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第五十五話 TPOをわきまえよう

 ホームへ降りていく唯斗くんを見送った後には、私とモヒカン、エプロン姿のエイリアンが残された。


「お前、発言には気をつけろよな」

「えっと……どのへんがマズかった?」

「女の身体を隅から隅まで見たとかどうとかだよ。誤解されんだろが」

「んー、でも嘘じゃないよ? 実際隅から隅の奥から奥まで見たんだし」

「ジョージ……いいか? 地球人は普通生きてる人間を解剖しないし、他人の身体を…………その、裸体を見たり…………しねえ」

「秋月くん?」


 なんか顔がめちゃくちゃ怖い。どうした? 秋月くん。


「裸体? あぁ、だから悠里ちゃんもさっきの男の子もあんな反応だったのか。僕が悠里ちゃんの裸見たって想像したの? そりゃ恥ずかしいねえ、裸見られたら。プルプル星人も入浴排泄交配の時だけだもんなぁ、他人に裸を見せるの」

「ちょっと! 駅のど真ん中で裸裸言うの止めようか!」


 ジョージくんは朗らかに笑ってる。なんて空気の読めないエイリアンなのか。


「ジョージ……てめえ…………み、見たのか?」 

「見たって、悠里ちゃんの裸を?」

「秋月くん、顔! 顔! こわすぎ‼」

「見てないよ、裸は」

「だから裸言うな…………え?」

「解剖の時でしょ? 見てない。悠里ちゃん年頃の女の子だから、流石に配慮したよ。課題で必要だったのは、人体内部のデータだけだったしね」

「え。でも身体開く時は」

「服の上から肉体の表面だけ切ることくらい、なんてことないよ」

「……そうなの?」


 エイリアンの技術ってやつか。ちょっと想像が追いつかないけど、要するに解剖時に私のあられもない姿は、誰にも見られてないってことか!


「なあんだ」


 ふふ。良かったぁ。もう過ぎ去った過去のことだし、エイリアンのやったことだし、気にしないつもりだったけど。やっぱり良かったなんて思ってしまった。私だって年頃の女子の端くれなのだ。


「これで許してもらえる? 秋月くん」

「あ……? あぁ、まぁ、許すも何も」


 おずおずと訊ねるジョージくんから、秋月くんは視線を外した。


「良かったぁ! ふふふ、さっきの秋月くんの言葉、とっても嬉しかったからさぁ。台無しにならずに済んだみたいで、本当に良かったよ」

「言葉?」


 私が呟く問いは、嬉しそうなジョージくんの声に拾われる。


「僕のこと、友達(ダチ)って紹介してくれたでしょ!」


 ニコニコ微笑みながら、プルプル星人は続けた。


「秋月くんが今買ってきたの、天体観測の本だったんだね」

「あ? なんで」

「透視できるんだよ、プルプル星人は。もちろん、服の下見たり、むやみやたらに覗いたりしないよ?」


 ジョージくんは、秋月くんの鞄を見つめている。 


「二月の運転は任せて! 僕も楽しみにしてるよ。二人とも試験頑張ってね」

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