第六十八話 オーナーさん
パーティーがお開きになり、私達はライブハウスの入口から伸びる階段をのぼって地上に出た。
楽しい時間だったけど、体感時間は長かったように思う。空色の上に太陽は冬らしい柔らかな光を放ったまま、まだそこにいた。夕暮れまではまだ時間がありそうなことが意外で、思わずスマホを取り出して時刻を確認したほどだ。
「ありがとうございました」
階段を登りきったところで、箒を片手に掃除をしていたらしい初老の男性に会釈された。
「オーナーだよ」
私達を送り出すために一緒に階段を上がってきたジョージくんが、男性を紹介してくれる。
ライブハウスのオーナーさんか。ジョージくんにウクレレを教えてくれているという、地球人のおじさん。たった今まで自分の店にいた客も店員もほぼ全てエイリアンだっただなんて、彼は知る由もないだろう。
「譲二くんの友達ってこの子達か。良い時間を過ごせたかな?」
「とても楽しかったです!」
「ありがとうございました」
白髪交じりの髪をオールバックに整えたオーナーさんは、きっと実年齢よりも若々しい印象を与える人だ。年齢を重ねた人特有のゆとりある雰囲気と、職業柄か尖った覇気を併せ持っている。
「君のその髪型、とてもいいね! 今どき珍しいくらいのハードモヒカンだ」
オーナーさんは秋月くんのモヒカンを褒めた。フサ子さんといい、今日はモヒカンが何かと持ち上げられる日だ。
「どうも」
「ブームだった頃にはうちの店もパンクファッションで溢れてたものだけど、今はすっかり下火だからなぁ。さみしいもんだよ。君はパンク好きなの?」
「いや、音楽を聞くわけでは……」
「ありゃ、そうなの? そんなゴリゴリのパンクスみたいな見た目なのに。まぁ形から入るのも悪くないさ。聴いてみなよ。ぜひぜひ。何だったらおじさんがオススメのCD貸してやるよ。譲二くんに預けておけばいいかな」
「はあ」
すごい。秋月くんが勢いで押されている。やるなあ、オーナーさん。
そのままオーナーさんは、誰にも言葉を挟む隙を与えずに、オススメのパンクバンドについての談義を始めたのだった。




