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第七十三話 設定

 学校からの帰り道。今日は始業式だけだったので、まだ昼前だ。

 いつものようにオレンジモヒカンと並んで歩いていると、公園の手前から子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。


「あれ? あの声」


 無邪気な声の中に、知っている声を聞いた。というか、よく聞けばどれも知っている声だった。


「八幡ちゃん」

「理乃、真麻」


 同居している小さなエイリアンの名を私が呼んで、ほぼ同時に秋月くんは妹達の名を呼んだ。


「あっ、お兄ちゃん。ゆーりちゃんもいるー! 理乃とまーさね、新しいお友達できたの!」


 真麻ちゃんの腕を掴んだ理乃ちゃんが、ブンブンと此方に手を振って近づいてくる。すぐ隣にはニコニコ顔の八幡ちゃんがいた。そしてもう一人の子供も、此方に微笑みかけてきた。


「ヨネ子ちゃん!」


 クリスマスパーティー以来の再会だった。


「ゆーりちゃん、こんにちはー!」

「えっ」


 あの日の喋り口調とは打って変わった、本物の幼児のような声音で挨拶された。そしてすぐに、彼女は八幡ちゃんと顔を見合わせ、少しだけ意味深な表情を浮かべる。彼らは四人、理乃ちゃんと真麻ちゃんを真ん中にして手を繋いでいた。


 面食らった私に次に声をかけてきたのは、これまた意外な組み合わせの大人達だった。


「二人とも、今学校終わったとこ? おつかれさまー」

「ジョージくん」


「あれ? 悠里ちゃん、この兄ちゃんと知り合いだったの? あ、一馬おかえり」

「ユカちゃん」


「……久々ね」

「ふ、フサ子さん……」


 エイリアン同士のジョージくんとフサ子さんはともかく、その中にユカちゃんがいる状況がよく分からない。


「なんでこんなとこにいるんだよ。家から結構離れてんだろ」


 怪訝な表情の孫からの質問に、ユカちゃんは「んー?」と腕を組んで考え込むように首を傾げた。


「さあ。何となく? たまには違う公園行くかーって気分になったの」


 聞けば理乃ちゃんと真麻ちゃんの幼稚園も、先程終わったところなのだという。今日は気まぐれで、少し離れたこの場所まで足を向けたらしい。初めて訪れる公園の遊具に、理乃ちゃんも真麻ちゃんもテンション爆上げ状態だそうだ。


「そしたら先客さんと仲良しになってさ。ちょうど子供たちも同じ年頃で、気が合うみたいだし。けど何? あんたら知り合いだったの?」


 ジョージくんとフサ子さん、私と秋月くんを交互に見ながら、ユカちゃんは「世間は狭いねえ」と、つい最近聞いたばかりの言葉を口にした。


「ジョージくんは実はご近所さんで、えっと、そっちの男の子は……」

「甥っ子だよね、悠里ちゃん」

「ん。そうそう。そうなんです」


 八幡ちゃんはジョージくんの甥っ子。なるほど、そういう設定か。ならフサ子さんとヨネ子ちゃんは……? どんな外向きの設定にしているのだろう。


「ヨネ、はっちゃんと仲良しだから、ゆーりちゃんとも仲良しっ!」


 私の心を読んだかのように、ヨネ子ちゃんが駆け寄ってきた。はっちゃん? なるほど、八幡ちゃんのことか。可愛いニックネームだ。


「ね? そーだよね? 仲良しだよね? ね? ママ?」

「ぅ……そ、そうね。仲良しよね……渡邉さんとは、大変仲良くさせていただいてますわ。ホホホ」


 フサ子さんは若いママという設定のようだ。しかしフサ子さん、笑顔がぎこちない。まあそこは仕方ないか。本当はヨネ子ちゃんは上司なんだもんね。

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