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第八十七話 タック

 三学期のこの時期は、三年生は登校したとしてもほぼ自習だ。ひたすら問題集と過去問を解き続ける生徒が大半で、教師は質問に訪れた者への解説役に徹する。


 私が昇降口にたどり着いた時、隣接した職員室からタックが出てきた。


「あ、先生! ちょうどよかった。教えてもらいたい問題があったんですよ……! って、おぁっ!」


 片足立ちで上履きの踵を整えていた私は、ケンケンしながらタックに近寄ろうとして、よろけて、そして前のめりに転んだ。つくづく二つのことを同時にできない人間である。

 頭上から息を飲む音が聞こえて、「あーあー」と呆れ声が続いた。


「何やってんだ、渡邉。大丈夫か」


 立ち上がるのに手を貸してくれたタックは、ちょっとは本気で心配してくれたようだが、私が「よいしょ」と立ち上がる段になると、こらえきれなかったとばかりに吹き出した。


「平気だ。気にするな。今そんなに盛大にコケたんだから、明日は大丈夫だろう」

「ちょっと、先生。転んだら試験落ちるなんて、私そんな迷信信じてませんよ」


 タックなりに受験生絡みのジンクスを気にかけてくれたのがわかって、ちょっと嬉しい。床にぶつけた膝がちょっと痛いけど、気にならない程度には。


「俺に質問があるのか? でもお前が受験する大学、試験科目に数学はないだろう」


 鞄から私が取り出した問題集を見て、数学教師は首を捻っている。


「そうなんですけどね。共通テスト終わってから、前期対策でずーっと同じ科目の問題ばかり見るようになるじゃないですか。気分を切り替えたくなってですね。なんだか数字を見たくなって、世界史の年表とか眺めてたんですけど、なんか違うんですよ。それで数学の問題集開いたんですけど、久しぶりだからか、解けなくなってて。それでモヤモヤしちゃって」


 ああ、こういう時、いつも秋月くんに質問してた気がする。共通テスト後は一緒に勉強する時間はあっても、それはお互いの勉強に集中するための時間であって、私が教えてもらう時間ではなかったのだ。

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