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第九十一話 お食事処イカタコ亭

 車を走らせて二十分ほど。ジョージくんが車を駐車したのは、町工場が立ち並ぶ一角だった。


「ここ?」

「そう。ここだよ」


 工場からは聞こえてくる、何かを打ち鳴らすような音とフォークリフトの作業音。もくもくと立ち上る白煙と、開ききっていないシャッターの向こう側から漏れ見える火花。金属臭と何かが焼けるような匂い。そういったものに混ざって、醤油や油の香りも漂ってくる。工場で働く人々が利用するのだろう、周囲には飲食店が点在していた。


「……『お食事処・イカタコ亭』?」


 停車するトラックの間をくぐり抜けるように進んだ先で、私達は立ち止まる。店先に下がったのれんの文字を、秋月くんがゆっくりと読み上げた。


「うん! イカタコ亭。美味しいんだよー。イカとタコを使った料理なら、なんでも揃ってるよ」

「イカタコ料理の専門店ってこと?」

「まあ、そんなとこ」


 さあ入ろう、とジョージくんが促す。二月にしては温かい風が通り抜けていった。私達を出迎えるかのように、のれんがふわりと左右に割れる。


「いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは、白い割烹着と三角巾を身に着けた中年女性だった。「あら、ジョージくん」と気軽な挨拶を交わした辺り、ジョージくんはこの店の常連なのだと分かる。


「タイミング良かったですね。たった今昼時のピークが過ぎたとこだっの。お好きな席へどうぞ」


 笑窪が印象的な、気さくそうな店員さんだ。彼女は窓際のテーブル席に座った私達に、メニュー表と水を運んできてくれる。


「注文どうしましょう? ジョージくんは……」

「僕はいつものイカ飯で!」

「はーい」


 即決のジョージくんの注文を聞きながら、並び座った私と秋月くんは開いたメニュー表を一緒に眺めた。そこに癖の強い手書き文字で記されていたのは……


 イカ飯、タコ飯、イカリング、たこ焼き、イカのレモンクリームパスタ、タコワサ、イカとタコのアヒージョ、イカと大根の煮物、タコのガーリック炒め、イカタコカルパッチョ、イカとタコのお関西風好み焼き、季節のイカタコサラダ、その他ご希望ありましたらお気軽にお申し付けください。(※ただしイカとタコを使用した料理に限る。)


「わぁ……本当にイカとタコ料理しかないや」

「店主がイカタコ好きなのか……?」


 不思議な店だけど、そういう縛りも面白い。私はイカもタコも好きだから、問題ない。


 うーん、何を食べようかなぁ。イカタコ縛りのはずなのに。彼らの足は十本と八本しかないはずなのに。何故か選択肢が無限大に広がっている気がして、なかなか決められない。


「オススメってありますか?」


 決めかねて永遠に迷い続ける予感がして、私は店員さんに助けを求めた。


「そうですねぇ。イカ飯とたこ焼きがよく売れますけど、個人的なオススメはイカリングとタコ飯の組み合わせですね。イカリングは当店オリジナルのタルタルソースをおつけしてます。タコ飯はプリプリの身が縮まないように丁寧に仕込みをしているので、歯ごたえ抜群なんですよ。タコの煮汁でご飯を炊き出しているので、うま味も残さず味わえます」

「うわあ。おいしそう! 私それにします」

「はーい! ありがとうございます」


 私が悩んでいる間にお好み焼きを注文済の秋月くんが、おしぼりを配ってくれた。


 店員さんが厨房へと去った後には、FMラジオが流れる客席の中に、私達三人だけが取り残されている。天井は高く、壁にも床にも料理の匂いが染み込んでいるように見えた。ここは随分と年季の入った食堂のようだった。綺麗に掃除は行き届いているけれど、拭い去れない時の埃があちこちに残っている。


 カチ、コチ、カチ、コチ、と音がするなとそちらを見ると、壁の片隅に大きな柱時計が佇んでいた。


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