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触れてはならぬ竜の逆鱗に触れし者 後編


全員が動き出したと同時に黒い球体は再度出現し、それは全てユトシス皇太子にのみ集中して出現する。


それをグスタフ公爵だけは難なく避けていく。

だがその手に握っていたユトシス皇太子はブンブンと振り回され、時たま地面に着地した際にはすごい勢いで叩きつけられ、その度に呻き声を上げていた。


「ぐおお・・・ぐべああ・・・!?お、おい・・・絶対に私念込みだろうがこの扱いぐぶふぉっ・・・!?」

「口を開くな蛆が、舌を噛み切って死ぬことになるぞ・・・これはまずいか。ハルネ、いくぞ。」

「はい。グスタフ公爵様!」


と一度、掴んでいた首根っこを離すとユトシス皇太子の腹部に強烈な蹴りを繰り出し、ハルネの方へと蹴り飛ばした。


飛んできたユトシス皇太子を鎖斧の魔鎖で絡め取ると、動きを悟らせないようにハルネ自身の動きも加え、魔鎖によるランダムな動きを入れて黒い球体の捕捉は困難を極めていた。


グスタフ公爵は、ヨスミへ向けて剣撃を行おうとした瞬間、死の直感がまた全身を駆け巡り、その場に停止すると、ワンテンポ遅れてから目の前に巨大な黒い球体が出現し、そして消えた。


・・・ふむ、ユトシス皇太子には躊躇ない攻撃反応を見せてはいるが、我らには一瞬の間をおいて攻撃が飛んでくる、か。


我らを殺させないために、彼奴自身でもその憎悪に抗っているようだな。


「なれば、我が出来る事は彼奴の攻撃を絶対に掠ることさえなく、完璧に避けきる事だ!そのために、少しでも我の方に気を向く為、多少痛い目に合ってもらうぞ!」


と、一瞬の静寂の後、刀剣を振り放った攻撃は遠くにいたはずのヨスミを捉え、無数の斬撃が繰り出される。


斬撃の衝撃波が飛んだのではなく、実際に遠距離からその場所を()()切り裂いたかのようなものだった。


だがその直前にヨスミは転移でその場から離れて攻撃を避ける


「まだまだ行くぞ・・・!」


絶え間なく繰り出される遠距離からの斬撃ではあったがそれを難無く避け、更にはユトシス皇太子に加えてグスタフ公爵への攻撃まで行い始めた。


この体中に突き刺さる幾万もの目線のような感覚、そして複数の行動を行えるほど、まるで幾人もの人物がそれぞれ対応しているかのような・・・。


まるでヨスミ1人を相手しているのではなく、幾千、幾万を相手にしているかのようだ。


「全く、厄介な息子を持ったな、我は・・・。だが、退屈せずには済みそうだ・・・っ!」






「今、ヨスミの注意は完全にグスタフちゃんたちの方に向いているわ。でも、あんな風に動き回るヨスミに攻撃できる隙が全然見当たらない・・・」

「注意はお父様たちの方に向いているはずなのに、わたくしたちも方も見ているような感覚ですわ・・・。」


グスタフ公爵とハルネのユトシス皇太子リレーに加え、グスタフ公爵の遠距離からの<空間斬撃>が幾度なく飛んではいるがそんなことも物ともせず、ただただユトシス皇太子のみに集中して攻撃が向けられていた。


だからこそ、ヨスミを気絶させるために攻撃を加えなければならない場面なのではあるが一切の隙が見当たらず、こっちの動きの一つ一つを何千人もの人間に見張られているかのような視線に動こうにも動けずにいた。


「ヨスミは攻撃が当たる直前に転移するから、その転移先を誘導して攻撃を当てる様にしなければいけないわ。グスタフちゃんの攻撃もきっと私たちに合わせて軌道を変えてくれるのでしょうけど・・・」

「ならばわたくしは速さで転移先を誘導しますわ。お父様ならばわたくしの動きにきっと合わせやすいはずですもの。」

「・・・なら、私が気絶させるわ。チャンスはたった一度だけよ・・・!」

「・・・<身体強化(フィジカルブースト)>!<疾風の鎧(ゲイルアーマー)>!そして、<重力軽減(グラビティダウン)>!」


本来、<重力軽減>は重武器に使用し、両手から片手で持てるようにするための闇魔法の一種。

ただし、重さが威力に直結する重武器にとって軽くなるということは攻撃力が低くなるために扱う人がほとんどいないような闇魔法・・・・。


でも武器ではなく、自分自身に掛けることで自身を限界まで軽くすることでわたくしの動きは、あの人に・・・匹敵する!!


「はぁぁぁああああっ!」


その宣言通り、レイラの姿が消えた。

突如、別方向から向けられた敵意にそっちの方を向くがそこには誰も存在せず、だが瞬き直後にレイラの鞘が付いたままの刀による切り払いが眼前に迫っていた。


堪らずヨスミはその場から転移し、別の場所に移動したがすでにレイラの姿がそこにあり、すでに攻撃態勢に入っていた。


すぐさま転移で別の場所へ、だがそれを追うかのようにレイラも全く同じタイミングでヨスミの元へとたどり着く。


そう、レイラは自力で転移で逃げるヨスミの速度に至りかけていた。


「・・・ッ」


ヨスミは堪らずレイラとの間に無数の黒い球体を出現させてレイラを遠ざけようとしたが、黒い球体は出現することなく、またレイラはヨスミの攻撃を悟って瞬時に背後に回り込んでいた。


ギリギリのところで攻撃を躱し、瞬時に転移によって別の場所に逃げるもすぐにレイラに追いつかれる。


ヨスミは何度もレイラへ反撃のために黒い球体を出現させて攻撃しようとするも一度も出ることはなかった。


「・・・でないっ」


また意識して逃げようとした場所にはすでにグスタフ公爵の空間斬撃が放たれており、別の場所へ転移せざるをえなかった。

レイラとグスタフ公爵の連携に圧倒され、ヨスミは徐々に追い詰められていく。


ユトシス皇太子、そしてグスタフ公爵へは問題なく黒い球体を出現させられるが、レイラにだけは黒い球体が出てくることはなかった。


「・・・なぜっ」

「それは、あなたがわたくしのことを愛しているからですわ・・・っ!」

「・・・っ!?」


一瞬感じた疑問。

その疑問に意識を持っていかれたその瞬間、レイラはそれを見逃さなかった。


思考が遅れ、無意識に意識しなかった場所に転移した。

そこにレイラは立っていた。


ただ、両手には武器を持っておらず、素手のまま両手を伸ばす。


殺意を持った相手の前で武器を持っていない疑問と、レイラに対してのみ攻撃が出来ないことの疑問が重なり、それは大きな隙となる。


レイラはそっと手を伸ばし、触れた頬を引き寄せるとまっすぐヨスミとキスを交わした。

そしてレイラの唇が離れ、潤んだ瞳で顔を赤くしながらヨスミへ告げる。


「だから早く目を覚ましてくださいませ、わたくしの旦那様っ・・・!」


レイラのその表情から目を、意識を話すことができなかった。


黒い球体さえも止まり、完全にヨスミは動きを停止した。

5秒ほどの静寂の後、ヨスミは自身ではなく、レイラを転移させた。


直後、


「<浄化の光炎(フィリオラバニッシュ)>!!」


ヨスミの足元が突然光ると、天にも昇る光り輝く炎の渦巻く柱が出現した。


「グオォオオオオオオオオオオ・・・・!!!」


白い炎に包まれたヨスミは悶え苦しみながら暴れ、その場に膝を付く。

その絶叫はヨスミの声とは到底思えないような醜い声で、聴いている者へ深い恐怖を覚えさせる。


だがここでハルネはあることに気付いた。


「・・・なぜ、転移して逃げないのでしょう?」


あの白い炎から逃れるためにすぐに転移で逃げ出せばいいだけの話。

だがヨスミは自らの体を抱きしめるかのように腕を掴み、必死に攻撃に耐えていた。


「逃げないわけではない。逃げられない様に耐えているのだ。」

「まさかっ!?」

「・・・わたくしがキスをしたあの時、確かにあの人は戻ってて・・・ごめんね、って言っていて・・・わたくしは・・・。」


そこへ転移させられていたはずのフィリオラが、涙で頬を濡らすレイラを慰めながら共にグスタフ公爵たちの所にやってきていた。


「私たちのやろうとしていたことを理解し、レイラだけは巻き込まない様に私の傍に転移させたのね。ほんと、どこまで嫁思いなんだか・・・。」

「この攻撃は相手を拘束する力なんてないわ。あの様子からすると、あそこから転移で逃げ出さないように私の攻撃と共に必死に耐えているんだと思うわ・・・。」


そしてヨスミは苦しみの中、憎悪が少なくなった瞳をグスタフ公爵たちの方へ向けると、最期の力を振り絞りながら、


「・・・マタ、我ラハ、戻ル・・・必ズ!」


そう言い残し、ヨスミは燃え盛る中、その場に力無く倒れる。

急いでハルネが鎖斧の魔鎖を使い、ヨスミの体に巻き付けるとそのまま自分たちの方まで引き寄せる。


「あなた!!」


未だに白い炎で燃えているヨスミだったが、レイラがなんの躊躇いもなくヨスミを受け止めた。

レイラにもその白い炎が多少移ってはいたが、そんなの関係ないとでも言わんばかりに強く抱きしめる。


その横でフィリオラは急いでヨスミに治癒魔法を掛ける。


「本来、この光炎はアンデット系のモンスターや強い負の感情に支配、洗脳された人間だけを浄化する聖なる炎よ。普通なら人が触れてもあまり害はないわ。でもヨスミはここまであの光炎の影響を受けているとなると・・・」

「ヨスミ様は大丈夫なのでしょうか・・・?」

「そうね・・・、まあ暫くは絶対安静であることは確かね。レイラ、あなたはヨスミにとって()()()になるんでしょ?なら、ヨスミの意識が戻るその時まで、きちんと面倒を見てあげなさいな。」

「・・・はいっ」


ここでグスタフ公爵は何を思ったのか、手に持っていたユトシス皇太子を未だに残っている炎の渦の中へ放り込んだ。


「ふんっ」

「え?」

「はっ?」


突然の事にユトシス皇太子とハルネが驚愕と唖然が混ざり合ったような表情を浮かべていた。


「ぐわぁぁぁあああああああああああああっ!?!?!?!」


先ほどまでぐったりしていたはずのユトシス皇太子は一瞬にして全身が燃え上がり、自身を襲う火傷のような激痛に手足をジタバタさせながら悶え苦しみ始めた。


「・・・え、ち、ちょっとグスタフ公爵様!?いい、一体何をなさっておいでなのですか!?」

「先ほど竜母様が言っていたであろう。この白い炎は強い負の感情に飲まれた者の精神を浄化させると。これで少しはマシな人間にでもなればよいんだがな。」

「た、確かにそんな感じには言ったけど・・・、ってなんであんなにも苦しそうにしてるのよ。どんだけゲスまみれだったのよアイツ・・・」


グスタフ公爵はそう言ってはいたが、明らかに別の目的があってあの炎の中に入れたのだと言わんばかりの悪だくみな薄っすら笑みを浮かべていた。

その表情を見ていて呆れたようにため息をついた後、フィリオラは見るのをやめるとヨスミの治療に専念し始めた。


白い炎が消えるその瞬間まで、ユトシス皇太子は絶叫を上げながら苦しみ続け、火が消える直前にようやっと気を失ったという・・・。


「ぎいいやあああああああああああああああああ・・・!!!」



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