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7話 何なんだよこのクエスト

「シホさん。このクエストお願いします」

「はい! 『集落付近の魔物討伐』ですね!」


 サシャは昨日入ったお金でどこかに行ったらしい。多分旅行か何かだろう。


ホノカは昨日の今日でのクエストで、休みたいとの事だ。


つまり、俺1人。


    1


 今回のクエストの難易度はFランク。そして俺たちのパーティーのランクはDまで上がったうえに、俺は新たにスキルを獲得している。


転移テレポート』。


 このスキルは、今回もヘレナさんから教わったもの。しかし前々から欲しいなあと思っており、その存在自体は元から認知していた。


 このスキル習得のせいでジャイアントスライム討伐で得た100のスキルポイントを半分ほど消費してしまった。


 だが、転移テレポートは自分のいる位置から、半径5000メートルの範囲で任意の位置まで瞬間移動することができるという、とてつもなく便利なスキルなのだ。


 そして、レベルが上がる毎に瞬間移動が可能になる範囲は広くなっていく、少し特殊なスキルだ。


 俺はドリトランを出て、転移テレポートを連続行使し、目的地の集落へと辿り着いた。


「ここが……」


『ミラタルト集落』。


 集落周辺には池や川などの水が多くあるため、魔物が湧きやすいそうだ。


そんな魔物を討伐するのが、今回のクエスト。


 まあよくある類のものだ。報酬もそこそこ出るらしいし、魔物討伐なので己のレベルアップにも繋がる。


集落の中はとても平和だった。


 子供たちは駆け回り、大人たちはその様子を微笑みながら眺めている。俺が市場に行くと、外からの客は珍しいから値引きをする、と俺は店内に引きずり込まれた。


「兄ちゃん、どっから来たの?」


ここは武器屋。

俺が頼んだのは、今持っている剣を研いでもらうことだ。


「すぐそこのドリトランです」

「あー、ドリトランね! いい国だよな! 行ったことはないけど」


 剣を研いでもらっている間、俺は周りに置いてあった様々な武器を眺めつつ、店主の彼と話しつつで過ごしていた。


「で? 兄ちゃんはどうしてこんな集落に? 観光…ってわけじゃないんだろう?」


「ええ、まあ。クエストです。集落周辺の魔物を討伐してくれ、とギルドに依頼が来まして」


「ああ、たしか『シダト』さんが、魔物のことをギルドに相談するとか言ってたかもなあ…」


「“シダト”さん、というのは?」


「ん? ああ。多分、兄ちゃんの受けたクエストの依頼主だと思うぞ?」


運がいいな。

こんな所で依頼主の名が分かるとは。


クエストには、大きく分けて2つの種類がある。

1つは国側からギルドに出される『カフルト・クエスト』。

 先日に討伐したジャイアントスライムのクエストもこれに含まれるものだ。


 そしてもう1つは、一般の人からギルドへの依頼である『オディアル・クエスト』だ。


 カフルトクエストであればギルド側から報酬が出るが、オディアルクエストは一般人からの依頼であるため、依頼主からしか報酬が出ないのだ。


 そのため、直接依頼主に会ってからそのクエストをこなさなければならない。


 まあまあな手間がかかるため、あまり人気のない類のクエストだ。


「ほら兄ちゃん。研ぎ終わったぞ」


 店主のおじさんは俺に剣先を差し出した。その輝きから、よく研ぎ澄まされたのだと分かる。


「ありがとうございます。それではお金を────」

「────ああ、いやいいよ」

「え? ……いやでも…」

「兄ちゃんはこれからこの集落周辺の魔物を討伐してくれんだろ? 俺たちのためになることだ。今回は、その感謝ってことでタダにしとくよ」


    **


「優しいおじさんだったなあ」


 …さてと、依頼主のシダトさんとやらに会いに行ってみるか。


 あのおじさんから聞いた話によると、シダトさんはいつもこの時間帯になると、集落の近くにある川へ釣りをしに行くそうだ。


というわけで、俺はその場所へと向かう。


「兄ちゃん兄ちゃん」


 道中、背後から知らんおじさんから呼び止められ、俺は驚きと警戒をしつつも振り返る。


「な、なんですか」


その人は中々に満面な笑みを浮かべながら俺に言った。

「そっち、危ないぞ? 魔物がうじゃうじゃしとるからな」


なんだそんなことかと、少し安堵した。

そして、俺はふと尋ねる。


「ご心配ありがとうございます。ちなみに、シダトさんという方をご存知ですか?」


「ああ、シダトか。あいつはこの先にいるよ」


 彼は武器屋の主人が教えてくれた通りの方向に指をさした。

「どうも」

俺は会釈し、足を進めた。


それから10数分ほど歩くと、川辺が見えてきた。


 そしてそこには、情報通りに魔物がうじゃうじゃしていた。二足歩行型の魔物が1、2……8体…か。


俺は付近にあった木の陰に隠れ、奴らの行動を伺う。

正直、あの程度の魔物であれば楽勝だ。


…しかし、何かおかしい。


 今目の前にいる8体の魔物は、2体ずつで違う種族の集まりになっていて、計4種類の魔物の集まりになっている。


 基本、魔物というのは他種族の魔物とは絡まない。彼らには “共通言語” というものが無いため、コミュニケーションを図りづらいのだ。


 故に、領地やどちらが強いかなどの全てをいくさで決める。


 結果的に何が言いたいかと言うと、魔物が他種族と一緒にいるこの状況は “異常” なのだ。


…よし、逃げるか。


 俺がくるりと方向転換をした時、俺は強く驚愕することになる。


「なあ、今何か音がしなかったか?」


「…!!」


魔物が……喋ってる…だと…!?

しかも俺たちと同じ言葉で…!


俺は息を殺し、彼らの会話に耳を傾ける。


「気のせいだろ」

「…そうだな。『イグニス様』が来るから、緊張して少し敏感になってるのかもしれない」

「まあ気を引き締めるのはいいことだ」


“イグニス” ……一体誰のことだ?


俺は続けて彼らの会話を聞く。


「そういや、 “この件” が上手くいったらイグニス様昇給するんだろ?」

「ああ。 “魔王幹部” で下から2番目になるな」


 “魔王幹部”……世間知らずな俺でも、小耳に挟んだことのある名称だ。


 魔王直属の前衛部隊であり、その強さはおぞましい程で、今まで何人もの勇者候補を殺してきた。


 …どうやら、イグニスというのは “魔王幹部最弱” の魔族の名らしい。


「今イグニス様は魔王幹部の中で最弱。しかし、いつか必ず魔王となるお方だ。我々はその補佐をしなければならない」

「全てはイグニス様のために」


「「「全てはイグニス様のために!!」」」


 ……彼らの話に出てきた “イグニス” という者、“この件で昇級”というワード。


どこか嫌な予感がしてならない。


直ぐにでも集落の方たちに知らせなくては…!


 俺が転移テレポートを使おうとした瞬間に、事態は一変する。たった1人、ある男の言葉によって。


「おい魔物ども!」


 声の方向、俺と魔物たちはほぼ同時に視線を移す。そこには中年で剣を持った男がいた。


「俺の名は『シダト・アンドレイ』! 今から貴様らを滅する!」


「ああ? 何だこいつは」

「やっちまおーぜ。いかにも弱そうな見た目だ」


彼がシダトさん、このクエストの依頼主か。


 …魔物の言うことに賛同したくはないが、それはもっともな意見だった。


 ガタガタな刃の剣に、ボロボロの服。剣の構え方も、まるで素人。


……いや、ああいう人に限ってめちゃめちゃ強いってのが王道な展開じゃないか?

…うん、ここでこのおっさんがこいつらをばったばったと倒せば…!

アツいよなあ…!


「はあああああああ!!」


 彼は魔物たちへと真っ直ぐ突き進んでいき、驚くほど大振りで剣を振り下ろした。


それを、魔物は軽く弾く。


……まあこんなもんか。

…仕方ない。


俺は木の陰から姿を見せる。


「おい、おっさん! あとは俺に任せろ!」


「誰だ君は! 危ないから下がってなさい!」

「危ないのはあんたの方だろうが!」


俺は魔物の方へと走る。

「『麻痺パラリシス』!」


 そして魔物たちの体を痺れさせた。どうやら、痺れに対する耐性は無いようだ。


「ぐあっ…!」

「何だこれは……!」

「体がっ…痺れ……」


彼らは呻き声をあげながら、地面に這い蹲る。


「おっさん、行くぞ!」

「何言ってるんだ! 今がチャンスだろ!」


…ああ、その通り。彼の言う通りだ。


 だが、彼の上にはイグニスという強さの計り知れない奴がいる。


 ここで手下を殺し、彼の恨みを買ってしまえば、俺の身どころかシダトさんの身の保証が出来ない。


 手を出してしまった時点でアウトかもしれないが、今はとにかくシダトさんを連れて逃げることが最善策だと、俺は判断した。


しかし、想定外の出来事が起こったのだ。


「…イグニス…様……今すぐに…実行しま…しょう…!」


 俺たちに勝てないと判断した1体の魔物が能力を使用し、イグニスに伝達してしまった。


 俺が転移テレポートを発動しようとした、まさにその刹那。


場の空気が先よりもはるかに重くなった。


目の前にて突如現れる青い炎。

そしてそれに包まれながら姿を現す男。


彼の瞳はその炎と同じく、青かった。


…そう、現れたのだ。


魔王幹部であるイグニスが、俺の目の前に。

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