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第九十話 ペーパードライバー

「おーい!」


 運転席の窓から顔をだし、こちらにブンブン手を振っているのは、グラサンをかけたプルプル星人だった。


「ジョージくん」

「何してんだ、こんなとこで」


 停車した黄色のコンパクトカーへと私達が近づくと、ジョージくんは車外に出てくる。彼が外したグラサンのデザインは、秋月くんが日々愛用しているヘンテコ黒メガネよりも、ずっと一般的な形をしていた。


「運転の練習も兼ねて、この辺ぐるぐる走ってたんだよ。免許取ったきり、ほぼペーパードライバーだったからね」

「この車、ジョージくんの?」

「まさかあ。プルプル仲間から借りてるんだよ。僕はまだ車買えるほどの貯金もないし。生活もカツカツだし」

「あんなに働いてるのに」

「律儀に税金払ってるからねえ。よく考えたら日本人でも外国人でもないんだから、地球の分は払う必要あるのかなって思わなくもないけど、地球人になりきるのが僕の目的だからね」

「苦労人だな」

「それほどでも! けど今の生活、楽しいから不満はないんだ」


 曇りのない笑顔のジョージくんは、後部座席のドアを開けて私達に乗車を促す。


「せっかくここで会えたんだし、一緒にお昼食べに行こうよ。大丈夫、安全運転で連れて行くから」


 疑うわけじゃないけど、ペーパードライバーとジョージくんという単語の組み合わせが、ちょっとだけ不安を煽る。慎重な手つきでしっかりとシートベルトを装着した私を見て、プルプル星人は察したのか、「やだなあ」と笑った。


「そんなに心配しないでよ。ペーパードライバーって言っても、運転が超初心者ってわけじゃないんだから。むしろ僕、操縦は得意な方なんだよ。地球へ来る時の宇宙船だって、自分で運転してきたし」

「えっ‼ ジョージくん、UFOの運転できるの⁉」

「まあね」


 びっくり新情報に食いつく私に、ジョージくんは得意げだ。


「今は地球の公道を走る感覚とこの辺の地形を、しっかり身体に染み込ませるために運転してたんだ。もう大分インプットできたよ。夜の奥多摩ドライブもばっちり。綺麗に星が見える場所まで、しっかり案内するからね」


 ああ、そっか。ジョージくんは試験明けの天体観測のために、準備してくれていたんだ。


「ジョージ、ありがとな」

「うん! どういたしまして!」


 ジョージくん、秋月くんにお礼言われて、とっても嬉しそう。このオレンジモヒカン頭のことを、当初はあんなに怖がっていたのに。すっかり秋月くんのこと大好きなんだなぁ。私と同じだ。


「よし。じゃ、ランチ行こっか。僕のオススメのお店に連れてってあげる。エイリアンの仲間内で評判のお店だから、きっと二人も気にいるよ」

「へえ! そんなお店があるんだ」

「とっても美味しいよ。保証する」

「何屋なんだ?」

「それは着いてのお楽しみ〜」


 季節感を曖昧にするハワイアンなウクレレミュージックが、カーステレオから流れていた。のんびりテンポの音楽に揺られながら、私達はUFOの乗り心地についての話題で、到着まで大いに盛り上がったのだった。


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