇級のための指定モンスターと戦闘中です。」


僕が目を覚ましてから5日も経っている。

動けるようになったのは昨日からだが、いても経っても居られなくなった・・・。


5日という時間も会えていないだけで、どうしてこうも年甲斐もなく寂しく感じてしまうのだろうな。


こんなにも僕の心はレイラを求めている。

会って抱きしめて、心配かけてしまった事を、あんな怖い思いをさせてしまったことを、全てひっくるめて謝って、許しを乞いたい。


そしてまた抱きしめて、レイラの曇りのないコバルトブルーの瞳が笑う表情を見たい。


「5日も戦っていてレイラは無事なのか?」

「はい。相手の魔物の危険性は低く、また魔物によって死んでしまった冒険者はこの冒険者という歴史のなかで数名しかいないほど、殺傷率は低いです。」


確か幻想体(ドッペルゲンガー)なんて名前だったか。

名前からして不安過ぎるが、ただの名称なのだろう。


あの都市伝説にあった、会うと死んでしまう方じゃないだけましか。

それにしてもあの古代遺跡と呼ばれている奴だけど、初めて見る感じがしないんだよな・・・。


「ヨスミ様?いかがなされましたか?」

「・・・いや。それよりもあの中に入ってもいいのか?」

「はい、問題ありません。ですが、特定のエリア・・・幻想体が出現するエリア以外であれば探索可能です。ただし入場制限として、Cランク以上の冒険者のみとさせてもらっていますので、ヨスミ様だと入ることはできません。」


まあ、そうなるよな。

出来れば中に入ってレイラの頑張ってる姿を直接見れたらなと思ったが、仕方がない。


左目を閉じ、静かに千里眼を発動させて開眼する。


情報の選別は大体遮断し、まずは地形の把握、脳内に遺跡内の地図の生成。

そこで戦闘を行っている人物の特定・・・、見つけた。


なるほど、確かにレイラが2人いるな。

そこから見る範囲をその区域に固定し、削除していた情報の一部を戻していく。


そうして見えてきたのは、疲労困憊になりながらも必死になって戦うレイラの姿だった。

だが、どこか違和感を感じる。


そしてたどり着いたレイラのやっていること。


「・・・は、はは、あははははは!」


突然笑い出したヨスミに困惑し始めるハルネたち。

そこで、ギルド職員に浮かび上がった疑問の幾つかを問いかける。


「なあ、あの幻影体って冒険者1人に1体のみ出現するのか?倒した後にはもう出てこないのか?」

「はい。冒険者1人に1体のみ出現します。2体目の出現という事例はこれまでに一度もありませんでした。ですが、倒した後にまた再出現するのかどうかはわかりません・・・。」

「・・・ヨスミ様、まさか。」

「ああ、レイラはどうやらすでに課題はクリアしているようだよ。」

「でも未だにレイラちゃんは出てこな・・・、え、やだ、ちょっと待って。うそでしょ?」

「つまり、レイラ様は2体目の幻影体と戦っているという事ですか?!」

「そのようだ。しかも2体目ではなくあの様子からして4体目だな。」


千里眼で見た、幻影体の情報。

あの区域ではレイラが戦闘を行っているエリア内に今現在戦っている個体を抜かすと3つの痕跡が視られた。


つまりすでに3体の幻影体と戦い、勝っているということだ。


「そんな・・・。まさかそんなことって・・・。」

「4体目ってことは、故意に出現させて戦ってるってことよね?一体何を考えているの・・・」

「レイラお嬢様・・・。」


さすがのハルネも苦笑いしながらも、どこか嬉しそうに口元が上がっている。


あんなに真剣に、そして何よりも楽しそうに戦うレイラの姿は初めてだ。

自分自身を超えられたこと、その実力は確かに上がった実感に喜びを感じられているのだろう。


ああ、どうして僕の嫁はとても楽しそうに戦っている・・・。

今まで共に手合わせしていた時にはあんなにも苦しそうに戦っていたレイラが、これほどまでに優雅に戦えている・・・。


気が付けば、ヨスミの瞳からは涙がこぼれていた。

千里眼を通してみるレイラの喜びが、まるで直に伝わってきているようで自分自身も嬉しく感じる。


やっと、自分の壁を乗り越えられたんだね。

これまで何度も手合わせしてきたからわかるよ、君の気持が。


早く、君に会いたいなあ・・・・。






「はあ、はあ・・・はあはあ・・・、はあ・・・。」


4体目の幻影体(わたくし)の首に突き立てられた黒刀”シラユリ”。

そのまま捻じりながら切り捨て、刃に付着した銀色の液体を振り払い、鞘へと黒刀を治める。


音もなく液状化し、崩れ落ちる幻影体を見て、後ろにばたりと倒れ込んだ。


もう限界だった。

指一本動かせない。


初めて幻影体を倒した時の興奮が収まらず、その場に立ち尽くしていたら気が付くと2体目の幻影体がそこに立っていた。


それを見て私は迷わず斬りかかった。

1体目を倒したことがまるで夢のようで、倒したことが現実であると確かめるためにわたくしは黒刀を振るった。


気が付けば、2体目も倒し終えていた。

1体目よりかは時間がかかってしまったが、確かにわたくしは幻影体を倒したことを理解できた。


でもなぜ2体目を倒すことに時間がかかってしまったのかわからなかった。

故に、わたくしは待った。


その内、3体目の幻影体が現れ、無意識に体は動いていた。


そしてわたくしは3体目を倒した。

それも2体目よりも遅く。


そして気付いた。

あの幻影体が、そしてわたくし自身が無意識に使っている見知らぬスキルがあることに。


それはまさに【覚醒技(オーバースキル)】だった。

わたくしだけの、唯一無二の固有技。


その感触を確かめるために、己の固有技を己がモノとするために、わたくしは待った。


4体目の出現。


その戦いは相手を倒すことではなく、この固有技をどう扱うべきか。

相手はわたくしを模した幻影体。


もちろん、この固有技を問答無用で使用してくる。

それもわたくし以上に、使いこなしてくる。


そこからは限界まで戦った。

どう使い、どう動かし、どういった場面で使うのか、どういう風に輝かせるのか。


幻影体が使う全てをわたくしは目に焼き付け、魂に刻み込んだ。

何度も、何度も、何度も何度も。


そして4体目と戦い始めて3日目が経過し、わたくしはとうとう幻影体の動きを全て視て、感じ、覚え、この身に刻み込み、その上で幻影体を上回り、その首を落とした。


全身はボロボロで、全身は滝のように汗が流れ出ていた。

地面の至る所に汗の水たまりができるほど、わたくしと幻影体は激しく戦い合っていた。


目の前が歪み、真面に立っていられなくなる。

体も満足に動かせない。ただ動くのは呼吸の度に動く肩だけ。


目がちかちかする・・・。

吐き気も、頭痛も酷い・・・。


でも、気分はとてもよかった。

今までにないほどの充実感で、確かに感じられた手応えに体中が震える。


少し休んだらここから離れよう。

今はこの余韻に浸りたい・・・。


惜しむらくは、ここにあの人が傍にいない事・・・。

わたくしはやったんだ!とあの人に見てもらいたかった・・・。


あの人に認めてもらいたかった・・・。

あの綺麗なルビーレッドの瞳に見つめられながら、微笑んでもらいたかった。


でも、今回はさすがに疲れちゃった・・・。

今は少しでも、体力を回復してここから離れないと・・・


・・・空気が変わった?

肌に当たる風がとても心地良いですわ・・・。


それに、どこか安心するような温かさが伝わってきますわ・・・。

今のわたくしは誰かの腕に抱えられている・・・?


―――お疲れ様、よく頑張ったね。今はゆっくりお休み・・・。


あの人の声が聞こえる。

もしかして、わたくしは今あの人にお姫様抱っこでもされているのかしら?


そんなはずがないとわかっているのに、たとえこの声が幻聴だったとしても構わない。

疲れ果てたわたくしが見ている夢だったとしても、構わない。


今、わたくしの傍にあの人がいる。


夢の中のヨスミの首に手を回し、抱きしめる。

さっきまで指一本さえ動かせないほどの疲労感だったのに。


あの人がわたくしを抱えてくれている、わたくしに語り掛けてくれているって夢で見ているだけでこんなにも気力が湧いてくる・・・。


ああ、早く現実でもあの人に会いたいですわ・・・。

あの人に会って、抱きしめて、キスを交わして、愛をもっと感じさせて欲しい・・・。


浅ましいと思われても構いません。

卑しいと思われても構いませんわ・・・。


これほどまでにわたくしはあの人を求めているんですもの。

あの人なら、きっとわたくしのこの思いを受け止めてくれるはず・・・。


・・・ああ、早く、会いたいな。



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