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第五十九話 山盛りバケツ

 山盛りバケツ三つ分の時間錠を前に、私は腕を組んで考え込んだ。


「どうやって持って帰ろうかな」

「ああ、大丈夫。悠里ちゃん、これもついてるから」


 ジョージくんは台車の片隅に置いてあった、白い物体を差し出した。


「なにこれ?」

「使ったことない? 時間錠専用の貯蔵ケースだよ」

「貯蔵ケース?」


 十センチ四方ほどの、立方体の箱だった。材質はプラスチックだろうか。持った感じは軽い。硬質でつるつるした質感だ。


「僕たちが今まで作った時間錠は、まだ貯蔵ケースが必要な量ではありませんでしたからね。いずれ準備しなきゃなぁと思ってましたから、今日手に入って良かったです」


 八幡ちゃんが「悠里ちゃん、本当についてますねえ」と頷いている。


 貯蔵ケースというのだから、これは時間錠の収納に使うものなのだろう。しかし見るからに容量は足りない。今目の前にあるバケツ分なんて、とても無理だろう。手のひらにひとすくい分くらいしか入らないのではないか。


「大丈夫ですよ。ちゃんと全部入りますから」


 私の疑問を読み取ったかのように、八幡ちゃんが笑った。


「蓋を開けて、収納したい時間錠に近づけてみてください。どれくらいの量をしまいたいのか、しっかりイメージしてくださいね」

「イメージ?」

「そうです。イメージが大事です」


 疑心暗鬼のまま、とりあえず言われた通りにしてみた。立方体の上部をひっぱると、インロー型の蓋がカポっと外れ、からっぽの小さな空洞が顔を見せる。

 四角い容器口を山盛りの時間錠に向けて近づけてみる。バケツに入っている分全てをしまいたいと、頭の中で念じながら。


「ひゃっ」


 手に持った箱が、ブルブルと震えた。スマホのバイブレーションのような振動だった。


「あれっ! なくなってる」


 振動が止むのと同時に、バケツの中から輝く小石が姿を消していた。


「このバケツの中の時間錠は、全てそっちの貯蔵ケースに移ったんですよ。中を覗いてみて。見えるでしょ?」

「ほんとだ」


 箱の中を見てみると、そこには光る時間錠が入っていた。一粒つまみ上げることもできる。


「でもずいぶん減ってるような……」

「そう見えるだけで、ちゃんと全部入ってるから大丈夫です。残り二つのバケツ分も、ちゃんと入りますよ」


 先ほどと同じようにして、残りのバケツに入っている時間錠も全て移し替える。しかし私が持つ小さな箱の重さは変わらないままだった。質量保存の法則はどこに行ったのだろう。バケツ三個分の時間錠は、それなりの重量のはずだ。だから台車で運んできたのではないのか。


「ひみつ道具みたい……」


 国民的アニメのキャラクターが頭をよぎった。そのキャラクターのトレードマークの一つが、まさにこんな感じの収納道具なのだ。


「ああ、有名ですよね。ボクもあの漫画は大好きです。異星人界隈でも評価が高いですよ。なかなか鋭いとこついてるって話題になるんです」

「へえ……。つまりこの箱は、あの道具と同じような使い方ができるものなの?」

「そうですよ。ただし時間錠限定です。他のものの収納には使えません。そして貯蔵できる量には限りがあります。そうですね……このバケツあと百個分くらいですかね」

「そんなに……⁉」


 蓋を閉めながら仰天した私は、思わず手をすべらせて箱を落としてしまった。秋月くんがすぐに空中で受け止める。


「残量はどこで確認するんだ?」

「確認したいと考えながら側面を見れば分かります。残り何%なのか、残り何粒なのか、希望の単位で表示されます」

「なるほど。便利だな」


 秋月くんは角度を変えながら貯蔵ケースを興味深そうに観察し始めた。


「時間錠の貯蔵ケースは、異星人の必需品の一つです。でも例の有名漫画のひみつ道具には、機能的に遠く及びません。あんな道具があったらどんなに面白いだろうって思いますよ」


 八幡ちゃんはにっこりと笑う。私と秋月くんに柔らかな視線を向けながら。


「地球人の想像力はとても豊かで、素晴らしいですね。ボク、やっぱりこの惑星が大好きだなぁ」 

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