廃棄された遺物の目覚め
確かあのゴーレムが飛んできたのはこっち・・・。
一体何の目的があってヨスミだけを狙うの?
一体誰がヨスミの命を狙っているの?
山脈方面て高速飛行しながら、フィリオラは思考を巡らせていた。
確かにあれは古代遺跡に廃棄されているゴーレムたちに似ていた。
十中八九魔物たちが逃げ出したのはこれが原因で間違いはない・・・。
でも突然どうして起きたの?
ただのゴーレムなのに魔物じゃなくてヨスミだけを狙っているかのように見えていたということはそれなりに知性があるということなの?
もしかしたら、ゴーレムを起動させた人間がいてヨスミだけを狙っている可能性もある。
でもそんなことする理由が・・・
とここまで考えた時、ヨスミが抱える膨れ上がった深淵を思い出した。
もしかしてあれが原因なの?
ヨスミが殺したうちの誰かの身内が、復讐のためにここまで?
あの人が喜んでああなったわけじゃないのに復讐を計画するなんて、なんて烏滸がましいの・・・!
「ともかく、今はまずゴーレムのいる所まで行かないと。いけばきっと答えも見つかるはず・・・ッ!?」
と、後半分というところで再度山頂辺りに光が溜まっていくのが見える。
そして全身を巡る危険信号に、先ほど放たれた強烈な光線を思い出した。
だが、この感じ・・・
「・・・ッ、狙いはヨスミじゃなくて、わた―――――?!」
一瞬にして視界いっぱいに広がる光に咄嗟に両翼に全魔力を注ぎ、防御するために自らの体を包む。
直後、フィリオラがいた場所に巨大な光線が放たれた。
・・・だが未だに自分自身を襲う光線による攻撃が届かない事に、包んでいた翼を解いて状況を確認してみる。
そこには光線とぶつかり合う1つの巨大な竜巻を身に纏うルーフェルースがいた。
「る、ルーフェルース!」
光線は竜巻によって無数に分散していき、やがて細くなって終いには完全に消失した。
何とか攻撃を防ぐことができたが、無傷とはいかなかった。
至る所の竜鱗が剥がれ、体中に無数の火傷痕、鋭利な翼の骨格は所々にヒビが入っており、右目付近に大きな火傷と共に目も熱で潰されているかのように血を流しながら閉じていた。
「い、今治療するから待って!」
「うへぇ・・・ありがとぉ・・・」
一端ルーフェルースを連れて急いで地上へ降り、近くの遮蔽物に身を潜めるとルーフェルースに治癒魔法を掛ける。
だが、この傷だと回復が間に合わないと悟ったフィリオラは、治癒魔法から回復魔法へと即時に変えた。
「痛いけど、我慢してね・・・っ!<ハイ・ヒール>!!」
「あああああーっ・・・!!」
フィリオラの回復魔法により、体中に負っていた傷の大部分は修復できたが、すでに熱で潰され、蒸発してしまった右目は元に戻ることはなかった。
「・・・ごめんなさい、ルーフェルース。あなたの右目は治せそうにない・・・」
「だ、大丈夫だよ・・・、片目見えるだけでも十分だから・・・。」
先ほどの光線のダメージと回復魔法による急速回復の副作用が重なり、ルーフェルースは真面に動ける状態ではなかった。
「あなたはここでじっとしていて。あれは私が何とかするから。」
「・・・だめ、あれは僕たちじゃ勝てない。」
「どういうこと・・・?」
ルーフェルースは先ほどの山頂方面を睨みながら、言葉を繋げる。
「僕たちにとって、とても嫌なモノを放ってるんだ・・・。他の魔物なら大丈夫かもしれないけど、ドラゴンは相手しちゃダメ・・・!」
「・・・まさか。」
フィリオラはその話を受け、ある存在を思い出した。
魔王と勇者の、人類の滅亡と生存を掛けた大戦争時代に稼働していた【対ドラゴン殲滅用自動人形兵器】。
これは四皇龍とその配下のドラゴンたちを殺すためだけに人間たちが作り出した決戦兵器の1つ。
それは人類が生み出した叡智の結晶。
今は再現することの出来ない禁忌の技術が搭載されていて、空を飛ぶことを許さず、その堅い鱗の鎧をいとも簡単に貫き、不死身と思わせる超再生能力を低下させ、自慢の<竜の吐息>をも無効化させてしまうとされている。
そのせいで、幾万というドラゴンたちが虐殺されまくり、四皇龍の中で一番の再生能力と防御力を誇る青ちゃんでさえも大きな傷を負ってしまい、再生するまで数百年は要した。
でもその兵器は戦争後に廃棄され、己の過ちを繰り返さないためにと人間たちの手によって全て破壊し尽くされたはず・・・。
「まさか、まだ稼働可能な個体が残存していたなんて・・・。いや、もしかして・・・。」
とここでフィリオラの脳裏に1つの不安が過る。
その考えに確証は一切なかったが、もしそうであるならばと恐怖で肩が震える。
「りゅーぼ様・・・?」
フィリオラの異変に気付き、声を掛ける。
ルーフェルースの声で我に返り、冷静になろうと気持ちを落ち着かせる。
「ごめんなさい。まずはあのゴーレムをどうするかよね。」
「うん、でも僕たちじゃ敵わないよ・・・。」
「それなら大丈夫。私にならあのゴーレムを倒すことができる。」
私の想像があっているのなら、私は唯一ドラゴンの中であのゴーレムに対抗しうる存在だ。
「・・・わかった。僕はこのまま少し休んでから助けに行くね。」
「ダメよ、ルーフェルースはここにいて。じゃないと最悪、本当に死んでしまうわ・・・」
「僕なら平気だよ。さっきみたいにパパを狙われたらいやだもん・・・!」
どうやらルーフェルースの覚悟は固いらしい。
「・・・わかったわ。でもいい?絶対に無理はしちゃだめ。十分に休んでから掩護にきてちょうだい!」
「うん!気を付けてね、りゅーぼ様。」
フィリオラは最後に持続する治癒魔法を掛けた後、その場から一気に跳躍して目的地である山頂へと向けて再度高速飛行に入った。
とここで光線ではなく、何か無数の小さな筒状のようなものが炎と煙を噴射しながらフィリオラに向けて飛んでくる様子が見えた。
高速飛行しながら一気に上昇し、速度を上げる。
その筒状のモノは全てフィリオラに追従するかのように後を追う。
フィリオラは両手に魔力を溜めると、それを無数の球体に散布させる。
散布された魔力塊は少し経ってから光を発し始め、そして筒状の何かがその横を通り過ぎた瞬間に巨大な爆発を発生させ、通過しようとした筒状のそれはその爆発に飲まれ、連鎖するかのように爆発が広がっていく。
一度その場に制止して全てが破壊されたのを確認した後、再度山頂へ向けて飛行していく。
その時、先ほどのルーフェルースとの会話が思い出される。
”さっきみたいにパパを狙われたらいやだもん・・・!”
「・・・最初の攻撃の際は私たちに対してだったのかもしれないけど、2回目の6体の小型ゴーレムたちの攻撃はドラゴンである私とルーフェルースを無視して、ヨスミだけを狙っていた。もしあのゴーレムがかつての古代兵器であるならば、優先討伐目標はドラゴンのはず。きっとあの光の波はドラゴンとそうでない人間の選別を行うためのもの。となると、そこでヨスミの存在を初めて知って優先討伐目標がドラゴンじゃなくてヨスミへと変更された・・・ってこと?もしかして、その場にいる脅威度の高い存在を優先的に倒すように命令を受けているのかも・・・。」
色々と考えてはみるが、考えれば考えるほど、今の状態だと思考が絡まるだけだった。
「・・・まずはあのゴーレムを倒して安全を作り出すこと。その後に考えればいいだけよ。」
とここでまたあのゴーレムからの筒状による攻撃が飛んでくる。
先ほどとは違って、口元を大きく開き、肺の中に空気を圧縮させていく。
そして溜めに溜めた空気を全て勢いよく前方に吐き出した。
「<乙女の咆哮>」
まるで咆哮を上げているかのように強大な超音波のような衝撃波が飛んできた全ての筒状を飲み込み、制御を失うとその場で爆発四散していく。
爆煙が上がる中を一気に突っ切り、そしてようやく見えた攻撃の主。
その姿を見て、威圧感とも言い難いほどの恐怖が全身を巡る。
最初に飛んできた6つの小型ゴーレムを巨大化したような見た目で基本的に空中に浮いており、中央にある赤い魔石は十字に沿って掘られている黒いラインを自由自在に動き回っている。
飛んできたフィリオラの姿を確認すると、何も掘られていない白い装甲部分が煙を上げながら開き、片方が6つの空になったくぼみ、もう片方には6の球体が収められていた。
あのくぼみからして小型ゴーレムはあそこから出てきたという事はつまり・・・。
そう考えた所で、その予想は的中し、6つの小型ゴーレムが起動して本体の周りを規則的に旋回し始める。
ゴーレムと呼ぶには些か生易しいものではなく、まさに鉄の鎧を纏った殺戮の兵器と言い直した方がいいかもしれない。
「これが、【対ドラゴン殲滅用自動人形兵器】の本体・・・。丸い球体の癖になんとも危ないものが詰められているのね・・・。でもあんたのような存在はこの世界に居てはいけないの。だから、ここであなたを破壊する・・・っ!」
~ 今回現れたモンスター ~
魔物?:対ドラゴン殲滅用自動人形兵器 通称:ロストゴーレム
脅威度:測定不明
生態:かつて勇者と魔王が起こした大戦争時代に活躍していたとされるゴーレム。
人類が積み上げてきた叡智が詰め込まれた兵器で、対四皇龍のために作られたのだという。
ドラゴンの持つありとあらゆる能力を封じ、またこちらの攻撃を確実に通すというドラゴンキラーの性質を持ち、この兵器の前にはドラゴンたちは成す術なく殺されていったという。
現に、数十機で青皇龍と戦い合った際、全滅し、討伐こそできなかったが、その時に負った傷が原因で青皇龍は早々に戦争から撤退せざるを得なくなり、傷を完治させるまで数百年はかかったという。
勇者の決死の攻撃で魔王との戦争を終わらせた後、己が作り出した兵器の恐ろしさを知り、機能を停止させた後、復元できないように設計図や稼働するために必要な特別なコアは完全に破壊されたのちに徹底的に破壊され、もう二度と目覚めることがない様に人々の記憶からその存在は消し去られた・・・。