プロローグ
この物語はフィクションです。
登場人物・団体名等は架空のものであり、実在のものとは一切関係がありません。
俺は『レオ・トレイド』。
広場の噴水前、俺は今、人生の分岐点に立っていた。
「俺と付き合ってください!」
精一杯に頭を下げ、右手を思い切り彼女へと突き出す。この子で今年は六人目。
他五人は俺の顔や身体、仕草を見て瞬時に俺からの告白を断った。この子がダメなら俺はもう一生挫けてしまうかもしれない。
「あのー、とりあえず頭上げてくれないかな?」
俺は恐る恐る、視線を彼女へと向ける。その表情は失笑したような苦笑したような、どっちつかずのものだった。
それからほんの少し微笑みながら、彼女は言った。
「ごめんなさい。私好きな人がいて…」
「あ、全然大丈夫です! 僕と付き合えば次第に好きになってくると思うんで!」
俺は突き出していた右手をことさらに突き出し、先よりも深く頭を下げた。
「あ…あの……?」
戸惑う彼女。俺は畳み掛けた。
「安心してください! 俺があなたを幸せにします!」
「いや、そういうんじゃなくて…」
「お願いしますううう!!」
「だから、そういうんじゃ…!」
「おなしゃああす!!」
「もう! しつこい!!」
彼女は腕を振り上げ、俺の顔に思い切りビンタをくらわせた。
その手のひらには『怪力』という力増強のバフがかけられていた。
したがって、俺は吹き飛んだ。それはもう清々しい程に。
そして、丁度いいところに置かれていた木箱の山へ突っ込んだ。
崩れる木箱。走り去る彼女。頬が赤く腫れ、呆然とする俺。
「今回もだめだったか」
嘆きながら立ち上がり、体に付着した土を払う。木箱を元の並びに戻そうとした時、俺は箱の状態に気づいた。
ほとんどの木箱が折れて修復しなければならない状態となっていたのだ。
「あちゃー……」
俺を複数の男が囲う。恐らくはこの木箱の所有者であろう。彼らは指の骨を鳴らし、今にでも殴りかかってきそうな勢いだ。
「おいおい兄ちゃん。これどうしてくれんだ?」
「あははは……どうしましょう…ね…?」
**
結果、俺は徹底的にボコられた。
理不尽で薄汚い、これが俺たちの世界だ。
俺たちは人間には、生まれつき体に備わった“能力”というものがある。先程の彼女の『怪力』も生まれ備わった能力だ。
能力の強さ次第で就ける役職は大きく変わるし、社会的地位も大きく変わる。だから強い者が正義だ。
こんな世界を俺は忌んでいる。
だがその一方で、素晴らしい世界だとも思ってはいる。
なんでかって?
この世界には可愛い女の子が沢山いるからさ!
「よーし! 次は絶対成功させてやるぞおお!!」
恋愛への意欲に満ち満ちた俺は、町の通りにも関わらず、一人で大声を出した。
瞬間、背後から話しかけられた。
「ねえ、そこのあなた。」
むむむ!
女性、それも若い子の声!
俺は振り向く。そこには、フードを被り外套を纏った、俺よりも十数センチ小さい女の子がいた。
顔は見えないが、声からして十代後半くらいだろう。
「どうしたんだい? そこの少女!」
「私と一緒に、 “魔王” 目指してみない?」
「……? 今なんと?」
こうして俺の新たな日常が幕を開けようとしていた。