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触れてはならぬ竜の逆鱗に触れし者 前編


・・・は?

今こいつは僕の目の前で何をしやがった?


突然の出来事に何が起きたのか理解できず、脳内処理に大幅な遅延が発生していた。


空いた口が塞がらず、謎の美青年とレイラの方を茫然と見ている。

レイラ自身も一瞬の間を置いた後、たった今何をされたのか理解したようでハッと我に返り、大きく後退りする。


ハルネもワンテンポ遅れてレイラの前に立ちふさがるかのようにその青年から庇うように前に立つ。


「あ、あなたは誰ですの・・・!?」

「何を言っているんだ!俺は貴様らヴァレンタイン公国の主であるダーウィンヘルト皇国を治めるダーウィンヘルト皇家の嫡男であり、王位継承権一位である第一皇子・・・ユトシス・ヴァーラ・ダーウィンヘルド、だっ!そして、お前の婚約者のだぞっ!」


レイラの目には、相手が本気で何を言っているのか理解できない哀れみと恐怖が混じった瞳をユトシス皇子へと向けていた。


「全く、俺の諜報員が、お前を攫って奴隷にしようと動き始めたなんて情報を手に入れたから、奴隷にされるならば我が父上に頼み、こうしてお前との婚姻を結ぶための書類も用意してきたのだ!本来ならば俺がこうしてお前たちに挨拶をしたら頭を垂れ、喜び、敬わなければならないのだぞっ?!だが俺は慈悲深い男なのだ。今晩、俺の相手になってくれるのであれば許してやろう!なあに、お前の体はすでに傷物にされ、とても醜いものであると知っている。その上で、この皇子である俺がお前を迎い入れてやるのだ。楽しみ方は色々あるしなあ!」


・・・本気でこいつは何を言っているんだ?

・・・本当にこいつは何を言っているんだ?


「そ、そんな馬鹿な話が・・・わたくしのお父様はその婚約に関して知っているのでしょうか・・・?」

「はあ?わざわざそれを伝える必要があるのか?王子であるこの俺がわざわざ迎えに来ている時点で、婚約はすでに成り立っているのだ!さあ、今すぐに帰ろうか!」


とレイラに歩み寄ろうとした時、ヨスミの後ろにいるフィリオラの存在に気付いたユトシス皇子はかっと目を見開き、頬を赤らめる。


「おお、おおおおおお・・・!?なんと、なんと美しいご令嬢なのだ・・・!」

「・・・はっ?」


ヨスミはまるで眼中にないかのように、その横を素通りし、フィリオラへ近づいていく。

そして先ほどと同じように手を取ろうとしたが、フィリオラはその手を振りほどいた。


「・・・何の真似?」

「全く、その美しい容姿を持ちながらこうも反抗的な態度・・・そそるものがあるじゃないかっ!」


・・・え、ちょっと待ってくれ。

なんだ、これは一体どういう状況だ?


いや、理解は出来る。

うん、よくある異世界の貴族社会にあるヒロインがどうたらこうたらのテンプレな展開・・・なんだよな?


多分、いやおそらくこいつはグスタフ公爵に何の一報も入れず、皇国全体がグルでレイラをこのまま皇后として迎い入れようとしている・・・のだろう。


本当にこんな奴がいたのか?

本当にそんなことをしでかしたわけか・・・?!


「私はヨスミと行動を共にしているのよ。あんたと行くつもりなんてないわ。」

「・・・ヨスミ?ああ、この赤い目をした気味の悪い忌子のことか。」


そういうと、ユトシス皇子はヨスミの前へと行き、蟲を見るような冷たい目でヨスミを見る。


「なんとも汚らわしい平民の、しかも忌み呪われた穢れの分際で、このような高貴なるご令嬢たちと共にいるとはな!<ウィンドブラスト>!」


と突然、ヨスミの腹部に風が生まれ、次の瞬間には強烈な衝撃が発生し、そのまま大きく吹き飛ばされて近くの木々に打ち付けられた。


「なっ、しま・・・かはっ・・・!?」

「ヨスミ!」

「あなたっ!」

「ヨスミ様!!」


未だに目の前で起きた展開に、脳の処理が停滞し、処理が出来ない状態だったためか、ユトシス皇子の攻撃に全く反応ができなかった。


その結果として、ユトシス皇子の奇襲とも思える不意打ちをもろに食らってしまい、そのまま意識が飛んでしまった。


「ふんっ、貴様のような存在は地べたに這いつくばり、一生顔を地面につけたまま生きていく姿がお似合いだっ・・・!さあ、ご令嬢・・・、あなた様をかの忌まわしき穢れからお救い致しました。あなたを我が妃として迎い入れようじゃないか。そこで俺と・・・」


フィリオラは吹き飛ばされたヨスミの元へ向かおうとした時、突如としてその腕を掴まれた。


「・・・離しなさい。」

「俺を前にどこへ行こうとしたのです?まさか、あなたはこの俺を前にしてあの穢れの元へと向かうおつもりですか?なんとも頭の痛い事案なのか・・・。ならば、俺があの平民以下の穢れを消してしまえば、万事解決というところか。ならばさっさと死ね、世界の穢れが・・・!」


と倒れているヨスミへと手をかざし、魔力を溜め始めると、レイラ急いで地面に倒れているヨスミの元へ走り、ヨスミの前へと出て庇う様に手を広げた。


「やめなさい!このお方はヴァレンタイン家当主、グスタフ公爵にも認められたわたくしの婚約者ですわ!そんな方を殺めたと成ればどうなるか、ユトシス皇太子様であるならばその事の大きさを理解できましょう?!」

「はんっ!そんなもの、我が父上に頼めばなかったことに出来るさ!それよりも、そんな平民以下、人間以下の屑である世界の穢れが、婚約者だと・・・?俺を苛立たせるのは止めた方がいい・・・!」


そういうと、突然レイラとフィリオラの首にどこからともなく首輪のようなものが飛んでくると、そのまま首に装着された。


「こ、これは・・・―――ああああああああっ!?」

「嘘・・・、まさか隷属の首輪、―――きゃああぁぁぁあああああっ!?」


その直後に、全身を襲う強烈な激痛に2人は耐え切れずにその場に倒れる。

何とか意識は残ってはいたが、体にうまく力が入らない。


「ユトシス皇太子殿下・・・!?これは一体何を・・・!?」

「ふん、俺の言うことに素直に聞いてくれればこんな真似をすることはなかったのだがなぁ・・・。なあに、あの穢れを消すまで大人しくしていてもらうだけのことさ。まあ、俺に従順になるまでその首輪を外すつもりはないけどな!それに・・・」


そういってレイラの元へゆっくりと歩み寄り、剣を抜いてレイラの上着部分を切り裂いた。

はだけた胸と無数の傷が付いた体をみて、にやりと笑う。


「やはりそんな醜い身体にはその隷属の首輪はお似合いかもしれないなあ・・・。たっぷり俺が可愛がってやろうじゃないか。」

「そんなもの、婚約者のすることではありません・・・!」


とハルネが武器を抜き、ユトシス皇子に向けて構える。

その姿を、冷たい目で睨むと、はあ・・・と呆れたかのようにため息をついた。


「たかがメイド風情が、ダーウィンヘルドの高貴なる尊い血を持った者へ剣を向けるか。皇族へ武器を向けるという事は不敬罪・・・いや、皇族殺害未遂の罪を持って即処刑としよう。だが、顔は悪くはない・・・、俺の奴隷として一生可愛がってやらんこともないが?」

「ふざけないで・・・!!」

「そうか、なら残念だ・・・。ならばここで死ね。」


ハルネは武器を構え、一気に跳躍してユトシス皇子へと攻撃を繰り出す。

だが、それを読んでいたかのように最低限の動きで攻撃を躱し、そのままハルネの体を深く切り裂いた後、その腹部を蹴飛ばした。


「がはっ・・・!?」


地面を数回転がりながら制止し、痛みと苦しみで意識が朦朧とする中、レイラの方へと手を伸ばす。


「レイ、ラ・・・おじょう、さま・・・申し訳、ありま・・・。あ、あれ・・・?」


とここで先ほどまで自らの体が切り裂かれ、その激痛や苦しみがどこにもなかったことに気付いた。


体中をまさぐり、服が切り裂かれたままだということはわかった。

つまり、ユトシス皇子の剣撃は確実に当たっていたということだ。


だが、体にはそんな痕跡はなく、()()()()()()()()()()()と言わんばかりの状態だった。


「私は、確かに・・・」

「何?一体どうなっているんだ・・・。」

「・・・。」


突如、ユトシス皇子の背後から悍ましいほどの殺気と威圧が感じ取られ、ユトシス皇子の全身を恐怖と絶望で支配される。


よく見ると、レイラには先ほどまでヨスミと呼ばれていた穢れが服の上から掛けていた長羽織が掛けられており、フィリオラも近くの木の下に座らされていた。


そして何よりも、先ほど2人に装着させた隷属の首輪がどこにもなかった。


「・・・・おい。」

「ひぃっ??」


突然声が掛けられ、反射的に振り向きながら声を掛けてきた者に対して剣を振り下ろす。

だが、そこには誰も存在せず、空を切っただけだった。


気のせいだったのか?

あの悍ましい恐怖を、絶望を感じさせる何かはただの幻だったのか?


そう疑問に思っていると、突如としてユトシス皇子が引き連れていた騎士の1人がユトシス皇子を突き飛ばし、まるで剣で防御するかのように構えたが、その騎士は幾つもの黒い球体のようなものが頭、右肩から胸にかけて、左横腹、右手、左太もも、それぞれに出現した。


消えたと同時にそこにあるはずのモノが無くなり、バラバラになったそれはブチャッと気持ち悪い音と立てながら崩れていく。


その光景を見ていた騎士団たちも異常事態だと察し、すぐさま剣を抜こうとするが先ほどと同じように無数の黒い球体が突如として何の前触れもなく出現し、頭、心臓、腕など体中のあちこちに黒い球体が発生し、その後重なった部位と共に消える。


その間、1秒も経っておらず、たった瞬きを2回する程度でユトシス皇子が連れてきていた騎士団の全てが見るも無残な惨い死に様を晒すことになった。


そこで初めてユトシス皇子はヨスミの瞳を見た。


「な、なんなんだその瞳は・・・。世界の穢れなんてもんじゃない・・・そんなモノと一緒にしていいモノじゃない・・・!やめろ・・・お、俺は皇子だぞ・・・?! お、俺を殺せばど、どうなるか・・・わ、わかっているのか・・・!?やめろ、その目で・・・そんな瞳で俺を見るな・・・ば、化け物・・・見る、見るなぁああ!!」

「・・・・・。」

「だ、だめ・・・あなた・・・!!」


と動けるようになり、状況をいち早く理解したレイラが掛けられていた長羽織をどけて立ち上がろうとしたが、ヨスミが次の手で確実にユトシス皇子の命を奪うという事は明白だった。


なんとしてでもそれだけはさせまいと立ち上がり、止めようと駆け出した。


ヨスミがユトシス皇子を殺そうとしたその瞬間、ヨスミは突然大きく吹き飛ばされる。

一体何が起きたのか、その場にいる誰もがわからずに唖然としていた時、


「これは一体、どういうことか?ユトシス皇太子殿下殿・・・。」


その声に釣られ、聞こえた方へ恐る恐る顔を向けるとそこには1人の黒い鎧を身に纏う男が立っていた。

レイラやハルネ、フィリオラはその人物が誰なのかを知っており、ユトシス皇子は自然とその名を口に出していた。


「・・・あの全身を覆う漆黒の鎧はまさか、・・・Sランク冒険者の1人である【深淵渡りの剣聖】と称された英雄であり、皇国ダーウィンヘルトの属国であるヴァレンタイン公国を治める公王、グスタフ・フォン・ヴァレンタイン・・・!?」




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