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47話

 アルギスが褒賞の授与式を終えて数日が経ったある日。


 日も半ば沈みかけた夕暮れの中を、レイチェルは1人、重たい足取りで屋敷へと戻っていた。



(……帰りたくないな)



 俯きながら庭園を歩いていたレイチェルが顔を上げると、既に屋敷の玄関口は目と鼻の先にある。


 気分を落ち込ませつつも、レイチェルはアンダーソンの控える玄関口へと向かっていった。



「はぁ……」



「おかえりなさいませ、お嬢様」



 程なくレイチェルが玄関口の前へと辿り着くと、アンダーソンは流れるような所作で屋敷の扉を開ける。


 そのまま扉を押さえるアンダーソンを尻目に、レイチェルは立ち止まることなく、屋敷へと足を進めた。



「ええ、出迎えありがとう」



「……お疲れのところ、大変申し訳ございません。旦那様から部屋へ来るように、との言伝を預かっております」



 レイチェルに続いて屋敷へと戻ったアンダーソンは、躊躇いながらも、はっきりと伝言を伝える。


 背後から聞こえた声に、レイチェルはピタリと足を止め、穏やかな表情で振り返った。



「……そう、わかったわ。着替えたら行くと伝えて頂戴」



「かしこまりました。では、そのように」



 レイチェルの態度を訝しみつつも、アンダーソンは玄関ホールを足早に去っていく。


 一方、玄関ホールに残ったレイチェルは、一層重たくなった体を引きずるように部屋へと戻っていった。



(どうしたらいいの……?)



 着替えを終えてソファーへと座り込んでも、胸中に渦巻く不安は晴れない。


 しばらくの間、レイチェルが蹲っていると、ゆっくりと開いた扉の奥からアンダーソンが姿を現した。



「お嬢様、そろそろ旦那様のところへ行かれた方がよろしいかと……」



「……そうね、今行くわ」



 床へ足を下ろしたレイチェルは、勢いをつけてソファーから立ち上がる。


 レイチェルがトボトボと扉を開けたアンダーソンの前を通り過ぎると、2人は無言で廊下を歩き出した。



(手紙で呼び出すという事は、そういうことなんでしょうね……)



 アンダーソンを連れて廊下を進む中、レイチェルは屋敷へ帰る原因となった手紙に思いを馳せる。


 寮へと届けられていた手紙には短く、”至急、屋敷へ帰るように”とのみ書かれていたのだ。


 憂鬱な表情を浮かべていたレイチェルは、気づけばオリヴァーの部屋の前へと辿り着いていた。



(……行くしかないわね) 



「どうぞ」



 レイチェルが覚悟を決めると同時、アンダーソンは静かに部屋の扉を開く。


 真っ直ぐにオリヴァーの座る机の前へと向かったレイチェルは、震えそうになる声を抑えながら口を開いた。



「失礼いたします。お呼びとのことですが……」 



「ああ、お前には伝えなければいけないことがある」



 レイチェルが頭を下げると、オリヴァーは大きく息を吐いて、机の上で両指を組んだ。


 いつになく真剣な表情のオリヴァーに、レイチェルは唇をきつく結んだ。



「……はい」



「……お前の正式な婚約が今年の内に決まるだろう」



 レイチェルが祈るように言葉を待つ中、オリヴァーは重々しい口調で口を開く。


 室内に静寂が満ちる中、レイチェルは拳を握りしめ、悲し気に床を見つめた。



「もう、それほど貴族派の状況は悪いのですか……?」



「……いや、危機的な状況は一時的に脱している」



 震える声で尋ねるレイチェルに、オリヴァーは難しい顔で首を横に振る。


 オリヴァーの返事を聞いたレイチェルは、溢れそうになる涙を堪えながら顔を上げた。



「では!一体なぜ!?」



「この機を逃すわけにはいかないからだ。今ならば王都での状況を立て直すこともできる……」



 レイチェルが声を張り上げると、オリヴァーは逃げるように目を逸らす。


 歯切れ悪く口を閉ざすオリヴァーに、レイチェルは訝し気な表情で詰め寄った。



「王都で、何が起きたのですか?」



「……詳しくは話せん。だが、各派閥の風向きが変わったことは確かだ」



 再び静かに首を振ったオリヴァーは、肘掛けに手をついて、ドカリと背もたれへ寄りかかる。


 どこか苛立ちを見せるオリヴァーに対し、レイチェルははたと目を輝かせた。



(でも、それならもう少し時間があるんじゃ……) 



「今回に関しては、もう先延ばしにはできない。新年のパーティを以て正式な婚約が成立するだろうから、そのつもりでいなさい」



 しかし、肘掛けを握りしめたオリヴァーは、レイチェルの期待を裏切るように言葉を続ける。


 有無を言わさぬオリヴァ―の口調に、レイチェルの頬には一筋の涙が流れた。



「どうして……?」



「……遂にヴィクターから直接抗議の手紙が来た。丁寧な文面ではあったが、相当お怒りのようだ」



 肘掛けを握る手をふっと緩めると、オリヴァーは自嘲気味な笑みと共に肩を落とす。


 見たこともない程疲弊した様子のオリヴァーに、レイチェルは俯きながら口を閉ざした。



「そう、ですか……」 



「……すまない、こんな話までする必要はなかったな。今日は、もう寝てしまいなさい」


 ポタポタと床へ涙を落とすレイチェルに、オリヴァーもまた、目元を手で覆う。


 避けるようにオリヴァーへ背を向けたレイチェルは、袖で涙を拭いながら部屋を飛び出した。



「アルギス様……部屋にいるかな……」 



 日も暮れ、薄暗くなった廊下を歩くレイチェルの呟きは、寂し気に奥へ消えていく。


 再び溢れ出た涙を拭うと、レイチェルは居ても立ってもいられず、屋敷の廊下を走り出すのだった。



 ◇



 時は遡り、王都が夕暮れに染まる頃。


 アルギスの姿は、食材を求める人でごった返す、商業区の市場にあった。



(さーて、何か目新しいものはあるかな?)



 所々で威勢のいい声が聞こえる通りを見渡したアルギスは、上機嫌に両手をすり合わせる。


 というのも、思い付きで始めたはずの料理は、すっかり良い気分転換の1つとなっていたのだ。



(作れそうなものはおおむね、作り終えてしまったからな。そろそろ新しい食材か調味料辺りが欲しいところだが……)



 通りへ足を踏み入れると、アルギスはあちこちに目線を彷徨わせながら、食材を探していく。


 しかし、市場にならんでいた食材や調味料は、どれもこれまでに見たことのあるものばかりだった。



「はぁ、今日も食堂か……」



 期待外れの結果に、アルギスは肩を落としながら市場を後にする。



 やがて、学院への道のりも半ばまで戻った時。


 街行く人の中で、金庫のような箱が載った台車を前のめりになって押すエレンの姿が目に留まった。



(また、なにか運んでいるな)



 アルギスの目線の先では、エレンが重たそうに台車を押しながら止まったり進んだりしている。


 見かねたアルギスは、歩く速度を上げて、エレンへと近づいていった。



「エレン、学院まで帰るのか?」



「アルギス?そうだけど……」



 突如現れたアルギスに、エレンは目を丸くして首を傾げる。


 キョトンとするエレンの横へ並んだアルギスは、肩を竦めて、台車の取っ手を掴んだ。



「ちょうど私も帰るところだ。手伝ってやる」



「ありがとう」



 未だ目を瞬かせつつも、エレンは嬉し気に頬を緩める。


 前を向き直った2人が取っ手を押すと、台車は商業区に敷かれた石畳の上をガタガタと進み始めた。



(エレンの持ち物だとすれば魔道具なんだろうが、一体なんの魔道具だ?)



 しばらく無言で歩いていたアルギスは、次第に台車の上で揺れる箱の正体が気になり始める。


 ややあって、学院の正門が遠目に見え始める頃、堪え消えなくなったように声を上げた。



「なあ、この箱は何なんだ?」



「これは失敗作」



 隣で顔を向けるアルギスに、エレンは正面を向いたまま、素っ気ない言葉を返す。


 不満げなエレンの表情を見たアルギスは、スッと目を細め、興味深そうに再び箱へ目線を戻した。



「へぇ……」 



 ――――――



 『試作魔道具』:《傲慢の瞳》により、この試作魔道具は魔道具であると判明。


 この魔道具は魔術陣の一部が焼き切れており、魔力を込めると内部に高熱を発する。



 ――――――


 アルギスの前に現れた表示には、”魔術陣の一部が焼き切れている”と確かに記載されている。


 しかし、肝心の魔道具自体が何であるかについては、一切記載されていなかった。



(……少しずつ、このスキルの事が分かってきたな)



「どうしたの?」



 不満げに箱へ目を落とすアルギスに、エレンは不思議そうな表情で首を傾げる。


 すると、アルギスは何かを思いついたように顔を上げて箱を指さした。



「なあこれ、私に売ってくれないか?」



「え……?」



 アルギスの返事を待っていたエレンは、唐突な提案に思わず声が漏れる。


 そして、目を白黒させつつも、どこか好奇心を湛えながらアルギスへ顔を寄せた。



「別にいらないからあげるけど……何に使うの?」



「なに、ちょっとした実験だ」



 エレンに流し目を送ったアルギスは、上機嫌な笑みと共に、間近に迫った正門を見据える。


 はぐらかすようなアルギスの返事に、エレンはピクリと耳を動かし、表情を真剣なものへ変えた。



「実験なら手伝う」



「……物の例えだ。とりあえず、さっさと寮に帰るぞ」



 エレンの視線を遮るように手を振ると、アルギスはげんなりした顔で太陽の沈み切った空を見上げる。 


 対照的な表情を浮かべた2人は、台車の車輪を鳴らしながら学院の敷地を進んでいった。



(さすがに、もう皆寮に帰っているみたいだな) 



 程なく2人が辿り着いた中庭は、すっかり人気が無くなり、寒々しい風だけが吹いている。


 寮へ繋がる舗装された通路を進む道中、エレンは不安げに眉を下げながらアルギスへ顔を向けた。



「ねぇ。本当にどう使うの?」



「この魔道具は魔術陣のある箱の内部が高温になるだろう?」



 じっと横から見つめるエレンに対し、アルギスは鑑定の結果を思い出しながら、箱へと目を落とす。


 訳知り顔で話すアルギスを訝しみつつも、エレンは伏し目がちに小さく頷いた。



「たぶん。魔術陣の付与に失敗したから……」



「石窯の代わりにできるかと思ったんだが、温度はそこまで上がるか?」



 落ち込んだ素振りを見せるエレンをよそに、アルギスは気楽な調子で質問を続ける。


 思わぬ問いかけにギョッと目を剥いたエレンは、信じられないものを見るようにアルギスの表情を覗き込んだ。



「そんなの試してないからわからない。それに温度もわからないし、魔力もずっと使い続けないといけない。……というか、使えても絶対危険」



「なら、やはり試してみるしかないな」



 忠告じみたエレンの返事を聞き流すと、アルギスは寮を見上げながら、楽し気に口元を歪める。


 なおも上機嫌に寮を目指すアルギスに、エレンの表情は困惑で染まっていった。



「話、聞いてる?」



「ああ。楽しみだ」



 不敵な笑みを浮かべたアルギスは、戸惑うエレンごと台車の向きを男子寮へと切り替える。


 アルギスの行動に唖然としつつも、エレンは慌てて男子寮へと足を向けた。



「……絶対聞いてない」 



「なんだ、帰ってもいいんだぞ?」



 隣で愚痴を零すエレンに、アルギスはうんざりした表情で肩を竦める。


 しかし、大きなため息をついたエレンは、ぶすっとした顔で前を向き直った。



「製作者として見届ける義務がある」



「……そうか」



 エレンの勢いに圧されたアルギスは、以降何も言わず進んでいく。


 程なく玄関口を抜けた2人は、すれ違う生徒たちの視線をよそに、魔導昇降機へと向かっていった。



(それなりに重量があるが……いけるか?) 



 エレンと共に魔導昇降機へ乗り込んだアルギスは、窮屈な室内に眉を顰めながらレバーを押し上げる。


 すると、魔導昇降機はアルギスの心配と裏腹に、グングンと上へ登り始めた。



(思ったより丈夫だな。まだ余裕がありそうだ)



 普段と同様の挙動をする魔導昇降機に、アルギスは性能について考えを改める。


 やがて、5階まで辿り着いた魔導昇降機が動きを止めると、エレンに先立って扉を開いた。



「行くぞ」



「うん」



 後ろを振り返るアルギスの声に、エレンもまた、台車を押しながら魔導昇降機を出ていく。


 再び並んで取っ手を掴んだ2人は、アルギスの部屋へと台車を押していった。



(……思い付きで貰ったはいいが、置く場所あったか?) 



 ややあって、自室の前まで戻ってきたアルギスは、扉の施錠を解除しながら、ふと不安に駆られる。


 扉を開けたまま立ち止まるアルギスに、エレンはキョトンとした顔で首を傾げた。



「どうしたの?」



「……いや、なんでもない。厨房へ向かうぞ」



 気持ちを切り替えるように首を振ったアルギスは、エレンに並んで台車を部屋の中へと押し込む。


 そして、そのまま厨房へと運び込むと、辺りを見回しながら黒い霧を揺らめかせた。



「――スケルトン共、箱を持ち上げろ」



 アルギスが指を鳴らすと同時、形を成した数体のスケルトンは、いとも簡単に箱を持ち上げる。


 しばらくの間、スケルトン達をウロウロと動かしていたアルギスは、丁度良い隙間を見つけ、満足げに頷いた。



「うむ、ここに置こう」



「その魔道具を使ってなにか作るの?」



 スケルトンが黒い霧へと戻っていく中、エレンは目を輝かせてアルギスを見つめる。


 ソワソワと返事を待つエレンをよそに、アルギスはしゃがみ込んで箱の中を確認し始めた。



「さあな、気が向いたら作るかもしれん」



「じゃあ今作って。失敗した魔道具の再利用、興味があるかもしれない」



 扉を開けたり閉めたりするアルギスに、エレンは交渉すらなく、真顔で言い放つ。


 詰め寄るエレンに顔を顰めつつも、アルギスは厨房へ目線を彷徨わせた。



(……オーブンで作る料理か)



 しばしアルギスが厨房を見渡していると、棚に置かれた小瓶が目に留まる。


 作る料理に目星をつけたアルギスは、そっと箱の扉を閉じて立ち上がった。



「つまみくらいは出せるが、多少時間がかかるぞ」



「いいよ」



 断って欲しいと言わんばかりのアルギスに、エレンは目を輝かせて即答する。


 諦めたように息をつくと、アルギスはリビングを指さしながら、棚へと歩き出した。



「……リビングで待っていろ。ついでに台車も持っていっておけ」



「うん」 



 アルギスに頷きを返したエレンは、台車を押しながら厨房を出ていく。


 一方、1人厨房に残ったアルギスは、ウキウキとした表情で取り出したボウルに小麦粉と、瓶詰された酵母を入れ始めた。



(まさか、こちらでピザが食べられるとはな)



 アルギスが上機嫌に塩や水を混ぜ合わせていくと、小麦粉は徐々に纏まっていく。


 しばらくこね続けてるうちに、ボウルにはしっかりとした生地が完成していた。



「こんなものだろう」



 生地を確認したアルギスは、ボウルに布をかけて厨房を後にする。


 そのままアルギスがリビングへと向かっていくと、エレンはソファーに寄りかかっていた体を起こした。



「できたの?」



「時間がかかると言っただろ。そんなにすぐには出来ない」



 身を乗り出すエレンに、アルギスは呆れ顔で壁際の本棚を物色する。



 そして、ズラリと並ぶ本から一冊を手に取った時。


 いつの間にかソファーから立ち上がっていたエレンが横に並んだ。



「おい、座って静かに待っていろ」



「暇」



 ふくれっ面で口を開いたエレンは、すぐに本棚へと目線を移す。


 じろじろと同じ本棚を見上げるエレンに、アルギスはため息をついて、隣の本棚を指さした。



「……ここにあるのは闇属性の魔術書だけだ。読むなら、左の本棚にしろ」



「うん」



 背伸びをして左の本棚から本を手に取ると、エレンはアルギスと共にソファーへと戻っていく。


 それからしばらくの間、2人が黙って本を読んでいた部屋に、突如扉をノックする音が響いた。



(こんな時間に客だと?)



 本から顔を上げたアルギスは、訝し気な表情で扉の方向を睨む。


 しばしアルギスが考え込んでいると、本を閉じたエレンがソファーから立ち上がった。



「出てあげる」



「おい!待て!」



 スタスタと扉へ向かっていくエレンに、アルギスは声を張り上げながら後を追いかける。


 そして、追い越すように扉を押さえると、エレンを後ろへ下がらせた。



「誰だかわからないんだ。迂闊なことはするな」



「ここは寮だから怪しい人は入れないよ?」



 警戒心をありありと見せるアルギスに、エレンは首を倒しながら引き下がる。


 エレンを守るように前に立ったアルギスは、振り返ることなく、扉をじっと睨んだ。



「……だとしてもだ」



「わかった」



 未だ腑に落ちない表情を見せつつも、エレンはアルギスの真剣な声色に、思わずコクリと頷く。


 しばしの逡巡の後、アルギスは訝し気な表情で、扉へ向かって口を開いた。



「誰だ!?」



「……レイチェルよ、開けてもらえないかしら?」



 アルギスが誰何した直後、扉の奥からは消え入るようなレイチェルの声が聞こえてくる。


 顔を見合わせたアルギスとエレンが僅かに扉を開くと、扉の隙間から見える廊下には、微笑みを湛えたレイチェルの姿があった。



(レイチェル?なんでこんな時間に?)



 寮へと戻った時間を思い出したアルギスは、一度レイチェルから目を逸らして眉間の皺を深くする。


 得も言われぬ違和感を感じつつも、ゆっくりと扉を開いた。



「なんの用だ?」



「ええ、あのね……」



 難しい顔で腕を組むアルギスに、レイチェルは涙ぐみながら歩み寄る。


 しかし、アルギスの奥にエレンの姿を見つけると、弾かれたように顔を伏せた。



「……ごめんなさい。やっぱり、何でもないわ」



「お、おい、大丈夫か……?」



 心配そうに眉尻を下げたアルギスは、腰を屈めてレイチェルへ声を掛ける。


 2人の間に気まずい雰囲気が広がる中、俯いたままのレイチェルの瞳からは、徐々に涙が溢れ始めた。



「……レイチェル?」



「っ!」



 そのままアルギスが顔を覗き込もうとした瞬間、レイチェルは目元を擦りながら、避けるように廊下を駆けだす。



 目を白黒させるアルギスとエレンをよそに、あっという間に遠ざかっていった。



「……はぁ、少し大人しく待っていろ。左側の本棚なら全部読んで構わん」



 しばし茫然していたアルギスは、がっくりと肩を落としながら部屋を出る。


 そして、エレンの返事も聞かず扉を閉めると、足早にレイチェルの後を追いかけるのだった。


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