4話 え、何その力
俺の能力『抹消』はありとあらゆる攻撃を消去できる。しかし、攻撃が出来ないという理由以外に最弱とされる理由がもう1つあるのだ。
それは“打撃に半端なく弱い”、ということ。
抹消は攻撃の瞬間に合わせて発動することにより威力や衝撃を消去できる。
つまり、タイミングを少しでも逃せば終わりなのだ。
だから連続的に来る打撃には、必然的に消去できる確率が下がる。
言うなれば、確率ゲーなのだ。
しかし、消去する対象が魔法やスキルならばどうだろう。魔法やスキルは連続して放つと馬鹿みたいに体力を消費するので、基本的にそんなことをする奴はいない。
…俺が何を言いたいか分かったか?
まとめると、俺は魔法やスキルへの対処のプロってこと。
「始め!」
生徒側から俺へと初めに挑んで来たのは、小さな女の子だった。
「『覇王風』」
とは言っても、えげつない上級魔法を放ってきた。
周囲の草花を巻き込みながら、吹き上げる竜巻。巻き込まれたらタダじゃ済まなそうだ。
俺は能力を発動する。
「『抹消』」
その瞬間、竜巻はふっと消える。
驚いている女の子の元に俺は歩いて行き、軽く彼女の額を指で弾いた。
「俺の勝ち、でいいかな?」
「は…はい」
その時、見ていた生徒たちから拍手が巻き起こる。俺は満面の笑みを浮かべた。
「さあ! どんどんこいやあ!!」
1
約1時間後、全生徒たちとの戦闘が終わった。俺とサシャが代わる代わるで戦闘を行い、無事全勝。
ホノカは先生の傍らで俺たちを見ているだけだったけど。
そして俺たちは転送魔法にてドリトランへと帰国し、シホさんから金銭とスキルポイントを受け取った。
金銭は3人で山分けし、スキルポイントは各々が平等に得た。
「いやあー今日の俺、多分人生で一番輝いてたなあ」
「ああ、そうだな。まさかレオにあれほどまでの適役があったとは」
「……」
俺たちが会話している中、ホノカは黙って、真剣な表情をしていた。俺はそれに気づき、話しかける。
「ホノカ? どした?」
彼女はそのままの表情でこちらを向く。そして俺に言う。
「レオさん、前々から聞こうと思っていたのですが」
「おう」
「レオさん、私が寝た後いつも外に出てますよね。」
「…あー……気づかれてたか…」
俺は、幾つか秘密を抱えている。
仲間である以上、いつかバレてしまうのだろうが。
「あれってどこに行ってるんですか?」
俺はほんの少し躊躇ったが、暴露することにした。
「実はな────」
その瞬間、背後から俺を呼ぶ声がした。
「レオー!」
俺たちは振り返り、その姿を視認する。
彼の名は『ミカガミ・ユウ』。
俗に言う“異世界転生者”である。“日本”という国から来たようだ。
俺たちはよく気が合い、高頻度で遊んでいる。
ユウはこちらへと駆け寄って来て、ホノカとサシャを見てから直ぐに俺へと尋ねた。
「この子たちは?」
「ああ…俺のパーティーメンバーだ。」
「え、お前冒険者になったん?」
「…言ってなかったか?」
ぺこりと会釈するホノカを見て思い出す。
「そういや、話の途中だったな。俺が夜抜け出しているのは、こいつが関係してるんだ」
**
時間は流れ、深夜。
俺はホノカが布団に潜り寝ていることを確認し、外へ出る。
するとそこには、ユウと眠そうにあくびをするホノカが立っていた。
「ホ…ホノカじゃないか…」
布団の膨らみはフェイクか、と俺は感心する。
彼女は俺が出てきたことに気づくと、突然俺の腕に抱きついてきた。そして俺の顔面を見上げ、微笑む。
「えへへ、これで逃げられませんね?」
呆れる俺と戸惑うユウ。
「仕方ない。レオ、この子も連れてこう」
「…そうだな。けどホノカ、これから行く場所は危険だから、十分注意しろよ?」
「わ、わかりました…!」
俺たちは国を抜け、あの魔法学校がある大森林へと足を進めていた。
「なぁ……いつまで腕掴んでるんだ?」
家から現在地まで、未だに腕を掴み続けているホノカに、俺はほんの少しだけしかめっ面を浮かべる。
一方、ユウは少し離れた所で俺たちを先導していた。
「あなたが逃げないようにするためですよ…それなら…手でも繋ぎますか?」
俯き、少し赤面するホノカ。
…ほぉ、やはり可愛いところがあるじゃないか。
そんなホノカの様子を見て、俺はあることを思いつく。
「…俺さ、妹が欲しかったんだよ」
「ん? 何の話です?」
「妹に“お兄ちゃん”って呼ばれるのが夢だったの」
「……私に“お兄ちゃん”と呼べと?」
「一回だけでいいから、そう呼んでほしい」
彼女は迷っているような表情を浮かべた後、微笑んで俺へと言う。
「嫌です」
「ですよねー」
2
森林に足を踏み込み、それから徒歩でしばらく。
俺たちが目指していたのは、古代の大ダンジョン。
「ほえー……」
唖然とするホノカ。俺は少し笑った。
「こんな場所があるなんて知らなかっただろ?」
「ええ…そうですね」
「よし、行こうぜ」
ユウは再び俺たち2人を先導し始める。
入口から地下深くまで階段が続いているうえに、中は真っ暗で足元がよく見えない。
そこで活躍するのが、ユウの魔法だ。彼はほんの少しではあるが、魔法を使える。
「『光点』」
彼の指先が魔法によって著しく光る。足元はその光によって明るく照らされた。
「やっぱ便利だよな。魔法って」
「教えてやろうか? 意外に簡単だぜ?」
「機会があればな」
俺たちがスムーズに足を進めるなか、ホノカは中々に苦戦しているようだった。
足を踏み外すのが怖いのだろう。
俺は後ろで階段を降りるホノカに、手を差し伸べた。そして先程、彼女に言われた言葉をそのまま返す。
「手でも繋ぐか?」
先と同様に赤面するホノカ。それでも、彼女は優しく俺の手を握った。
「お…お願い…します…」
手を繋ぐ俺たちの様子を見て、先導するユウは言う。
「おいおい、イチャイチャするのはやめてくれよ」
俺は小声で呟く。
「これでお兄ちゃんって呼んでくれれば最高なんだけどな……」
「レオさん、今なんと?」
「なんでもないよー?」
**
俺たちがダンジョンを目指していたのには理由がある。こんなにも道中魔物に襲われても、それでも目指す理由がある。
それは、“戦闘訓練用のゴーレム”である。
「これって……」
「ああ。戦闘力向上のために、俺が愛用してるんだ」
その証拠に、ゴーレムの体には剣で斬った傷が幾つか残されている。
「こいつ中々に強いんだ。ホノカちゃんも試しにやってみる?」
そう尋ねるユウ。そこで俺はふと思う。
「そういや、ホノカってまともに戦闘できるのか?」
「なっ! 聞き捨てなりませんねその言葉! そこで見ていてください!」
…どうやら、彼女のトリガーを引いてしまったようだ。
しかし、今の今までホノカが戦っているところを見たことがない。
武器らしき物も持っていないし。
ユウはゴーレムの背後にあるスイッチを入れ、俺と一緒にその場からはけた。
動き出すゴーレム。
ホノカは何故か目を瞑っていた。
少し心配になり、俺は呼びかける。
「おーい、気をつけろよー」
そんな俺の言葉には一切の反応を示さず、ホノカが目を瞑ったまま、ゴーレムは彼女へと向かって一直線に突き進む。
しかし、ぴくりともしないホノカ。
「やば────」
俺は思わず剣を抜きかけるが、ユウに止められる。
「やめとけ」
「…何でだ?」
「よく見てみろ。ホノカちゃんの体を」
彼に言われて気づく。
彼女の体から湧き上がる“青白い謎のオーラ”に。
刹那、彼女が目を開いた瞬間にゴーレムの体はバラバラになっていた。
そして自信満々の笑みで俺の方を見るホノカ。
「どうです! これが私の力です!」
「「すげー……」」
俺たちは唖然とする。
自分たちよりも明らかに上位の力に。
「たしかにすごいけど…………俺たちの訓練用ゴーレムが無くなったんだが」
「……新しいの購入したらどうです?」
「売ってるわけないだろ!」
**
あの後、彼女に “あの力” の正体を尋ねたが───
「秘密です」
───と言って、俺に教えてはくれなかった。
ユウとはドリトラン国内で別れ、俺たちは飲食店で朝食をとることにした。
カウンター席で、並んで俺たちは食事をとる。ご飯を食べている時、ホノカは俺へと言った。
「あの……さっきまでの “変な言動” 、全部忘れてください」
「“変な言動”?」
彼女は顔を赤くする。それから早口で喋り出した。
「お、覚えてないんですか!? て……手を繋ごう…とか…」
「あー……でも何で?」
「あっ、あの時は深夜テンション…というか…何と言うか…私変だったんです!!」
「そ…そうか…」
俺は少しがっかりした。
てっきり好意を抱かれていたと思ってたのに…
そんなしょぼんとする俺に、ホノカは訊いた。
「…そういえば、今日は魔物討伐のクエストを受ける予定ですよね?」
「あー…そうだったな」
昨日魔法学校のクエストで多額の金銭を受け取ったものの、山分けだったため1人の取り分は割と少ないものだった。
生活するには、まだまだお金が足りない。
それにサシャの大剣の件で借金もあるしな。
そのため、今日は3人で魔物討伐をしようと計画していた。
魔物討伐が一番稼げるからである。
その時、店の入口から大きな声が聞こえた。
「おいレオ! 大変だ!!」
そこにはサシャの姿。
彼女は鬼気迫る表情をしていた。
……何だか嫌な予感がする。