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第八十二話 二駅目――生存圏とエネルギー

「随分酷い言い方をするんだね。それに自分勝手すぎない? 地球人がいた星に後からやってきたのに」

「そんな理屈、宇宙じゃ通用しないわよ」


 足を組み替えたフサ子さんが、私の言葉を遮った。


「この地球の中でだって同じよ。あんたら地球人――人類が台頭するまでの間に、どれだけの生命体がこの星の中で覇権を握っては手放してきたと思う? 嫌気性細菌が出現して原核生物の時代へ移行し、真核生物が生じて三葉虫の時代になった。爬虫類が生まれて、恐竜が闊歩する時代になって、やがてその時代も終わった――古い時代の種の多くは淘汰され、消え、新しい優れた種が浮上してくる」


 次の駅までは、少し距離がある。流れる街の風景の上に、窓ガラスに映る私とフサ子さんがいた。

 私は自分がこんなに真面目な表情もできるのだなぁと、まるで人ごとのように私達を見ていた。しかしそれも一瞬のことだ。すぐにフサ子さんの言葉が頭を支配していく。


「――悠里。あんた達の祖先だって、繰り返してきたでしょうに。生存圏を広げるために他者を排除し、生き残ってきた。あんたの祖先がそれを実現出来たから、あんたが今ここにいる」


 フン、と鼻を鳴らす音が聞こえた。


「それと同じことが宇宙空間で起こっているだけ。先に居たから後に来たものが退くべき、先に居た者を害してはならない――そんな規律、宇宙にあるわけないでしょ。全宇宙に通用する秩序なんてものはないの」

「でも」


「時は至高のエネルギーなのよ、悠里」


 フサ子さんは私の反論を消すように、強引に言葉をつなげた。


「時はエネルギー。時を統べることができる者だけが、そのエネルギーを支配できる。だから昔から人類の権力者は、暦を作ろうとしてきた。暦を支配するものが権力者になれるからよ……哀れな地球人は、自力で時の結晶を見ることができない。だからどうにか時を可視化しようと暦を作り、時計を作ろうとした。そしてその影には必ず、我々レプレプがいたわ」


 いつの間にか二番目の駅に到着していた。私がそのことに気づいたときには、ドアは既に閉まっていて、列車はゆっくりと加速し始めたところだった。




◇◇◇




「……飛躍しすぎた。話を元に戻すわよ……ねえ、平気? 脳みそ沸騰してんじゃない?」

「う……多分平気」

「それ、飲んだら? さっきから手が止まってるじゃない。冷めるわよ。せっかく私が買ってやったんだから、美味しいうちに飲みなさいよ」

「あ、そうだね……!」


 そういえば手に持った缶ココアの存在を忘れていた。フサ子さんの手土産のそれは、まだほのかに温かい。


「私が前の組織を追い出された原因だったわね」

「うん」


 フサ子さんは、大きな溜息と共に告げた。


「上が出した計画案では、『時間球の排出が乏しい地球人――その中でも特権を持たない者は、問答無用で消してしまおう』ってことになっていた。特権を持たない者っていうのは、レプレプと関係を繋いでいない者ってこと」

「……」


 列車は線路の分岐を越えて、その表紙に車体は大きく搖れた。この車線は、いつもこのポイントで揺れるのだ。何にも捕まらずに立っていると、必ずバランスを崩してよろける。

 座っている私達の肩も搖れた。


「私はこう反論したの。『レプレプと関係を繋いでいなくても、他の異星人とつながっている者がいるかも知れない。そういう者も除去の対象外にするべきではないか』ってね。他の異星人との争いの火種になるおそれがあると思ったのよ。それから、いくらなんでも性急すぎないかって苦言も呈した。だってあの計画案では、実行までたったの三年しかなかったの。精査せずにこのような思い切った計画……複数の地球人を処刑してしまう計画を実行したら、何かしらの混乱が生じるはず。他の異星人グループから抗議される可能性も高い。無用なトラブルを招く。最悪地球人側に我々の存在が漏れるかも知れない。だからもっと慎重になるべきだと言ったわ――――そうしたら、あっさり解雇された。『何生ぬるいことを言ってるんだ。他種との争いが怖いのか。それでもレプレプか』『上に意見するなんて何様だ』って、散々罵られたわよ」

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