これが一番早い殺し方だからね。
「くうっ・・・!まだまだ! <ウォークライ>!!」
両手にそれぞれの大楯を背負い、ゴブリンたちを相手取っているアダンタールは自らのスキルを発動させ、更なる大勢のゴブリンたちの注意を自らに向けさせる。
「アダンタール様、あまり無理はされないでください! 治癒魔法を施したとは言え、傷が完治したわけではありません!」
「フォードが戻ってくるまで、我が踏ん張らねば・・・!!」
「・・・なら私も! 神よ、我が声に応え、どうか迷言える子羊に導きの光を・・・!」
~「<聖なる光の輝き>!」~
アダンタールの大楯が光り、重量が軽くなったと感じ、また自らの内から力が沸き上がるような感覚に更に気合を込める。
「助かる! 小鬼共よ、砕け散るがいい!<大地の一撃>!!」
大楯を地面に突き立てると、周囲の地面が轟き、砕け、その衝撃がゴブリンたちを次々に飲み込んでいく。
突き出た地面がゴブリンたちを貫き、潰し、裂け目に落としていく。
悲鳴を上げながらも、なんとかその衝撃を逃れようと大地に潰された死骸たちを足場にして空中へ飛んで難を逃れていた。
飛び上がったゴブリンたちはそのままアダンタールへ飛び掛かろうとするが、もう片方の大楯で振り払われ、何匹かは大楯に取りつかれてしまう。
その状態で地面へ叩き付け、取りついていたゴブリンたちを叩き潰す。
「はあ、はあ・・・。ぐう・・・!」
アダンタールの背中に幾つかのゴブリンが張り付き、鎧に石で作られた雑な剣で何度も振り下ろされる。
張り付いたゴブリンを剥がそうと、体を揺さぶったり大楯を振り回したりしているがうまくいかず、その間に別のゴブリンたちによる攻撃がアダンタールを襲う。
「アダンタール様! 神よ、どうか迷える子羊を救いたまえ!<聖なる癒し>!」
天から差し込む一筋の光がアダンタールを照らし、聖力のこもった光が傷ついた体を癒すかのように包み込む。
だが、それを上回る速度で攻撃が来るために、徐々に回復が追い付かなくなっていた。
とうとうアダンタールが膝を付き、ゴブリンの持つ石剣が首元へ向けられた。
「まずい、このままでは・・・!!・・・あれ?」
首を捉えていたゴブリンが突如、口から血を吐き出し、乗っていたアダンタールの肩から崩れ落ちた。
それに連なる様に次々にゴブリンたちが同じように口から血を吐き出し、地面へ伏していく。
一体何が起きたのか理解できないメナスとアダンタールだったが、ふと気が付けば遠くの方に一人の男が立っていた。
また先ほどまで聞こえていた悲鳴やゴブリンたちの醜い鳴き声が聞こえてこなくなったことに気付いた。
周囲を見渡すとすでに全てのゴブリンたちが地面に付しているその異様な光景に目を疑った
「これは、一体・・・??」
「ぐう・・・。」
「あ、アダンタール様!しっかり・・・!」
その場に倒れたアダンタールに急いで駆け寄り、治癒魔法を掛けて傷を癒す。
そこに近づいてきた男は、メナスとアダンタールを見下ろす。
「無事ですか?」
「な、なんとか・・・。どこのどなたかは存じ上げませんが、助かりました。ありがとうございます・・・!」
「周囲のゴブリンたちは片づけておきましたので、とりあえずは問題ないかと。」
「ヨスミ~!」
と、上空からフィリオラが降りてくる。
「こっちは、・・・大丈夫そうだね。それにしてもヨスミ、この有様は・・・」
何の外傷もなしに、口から血を吐いて死んでいるゴブリンたちの無数の死体が転がっているこの光景に違和感を感じているフィリオラが夜澄へと問いかける。
「ああ、これは僕がやったよ。」
「一体ゴブリンたちに何をしたのよ?」
「何って・・・うーん。そうだな・・・、簡単に説明すると、奴らの心臓を地面深くに”移動”させて潰しただけだよ。これが一番早い殺し方だからね。」
「移動って・・・はあ。うーん・・・、ごめん。うまく理解できなかったんだけど。つまり、急所を直接潰したって事?」
「まあそれで納得してくれればいいよ。」
深く理解することを諦めたフィリオラだった。
「ゴブリンたちも殲滅できたみたいだし、これで一件落着かな。」
転がっているゴブリンたちの死骸を一か所に集め、一息をつく。
するとそこに数人の村人たちを束ねた老人がフィリオラの元へやってきた。
「有難うございます・・・、竜母様。」
「大丈夫よ、村長。ここの人たちは私に懇意にしてくれるいい人たちばかりだからね。でもよかったわ、組んで浅いとはいえ、冒険者パーティーが滞在してくれて。おかげで、被害も少なくて済んだし。そういえば、どうしてここに冒険者パーティーがいたの?何かしらの依頼で来てたの?」
「ええ、彼らには近頃、この村付近に出没するようになった盗賊たちの討伐に関する依頼をお願いしていたのです。」
「盗賊・・・。そういえば、ヨスミが盗賊たちをどうこうしたって言ってたっけ・・・。」
ふと考え、村長にその場で一旦別れを告げ、夜澄の所へ行く。
「ねえ、ヨスミ。確か盗賊が幼竜を拉致したってさっき言ってたよね?」
「ああ、そうだけど。アイツらのアジトを聞く前に全員殺しちゃって、聞きそびれてしまったんだけど・・・。」
「アジトの場所なら知ってるぜ」
そう言いながらこちらに近づいてきた奴は・・・確か、双剣使いのフォードって言ったっけ?
「もともとは俺たちの依頼だったしな。このゴブリン共の襲撃前にジーニャの使い魔に偵察してもらって、アジトの正確な位置も割り出してる。良かったら案内してやるぜ」
「いいのか?もともとはあんたたちの依頼なんだろ?」
「そうなんだが、今の俺たちの被害状況がかなり酷くてな。今現在動けるのが俺とメナスの2人だけだったから、どうせこのままじゃ依頼遂行もできないしな。」
ふーむ、まあ6人パーティー編成が前提の依頼だったのに、2人パーティーで挑むのは死にに行くようなものだしな。
僕と行けば3人でも問題ないだろう。
「それじゃあアジトまで案内を頼めるかな?盗賊の1人が気になることを言ってたから出来るだけ早く向かいたいんだけど。」
「ああ、構わないぜ。そいじゃ、急いで準備していこうぜ。」
「心配だから私も行くからねー。」
「そうか、それは助かる。それじゃあ行こうか。」
僕とフィリオラ、そしてフォードとメナスの4人パーティーで行けばきっと大丈夫だろう。
そうして、新たに編成されたパーティーで盗賊のアジトへ向かうことになった。