お前は立派な誇り高きドラゴンだよ・・・。
『グルルゥゥ・・・!!!』
「・・・ひどいな。」
背中に3本に鉄の杭が刺さっており、そこから出血している様子を見ればつい先ほど撃ち込まれたばかりの様子がわかる。
また至る所に抑えつけようとした傷痕が生々しく残っており、それによって酷く衰弱していた。
また首輪、重りがついた足枷が付けられており、この幼竜がどれほど痛めつけられたのか火を見るよりも明らかだった。
夜澄に対しても斧尾を弱々しく向け、警戒心を剝き出しにしていた。
夜澄は優しく手を差し伸べるが向けられていた斧尾を振り下ろされ、右手を切り付けられた。
それでも差し伸べた手を引っ込めることはせず、傷ついている身体にそっと触れる。
『グルルゥ・・・!!』
「痛かったよね、辛かったよね、もう大丈夫だよ・・・。」
『・・・キュウン。』
その優しさに触れ、緊張の糸が切れたのか、その場で倒れた。
「よくこの状態でも屈することなく立ち向かっていた。その力強さ、最期の最期まで凛としたその立ち振る舞い・・・。お前は立派な誇り高きドラゴンだよ・・・。」
夜澄は背中に刺さっていた杭に触れると一瞬にして消え、近くの地面へと重い音を立てて落ちる。
そして次に体中に付けられていた全ての傷に触れると、傷が次々に消えていく。
消えるたびに、夜澄の身体に同じような傷跡が出現していった。
「・・・これで、大丈夫そうだね。さあ、お母さんの元にいこうか。」
『キュウン・・・!』
まるで甘えたような声を鳴らしながら、抱き上げられた幼竜は大人しくしていた。
幼竜とは言ってもかなりの重量であり、また抱き上げた時に全身に激痛が走るが、この子が受けた傷だと思えば余裕で耐えられた。
背中を優しく撫でながら、母竜の元へ向けて”移動”した。
「落ち着きなさい!ふーちゃん!」
『ガァァァアアアアア!!!』
だめ、怒りに飲まれて我を失っている・・・!
私の声も届かない・・・、あまり乱暴な手は使いたくはないんだけど。
でもこの子がここまで怒りに狂っているなんて、一体何があったの・・・?
ヨスミもどこにもいないし、でもまずはこの子をどうにかしないと!
「仕方ない・・・、恨まないでよね!」
両手に魔力を溜め、手をかざし、それを圧縮すると
「<大気よ、数多の吹きすさぶ風よ、我が呼びかけに応え、今ここに力を示せ!>」
~嵐裂弾~
圧縮された魔力が風属性へと変換され、目標に定められた斧尾竜へと解き放たれた。
周囲の空気を取り込みながら圧縮を続け、回転し、更なる加速を続け、それはより鋭く尖り、威力を増していく。
それは竜巻のような一撃が周囲を裂きながら斧尾竜へ向けて伸びていく。
だがそれが斧尾竜へ当たることなく、周囲を吹き飛ばしながら何もない場所へ直撃した。
「・・・へ?あれ、どこにいったの?」
周囲を見回し、いなくなった斧尾竜を探すが、少し離れた場所でその姿を見つけた。
斧尾竜自身も一体何が起きたのかわかっていないかのように、周囲を見渡していた。
『グ、グオオオォォ・・・??』
「え、うそ?なんでそこにいるの?仕方ない、もう一発・・・って、あれ?あそこにいるのって、・・・ヨスミ??その手に抱えてるのって・・・え、まさか・・・!?」
フィリオラの目にも斧尾竜が怒り狂う原因がはっきりと理解できた。
溜め始めていた魔力を霧散させ、ヨスミの元へ飛行する。
「ヨスミー! その子は・・・」
「ああ、フィリオラ。どうやら盗賊の奴らがこの子を拉致しようとしてたみたいでね。助けて治療しておいたよ。」
「キュウン!」
「そっか・・・。ふーちゃん!」
怒りに満ちた目で我が子の無事を確認するため、首を下ろし、顔を近づける。
鼻で臭いを嗅ぎ、我が子の存在を確かめると目を閉じ、静かに鼻息を吐き出した。
近づけた顔を持ち上げ、目を開くとその目には先ほどのような怒りはなかった。
幼竜は地面へ降ろされると、一目散に母竜の元へ駆けつけた。
足元で頬擦りする幼竜に、母竜は顔を下ろし、幼竜に頬で振れる。
「これで、大丈夫そうだね。」
「ヨスミのおかげで・・・あれヨスミ、大丈夫?顔色悪いよ?」
「問題ない、・・・ん?」
『人の子よ、我が子を救ってくれてありがとう。この礼はどうすればよいか・・・』
どうやら人語を解することが出来るみたいだな。
正直、歩くのもしんどいし、フィリオラが村人から受けたゴブリン退治の依頼も受けてたし・・・
「・・・なら、1ついいかな?」
「くそ、こいつら・・・!」
「メナス! 回復魔法を頼む!」
メナスと呼ばれた男の神官が聖書を持って走ってきた。
目の前には身体を深く切り刻まれた大楯使いのアダンタールが意識なく横たわっていた。
「<聖なる癒し>!」
傷口部分に白い光が集まり、癒していく。
だがその傷口が余りにも大きく、全てを癒しきれないようで痛みに呻いていた。
「申し訳ありません・・・、私の聖力がもう底を尽いてしまいました・・・。」
「く・・・、体力回復ポーションもなくなっちまったし、こりゃあやべえな・・・」
「きゃあああああ!!!」
「な、この声は・・・ジーニャ!!」
双剣を携えたフォードが持ち場を離れ、悲鳴が聞こえてきた仲間の方へと駆け出した。
そこでは槍使いのジョナスが何十匹も相手取っていたが、それを上回る数に数匹ほど取りこぼし、後方で掩護していた弓使いのナタリア、そして魔法を扱っていたジーニャに取りついていた。
「離れなさい、よっ・・・!!」
弓でゴブリンの剣撃を受け止め、矢を直接手に取ってゴブリンへ突き刺した。
だが、それでも数が多いため、背後から別のゴブリンがナタリアへ斬りかかり、血飛沫が宙に舞っていた。
フォードが急いで駆けつけ、ナタリアを切り付けたゴブリンを切り捨て、倒れそうになったナタリアを支え、そのままゆっくり横たわらせると、
「フォード!ジーニャがまずい・・・!急いで助けてやってくれ!」
ジョナスの必死の声にフォードがジーニャの元へ駆けつけると、数匹のゴブリンたちに馬乗りにされており、衣服が破かれ、首を締められていた。
「た、すけ・・・フォー・・ド・・・!」
「ジーニャ!!!ぐああ・・?!?」
右足にゴブリンたちの投げた石斧が突き刺さり、酷く転倒してしまった。
立ち上がろうとするフォードにゴブリンたちが飛び掛かられ、ゴブリンたちの攻撃を必死に防ごうとするも限界があり、何回か斬りつけられる。
すぐ目の前でジーニャが襲われているのに、手を伸ばせば届きそうなのに届かない。
「ジー、ニャ・・・!!くそぅ!」
もう何もかもがダメだと思ったその時、森の奥から伸びてきた巨大な斧尾が辺りを薙ぎ払い、ゴブリンたちが一瞬にして肉の塊と化した。
その後、フィリオラが空から現れ、刹那、ジョナスが相手取っていたゴブリンたちが何かに射抜かれたかのように頭を吹き飛ばされ、次々に倒れていく。
「助けにきたよー!」
「竜母、様・・・?」
「酷い傷ね、今治してあげるわ。<ハイヒール>!」
地面へ降りてきたフィリオラがフォードとジーニャへ治癒魔法を掛ける。
傷口に白い百合の花が咲き、発光すると傷口が瞬時に塞がっていく。
「とりあえず傷口は修復したけど、流れた血は戻ってこないからあまり無理はしないようにね。」
「あ、ありがとうございます・・・、竜母様!」
「すまねぇ、まだあっちの方にゴブリン共が!」
「わかってる。ふーちゃん、この辺りを守ってて!それじゃあまた後でね!」
そう言い残して、再度空へ飛び上がり、被害に遭っている方へと飛んでいった。
その後に、一回り大きい斧尾竜が姿を現し、フォードたちを睨んでいた。
『我が恩人との約束だ。今回だけお前たち人間に加勢しよう。だが、それだけだ。』
「お、おう・・・!」
蛇に睨まれた蛙のように、フォードたちは顔を青ざめながら小さく体を震わせ大人しくしていた。
~ 今回現れたモンスター ~
魔物:森林小鬼
脅威度:Dランク
生態:森林に生息地を広げるゴブリン種で体色は深い緑色、体の至る所に黒い染色を施している。
数は30~40匹の規模の集落で森の奥地で暮らしている。
一匹一匹の戦闘力は高くはないが、他のゴブリン種にはない森林の地形を駆使した戦い方、また各森林小鬼たちで連携してくるために他のゴブリン種よりもワンランク高く設定されている。
漫画にあるような人間の女性を繁殖目的で襲うようなことはないが、食糧として度々村を襲撃し、村人を攫っている。