竜狩りゴーレムの天敵
ゴーレムの魔石部分が青から紫に変化し、発光した直後、飛んでいたフィリオラに急激な重さが加えられ、飛行が困難になりそのまま地面へと叩きつけられる。
「闇魔法・・・!?それも重力魔法に近い何か・・・。魔力の動きは感じ取れなかったのに・・・!」
全身に重くのしかかる重力に立つことさえ難しく、必死に立ち上がろうとしているところに、薄い光の刃を宿した小型ゴーレムが突っ込んでくる。
なんとか手を動かして、小型ゴーレムに狙いを付けると腕が裂け、溜まった魔力を放射する。
「<白桃光線>!」
魔力が圧縮された光線が放たれ、それは正確にこちらに向かってくる小型ゴーレムの姿を捉える。
小型ゴーレムは急停止し、光の刃から光の盾のような形状に変化させ、それを受け止めようとするがその盾を貫通し、小型ゴーレムは破棄された。
なぜ盾が貫通されたのかゴーレムはまるで驚いているかのように、魔石の色が紫と黄色の2色に点滅していた。
その瞬間、フィリオラを抑えつけていた重力の檻が一瞬緩み、そこを逃すはずもなく両翼を消して竜脚を顕現させて力強く地面を蹴って脱出する。
フィリオラを逃さまいと、2機の小型ゴーレムを同じように光の刃を展開させて送り込むが、竜脚から尾へと形態を移し、突っ込んでくる小型ゴーレムを迎え撃つ。
切り刻むような軌道で行動してくる小型ゴーレムの光の刃を受け止めようとしたが、ルーフェルースとの会話を思い出して防御するのを諦めて回避に変更する。
だが一瞬、その動作が遅れて尾に掠るように光の刃が入れられる。
まるでバターを切るような感覚で切り裂かれ、痛みが回避した後に遅れてやってきた。
「切られたことに体が気づかなかったってことかしら・・・。もし防御なんてしてたらそのまま切り裂かれて死んでいたわね・・・。」
切り裂かれた尾の傷に回復魔法を掛け、瞬時に傷を癒す。
回復魔法の副作用によるダメージも尾全体に響くが、治癒魔法を掛けて治す時間さえも惜しい今、そんな副作用を気にする余裕なんてなかった。
ゴーレムの魔石の色が黄色から赤に変わり、小型ゴーレムたちが左右に3と2で分かれ、まるで獣の爪を連想させるかのような形へと光を形成させる。
本体から伸びる光の糸のようなものが小型ゴーレムたちと繋がると動きが猛獣のような獰猛さを見せる。
フィリオラに一気に近づくと、左右からの”獣爪”の連撃が繰り出される。
決して当たってはいけないその攻撃をギリギリで躱しながら、連撃の合間に出来た一瞬の隙に竜脚を顕現させて強烈な蹴りを魔石へ繰り出した。
何かが割れたような音と共に大きく吹き飛ばされるも空中で制止し、光の糸が消えてまた小型ゴーレムたちは本体の周りを旋回し始める。
すると今度は光の刃を展開させ、先ほどの何十倍もの速度で高速旋回しながら近づくもの全てを切り裂く兵器に変わった。
その状態でフィリオラへと体当たりを繰り出すが、寸での所で横に飛ぶことで何とか回避するも、ゴーレムもすぐさま軌道を変えて再度突進を繰り出す。
空へと跳躍して何とか避けることができたが、あの状態のゴーレムが突っ込んだ場所はまるでドリルで穴を掘ったかのように抉られている。
「あんなのに触れたらミンチどころじゃないわ・・・。」
だがそこで突然高速旋回していた小型ゴーレムが停止し、魔石の色が赤から再び紫へと色が変わり、直後、また空を跳躍していたフィリオラに重い重力がのしかかり、また地面へと叩きつけられる。
「ぐぅ・・・、飛ぶとあの魔石が紫に変わって、落としてくるってわけね・・・。」
未だに重力の檻に囚われている状態で、また小型ゴーレムが高速旋回をし始める。
「うっそ・・・、この状態で突っ込んでくるの・・・!?」
とここでふと違和感に気付く。
高速旋回をする小型ゴーレムたちだが、一瞬だけ魔石部分が見える瞬間がある。
きっと先ほど破壊した1機の小型ゴーレムが空いたせいでカバーしきれていないのだろう。
フィリオラは静かに口を裂き、魔力を静かに口元に溜めていく。
準備が出来たようでゴーレムはフィリオラへ向けて突進してきた。
チャンスは1度きり、失敗したらきっとあの光の刃に切り刻まれてミンチ状にされるんだろうなあという不安が一気に押し寄せる。
狙いを正確に定め、タイミングを見極め、そして――――
「<白桃焔花>!!!」
濃密に圧縮された純粋な魔力の塊が光線の様に放たれ、一瞬という短い時間に空いたその小さな隙間を見事通し、魔石に直撃する。
すぐさま高速旋回をしていた小型ゴーレムが四方に飛び、四角い膜のような防壁を張るが何の意味もないようで、フィリオラの放つブレスを一切防ぐことなく、そのまま魔石を貫通し、ゴーレム本体を貫通した。
「やっぱり・・・、純粋なる魔力の攻撃は防げないのね・・・!」
様々な色に点滅した後、一瞬その魔石の視線がフィリオラの方を向いたような気がした。
嫌な予感がした直後、小型ゴーレムたちが光の刃を4つ展開し、回転させながらフィリオラへと突っ込んできた。
「うそ・・・っ?! 今、私は動けないのに・・・!」
確実にあの魔石を破壊するために、全身全霊を持って放った攻撃に魔力が枯渇し、手足がしびれたかのように動けなくなっていた。
自分に待ち受ける悲惨な運命が脳裏を過り、もう駄目だと思ったその時、突然背後から強力な突風のようなものが吹き荒れ、突っ込んでくる小型ゴーレム全てを巻き込んで呑み込む竜巻が出現した。
後方を見るとルーフェルースが飛んでおり、その竜巻はルーフェルースが放った攻撃だということがわかった。
その竜巻は本体をも包み込み、その中で制御を失い飛び交う小型ゴーレムたちが、自身の回転する光の刃を持って本体を、そして別の小型ゴーレムを次々に切り刻んでいく。
その内、切り裂かれた部分からスパークが溢れ、その部分に光の刃が触れた瞬間、大きな爆発が起き、それが別の小型ゴーレムを巻き込み、また爆発し、連鎖となって本体を巻き込む大きな爆発となり、それにとうとう耐え切れなくなったのか、一際巨大な爆発が起こると自身に纏わりついていた竜巻を吹き飛ばした。
その爆発にフィリオラは吹き飛ばされるも、ルーフェルースが口でキャッチするとその場から急いで非難をする。
「ルーフェルース・・・助かったわ・・・。」
「大丈夫?」
「なんとかね・・・。でも疲れたわ・・・。」
度重なる重力による叩き付け、あの光の刃で斬りつけられた尾、回復魔法の副作用、そしてあの小さな隙間を通しつつ、確実に魔石を壊すために自身の持つ魔力全てを極細になるまで圧縮するための魔力操作・・・。
精神的疲労と身体的疲労も重なり、文字通り満身創痍となったフィリオラは飛ぶ力もすでに持ち合わせていなかった。
「お願い・・・、このままヨスミの所に戻ってもらってもいい?」
「わかった!」
本当なら、魔物たちの進行に援軍として助けに行かないといけないところなのだが、帰る途中で見えたおびただしいほどの魔物たちの死骸の中心に立つ、グスタフ公爵の姿。
「さすが、Sランク冒険者。・・・【深淵渡りの剣聖】・・・、だったかしらね。」
そんな光景を見て、安心してヨスミ達の元へと帰ることにした。
そう、グスタフ公爵がたった一人で魔物たちの進軍を食い止めていたのだった。