2話 仲間探し
「『抹消』…ってあの最弱のですか?」
「そうだ」
俺の能力『抹消』は、ありとあらゆる攻撃を消すことができる能力だ。
そう聞くと強そうと思うだろう。
俺も自分の能力が判明した時、そう思った。しかし、この能力の力は、 “消すだけ” なのだ。
つまり “相手に攻撃することはできない” 。
これが、最弱と称される理由だ。
「ところでホノカ。冒険者って職業の特徴、知ってるよな?」
「え? なんのことです?」
「お前なあ……」
俺は呆れつつ、朝食を完食し、彼女に説明した。
「冒険者という職業は、主に近辺に現れた魔物討伐等の依頼をこなして利益を得る」
「ふむふむ?」
説明中に彼女も朝食を完食してくれたようだった。俺はそんな彼女を見つめながら説明を続ける。
「そして依頼を達成すると、金銭と共に『スキルポイント』というのが貰えるんだ」
「スキルポイント?」
「おま…ほんとに何も知らないんだな」
首を縦にぶんぶんと振るホノカ。そういえばこの子は『ヴァロイド王国』出身だったな。
貧しい国だ。恐らく、冒険者のギルドという存在は無かったのだろう。
「それじゃあ、『スキル』は知ってるか?」
「あ! それは知ってます! 能力とは違う能力もどきのことですよね!?」
「うん、20点ってとこかな」
「なっ!?」
「まあ、その解釈で構わないよ。スキルに関しては少し複雑だからな」
人は能力を2つ以上所持すると、体内で能力と能力が反発し合い……物騒ではあるが、体が爆発する。
その一方で、スキルはいくつ所持しても構わない。
簡易的に言うのであれば、能力はただの“能力”でありスキルは“技術”なのだ。
ちなみにスキルは様々な系統があり、その中には攻撃にあたる系統のスキルもある。
「そしてそのスキルポイントが一定数溜まったら、任意のスキルと交換ができるんだ」
「へえー」
俺は席を立ち上がる。
「てなわけで、今日は“冒険者ギルド”に行って冒険者登録をし、最低限一つのスキルを覚えようと思う!」
「…なんで?」
コイツ……話聞いてたか?
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俺の今の職は、ニートだ。
…まあでも?
人の手伝いをすることで稼いでるんで?
実質ニートではない!
……今まで色んなことがあったなあ。
手伝いといって、崖に連れていかれ足を滑らせて落ち、死にかけたり。
廃墟の掃除を頼まれ、崩れた壁の下敷きになって、死にかけたり。
…ああ、そうだ。
セクハラ疑惑で裁判になったこともあった。
……本当に色んなことがあったなあ。
でも、今日でこんな生活ともおさらばだ。
さらば俺の無職人生…!
感慨深くなって、ギルド内の受付前で号泣していると、受付の “シホさん” という方が俺へと告げた。
「ごめんなさいねえ。冒険者になるためには最低3人でパーティーを組まないといけないの〜」
「…っあ〜っああああ…!」
俺は声にならない叫びをあげる。
俺としたことがっ…!盲点だった…!
「……だそうですよ? レオ、どうします?」
冒険者になるためには、最低3人組のパーティーになる必要がある。
諦めるか…?
いや、今の俺の実力じゃ国から出たら直ぐ魔物に殺されてしまう。
だいいち、冒険者の資格無しじゃ国からもまともに出られない。
「よしっ! 仲間探しするぞ!」
「イェッサー!」
**
「さてと、ホノカ。まず、俺たちが望む仲間には何が一番重要だ?」
「そうですねえ。やはり根性でしょうか?私のストレスの宛先となるサンドバッグになるための────」
「────うんうん…ん? お前今なんて言った?」
「でも一番は “理解があって同じ野望を持てる” という点でしょうか。」
「あれ? 聞こえてない?」
「私たちは魔王を目指すという立場。その立場を理解したうえで、同じく目指してくれるという者が必要不可欠でしょうね」
「おーい」
ホノカに俺の声は届いてないようだが、たしかに彼女の言うことは正しい。
仲間というのは、同じ目的を持つものだ。
魔王討伐、生活の安定、仲間との冒険者ライフ、異性との出会い等々。
目的はさまざまだから、それなりに出会いはありやすい。…のだが、俺たちにとってその出会いは皆無にほぼ等しい。
魔王を目指す者なんて……な。
「とにかく、募集してみるしかないな…」
俺たちは、ギルド内にあるクエストが書かれた紙を貼る場所に、募集要項を書いた張り紙を貼り付けた。
『理解ある仲間募集中!
何歳からでもいいけど、極力若い方が良いと思う!
パーティーにはピチピチの18歳がいます!
興味のある者はギルドの出入口前でレオ・トレイドを尋ねてください』
そして俺たちは出入口前に移動した。近くにあったベンチに並んで座り、気長に待つことにした。
それから数十分、数時間。
気がつけば日が暮れていた。俺の肩に頭を乗せながら、すやすやと眠るホノカ。
そんな彼女を見て、今日は諦めようと決心する。
俺はホノカの肩を揺すり、起こした。
「ホノカ。今日はもう帰ろう。もうギルドが閉まる時間が近いからな」
「う…ん……わかりました…」
眠そうに目を擦るホノカに俺は手を差し伸べ、共に立ち上がった。
その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「レオ・トレイドはいるか!」
「はいはい、ここですが」
俺が振り返ると、そこには俺と同じくらいの身長で、歳もそれほど変わらないであろう女の子が立っていた。
白と黒が入り交じった髪色をしていて、その長さはショート。そして大剣を背負っていた。
彼女は大きく息を吸い、俺へと言う。
「我が名は『サシャ・エルトルト』!いつか魔族を滅する者!」
…ん?
“エルトルト”…どっかで聞いたような…
彼女は続けて言う。
「私をあなたのパーティーに入れて欲しいのだが!」
「あー、少しお待ちを」
俺はホノカと共にくるりと回り、サシャに背を向ける。そしてホノカと、彼女に聞こえない程度の小声で意見交換をする。
「おい、どうする? 魔族を滅する者とか、めちゃくちゃ大声で言ってたぞ」
「…とりあえず、事情を説明してみてはどうでしょうか」
「え、それ大丈夫か? 何かめんどくさいことにならないか?」
「大丈夫ですよ。たぶん」
「おい! 何をコソコソと話しているんだ! 私をパーティーに入れるのか入れないのか、はっきりしたらどうなんだ!」
俺はサシャへと顔を向ける。
「悪い悪い。少し俺たちの事情を聞いてくれないか?」
彼女が不思議そうに頷いたので、俺は説明を始めた。
要約すると、以下の内容だ。
俺たちは魔物との共生を目指すこと。
そのために魔王を目指していること。
それらを説明し終えたうえで、俺は彼女に尋ねる。
「目的を聞いた上で、まだ俺たちの仲間になりたいと思えるか?」
「…私には、いち早く冒険者にならなければならない理由があるんだ。」
彼女の言う理由とやらが気になったが、あまりそういうのは聞くべきではないと思い、敢えて尋ねはしなかった。
彼女は提案した。
「君たちの仲間にはなりたいが、私にも事情というのはある。だから “勝負” をしないか?」
「“勝負”?」
「ああ。君も腰に剣を携えているだろう? 剣での勝負さ。私が勝てば、君たちには私の目的のために動いてもらう。私が負ければ、君たちの目的のために私は手を貸そう。」
「なるほど、たしかにそれならフェアだな。」
彼女の言葉に感心する俺へと、ホノカは口を挟む。
「なるほど、じゃないですよ! もし負けたら私たちは────」
「────ああ。承知の上さ。」
「な…!」
俺は腰の剣を引き抜く。
彼女も背負っていた大剣を俺に向けた。
「な、なんだあれは!!」
俺は彼女の後方へと指を指す。彼女が後ろを向いた瞬間、俺は剣を振るう。
「はい! 勝負はじめえ!」
驚愕するホノカを横に、俺が思い切り振った剣の背部分は彼女の腹部に見事命中した。
だがしかし。
「『遅延』。今の君の攻撃は、たった今 “遅延” した。」
彼女の能力によって俺の攻撃は “ほぼ無効化” されてしまった。
『遅延』……厄介な能力だ。
遅延は、能力を使用している際は当たった攻撃のダメージが無効化される。しかし、翌日までにその攻撃と同等の威力を持った攻撃を誰かに与えなければ、自分にダメージが倍以上になって戻ってくる、という能力だ。
俺は一度後退する。
「遅延…? なんだかよく分かりませんが、サシャさんが無事で良かったです! レオさん! あんな手は卑怯ですよ!」
「フッ…これが俺の戦い方なのさ」
「こっ…この卑怯者お!!」
一見、無敵のように思えるこの能力だが、一つだけ打開策というものがある。
「おい、サシャ! あれは何だあ!?」
俺は再び後方を指さし、彼女に向かって走り出す。そんな俺に呆れたのか、大剣を地面に突き刺して立てるサシャ。
「この私が二度も同じ手を食らうとでも?」
もちろん理解しているさ。
こいつの武器やら目つきやらで、俺よりもはるか上の手練であることは初めから分かりきっていることだ。
…そうだ。この機会だ、ホノカに俺のスキルを見せておこう。
「ホノカ! 見とけよ?」
「え?」
「ほう? 何を見せてくれると言うのだ…!」
剣を空高く投げる。
そしてその剣先は、俺へと向かって落ちてくる。
刹那、俺は剣先が俺自身に触れる瞬間、スキルと能力を発動した。
『遅延』の弱点、それは無効化できるダメージに上限があるということ。
「スキル:『付与』。能力:『抹消』」
するとたちまち、サシャの大剣が真っ二つに折れ、その大剣の向こうで彼女が倒れる。
俺はホノカへと笑ってみせた。
「どうよ?」